「ゼロォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

穢れの無い純白の機体から発せられたのは、怖気が走る程の憎悪で彩られた声。
何が彼をここまで堕としたのか。
その理由を知らないまま、魔王は死闘に臨む。

悲劇が生まれ、地獄が芽吹き、絶望が嗤う。
闘争の度に新たな物語が紡がれ、同時に一つの物語が終焉を迎える。
混沌の二文字がこれ程に似合うだろう光景も無い、それこそがバトルロワイアル。
100を超える魂が鎬を削り合う魔境にて、今宵の主役は騎士と魔王。
悪逆非道の怪物を打ち倒すべく、正義の剣を突き立てる。
語り尽くされた勧善懲悪の御伽噺と違う、誰もがイメージするのとは正反対。
俄かには信じられまい。
騎士は虐殺の魔導へ堕ち、魔王こそが騎士を止める使命を背負った者などと。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

正気を削ぎ落とした絶叫が開戦の合図。
双剣を手に騎士が接近。
迫る姿は姫の危機に駆け寄る心優しき従者とは程遠い。
生き血を求める悪鬼そのものであった。

機械仕掛けの騎士、ランスロット・アルビオンを駆るは枢木スザク。
罪に苛まれ、それでも正しき道を歩まんとした少年の成れの果て。
とある魔王と友情を育み、欠けた心を癒したのは最早過去の話。
魔王は死に、絶望で己が身を腐らせた鬼がここにいるだけ。
真紅の双剣を叩きつける彼に、良心の呵責が起ころう筈も無かった。

「来るか、スザク……」

されど、迎え撃つ相手もまた狩られるだけの獲物に非ず。
永遠を生きる魔女との契約により、混沌を齎す使命を背負った魔王。
如何なる偶然か、世界は違えど断ち切れぬ因縁が彼らを引き寄せた。
運命、その二文字で片付けるには陳腐と分かっていても感じずにはいられない。
僅かに浮かんだ感傷を握り潰し、ゼロは拳を構える。
魔王にとっては自身の肉体そのものが最大の武器。

振り下ろされた真紅の剣、MVSがゼロの視界を占領する。
傍から見れば余りにも馬鹿げた光景としか映らないだろう。
生身でKMF(ナイトメアフレーム)と戦う、質の低いジョーク以外のなにものでもない。
であるならば、次に起こったのは自らの正気を疑うに違いない。
斬る、というよりは叩き潰さんと襲い来る剣にゼロは逃げも隠れもしない。
MVSに比べれば遥かにちっぽけな拳を叩き付け、弾いた。
ナイト・オブ・ラウンズが駆る高性能なKMFではない、生身で素手の相手がだ。
機動兵器の絶対性を過信するブリタニアの高官が見たら、泡を吹いて倒れること間違いなし。

動揺して然るべき光景にもスザクが抱くは決して冷めない怒り。
一撃が防がれた、だからどうしたというのか。
確実に死ぬまで攻撃を続けるのみ。

もう片方の剣が振るわれ、こちらも拳で対処。
反撃に移る隙は与えぬとばかりに、右の剣が再度接近。
双剣が与える死は悉く回避され、拳が齎す破壊もまた届かない。
刃に切り裂かれた空気が悲鳴を上げ、鉄拳との衝突で起こる余波が地面を消し飛ばす。
得物の応酬でエリアを破壊したとて、両者決定打にならず。

手を変える必要がある。
憎悪に呑まれて尚も、こと戦闘となれば油を差した機械の如く思考が回るのは流石の枢木スザクか。
丁度50に届く刃を防いだゼロへ、ランスロットの足が唸る。
攻撃から防御へ変更、交差させた両腕に爪先が命中。
吹き飛ばされつつも空中で華麗に一回転、着地したと同時に殺意の接近を察知。

片方のMVSを捨て、新たな得物が魔王を睨む。
底冷えする殺意を銃口に宿し、スーパーヴァリスが火を吹いた。
ランスロット・アルビオンの武双は全て、KMFを始めとした対機動兵器用。
生身の相手を殺すには余りにも過剰過ぎる威力だ。
装填された弾丸は、掠っただけでも人体を容赦なく破壊する。
命中などしようものならば、ミンチがマシと思える肉片と化す。

