Story 酔いman 氏
「City」
Lyrics 酔いman 氏
薔薇乙女たちメンバーが通う学校の敷地内の外れに小さなプレハブ小屋
が建っている。このプレハブ小屋には園芸部部室と書かれた表札をマジック
のバツ印で消し、表札の上に音楽研究部部室・by薔薇乙女楽屋と書かれた
紙が張られていた。そのプレハブ小屋から金糸雀の声が響く。
「みんな知恵をしぼって頑張るかしらァ~」そう言いながら壁に掛けられた
ホワイトボードを指差しながら椅子に座るメンバーを見て軽く
「はぁ~」とため息をもらす。指差すホワイトボードには1人1曲
と大きく書かれている。約2週間前にライブハウス「トロイメント」で開かれ
たイベントで見事NO・1の座になった薔薇乙女、これからのライブは全て
オリジナルの曲で行こうと決め、そのために1人1曲という課題が出来た。
「う~、ヒナ、何も思いつかないの~」と
ノートを前に雛苺は頬杖をついて
いる。真紅も同様に思い浮かばないが平然と紅茶を口に運ぶ。蒼星石は何
やら思いついたのか書いては消してを繰り返す。翠星石にいたっては脱線し
マンガを書き出して一人ゲラゲラと笑っている。
「私ぃ、先に帰るわぁ~、何も浮かばなぁい。家で考えるから」と席を立ち
水銀燈はプレハブ小屋から出て行った。
その夜、水銀燈は唄・詞をボンヤリ考えながら窓から見えるビルを見ていた。
月の灯りが照らすビルの輪郭(確かあのビルの屋上には行けたっけ)と
思い水銀燈はギターケースを持ち部屋から出て行った。
そのビルは昼間は小さな事務所や雑貨店が入りそれなりの往来があるが夜
になると静まり返る。ビル裏手の金網を乗り越え非常階段をヤクルトを呑み
ながら8階屋上まで行く。少し錆びたドアノブを回し屋上にでる。
屋上を取り囲むフェンス越しに夜の街明かりが見え頭上には満月に近い月
が水銀燈を照らしている。スゥ~っと息を吸い込み次ぎに静かに声を出す。
「ここなら何か出来そうだわぁ」そう言うとケースからアーニーボール
ミュージックマンEVHモデルのギターを取り出すと小さなベンチに座り
軽く音を出しながらメロディーと詞を探す。その時、不意に後ろから声が
かかった。「あれ、誰かと思ったら可愛い女の子ね」その声に驚き振り返る
と水銀燈より3~4歳ほど年上の女性が二コリと笑い立っていた。
(で、出たァ?)誰も居ない夜の屋上で突如、背後からの女の声、水銀燈は
少し涙目になった。
「アっ、違うよ。私は普通の・・別にお化けじゃないよ」
とそんな水銀燈を見て女は笑いながら誤解を解く。まだ体の震えが止まらない
水銀燈が聞く。
「貴女だぁれ?」
女は涙目でかすかに震えている水銀燈を見ながら笑顔で答える。
「柿崎めぐ、私の名前よ」そう言いながらメグは水銀燈の横に座り
「さぁ、次はアナタの自己紹介よ」と水銀燈のギターを見ながら言う。
「わ、私は水銀燈・・貴女は何故こんな所にいるのォ?」
「あら、それは私の質問よ、水銀燈ちゃん・・そのギター高そうね」
「コレは私のじゃないのよぉ、これはマスターのギターよ」
「マスターって、誰?」水銀燈はバンドのこと、今回の唄・詞のこと
部屋から見えたビルで曲を作ろうとしたこと、このギターはバンドの
仲間達とよく行く楽器屋N‘sフィールドのマスターと呼ばれる男から
3ヶ月前に借りたまま気に入って返す気がない事を言い2人で笑った。
「さぁ、次はメグの番よぉ、こんな所で何してるのぉ?」と聞く水銀燈。
「私はね、こう見えても女優のタマゴなのよ」と今まで突然で気付かなかったが
メグはA4サイズのノートらしき物を持っていた。それを水銀燈に見せる。
それはドラマの台本であった。
「えっ、メグって芸能人なのぉ、もしかして有名な人ぉ?」と驚き聞くと
「だから、タマゴよ、タマゴ!」と笑いながらメグは答えた。
メグは昼間はこのビルの3階にあるメイメイというファンシーショップで
バイトをしながら女優を目指している。この屋上にはよく来てオーディション
を受けるための演技の練習をしている。そんな時にドアが開き隠れて見ていた
ら水銀燈がギターを持って現れたとのイキサツを言うと水銀燈は少し笑顔で言う。
「私はメグを幽霊かと思ったわぁ」暫らく2人は笑っていた。
ウフフフ、本当にメグはおバカさんねぇ」口に手をあて笑う水銀燈。
「あら、水銀燈もイカレてるわよ、一人でこんな時間にギターを持ってくる
なんて」水銀燈の笑顔を覗き込むようにしてメグも笑いながら言い、そして
ささやく。「ねぇ、水銀燈」突如メグの口調が変わりこう続けた。
「水銀燈は音楽、ロックバンドをヤッてるんでしょ?どう、この場所で何か
掴めたかしら?」突然の質問に戸惑い「なぁんにも、メロディーが浮かばなぁい」
とだけ言う。するとメグは目を閉じ静かに立ちあがり両手を耳にもって行きしばらく
何か遠くから聞こえる音を探すようにし、こう言った。
「水銀燈もヤッてみて、街の音がしだいに音楽に変わっていくかもよ?」
「メグって本当にイカれてるわぁ、そんなので曲なんて生まれなぁい」
そうは言ってはみたもののやがて水銀燈も目を閉じメグと同じように街の
音を聞き、そしてメロディーを探し始めているとメグが独り言のように
話を始めた。
「水銀燈、本当はね、私ここで演技の練習もしてるけど大体は街の音を
聞きながら泣いてる時もあるの・・でもこうして街の音を聞いてると独り
じゃないって思えて来てね、なんだか頑張ろうって思えるのよ」
メグの言葉を静かに聞いていた水銀燈はギターを手にして言う。
「そういう時はぁ、唄って踊る!それにかぎるわぁ」そう言い歌い出した。
It’s there in the eyes of the children・・・・dance into the light
Everybody dance into the light!!
