【名前】坂巻泥努
【性別】男性
【出典】双亡亭壊すべし
【スタンス】天然マーダー
【人物】
1904~没年不詳。
昭和期の売れない画家。自ら縊り殺した姉への思慕と流行画家への憎悪の果て、独自の芸術理論を打ち立て、その具現として巨大なアトリエ「双亡亭」を建造した。
宇宙より土地へ下り、亭の底に巣食っていた〈侵略者〉に精神を侵されるも、その精神力で逆に彼らを絵の具として支配し、それから百年近く、双亡亭の奥で見た者を食らい呑み込む忌まわしい絵画を描き続ける。
あらゆるものの状態や心理に色彩を知覚する共感覚者でもある。
【ロワでの動向】
人類を滅ぼす絵を描き上げようとしていた時期より参戦。
双亡亭が消え、侵略者の半数以上が支配を脱してしまっていることへの苛立ちと、呼び出された世界への興味の混じった表情を見せ、画材の回収と新たなアトリエの確保のために行動を開始する。
初めに玉壺と出会い、体をぐちゃぐちゃに捻られるが…
玉壺「ヒョッ ヒョッ 私の芸術の材となるがいい……ん?」
泥努「誰かの式か 或いは妖か…何でも良いが……私は逃げた絵の具どもを探しているのだ 退け」
捻れた状態のまま立ち上がり、玉壺を吹き飛ばした。
序盤から暫くはそんな調子で、掴みどころのない気まぐれさと雲の如き死ににくさで会場を放浪しながら、目にしたものや参加者に視た色彩にあれこれと感想を述べ、手慰みに幾つかスケッチを残していく(それらは〈侵略者〉の通る門となり、また見たものの精神を不安定にする傍迷惑なトラップとなっていた)。
中盤、ヌカ・タウンにて玉壺&クリムの起こした大爆発に引き寄せられた一人として、渦中に加わる。
777、タクシー、リスキィ・ブーツVS玉壺の戦いに生じる色彩を観察して絵を描いていたが、玉壺がその絵を褒めたために、持ち前の面倒くささで以て逆上。
「『素描は良いが色彩が今一つ』だと? 愚衆に迎合した糞をこね回し糞を作るしか能のない、陶芸気取りの下劣な吐瀉物が『色』を語るだと? 作に呪いを込める事もならず、下らぬ鮮魚手品で呪いを代替し、腐り果てた鱗屑に溺れ酔う敗残者が!!!その醜い、濁った色彩に似つかわしく、塵山の中で死ぬるが良い!!!」
のちに
安価ロワ名物と呼ばれるクソコテバトルを能力相性と精神力で制し、玉壺を敗走させ、死の遠因を作った。
その後、彼の持つ力と〈侵略者〉に目を付けた幡田みらいに声を掛けられる。
みらい「あは! ねえ絵描きさん、一人ぼっちで何してるの? お話ししようよ」
泥努「…私は減った“絵の具”と、カンバスを置くにふさわしい場所を探しているだけだ…」
静かに狂ったままの表情で背景から無数の「腕」を繰り出し、アリストテレスとしての姿を部分顕現させたみらいと壮絶な戦いを繰り広げる。
しかし、「姉」を求めてみらいが生み出した地獄を色彩として「視た」こと、またそんな彼女から「お姉ちゃんの絵を描いてほしい」という言葉が出たことで、自らの「トラウマにして最も美しい想ひ出」=姉に乞われて姉を縊り殺した夜を脳裏に蘇らせ――
「姉、姉の絵か…成る程な。『よっちゃん、もっと、上手になってね』…」
シスコンとして共感したのか、画題として興味を持ったのか、くつくつと不気味に嗤いながら彼女の申し出を受け入れ、新たなアトリエ=廃校、逃げた絵の具=廃校の「黒い海」を提供されて、廃校組の中核をなす存在となる。
元から存在していた数多の怪異も加わって、完全に魔窟と化した校舎は、対主催たちとの一大決戦の舞台となった。
まあ、泥努自身は廃校の奥に引き籠り、好きに絵を描きまくっていただけなのだが……解析を行っていたモニカが、絵を描く泥努の精神領域の一端に触れたことをきっかけに縊り殺されたり、突入してきたジェイソン・ベックを絵の中のパラダイムシティに誘って発狂死させたりとなかなかに厄介な存在となっていた。
また、みらいの注文通り、姉である幡田零の肖像画を描き上げ、彼女も自身の絵の中に引き込んだが、眉根を寄せて「姉といふものは…」と呟いていた辺り、零が肖像画を突破してくるだろうことは予測していた節もある。
そんな中、一人の男が、廃校内に残り泥努に抵抗を続けていた〈侵略者〉=黒い海の残存勢力を全て駆逐したことを、泥努は感じ取った。
アスキン=ナックルヴァール。
「致死量操作」という能力を持つ、「見えざる帝国」星十字騎士団の一員にして、その最高戦力たる親衛隊の一人。
泥努はカンバスに向かいながら首を傾げ、彼に滅ぼされた〈侵略者〉たちに対し、
