風が奔る。鋭く、切り裂く。
幼子の繊手にしか見えないそれは、しかし人体を容易く破壊する獣の鉤爪にも等しい鋭さでギーを襲う。
驚愕に目を見開くギーの眼前を赤色が舞う。少女の小さな手で、腕を裂かれて。
クラッキング光が灯るギーの視界に、黄金瞳と白い軌跡がぼんやりと像を残す。
速い。普段のギーの目では追いきれまい。外見上は何の変異もしていないというのに、少女の速度は《猫虎》の兵士にも匹敵するものだった。

荒れ狂う嵐を身に纏い、襲い来る白銀の影。
驚愕はギーの反応を緩めている。鉤爪が、ギーの四肢を切り裂く。
―――速い、あまりにも。生身の体では対処できない。
けれど、ギーは躊躇する。
ギーの視線の先にあるのは、黄金色に輝く少女の瞳。

「黄金瞳、君もアティやメアリと同じ……!」

少女には黄金の猫の目が発現している。ならばこれは変異による暴走か。
そして身に纏うのは白衣の戦闘服。確か神衣・純潔と言ったか。
人の持つ力を極限まで増幅させる特殊な制服、彼女はこれを身に纏っている。
暴走と重なって膂力を増大させる服、この狂乱にもうなずける。
ならば尚更、この少女を傷つけるわけにはいかない。

「オオオオォォ――ッ!」

肉食獣が獲物を狩るように、少女は叫びながら腕を振るう。
振り上げられた白の腕。向けられる殺意はギーのみを狙っている。
生身の体では避けきれまい。鋭い反射神経を持った《猫虎》の兵や、神経改造を行った重機関兵士以外には。
しかし、見えている。その動き、対処はできる。
―――《奇械ポルシオン》であれば。

(駄目だ、速すぎる!
 炎や王では手足だけを狙えない!
 巻き込んでしまう、彼女を!)

逡巡の隙を容易に見出して、白銀の影は迫る。
指と半ば融合した鉤爪が空を裂く。速度を増して。
これは、回避、できない。

「……ッ!?」

風が―――いや、禍々しい力の波が傍を通り過ぎたような感覚。それと同時に、水風船が割れたような音が響いた。
数式の目を向けなくてもわかる。左腕が完全に破壊されている。
当たってはいない。ただ掠っただけでこの有様。
それほどまでに、少女の持つ力は強大であった。

「どうした巡回医師。ここは自分ひとりでいいと、仲間に大見得を切った威勢は何処に行った?
 ああ、それともやはり時間稼ぎのつもりだったか? まあいい」

かけられる声に続き、視界に入ってきたのは冗談めいた悪夢そのもの。眼球神経を突き破り、精神の許容を超える衝撃を与えてくる。

「だが、軽すぎるぞ貴様。加減が難しいではないか」

まるで冗談でも言うかのように軽い口調だが、しかし目の前で展開される光景は冗談では済まないものだった。
持ち上げている。塔を。地図にも記載されるほど巨大な建造物を、彼女は事も無げに片手で持ち上げて歩いてくる。
何という荒唐無稽。あれの重さがどれほどあるかなど、考えたくも無い。
怪力や変異などという枠を超えている。10かそこらの小柄な体躯であの所業。まさしく出鱈目という言葉を体現していると言っていい。

「そら、受け止めてみるか巡回医師」

そしてゆっくりと、ゆっくりと。
まるで手のひら大のボールでも投げよこすが如き動作で、手に持った塔をこちらへと投げやり―――

轟音が響き渡る。
辺り一帯が爆心するかのように揺れ、巻き上がる砂埃で視界が埋まる。
その衝撃は、ただそれだけで常人の三半規管を狂わせるほどのものであり。

「ほう、生き延びたか」

そしてギーは、砕け散る塔の破片のすぐ傍に蹲っていた。
なんら特別なことはしていない。塔が上に向かって放り投げられた故に生じた僅かな時間で、押し潰される運命から逃げたというだけのこと。
キーラにとってはなんでもない遊びのようなもの。しかし、ただそれだけのことでも、既にギーの体は満身創痍となっていた。
飛び散った瓦礫による無数の裂傷に打撲、そして破壊された左腕。常人ならば痛みだけで失神するほどのものであり、当然ながらまともに動けるような怪我ではない。
数式によって治癒が始まっているとはいえ、ギーもまた人の身である以上例外ではない。事実、静かに近寄ってくるキーラから逃げることもできず、ギーは傷を庇い蹲るしかできていない。

