見渡す限りの砂漠と暗い空に挟まれた世界。死と、無念が形作る領域。 

虚圏へと、スタークは還ってきた。

変わらねぇな、と呟いた。それに応えるものは誰もいない。主催の本拠地に、リリネットはいなかった。自らの半身である従属官の小さな少女の破面。ユーハバッハには、彼女を人質にされたからこそジョーカーとして参加したのだが……。

ユーハバッハが嘘をついていたのか、それとも未来を視て自身の裏切りを知っていたためにどこかのタイミングで改めて抹殺されたのか、今のスタークには知る術はない。彼は全知全能ではない、一人の、孤独な破面だからだ。

虚圏へと戻ったのは、特に理由はなかった。ユーハバッハが倒れた事で、三界は再び別れるとサノスに聞いた。そうしたら、なんとなく戻りたくなったのだ。誰もいない世界だ。再生されたばかりの世界には死者も虚もいない。つまり孤独になるとわかっていて、スタークはなんとなく、戻ってきたのだ。

とりあえず、虚夜宮(ラス・ノーチェス)の跡にでも向かってみるかと歩いていると、岡の向こうに3つの強い霊圧を感じた。

「あ! 見ろよミラ・ローズ!! やっぱりプリメーラ(#1)じゃねぇか!!」
「うっさいよアパッチ! いちいちデケェ声出さなくても聞こえるし、霊圧で判ってたっっーの!!」
「アァン!? テメェが霊圧だけじゃ気のせいかもよ、って言ったからわざわざ見にきてんだろーが!!」
「おだまりなさいな二人とも。どうやらプリメーラも私たちとの遭遇は想定外だったらしくてよ」
「お前ら……確かハリベルの……」

姦しい三人娘は十刃#3の従属官だった。スタークは疑問に思った。なぜ、生きている? なぜ、ここにいる? しかし、その疑問はむしろ、あちら側が抱いたものだった。

「しっかしアンタ本当にプリメーラなのか? あいつ死神のチャラいおっさんに刺されて死んだんじゃなかったか?」
「ん……まぁそこは………」

アパッチ「…………」
ミラ「…………」
スンスン「…………」
スターク「…………」

「……色々あったんだ」
「いやそんだけ間を置いたんなら説明しろよ!? 相変わらずめんどくさがりだなアンタは!!」
「……どうやら本物のプリメーラのようですわね」
「まぁ仮にもヤミー除けば十刃トップだしな……こいつ。生きてても不思議はないけどさ……」
「仮にも」とか「こいつ」とか、一応オレ元上司なのに扱いひでーな……」

頭を掻くスターク。そうだ、とアパッチが言った。

「いや、ホンモンのプリメーラなら大助かりだぜ! 頼むプリメーラ! アタシたちと一緒にハリベル様を救ってくれ!!」
「? どういう事だ?」
「虚圏に、白装束の謎の一団が襲撃を仕掛けてきたのです。有象無象の虚や破面では太刀打ち出来ず、ハリベル様が奮戦されたのですが……」
「奮戦、じゃねーよ! ハリベル様が圧倒的に押してたじゃねーかよ! あのヒゲオヤジが出てくるでは……!!」
「!? まて、まてまて! まさかそいつら、霊子の弓を使ってなかったか……? ヒゲオヤジってのは、黒いケープを纏ってる、髪の長い偉そうなやつか?」
「知ってんのかプリメーラ!?」
「スタークだ。……もう十刃壊滅してんだから、名前で呼んでくれよ」

スンスンがそうですわ、と応えた。そのヒゲオヤジにハリベルが敗れ、連れ去られたとも言った。スタークは混乱した。が、やがて一つの答えに至った。

サノスだったか。あの男が気を利かせてくれたのだ。なぜそうしたのかまではわからない。単なる気まぐれか、気持ちを汲んでくれたのか……あるいは、この世界において『ユーハバッハ』を倒せという事なのか。

「……めんどくせぇな」
「アァン!? テメェハリベル様を見捨てんのか!?」
「テメーとバラガンが死神なんかにやられるから、虚圏の統治を買って出たハリベル様に恩を感じないのか!?」
「いやお前たちの頼みがめんどくせぇわけじゃねぇよ」

スタークがそういうと、三人娘はえっ、と驚いた顔をした。

と、四人は一斉に同じ方を見た。その先、遠くで数多の霊圧が乱れているのを感じたからだ。


「アイツらまた来やがったな……!!」
「今度こそぶっ殺してやる……!!」
「落ち着きなさいな。皆殺しにしてはハリベル様がどこにいるか聞き出せませんわよ。一人、二人は生かしたままにしないと」

臨戦態勢に入った三人の先頭に、スタークは立った。

「スターク?」
「これからオレたちが戦うのは滅却師だ。親玉のヒゲオヤジはユーハバッハって言って、めちゃくちゃ強いやつだ。はっきり言って藍染サマより強いかもしれねぇ」
「なん……だと……!?」
「嘘でしょ……あの化け物より強いっていうの、あのヒゲオヤジが……!?」

「だが、ま。意外となんとかなるモンだぜ」

 絶望に顔を歪める三人娘に、スタークはふっと微笑を浮かべて言った。

「なんだよ……アンタのそんな顔、初めて見たぜ……」
「この後に及んで嬉しそうな顔って、状況分かってます?」
「ああ、わかってるよ。ただ、まぁ。オレは戦いってやつはめんどくせぇから嫌いなんだが……」

「仲間を護るために、って思ったら……意外と悪くないかもしれねぇって思っただけさ」

そういうとスタークは響転を用いて走った。三人娘は慌てて後を追う。スタークは空を翔る最中に「帰刃」を行った。リリネットの霊圧は感じない。ヴァレンタインを倒したあの時から、なぜリリネット無しで帰刃ができるのかはわからない。だが、今は力を振るえることに感謝しようと、スタークは思っていた。

青い霊子が体を包み、密度の極まった霊圧によって体が黒く変色し始めていることに、スタークはまだ気づいていない。

──BLEACH ALL GENRE Ⅲ

『EPILOGUE :WHAT IF 千の夜をこえて』

【コヨーテ・スターク@BLEACH 生還】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2020年07月12日 17:35