弾丸の脅威にゼロは慌てず右手を翳す。
無駄な抵抗にしか見えない動作、だが魔王にとってはこれが最適解。
全身を抉り潰す鉄塊は宙でピタリと動きを止めた。

まるでトリック映像のような不可思議な光景。
これこそ魔王が持つ最大の矛であり盾でもある異能。
ワイアードギアス、ザ・ゼロ。
森羅万象を無に還す輝きは、バトルロワイアルだろうと変わらず行使可能。

敵が一兵卒程度なら、常識を鼻で笑う現実に慄いただろう。
だが此度は枢木スザク、泥の底へ心を沈ませようとも天才的な戦闘センスは健在。
続けてトリガーを引き、スーパーヴァリスが殺意を吐き出す。
弾丸の嵐をギアスが止め、先程とは反対にゼロが接近。
機体そのものへザ・ゼロを当て機能停止を狙う。
尤もそう簡単に懐へ潜り込むのを許す程、スザクは甘い戦士ではない。

照準はゼロに合わせたまま移動。
ランドスピナーが高速回転し、巨体とは裏腹の機動力を発揮。
移動した先へ駆けるも急旋回、またもや引き離された。
縦横無尽に戦場を動き回りながらの射撃。
出鱈目な移動に見えて狙いは正確無比。
右からの弾丸を防いだ傍から、左より殺意が襲来。
片腕のみでは足りない、両手でギアスを行使し弾丸を宙へ縫い付ける。
しかし手数は向こうが上、蜂の巣にされるのは時間の問題。

「そこだ!!」

並のパイロットならば気付けない、隙とも呼べぬほんの僅かな裂け目。
それをスザクは見逃さない。
持ったままのMVSを投擲、飛来する真紅の刃は当たれば即死は確実。
なれどゼロの能力を以てすれば回避は難しくない、飛び退き死を遠ざける。
スザクの狙い通りに、だ。
スーパーヴァリスの射線上へ誘導完了し、王手を掛けるべくトリガーを引く。
発射されたのは弾丸に非ず、目も眩む鮮血色の光線。
ハドロン砲が魔王を飲み込み、骨の一欠片まで焼き潰す。

「だが甘い」
「っ!?」

コックピット内のレーダーが、何よりスザク自身の感覚が背後からの敵意を察知。
地から足を離し、頭部部分の真後ろにゼロはいた。
攻撃の先読みが得意なのは、何もスザクのみに限った話ではない。
敵が先の先まで読むのであれば、こちらは更に先までルートを作る。
スーパーヴァリスを後方へ向けると同時に、軽くない衝撃が銃身に走った。
余りの大きさに機体そのものの体勢がグラついた程。
この状態はマズい、急ぎ距離を取り再度狙いを付ける。

右腕を跳ね上げ、そこで気付いた。
銃身部分が破損しており、これでは撃っても弾が発射されないどころか暴発で自分がダメージを負う。
蹴りの一撃でKMFの武装を破壊したゼロが、追撃に出ない理由は無い。
羽織ったマントが生き物のように蠢き、純白の騎士目掛けて射出。

「くっ…!」

武器一つ失ったのは痛手、しかし戦闘の継続は十分可能。
MVSやスーパーヴァリスだけが持ち得る装備の全てではない。
スラッシュハーケンを巧みに動かし、ゼロのマントを迎え撃つ。
黒い蛇と鉄の触手が踊り合う中、魔王と騎士が真っ向からぶつかる。

MVSを拾うや否や振り被る騎士へ、魔王が頼るはやはり己の肉体。
剣相手に徒手空拳などと侮るなかれ、油断出来る相手で無いとスザク自身も理解している。
拳と刃、マントとスラッシュハーケン。
互いに何発放ったかを数えてはいない、そんなものに思考を回せる余裕を持てる敵ではない。
己の首に添えられた死を跳ね退け、反対に相手の心臓へ終わりを叩きつける。

