幸せなんて脆くも崩れ去るものだって知っていたのに
最初から偽りはいつか明かされると理解していたのに
それが長く続きすぎたせいで、私にとっては大切なものに変わっていって
私は嘘つきで、ズルい女でした。《深淵》は世界にあってはならない。
だから私はあの選択をした、皆と一緒に歩む道もあったんだと思うけど、私は私自身の嘘に我慢ならなかったんだと思います。
だからそこ、私は世界樹を燃やし、私自身を燃やし尽くし、全てを終わらせる事を望みました
――だって私は、許されてはいけない存在なのだから
自分の体が燃え尽きてゆく感覚を感じながら、目の前に気配を感じました
最初は冥王様や他のアイリスの皆さんだと思っていましたが
「――ンン、ようやく見つけましたよ《深淵》の意思、その代行者たる精霊どの」
どうやら違ったようです、最も、もうすぐ居なくなる私には関係ない事でした
……そう思っていました
気がつくと、私は暗い暗い、何も見えない闇の底のような場所に居ました
《深淵》からすれば、あるべき場所に還っただけだと、そう思っていました、ですが
「ユーを……返、せ」
声が、聞こえました。静かに耳を傾けないと、聞こえなほどの小さな声が
「無駄ダ、貴様ノ声ナド、今ノコノ依代ニハ届カヌ。」
「それでも、私は、あの子のことが―――ガハッ!?」
「愚カナ女ダ、全テ無駄ダト言ウノニ」
また、声が聞こえました。今度は、私じゃない誰がの、私の声が新しく聞こえました
さっきの声も、少しだけ声が大きくなって聞こえました
「ソノ身体デ何ガ出来ル? 今ノ貴様デハ私ノ攻撃ヲ避ケルダケデ精一杯デハナイカ?」
「それ、でも、私は……あの子に、戻ってきてがああああああああああッッ!?」
声が大きくなっていく、はっきりと聞こえるようになってくる
その声は、懐かしい声で、聞いたことがある声で
「何故、彼女が、世界樹を、燃やす必要が、あったのか、なんて、わからない、です、けど……それでも、私たちには、主には、あの子に、戻ってきて、欲しいって……ああああああああああああッ! があああああああああっっ!」
聞こえる、段々と大きくなって、聞こえてくる。光が差し、暗闇に閉ざされた先の光景が見えてくる
それでもまだぼやけてよくわからない。だけどぼやけた輪郭だけでわかることがある
私をここから引きずり上げようと足掻く少女が居た。そんな事しなくてもいいのに
何度ぼろぼろになっても、立ち上がる少女が居た。何故私みたいな嘘つきにそこまで必死になれるのか
私には、まだ『その人』が誰なのか分からなくて、だけど、何故か色んな思い出が込み上げていって
「私は、私、は……あ……」
やっぱり、知っている声だ。私が知っていた声だ、知っていた姿だ
だけどその姿は見るに堪えないもので、今にも倒れそうなのに、必死に私なんかに向かって
「――然シナガラ、旧世界ノ生命風情ガココマデ耐エキッタノハ褒メテヤロウ」
「ダガ、貴様ラノ足掻キモココデ終ワル。貴様ラガ私ガ創ル新世界ニハ不要」
「――デッドエンドダ」
滾る雷火は信念の導
響く雷音は因果の証
裂く雷電こそは深淵の理
-VOlTIC CHAIN ABYSS-
瞬間、《深淵》の力を収束させた雷光の鎖が、彼女の身体を何度も穿ち、その深淵の雷を以って彼女の身体を焼こうとしていました
同時に、私の前を覆い隠していた闇が、雷と共に晴れてしまいました
この時初めて、ようやく、私はわたしの目の前で起こっている事を認識したんです
「――アシュリー、さん?」
その少女とは、冥王様やリリィと同じく、私の大切な人たちあったアイリスの一人、アシュリーさんでした
そして――ワタシガ、何をしていたかも、否応なしに、理解して、しまって
「……はは、聞こえてたじゃ、ないです、か……帰りましょう、主殿も、リリィも、みんなも、貴女の、こと、を―――」
――私がアシュリーさんを傷つけた私がアシュリーさんにこんなひどいことをした訳がわからないどうして私はこんなことをしたのか私は一体何でこんな事をしているのかその言葉を最後にアシュリーさんの目から光が消えてしまったこれは私のせいなの私のせいだ私が死に損なったから私のせいだ世界樹を燃やして世界がおかしくなって地上に魔物が湧いたのもラディスさんのお師匠さんがおかしくなったのも私のせい私のせい私のせいどうしてこんなことにこれは私への罰なのかだったらまだ皆に拒絶される方がましだったこんな結末私は望んで無かったのにどうしてどうしてどうして私は私は私はそうかそうだったんだ私にこの体の主導権なんて無かったんだ私はあの色白の誰かに連れ去られて誰かの依代にされて私はこんなことになってアシュリーさんやその仲間の人達を傷つけてどうしてこんなことに全てが支配されるってまさか私の身体で冥王様やリリィたちまで嫌だそれだけは嫌だ嫌だ嫌だそれだけはそれだけはやめて私に冥王様やリリィたちに手をかけさせないでお願いだから私はどうなってもいいから私はどんなにひどい目にあってもいいから、だからやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて――――
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
意識がまた闇へと堕ちていく
やっぱり私は許されてはいけなかったんだ
当然の末路だ、世界樹を燃やし、世界を狂わせ、皆にここまで迷惑をかけ、挙げ句傷つけて殺してしまった私の自業自得だ
こんな罪人に、こんな嘘吐きに、こんな烏滸がましい女に許しなんていらない、だから
ごめんなさい……冥王様、みなさん、リリィ
――わたしを、許さないでください
わたしは、じぶんのいしで、やみへふたたびおちていきました
最終更新:2019年11月17日 20:18