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ハツコイ - (2006/06/20 (火) 02:14:31) のソース
「どらすてぃ~ん」 私を呼ぶ声がする。 あの声は・・・多分アルだと思う。 「おまたせ。さぁ、今日はどこにいこうか?」 少し息を弾ませながら微笑む羊――――ガズアルことアルがそこには立っていた。 噴水に腰掛けていた私はアルを見上げる形になる。 「・・・どうしたの?」 立ち上がる気配の無い私を怪訝そうに見つめるアル。 「・・・いや、もう夏なんだなぁ、って」 照りつける太陽がまぶしくて、目を細める。 「・・・うん。もう私たちが冒険を始めて1年も経つんだねぇ」 1年――――長いようで短かったこの1年を思い起こす。 「いろいろあったねぇ・・・」 そんな風に呟く私をじとりと見つめるアル。 「なにそれ、年寄り臭っ!」 その発言に私は苦笑を漏らす。 瞬間、アルが真面目な顔をしてつぶやく。 「これからも――――もっといろんなことがあるよ」 そうだね――――と心の中で返事をしながら私は言った。 「なにいってんだか。アルはいつも臭いんだからっ!」 言うと同時に噴水から飛び降りる。 ――――空を見上げる。 雲一つない晴天。 1年前の私たちを思い出す。 この晴天の下から始まった私たちの冒険を――――。 私が一番最初に足を踏み入れた街はマリンデザートだった。 私がこの世界に来るきっかけとなったエルとアルはなぜかコーラルビーチで待っていたため、この時点の私ではどうすることも出来なかった。 そんな中、いわゆる同期とでも言えばいいのか、マリンデザートで一人の男の子と出会った。 私はドラゴンで、彼は牛だった。 彼も同じように何故だかマリンデザートに飛ばされた類らしく、右往左往しているところを偶然見つけた。 そんな彼と私が仲良くなるのに時間はそれほどかからなかった。 それ以来、彼とは一緒にパーティーを組んで冒険へ出かけることが多くなった。 といっても同じ時期に一緒に始めて一緒にレベル上げをする男の子は他にもいたし、彼はその仲良しグループの一人だったにすぎない。 けれども私にとって、彼との距離感はその他の男の子とは常に少し違っていた。 どっちかというと彼は無口なほうで、一緒にパーティーを組んでいることは多かったわりにそんなに喋った記憶が無い。 他の男の子と馬鹿なことを言い合っている間、彼はただ静かに微笑んでいることが多かった。 それでも隣にいると妙に緊張して、私は会話の糸口や距離の取り方に戸惑っていた。 それでも何故か近くにいたくて、イベントの時等には無意識に彼の姿を捜していた。 それはまだレベルの低かった私が誰にもばれないように隠し持っていた小さな秘密で、たとえば深夜の仲間内での会合とかで、女の子のあいだで好きな男の子を告白しあうような場面で、他の男の子の名前を出すことはあっても彼について触れることは決してなかった。 数週間後――――レベルも二桁になってから数人で学園に遊びに行ったことがあった。 初めて歩く学園の中、うろうろするモンスターのレベルの高さにビクビクしながら探検している中、ふと気がつくと彼と二人きりになっていた。 皆とははぐれてしまったらしく、バラバラに分かれてしまった後ではみんなが何処に居るのかもわからない状態だった。 たしか1階のトイレかどこかだったと思う、暗くて狭い空間で、少し怖くなって私は彼の服の袖を掴んだ。 そのままお互い固まったきりひと言も喋らなかった。 この時、何故かマロ達は近寄って来ず、私たちを生暖かく見守っていたように感じた。 緊張した時間がしばらく流れて、みんなの姿がトイレに入ってきたときは、ほっとしたような、少し残念なような気分だった。 この後マロに突撃して屍祭りを開催したのは言うまでもないことだった。 レベルが50を越える辺りまで、そんな関係が続いた。 冒険に出かける時間が会わなくなったのか、狩りをする場所が変わってしまったのか、彼とパーティーを組むことはほとんどなくなった。 アステカの帰りにカバリア遺跡で何度かばったり一緒になったことがあった。 私も彼も昼間に冒険に出かけることが多々あったので、午後三時台のまだ人が疎らな時間。 「新しい服買ったんだ。似合うじゃん」 「おう」 なんて短い会話を交わしたあとは、噴水を挟んで両側に立ったきりこれといって喋らなくなる。 新しくパーティーを組むことが多くなった女の子を待っている間の数分間がひどく居心地が悪く、一方でこのままずっと一緒にここにいたい気もした。 レベルが80を超え、新しいキャラクターに成りすまして冒険に出かけるようになった後、彼と会うことは無くなった。 そんな彼のことを思い出し、空を見上げる。 あの時と同じような晴天。 もし今になって彼と再開することがあったとしたら、低レベル時代のあの午後の気怠い日が射すカバリア遺跡の噴水前での数分間と同じように、会話のはずまない居心地の悪さと、くすぐったいような緊張感が同居する感覚を、きっと未だに味わうことになるのだろうと思う。 そんなことを考える私自身にまたも苦笑をする。 空を見上げていた私の気が済むまで待っていてくれたのだろうか? アルは何も言わずに空を見上げていた。 「もういいかな?かな?」 「うん――――ありがとう」 今日も新しい冒険を求めて、その一歩目を踏み出す。 「さて――――エルが学園で待ち惚けてるから早く行こうかっ」 アルの手を掴んで走り出す。 「うんっ。あの馬鹿どうでもいいんだけどね」 とかいって・・・本当は仲がいいのはもう皆にばれてるのに。 走りながら、もう一度だけ空を見上げる。 雲一つ無い空に浮かぶ太陽。 ――――彼は、今もどこかでこの太陽を見上げているのだろうか? 初めて出会ったあの日と同じ、この太陽を・・・。 彼との記憶――――。 それは少し気恥ずかしい、私の――――たぶんカバリア島での初恋の話。 はいはい、ふぃくしょんですので本気にされた方は忘れてください、今すぐに。 もう戻ってください・・・。 ブラウザの戻るで戻ってよぉぉぉ!!(つд;;)