恐るべき人間だと、ゼロは我が身を以ち改めて実感する。
彼にとって枢木スザクとは、殺し合い以前から最大の脅威だった。
たとえ自身の知る世界のスザクでなくとも、強さの程は一切変わらない。
ましてこのスザクは繋がりし者(ワイアード)じゃないにも関わらず、ここまで自分と渡り合うのだ。
全く、敵ながら一周回って感心する他ない。

故にこそ、己の内へ形容し難い痛みが生まれる。
世界は違えど間違った過程を嫌うスザクが、正にその道を転げ落ちている現実に。

「……」

命のやり取りの場において感傷は枷だ。
思考をどんな名剣よりも研ぎ澄ませ、勝利への最短ルートを構築。
出来上がったら後は実際に動くだけ。
切っ先を真っ直ぐ見据え、ザ・ゼロを発動。
虚無の光に剣が侵食され、MVSは瞬く間に機能を停止。
切れ味を失った刀身を駆け上がり、今度は機体に直接ギアスを叩き込む。
スラッシュハーケンを戻すのも間に合わない、叩き落とすのだって手遅れ。
死が待ってましたとばかりに牙を剥き、スザクを喰い殺さんと迫りくる。

――生きろ

絶体絶命の危機、それこそスザクが能力を最大限以上に引き出す瞬間。
友が与えた願い/呪いは断じて死を認めない。
素でさえ、超人的な身体機能を持つスザクのリミッターが外れる。
生きる、その為に必要な動きに移る準備は完了。
レバーを操作すると、全身に尋常ではない負荷が圧し掛かった。
元々スザク以外では扱えないランスロットで、更に無茶な動きを実行したのだから当然である。
全身から上がる悲鳴を黙殺、回避不可能な体勢からの迎撃により魔王の勝利が覆された。

「っ…!!」

魔女との契約で得た不死の肉体は、KMFの一撃だろうと簡単には滅ぼせない。
とはいえ防御も取れずに直撃を受け、流石に堪えた。
叩きつけられ、仮面の下で漏れる短い苦悶の声。
だがまだ死には至らない、魔王を殺すにはもっと確実な方法が必須。
もう一本のMVSを拾い上げ、完全なるトドメを刺す。

「終わりだ、ゼロ…!!!」

終焉が足音を立てて近付いて来た。
不死を否定され、冥府へと手を引かれるのを受け入れる。
或いは、それも一つの選択だろう。
光り輝く正道を往く騎士に、魔導を往くしか無かった魔王は敗北。
何かが違えば、抵抗せずに自身の終わりに納得したのかもしれない。

ああ、だけど

「お前には…殺されてやらん」

何故だろうか。
今のスザクに命をくれてやる事だけは、酷く気に入らない。

騎士の剣が魔王を殺す。
カビの生えた展開を否定するべく、魔王もまた剣を取り出す。
直接の斬り合いに興じるつもりはない。
頭上へ放り投げ、重力に従い落下した柄を蹴り付ける。
ゼロの脚力で放たれたソレが、さながら銀の弾丸の如く騎士へ放たれた。

たかが剣一本、怒れる騎士の進撃を止めるには力不足。
本来ならば、そうだったろう。
容易く躱されるか、羽虫のように地面へ落ちるか。
その程度の悪足掻きでしかなかった筈。

だというのに騎士は動かない、スザクは動けない。
急速に迫る刃が、いやにスローモーションに見えて仕方ない。

スザクはゼロが蹴り飛ばした剣に見覚えは無い。
しかし分かる、分かってしまう。
剣に宿る力、殺し合いに巻き込まれなければ一生知る機会の無かったモノ。
それを知っている、知らない訳が無いのだ。
だってあれは、剣から感じるあの力は――

「貞…夫……?」

友情を結んだ魔王と同じなのだから。

一騎当千の騎士と言えども、動かなければただの的。
碧の瞳を貫いても止まらず突き進む。
内部システムが食い荒らされ、コックピット内の画面にもエラーが表示。
カメラアイの破壊により視界は奪われた。
予備システムが即座に起動、戦場が再び映し出される。