「しかし拍子抜けだな。この私を単騎で相手取った以上、それなりに何かを秘めていると思っていたのだが。
 ああ、それとも何か? 幼い女に手は上げられんなどと嘯くつもりか?
 ならば戦うに相応の姿というものを見せてやろう。抵抗もしない獲物を甚振る趣味は持ち合わせていないのでな」

―――その言葉の直後。
―――蠢く無数の影が彼女を覆った。

おぞましい音が周囲に響き渡る。
何かが出来上がっていく音。粘質な。
柔らかく湿ったものが捩れあい、硬質な何かが砕ける音。
繰り広げられる光景は、虫の羽化にも似て。嵩を増す質量、急激に変形する肉体。
ギーは目にする。少女の体から何かが大量にあふれ出て、それが人の形を取っていくのを。

人衣・圧倒。
神衣・純潔に宿りし生命繊維を力づくで捻じ伏せ、その力を我が物とする所業。
制限により身体能力が増強される程度の効用しかないはずのそれは、しかし他ならぬキーラが装着した場合のみ全く異なる性質を露にする。
それは現実世界におけるキーラの状態が起因となるのか。
ともかく、人衣・圧倒するキーラの体は膨大なまでに膨れ上がり。
ここに更なる悪夢が具現する。





―――視界を覆う巨大な影。
―――それは歪に構成された、戯画的な肉人形。

「……肥大した肉塊と融合する。それが君の言う相応の姿か、キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ」

怖気が走る。背筋が凍る。それはこの世にまるまじき光景故に。
質量や脅威を受けての畏怖ではない。それは外見の印象から来るおぞましさ。このあまりの醜さに、生理的な嫌悪感を覚えない人間などそうはいないだろう。
何故ならそれは巨大な肉の塊。4桁の人体に匹敵する量の肉片を千切り、砕き、こね回して混ぜ合わせた人肉の粘土細工。
人の死体など気が遠くなるほど目にしてきたギーですら、ともすれば吐き気を催すほどであり……

「寄せ集めのレギオン……そんなものと結びついて。
 君は何を得る。君は、その姿で、何をするんだ」

「愚問。貴様ら人間を皆殺しにする」

そして姿のみならず、返ってきた言動すら救いのないものだった。
そこにあるのは混じり気のない殺意のみ。理由もなく、大儀もなく。ただ己が獣であるから人を殺すのだという存在意義のみで完結する殺意しかない。

―――人を食らう鋼の牙、ゲオルギィ。鋼牙機甲獣化帝国。
―――それは、死を撒き散らす恐怖のかたち。

大きさは目測で150フィートはくだらないか。膨大な肉片を寄せ集めて無理やりに人の姿を真似た姿。かつて相対したクリッター・ストーンゴーレムを彷彿とさせるが、これはストーンゴーレムをも凌ぐ大きさと不気味さを兼ね備えている。
この大質量の前では、いかなる刃も意味を為さない。変異した人間など目ではない。凶暴な幻獣など、何体居ても敵うまい。
何一つ物理法則が意味を為さない。これは最早超常の現象だ。獣の形を取って人を殺すだけのものだ。

黄金瞳。これを怪物足らしめる最大の要因。
その名をギーは知っているが、しかしこれはギーの知るそれとは一線を画すものだ。
老化の抑圧、真実の透視。ギーの知る黄金瞳とはそれであり、生体の接続・増幅など想像もつかない。
何より、あの気まぐれな黒猫や強い意志を持つ少女と、眼前に聳える恐怖のかたちを一緒のものにはしたくない。
―――しかし、しかし……