「だから貴様らはどこまで行ってもただの色彩でしかないのだ……貴様らの"意思"も"呪い"も単なる模倣でしかなかった。ゆえに滅び去る……」
などと罵倒したのち、折角手に入れた絵の具を大量に駄目にしてくれた相手の元へと、絵筆でぐるりと円環を描いて、転移した。
「へえ、随分と洒落た登場するじゃんか。……嫌いじゃないぜ、そういう演出」
肩をすくめておどけてみせるアスキンに、「成る程、我が画材を軒並み毒し腐らせたのは貴様か……面白い"色"をしている」と告げたのち、戦闘に突入。
アスキン「あの喋る水から色々と盗み聞いたぜ……あんた、百年以上生きてる不死身らしいな。死神どもなんかから言わせりゃ、まだまだ子どもみたいなもんだろうけど…安心しな、立派に化け物さ。俺みたいな小心者にとってはな」
泥努「よく喋る男だな……そして成る程、レンブラントの光……或いはその隣に引かれた白。尋常の人間の"色彩"ではないらしい。面白い。
………?!」
全身を襲う悪寒と激痛に膝を折った泥努は、天から降る様なアスキンの声を聞く。
「やれやれ、ようやく効いてきたか。俺が陛下から賜った聖文字は"D"……致死量。
さっきの話には続きがあってな――化物ってのも、生きてる以上は死ぬんだよ。
言わなかったか? あんたの体を巡ってるその画材ってのを、俺はすっかり取り込んだんだぜ? そして操作した……あんたが中毒で死ぬ境界線をな」
コズミック絵の具を血液の如く全身に巡らせた「絵の具人間」であり、「生きている絵画」のように成り果てた泥努にも、アスキンの能力は特攻だった。
とはいえただではやられず、零番隊・〈刀神〉二枚屋王悦が〈泉湯鬼〉麒麟寺天示郎に血を湯へ入れ換えさせたように、体内の絵の具の色を「赤」へと変えたり、四楓院夜一が霊圧を超速で変質させたように、目まぐるしく絵の具の色彩と性質を変え続けるなどで「致死量」に対抗する。
しかし、終始余裕を崩さず、「陛下に従う気は無いか」などと勧誘までしてくるアスキンは、“完聖体”――「神の毒味」を解放することでこれも攻略し、「猛毒領域」を発動。
致死の境に堕とされ、毒の中に封ぜられた泥努は、今度こそ完全に、敗北した。
……かと思われたが……
……壊すべきは……何ぞ。
……壊 す べ き は 何 ぞ……。
アスキン「……っ
何……だと……!?」
まるで、宇宙の暗黒の中に、星が生ずるかのように。
毒に塗り潰された空間そのものが粟立ち、吐き気を催すような極彩色の光が滲み出して、人の形を結んでゆく。
何と、「心」で以て「命」を超越した泥努は、「神の毒見」が調律する色彩を観察・食らいつくし、意思の力だけで再び蠢き始めたのである。
『……神は今しも死に果てて 腐れた画のみが生きてゐる 磔されし脳髄の 忘れ形見のはむまあを 貴方はぶむぶむ振りまはす……』
泥努「「「「――成る程、貴様ごときに容易く走査された"奴ら"の巡るこの私の血の全て、既に死せる境にある。
そうだ、私は死んだ。いや、死と言うならば、あの夜、我が姉を自ら縊った夜、私はとっくに死んでいたのだ。
毒は既に、百年前から私を蝕んでいた。私は毒を飲み下した。ゆえに私を生かしていたのは命ではない。意思だ。心だ。永久に苛む脳髄の煩悶だ。
貴様のその画題、"神の毒味"とほざいたか。その陛下とやらのもたらす世を視るために、毒味の役を買って出た道化の、ただ物質の上に物質を置くだけの毒が、私の意思を、脳髄を、無限の渇望を殺せるか!!!」」」」
アスキン「……ッ、何、言ってんだよこいつはッ!! 何故まだ生きてる!?俺のギフトを正面から喰らって……」
咄嗟に「猛毒の指輪」を放つアスキンだったが、泥努はその毒を絵の具にして、おのが絵筆を走らせる。
「――お前は最早、あらゆる致死を克服したと言ったな。
ならば、お前の脳髄は、意思はどうなのか、お前自身で〈視る〉がいい。
さ、出来たぞ……お前の"肖像画"だ」
描かれた絵を視てしまった時に、勝負はついていたのかもしれない。
「精神」の領域に絡めとられたアスキンは、自らの絵の中で、心という毒に囚われて滅び去った。
この戦いは、二者のビジュアルと言い、能力の描写と言い、決着の流れと言い、色々な意味でオサレ極まる一戦として、強烈な印象を残した。
その後も、廃校内でひたすら絵を描き続け、みらいと零の姉妹対決を眺めながらデッサンをしたり、校舎内をふらふら歩いてモデルを探すなど、自由に過ごしていたが、そんな泥努にも、破滅の時は訪れた。