「っ!?」

だが遅い。
魔王を相手に余りにも致命的。
添えられた掌から光が溢れる。
輝かしい絶望が、枢木スザクへこれ以上ない王手を掛けた。

「う、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

伸ばした手は何も掴めない、誰も殺せない。
全てがゼロになる。
何もかもが無に還る。
全機能が停止した騎士は最早、物言わぬ木偶人形と変わらない。
友が残した呪い(ギアス)共々、少年の命が失われていく。

勝利の女神は騎士に唾を吐き、魔王へ愛を囁く。
ここに一つの決着は付いた。



コックピットを出たのは奇跡に近い。
ザ・ゼロを食らいながらまだ動くことが出来た。
執念の為せる技か、スザクの持つ能力がそれだけ異常だからか。
どちらが答えにしろ、迎える結末は同じ。
戦闘はおろか、立つ事すらままならない。

「僕、は……」

地面を這い、指先に力を籠めようとするも無理だった。
身動ぎする体力も失われていき、嫌でも終わりを理解させられる。

結局自分は何がしたかったのだろうか。
犯した罪の重さに絶望し、だけど苦しみを分かち合う友がいてくれて。
戦えない人々を友と一緒に保護している時、少しだけ救われた気がした。
焼き払った人々が生き返る訳じゃ無い、自分の罪は帳消しにならないと分かっていても。
もしかすると、目を逸らしていただけなのかもしれないけど。
それでも、魔奥貞夫が共に戦ってくれて嬉しかったのは嘘じゃない。

「俺は……俺は……!」

分かってる、分かってるんだ。
本当にやるべきは、友の死を背負って助けを待つ人達に手を伸ばす事だったと。
自分がやったのは彼への裏切りに等しいと、心の底では分かっていた。

「スザク」

頭上から掛けられた声に、視線だけをどうにか移動する。
荒れた大地を背にこちらを見下ろす、黒い魔王。
放って置いても死ぬというのに、わざわざトドメを刺すつもりか。
死刑執行人を気取る男の顔をせめてもの抵抗で睨み――凍り付いた。

「あ……」

そこに無骨な仮面は無い。
レンズを貼り付けた偽りの顔じゃあない、晒されたのは魔王の素顔。
その顔をスザクは知っている。
アメジストの輝きを持つ瞳も。
黒曜石のように艶のある髪の毛も。
自分の知る『彼』よりも達観した雰囲気こそあれど、見間違える筈がない。

「ルルー…シュ……?」

袂を分かった親友がいる。
もうすぐ死ぬというのにルルーシュの顔を見た途端、視界がやけにハッキリし出す。
放送で名前を呼ばれた彼の顔を、もう一度見る事が出来た。
自分の与り知らぬ場所で死んだ彼に、どんな感情をぶつけるべきか分からなかった。
だけど今、もう一度ルルーシュに会えたなら。
たとえ違う世界の彼でも、自分の名を呼ぶ彼がここにいるのなら。
込み上げる想いを口に出すのに躊躇はない。

「ルルーシュ……」

そうだ。
偽りなんかじゃない、湧き上がるこの気持ちはきっと――





「ふざけるな……!!!」





憎しみだ。

結局この男は、どの世界でもゼロを選んだ。
間違った過程を良しとし、結果だけを重視する。
ナナリーが本当に喜ぶかどうかなど、微塵も考えようとしない。
優しい世界などという言葉で誤魔化した、嘘に満ちた世界実現の為ならどんな犠牲も厭わない。
ユーフェミアを虐殺皇女に仕立て上げ、命と尊厳を奪った憎むべき友のように。

「ルルーシュ…!君は…お前はなんで……!」

怨嗟を吐き出しても、何一つとしてやれることはない。
拳の一発すらこの男には届かせられない。
命尽きるまでの残された時間全てで、友へありったけの憎悪を向ける。

やがて動かなくなって尚、血走った目は見開かれたまま。
悪鬼に堕ちた騎士に相応しい顔で、また一つ命の灯は消えた。

名を捨て、零の記号を得て生き続けた彼と、憎悪を抱き自分自身を捨てずに逝った彼。
一体どちらが少年にとって救いだったのか。
或いは、最初から彼に救いなど無かったのか。
答えを出す者もはもうどこにもいない。