歪な人型を取る巨体の中央に半ば埋まった彼女が、こちらを見ている。血涙を流し、凄絶な笑みを湛えている。
心の底から、自らの境遇を楽しんでいるかの如く。

「は、はは、あはははははは!
 どうした、この期に及んでそれ以上言葉も出ないか。
 何らかの理由で力を隠していると考えていたが、それも私の買いかぶりか。ならば今殺してやろう、巡回医師」

そう高らかに謳いあげるキーラの顔は、やはり獰猛な獣のそれ。
ギーの見立ては間違っていた。彼女は最早変異した人間でもなければ、純潔の力に呑まれた愚者でもない。紛うことなき獣。
彼女は当の昔に受け入れているのだと悟る。自らの境遇、自らの在り方を。
そんな彼女を人と化け物に区別するなら、どうしたって化け物にしかならない。
人と化け物を分けるもの、それは自覚の有無。その観点から見れば、キーラを人間と呼ぶ根拠など無いに等しい。
ならば殺さなくてはいけないだろう。ギーは人を死なせないと誓ったのだから、人を殺す怪物を放置することなどできない。
メドゥーサと同じように、、背後の"彼"に命じてその身を砕く他に道はない。
―――しかし、しかし……

しかし、何故だろう。
ギーには、キーラが人にしか見て取れないのだ。
自分は獣だと吼える言葉も、凄絶な表情と血涙も、全てが「人になりたい」と泣き叫ぶ童女の嘆きにしか聞こえない。
汝、非人なりや? いいや、決して彼女は獣ではない。

「……その申し出は断ろう、キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ。
 君は人を殺すと言った。ならば僕は君を止めなくてはならない。
 だが、決して君を殺しはしない」

―――ギーの声と同時に。
―――呼びかける声が二つある。

視界の端に映る狂気と、背後から囁く声。
諦めろと嘯く声と、ただギーに問いかける声。

『何をする?』
「どうするの?」

『何をしたい?』
「どうしたいの?」

『きみは、何をするのか、ギー』
「きみは、どうしたいの、ギー?」

二つの存在をギーは感じていた。
視界の端の道化師と、背後に佇む"彼"を。
二つの声が重なっていた。ギーは頭上で嘲笑する彼女を見つめたまま、どちらの声を聞くか選択する。迷わずに。

―――決まっている。
―――どちらの声が、僕の声なのかは。

「あなたをみているよ」
「ぼくは、もう、からだがないから」
「あなたをみることしかできないけれど」
「あなたが、なぜ、そうするのか」
「ぼくは、しりたいから」

―――右手を伸ばす。もっと上へ。
―――彼女の狂気の笑みへと向けて。ギーは手を伸ばす。

鋼牙の巨体へ。中央のキーラへ。あるいはその上にある空へと。

どちらの声を聞くかなど、とうの昔に決めている。
最早迷うことはない。自分はどうしたって、この道しか選ぶことができないのだから。

背後の"彼"が動いている。
ギーがそうするのと同じように、手を。

―――虚空へと―――
―――鋼の右手が伸びて―――





―――右手を伸ばす。
―――前へ。

ギーの右手に重なるように。何かを掴み取ろうとする手。

―――鋼でできた手。
―――それは、ギーの想いに応えるように。

蠢くように伸ばされていく。
鋼の手は、死念の満ちる空間を裂いて。
キーラへと伸びていく。
鋼色が、五本の指を蠢かせて現出する。
指関節が、擦れて、音を、鳴らしている。
それはリュートの弦をかき鳴らすように、金属音を生み出す。
これは―――なんだ―――

