「おかえりなさいませ、我が主よ」

空間の歪みから歩み出たサノスを迎えたのは、エボニー・マウを筆頭にするブラックオーダーの面々だった。彼らは突然行方不明になり、またこの場において唐突に現れたはずのサノスに対しても全く驚くことなく頭を垂れる。そして、彼らの主たるサノスもまた、それが当然であるかのように、まるで全てが掌の上の出来事であるかの如き振る舞いを持って応えて見せた。

「変わりないようで安心しました。我が主人(あるじ)よ」

マウはサノスの三歩後を歩いた。サノスのために用意した玉座に彼が座したところで、歩みを止めた。

「ストーンを全て、手に入れられたのですね」

サノスが手に装着するガントレット。そこには取り取りに輝くストーンが全て嵌められていた。にこやかに笑うマウに対して、ほかの3人のブラックオーダーらは驚愕の表情を浮かべ、ざわめいた。しかし、当のサノスはいまいちすっきりしない──というより、思考がまとまらないような、はっきりと複雑な表情を浮かべていた。

「マウよ。ストーンの力には限界が存在する」
「ほぅ、それはそれは……」
「な!? 本当でございますか!?」

プロキシマ・ミッドナイトが槍を鳴らしてサノスへ問いかけた。ともすれば不敬にも思われる言動であるが、この場におけるサノスとマウを除いた全ての者は、その心の内で彼女の驚愕に賛同していた。

「ストーンの力はこの宇宙でしか正常には働かぬ。いや、元々わかっていたことではあるが……」
「未来を「視」られたのですね?」
「……そうだ」
「そして、アベンジャーズに敗れる未来があった……と」
「エボニー・マウ! サノス様に口がすぎるぞ」
「よい。私が敗れる未来があったのは紛れもない事実だ」

サノスは躊躇うことなくガントレットを外した。

「では、ストーンはどうされます?」
「ストーンは我が元に置いておく。アベンジャーズにむざむざ渡すこともなかろう。なにより……これから私が手に入れんとするモノを制御するために、ストーンのパワーは絶対に必要であろう」

インフィニティ・ガントレットを捨て、手に入れたいモノ。またしてもブラックオーダーたちは目を見開いた。あまりにも短期間に驚きが連鎖している。言葉がうまく出てこなかった。ただ一人、マウだけがふむ、と口を自在に動かしている。彼には心当たりがあったのだ。インフィニティ・ガントレットを越える存在に……。

「と、いうことは。本当にアレがこの宇宙に存在している確証を得たのですね?」
「そうだ。ガントレットのパワーでは探知し切れなかったが、おそらく存在していることはわかった。ならば探さぬ手はなかろう」
「い、一体……なんのことです……? 私たちには何がなんだか……!?」

プロキシマとコーヴァスが前に出た。サノスは口を開いた。

「これから我らが探し求るは、INFINITY GAUNTLET(インフィニティ・ガントレット)を越えるモノ」

「MULTIVERSE(マルチバース)の領域を越え、遍く全てを超越する全能者の片鱗」

「HEART OF THE UNIVERSE(ハート・オブ・ザ・ユニバース)だ。それを探す」

サノスの静かな、それでいて覚悟の秘められた重厚な宣言を聞き、さしものブラックオーダーもかしこまった。しかしただ一人エボニー・マウだけが物押しすることなくサノスに会釈をした。

サノスの宇宙船が軌道を変える。
遠ざかるアスガルド、遠ざかる地球。

愛すべき娘との再会にさえ、サノスはもう目もくれない。

眼前に映るは真っ暗な闇。当たり前だ。これから彼らが行く領域は、ストーンのパワーでも遥か及ばない、無限の先の、その先なのだ。

サノスは言った。

「さぁ行くぞ。見果てぬ神の領域へ」

宇宙船は光の海へと姿を消した。

静かな宇宙が残された。
その静けさが束の間の平和か、恒久を貫くかは、神々の王と謳われ、神の視座にて世界を見下ろすLiving tributary(リビング・トライビューナル)にすら測れないだろう。

──THE AVENGERSA ALL GENRE Ⅲ

『EPILOGUE :MARVEL CINEMATIC UNIVERSE -THE END-』

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最終更新:2020年06月15日 13:15