死という変えられない現実だけが、ゴミのように転がっていた。



【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】

◆◆◆


終わった。
戻って来るなり簡潔に言った男へ、星宮ケイトは暫し返す言葉に詰まった。

斑模様の長髪男との戦闘後、一人民家で待つこと数十分。
永遠を生きるケイトにとっては瞬きの間に等しい筈が、妙に長く感じられた。
そうして玄関ドアを乱暴に開け戻った男は、出て行った時と何ら変わらない。
負傷こそ見られるも致命傷まではいかず、仮面をこっちに向ける。

「勝った、のか?」
「そうなるな」

戸惑いがちに聞けば、淡々とした声色が返て来る。
付近で暴れている白いロボットが、ゼロにとって縁の深い者だとは薄々察していた。
だから一人で決着を付けるという申し出にも悩んだ末に頷き、自分はここに残った。
長髪男相手に受けた傷を癒す目的も、あるにはあったが。

「お前の方は何か……聞くまでも無いか」

民家の中は綺麗なものだ。
争いは勿論、訪問者の一人も現れなかったのだろう。
尤もそんじょそこらの相手程度、容易く返り討ちにできる力の持ち主だとはゼロも理解している。
とにかく自分の方は片が付き、彼女の方も問題無い。
それならさっさと移動するべきだと、彼女を促す。

「大分休めたからな、動くのに問題ない」
「そうか。なら――」
「けどお前は違うだろ」

そろろそろ行くぞ、そう続けるつもりの言葉は遮られる。
見上げる姿は幼い少女が必死に大人へ追い付こうとしているようで、微笑ましいもの。
自分の腰の辺りまでしかない身長のケイトと、視線がかち合う。

「…傷は放って置いても治る。動けなくなる程の消耗もない。ここに留まる理由は無い筈だが」
「体のことを言ってるんじゃない。それなら私だってピンピンしてるからな!」

えっへんと無い胸を張る様子は、見た目通りの子供らしさ。
なれど適当にあしらえない。
じっと見つめる真紅の瞳がゼロを捉えて離さない。

「お前とあのロボットがどういう関係か、話したくないなら私も深くは聞かん。部下のプライベートに気を遣うのも首領の義務だ」
「勝手に部下にするな」
「むっ、強情な奴!…それはともかく、お前とロボットの操縦者に何があったか話す気が無いならそれで良い」

でも、と一拍置いてストレートに言う。

「別れを悲しむ時間は、誰にだって必要だ」
「…………」

咄嗟に返す言葉が思い付かない。
何を言われたのかは分かる、だけどそれにどう反応すべきかが分からなかった。
悲しむとは、自分が殺した友の死をか。
思うところが全く無い、という訳ではない。
だが友や妹との敵対は覚悟の上で、魔王の使命をC.C.から引き継いだ。
たとえ違う世界のスザクだろうと、殺した事に後悔はない。

戯言だと、冷たく吐き捨てれば良い。
見当違いも甚だしいと、呆れを直接ぶつければ良い。

「お前も私も置いて行かれる側だ。何人自分の前で死んだかなんて、分からなくなってもおかしくはない」

それでも、何も言い返さないのは。
目の前の幼女が、ただ上辺だけの説教をしているのではないから。
契約を交わした魔女と同じ、永き時を生きた者だけが知る重みが言葉に宿っているが故か。

「けど、私はいつだって部下との別れは悲しんで来たぞ。私の征服について来てくれた者達がいなくなったら、隠さずにわんわん泣いた」

ガラクーチカを受け取った事に後悔はない。
幼き身でありながら女王として民を統べ、いずれ訪れる自分の運命を受け入れる準備は出来ていた。
不老の呪いが降り掛かり辛くないと言えば嘘になるが、征服者としての己を間違っているとは思わない。
組織を結社し、全世界の征服を果たすべく活動を始め気が遠くなるような年月が経った。
世は良い方向にも悪い方向にも流れ、現代は確実に後者。
東京リベリオンで笑うのはいつだって一握りの勝者と、そのお零れに与る連中。
そんな時代で再びズヴィズダーのメンバーを集めるまでに、多くの同胞が自分の元から旅立って行った。