それまでの"彼"のものではない。
だが確かに"彼"の手だった。
ギーの背後から伸ばされるその色は、真紅。

―――赤色の―――
―――赫の炎にも似た、鋼の手―――
―――鋼の兜に包まれて―――
―――鋭く輝く、光は二つ―――

その姿は真紅に満ちて。
鋼を纏った"彼"は姿を変えていた。
ギーには見えないが、すぐにわかった。
背後から右手を伸ばす、鋼の"彼"の姿。
それはギーの体をかき抱いて。
それでもその手を伸ばす。

わからない。何故、姿が変わったのか。
鋼の体躯は真紅に染まり、瞳は二つに。
姿は違う。けれど"彼"に違いは無い。
ギーは動じない。
背後の"彼"は確かに"彼"なのだから。

視界の端に―――
既に、踊る道化師の姿はなかった―――

「殺しはしない。僕は、君の振るう《力》のみを砕く。
 君の偽りの帝国を砕く。君と帝国は僕の敵だ。
 そして後には、力と、その記憶すら持たない少女のみが残る」

静かに右手を前へと伸ばす。
なぞるように、鋼の右手も前へと伸びた。

―――意思を持って伸ばされる"右手"。
―――それは、ギーの"右手"。

その手は今や、尋常な人間の手ではない。
真紅の鋼を纏った右手がそこにある。
背後の"彼"と同じ、刃の右手。

金属の擦れる音。
ギーの意志に、応じるように。

―――動く。そう、これは動くのだ。
―――自在に、ギーの思った通りに。

視界に広がる肉塊の本体を見上げる。
激しい敵意と殺意。
それはキーラの持つものなのだろう。
鋼の腕を伸ばして"同じもの"を見ている。
真紅に変じた鋼の彼が、肉塊の中央に埋まる彼女とその全体を見ている。

数式を起動せずともギーには見えている。
狂気の嘲笑を続ける彼女を無視し、ギーと"彼"は獣化帝国の根本を睨む。

―――右手を向ける。
―――ギー自身と"彼"のものである、右手。
―――これまでの手とは違う。
―――けれど、ある種の実感がこの手にも。

背後の"彼"にできることは何か。
ギーと"彼"がすべきことは何か。

―――この手で何を為すべきか。
―――わかる。これまでの時と同じように。

「偽りだと……? 我らを砕くだと……?
 何を世迷言を口にしている、誇り高き獣の力を、人間風情が見くびるな!
 その不遜な口諸共、この私が微塵に打ち砕いてくれるわ!」

響き渡る怒声、それと共に鋼牙の巨体の腕が伸びる。
彼女の叫びに巨体が応じる。巨体から繰り出される豪腕に、纏わり付く絶死の衝撃が、確かに見える。

ギーの右目は既に捉えている。
獣化帝国という名の異形のすべて。
それは死を振りまき、大質量ですべてを押し潰す。
それは最早一国の軍隊すら呑み込み、破滅させる。
到底一個人では抗し得ない圧倒的な物量。
人は絶望と諦観の中に落とされる。何者も、そこから逃れることはできない。
振り上げられた豪腕、その標的はギーと彼!

―――巨大な白い軌跡が視界を埋め尽くす。
―――早い、目では追えない。
生身の体では避けられまい。
鋭い反射神経を備えた<<奇械>>使いや、神経改造を行った街路の騎士でさえも。
もしも豪腕を避けたとしても、不可視の衝撃波に殺される。
しかし、生きている。
ギーはまだ。
傷一つ無く、立っている。
巨体の繰り出す豪腕が潰したのは虚空のみ。

「何……ッ!?」

「……遅い」

予想しえない事態にキーラが驚愕の声をあげる。
狩られるべき獲物の抵抗、戦士ならざる者に回避された屈辱。
それらがない交ぜになり、キーラは殺意と狂気の中に怒りを混ぜ込む。

「うるさい黙れェッ!
 遅いだと、我らが貴様ら人間如きに劣るだと?
 ふざけるな! 誰も我らを傷つけられるものか!
 我らは、絶対に、人間にはやられない!」

「喚くな」

叫び声をあげた彼女を右目で睨む。
空気が震えるほどの、彼女の怒り。
クリッターボイスではない。それは単なる少女の叫び。だがその絶叫は何の工夫もないにも関わらず、ただそれだけで砲弾並みの破壊を周囲に撒き散らす。
しかしまだ生きている。ギーはまだ死んでいない。
真紅の鋼の"彼"が守る。死にはしない、まだ。

睨む右目に意識を向ける。全てを見通す数式の光が右目からあふれ出る。
荒れ狂う彼女の全てを右目が視る!