零・みらいの対峙と開戦を見た後、インスピレーションのままカンバスの元へ戻ろうとしていた泥努は、クリム最期の爆発をきっかけに部屋の外へと避難したアズサ・アイザワ、黒澤ダイヤ、ガネーシャと出くわす。
消耗しきっていたアズサの放つ魔法を絵の具で塗り潰し、負傷して治療中のガネーシャが無理を押して仕掛けてきた対人宝具〈肉弾よ、翌日から本気であれ〉をいなし、泥努は、やはりこれも『姉』であるダイヤの「絵」を描いた……が、精神を痛め付けられながらも抗ったダイヤは絵に呑まれることなく、遅れて到着した一人の男――黄ノ下残花の手によって救い出される。
残花「ついに再会できたな、坂巻泥努……いや、由太郎」
泥努「へえ……死んでいなかったのか、残花。いいや、ざんちゃあん……」
かつて自ら絵の中へと誘った幼馴染を前に、ぐにゃりと口角を歪める泥努。
さらに駆けつけたアキュラたちを含めた、対主催の精鋭たちと、そのまま対峙する。
なお、姉との約束を交わして戦線を離脱する幡田みらいが、この時置き土産のように助勢の一撃を放ってゆくが、泥努は「ふうん」と一言だけ漏らすと、みらいを見やって「……雛は此の世に孵りたし けれど親鳥あんまり大事に温めるので 殻のうち ゆうらゆらり 腐りてぞゆく……」と謎めいたポエムを吐いてから、後は興味を失ったように残花たちと対峙していた。
残花「『滅び』を描く絵と、それらを並べた画廊を……此処でもまた創ろうと言うのか……絵を見てほしい、売りたいと言いながら、その絵を見、買うべき世界を滅ぼして何とする!?」
泥努「……確かに、売りたいさ。帝国画壇も、凡庸な衆愚どもも、その全てが私の絵の前にひれ伏し、涙を流して購おうとする、それが私の理想……
だがな、今それが叶わぬのなら、"次"がある。
我が絵が今ある人類を滅ぼし尽くしたとて、次の"人類"に当たる生物がこの星の上にきっと生まれるだろう。数千万年か、或いは数億年か知らぬがな。
そうしたらその時、次なる人類が目にする最初の絵は私の絵だ。私の絵が人類の福音となるのだ。
もしも、そうならなければ、もう一度亡びろ。その次の人類こそは、私の絵を福音とするに違いない。それでも駄目ならば、また亡びればいい。そうしてその次の人類が、或いはその次の人類こそが──」
持ち前の「絵が売れないなら世界の方を変えちゃえばいいじゃない」理論で、その場にいる全員を呆然とさせ、また悪夢のような宇宙的色彩によって、対主催たちの精神を蝕む泥努だったが、帰黒の死と、斬魄刀の解放を経た残花の存在が、命取りとなった。
その刀の特性によって泥努の手は次々と斬り捌かれ、さらには一度絵に打ち勝った残花の奮闘が、他の対主催たちの心を奮い立たせ、一人、また一人と忘我の状態から復活し、泥努の色彩を染め返していく。
かつての復讐者にして今の貫徹者たるアキュラの、混じり合う白光と紅電色が。
縦横無尽、自由放埓の海賊たるリスキィ・ブーツの、うねるような海色が。
数多の死を経てなお前に進むアシュリー・アルヴァスティの、美しい銀と紫が。
慟哭を背負いつつも輝き瞬く幡田零の、虹を帯びた青白色が。
時を重ね心技体の果てに至りしアズサ・アイザワの、透き通った水色と若葉色が。
弱さを見つめ強さへと変えた黒澤ダイヤの、燃え上がるような赤が。
神の器と成りながらも己を失わぬガネーシャの、太陽の光のような暖かなオレンジが。
その場の全員の心の色が、双亡亭の主の色彩を押し返した時。
束の間その色に見惚れた泥努を――不帰の誓いを乗せた、残花の刃の鈍色が、貫いていた。
残花「――然らばだ、由太郎。先に……地獄で、待って居ろ」
幼馴染の言葉を聞きながら、泥努は、全ての始まりの夜、死にゆく姉の周りに視た色を思い出し、色の塵へと分解していく。
「………ああ、そうか。姉が視た色も、こんな……」
まるで本当に、意思の呪いだけが、その存在を繋ぎ留めていたかのように…。
◇◇◇◇
毎回の行動方針が「絵を描く」で固定されていた通り、どこか殺し合いから切り離されたようなスタンスで、登場から退場まで存在感を示した。
廃校組の中心人物としても様々な場面を狂気とトラウマで彩り、絵の具である侵略者ともども、物語を盛り上げてくれたと言える。
また、彼が去り行くみらいに対して呟いた謎めいた言葉も、のちの主催戦での経緯を考えると、彼女自身ではない、何者かの色彩が異次元より混入していたのを、見て取っていたようだ。
総じて、特異な立ち位置のキャラクターだったと言えるだろう。
最終更新:2024年01月20日 02:08