部下の死は今に始まったものじゃあない。
自分一人が幼女のまま、老いて力尽きた者を看取るのだって珍しくもない。
出会いと別れを幾度も繰り返し、その度に悲しみの涙を流した。
呪いが解かれない限り味わい続ける喪失に、時折膝を抱えずっと俯いていたくなった時もある。
だけど、死を嘆く心を失いたいと思った事はただ一度もない。
悲しみを感じなくなったら、それは機械と変わらないから。
涙を流すのを忘れてしまえば、そんなのは自分じゃないから。

「『ヴィニエイラ』としての自分を恥じたことも、後悔した事だってない。ただ私は機械のように征服をするだけの奴にはなりたくないから、いつだって泣きたくなったら思いっ切り泣いてやるんだ。…お前にも、そんな風にはなって欲しくない。人の心を忘れた奴に征服なんてできっこないぞ」
「……」

知るかと言えばそれで済むのに、たった三文字が口の中で消え失せる。
魔王になって日が浅い自分よりも永く生きて、それでも人間らしさを捨てない。
不合理と反論しようとすれば、頭をよぎるのは己自身が行った正に不合理な真似。
あの時、死に際のスザクにわざわざ素顔を見せた理由は何なのだろうか。
ゼロではなく、ルルーシュとして彼の最期を目に焼き付けたかったのは何故。
何より、憎悪に囚われ逝った友へ自分は何を思ったのか。

黙り込むゼロに、ケイトも何も言わない。
民家からは言葉が消え、互いの息遣いが微かに聞こえるのみ。
数十秒か、数分か。
正確な時間は定かでは無いが、先に沈黙を破ったのは舌足らずな幼女の声。

「あ、あー!何だかまだ体が痛いし疲れてるなー!もう少し出発を後らせた方が良い気がするなー!」
「……」
「幼女の体は大事にしないといけないからなー!」

わざとらしいにも程がある。
パタパタと駆けて行き、ソファにぽっすり座り込む。
クッションが小さな尻の下敷きになり、両足をぷらぷら動かす仕草は年相応の子供っぽさ。
空いたスペースを掌で叩きながらこっちを見る。
何を言いたいかはすぐに分かった。

よく分からない疲れにどっと襲われる。
動くのに支障がないとはいえ、体力の回復に時間を充てても損はない。
なら良いかと、少々投げやり気味に自分を納得させる。
隣にどっかり腰を降ろせば、何が嬉しいのか満面の笑みを向けられた。
他者を振り回すのが得意な癖して、時折自分でさえ惹き付けられる何かを持つ。

「お前といると――」

捨てた筈の、『ルルーシュ』としての部分が顔を出す。
口には出さずに独り言ちる。
「ちゃんと最後まで言えー!」との抗議は聞き流し、仮面の下で目を瞑る。

友を殺し、憎悪を向けられた。
涙は流れない、後悔もしていない。
しかし見えない部分へ痛みにも似た感覚が走る。
人を捨て、自分自身の幸福も捨てて尚も自分にルルーシュの心が残っているのなら。
それは自分を殺す毒でしかないのか、或いは決して捨てるべきではないからこそ残り続けてるのか。
今のゼロには分からなかった。


【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:
[道具]:共通支給品一式、魔剣@はたらく魔王さま!
[思考・状況]
基本方針:主催者を殺し帰還する
1:ヴィニエイラと行動。
[備考]
※参戦時期はLAST CODEでナナリー達に別れを告げた後。

【星宮ケイト@世界征服~謀略のズヴィズダー~】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)
[装備]:ガラクーチカ@世界征服~謀略のズヴィズダー~、変身用ウド×複数@世界征服~謀略のズヴィズダー~
[道具]:共通支給品一式
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを征服という形で終わらせる
1:ゼロと行動
[備考]
※参戦時期はアニメ本編終了後。

『支給品紹介』

【魔剣@はたらく魔王さま!】
元魔王軍四天王、カミーオが魔奥に持って来た剣。
かつて恵美(エミリア)に砕かれた魔奥の角の欠片から生み出されている。
魔力の残滓から一度は真奥と配下である芦屋達に、本来の姿を取り戻すほどの魔力を与えた。
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最終更新:2025年06月01日 14:30