―――獣化帝国は群体。物理破壊は可能―――
―――しかし、破壊と同時に巨体に繋がる全ての生命が諸共に死亡する―――
―――炎も王も対処は不可能―――
―――獣化帝国の場合―――
―――唯一の救出方法は―――
―――全ての"現在"を奪うこと―――
―――この"手"であれば可能―――
―――この《悪なる右手》であれば―――

「なるほど、確かに。
 人は君に何もできないだろう」

人を拒む獣、鋼牙。
全てを圧する質量とあらゆる傷を塞ぐ生命力を合わせ持つ肉体。
故に、人はこれを決して殺せない。

例え全てを破壊したとしても、巨体の死と連動するように繋がれた命は消えうせる。
故に、人はこれを決して救えない。
けれど、けれど。

―――けれど。

「けれど、どうやら。
 鋼の彼は人ではない」

―――"右目"が視ている!
―――"右手"と連動するように!

「鋼のきみ。我が奇械《ポルシオン》
 僕は、きみにこう言おう」

―――"右手"を向ける。
―――それは捩れた現在を奪いつくす、比類なき《悪なる右手》。

「"光の如く、引き裂け"」

――――――――!

―――真紅の右手が奔って。
―――獣化帝国の根本を薙ぐ。
―――真紅の右手は全てを奪う。
―――獣の巨体の全箇所を、完全に取り込み奪う。

それは一瞬の出来事だった。真紅の鋼の一閃が、膨大な光を伴って獣の巨体を飲み込んだ。
あまりにも呆気なく、空間の軋む音のみを周囲に残して―――

「…………お父様」

―――極光に呑まれる刹那、キーラは何かを呟いて。
しかしそれは誰の耳にも届くことは無く。
巨体は程なく消えるのみ。接続を破壊された《奇戒》と同じく、何の痕跡も残さずに。








式がそこに辿りついた時、既に蠢く妖肉の巨体は存在しなかった。
獣化帝国は消失していた。静けさ満ちる緑と土だけが残されて、そこには誰もいなかった。
誰もいない。そこには誰一人として。
―――男と、幼い少女以外には。

「なんだ、もう終わったのか」

「……君は」

声をかけると、男はあっさりと振り向く。体中を泥と血で汚し、右腕に気絶した少女を抱き、顔には憂いた表情を浮かべて。
どう見ても戦闘者のそれではない。数多の人外と渡り合い、自身も武芸を習う身である式からして、男は戦いを生業にする者ではないとわかる。
言うなれば、水気のない枯れ木だろうか。

助けを求めてきた少女―――メアリは言った。ギーという男が襲撃してきた少女と戦っている、と。
少女が人外かはわからなかったが、事実、この場所へと向かう途中に得体の知れない巨大な影を式は目撃している。
式がたどり着く前に突如として消えうせた巨影。それは果たして襲撃者である少女に由来するものなのか。
そしてそれは何らかの手段で消し去られたのだろうが、それをやったのが目の前の男だと、俄かには信じがたい。

「ところで、ギーってのはあんたか? メアリっていう奴から助けてくれと頼まれたんだが」

「……ああ、その通りだ」

驚いた。まさかその通りだったとは。
だが、しかし同時に納得もする。考えてみれば魔術師や能力者といった風情の連中は見た目の雰囲気によらず強大な力を有している場合もあるのだ。
この場に呼び出されてから戦った相手が聞仲のような武芸者ばかりであったから、感覚が麻痺していたのか。

「ところで、メアリから言われて君はここに来たのか?
 なら彼女は」

「無事だよ」

ギーの疑問に答える。正直な話、人外がいないのならもうこの場に用はないのだ。早いところ別れたい。
ギーも、その手の中で眠る少女も、ギーの背後に佇む《何か》も、式の趣味ではないのだ。

「俺の少しあとを追ってきてるはずだ。もう少ししたら会えるよ。
 ……それじゃあな」

それだけ言って、式は踵を返してその場を去る。目標は次の戦場、ザルチムなる異形がいるという場所。
握る得物を確認し、式は再び駆け出すのだった。






鋼牙機甲獣化帝国。それはキーラの持つ急段であり、彼女の奥の手。
その効果は「際限なく怪物らしく自分を強くする」のみ。協力強制の条件は「キーラは人外だ」と両者がキーラを怪物として認識すること。
単純な戟法、楯法、咒法の複合であり、何かの概念を引っ繰り返すような洗練されたものではなく、ただ力。火力膂力速力凶念――総じて暴力を無尽蔵に加速させるだけの異能。
単純であるが故に隙がなく、ともすればギーをすら打倒可能なほどの強力な異能であるが、しかし。
逆に言えばキーラを人外ではなく人と見る者がいれば、あるいは。
あるいは、彼女を救うことができるのかもしれない。
ギーはその救い主になれるか否か、それは未だわからないままだ。


【二日目・深夜:エリアX-X 塔跡地】


『ギー@赫炎のインガノック』
【状態】疲労(大)、精神疲労(大)、体中に中度の切り傷と打撲、左腕に重度の裂傷(治癒中)、ポルシオンが終期型に覚醒。
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式、医療道具一式。
【思考・行動】
0:メアリや学生の二人組と合流する。
1:もう二度と人を殺さないし、この手にある命を取りこぼしもしない。 
2:クリッターや怪物の類は見つけ次第破壊する。 
3:ペガサスの意志を引き継ぎ、この殺し合いを破壊する。 
4:キーラを……?
【備考】参戦時期はレムル・レムル撃破直後、キーアに会う前です。
ポルシオンが終期型に覚醒しました。《悪なる右手》が使用可能となります。

『両儀式@空の境界』
【状態】疲労(中)、微かな苛立ち。
【装備】蜘蛛切@11eyes
【所持品】基本支給品一式
【思考・行動】
0:人外を斬れなかったことへの微かな苛立ち
1:殺し合いには乗らない。
2:メアリの願いに応じて人助け……しかし片方が片付いていたのでザルチムとかいう奴のほうへ行く。
3:後で朧を迎えに行く。
4:聞仲は斬る、絶対に斬る。

『キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ@相州戦神館學園八命陣』
【状態】気絶、身体・記憶・記憶等が幼年時まで退行。
【装備】なし
【所持品】なし(服は幼年時のものとなっている)
【思考・行動】
0:……
1:不明
【備考】参戦時期は甘粕正彦によって獣の側へ転がされた直後。
悪なる右手により全ての状態が人体実験前まで引き戻されました。身体・記憶・技能もそれに準じますが、黄金瞳だけはそのままです。
それに伴い装備や所持品も全て消滅しました。服だけは退行当時のものが再現されています。








祝福せよ! 祝福せよ!
おお、おお、素晴らしきかな。
獣の姫君は今や人の可能性の只中に在る。
お前の望んだその時だ。キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワよ、震えるがいい!
尊敬すべき《奇戒》使い、俺の焦がれし輝きよ。
お前はきっとわかるまい、それが何を示すのか。
ただ、お前がそこを昇るだけだ。
そして、それが、この殺し合いの真実であり。
そして、それこそが、我が愛のかたちである。







000: ギー 000:
000: 両儀式 000:
000: キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ 000:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2014年07月17日 21:15