ギターを手にし歌う水銀燈、それに合わせステップを踏むメグ。満月に近い月の
淡い灯りが二人を優しく包む。その月明りの中で2人は時間を忘れ歌い踊った。
そのとき静まり返ったビル街を一人の少女が歩いていた。不意に何処からか
遠く消えそうな感じで聞こえる歌声に足を止めて歌声を探しながら呟く。
「あっ、フィル・コリンズの曲だ・・」その少女は変わったファッションで
片目に薔薇の眼帯を付けていた。やがてその少女は歌がどこから聞こえてくるのか
探し出せなかったのか歩き出した。ただ今聞こえた曲を口ずさみながら。
その少女と薔薇乙女たちが出会うのは約1年後の事であるのは、歌って
いる水銀燈、そしてビル街に消えた少女は知らない。
「えっ、もう帰るの水銀燈?」放課後はいつものように元園芸部、現薔薇乙女
の楽屋(タマリ場)と化してるプレハブ小屋をでる水銀燈に蒼星石が声をかける。
「もう最近は夜寝てないからぁ、今日は帰るわぁ」と後ろ向きに手を振りながら
水銀燈はプレハブ小屋から出て行った。出て行く姿を目で追っていた真紅は少し
不機嫌に紅茶の入ったカップをテーブルに置き、口を開く。
「最近の水銀燈は何か変なのだわ。昼間は寝てばかり、練習後もすぐに
帰っていく・・」雛苺にヘッドロックをかけながら翠星石が答える。
「昼寝は昔からですよッ」翠星石の腕からスルリと抜けバックを取った雛苺が
翠星石の言葉に続く。「うぅ、解らないの~、でも・・」バックに回った雛苺に
対し翠星石は体制を低くし雛苺の右足を取ろうとしながら言う。
「た、確かに変ではありますが・・気にすることでもないですぅ」右足を取ろうと伸びた翠星石の腕を雛苺はサッと取りそのまま腕を絡ませ、一気にアームロックの体制に持って行った時に金糸雀の言葉で2人とも止った。
「水銀燈には男の影が見えるのかしらァ~」
水銀燈に男疑惑が出たその夜も2人は月明かりの中にいた。
ここ4日ほど毎晩のように水銀燈はビルの屋上でメグの演技を見て感想
を言い、メグは水銀燈の曲作りを手伝ったりしている。
「やっぱり水銀燈は激しい曲がイイの?」と聞くメグ。
「当たり前よぉ」と言いたいがメグと一緒にいると何故かスローな曲でも
イイと思う自分がいた。
「別にぃ、泣きたいくらい暗い曲でもイイけどぉ、でも少しくらいは弾けた
感じがいいわぁ」とメグと一緒に遠くにキラメク街の灯りを見ながら言う。
「あのね水銀燈。私、音楽のことは解らないけどたぶん演技と同じで日常の
中に普通にある物事を自然と出せたらイイのかな?って思うんだけど」そう
言いながら今いった言葉は自分自身にも言い聞かせている言葉と気付くメグ。
そして薄っすらと涙を浮かべはじめ、涙がメグの頬を伝う。
「どぉしたのメグぅ、ねえ、どうしたのぉ?」泣き出したメグに驚き
水銀燈はメグの手を取り聞く。メグは水銀燈の手の温もりを感じながら
言葉を出す。
「私、明日のオーディションが怖いの・・今まで何回もオーディション
落ちててね、さっき水銀燈に言った言葉は私自身にも言える言葉なのよ」
そう言いながらメグは涙を拭い話を続けた。
「初めて水銀燈とこの屋上で会ったときね、いろいろ悩みとかあって考えこん
じゃってたの。いっそ、そのフェンスを乗り越えてポ~ンと飛んじゃおうかって」
メグは涙を溜めた目で水銀燈を見つめながら涙声まじりの笑顔で話しを続ける。
「そんな時に水銀燈がいきなり現れたのよ、ギターを持ってね。その銀色の髪が
月の灯かりにキラキラ見えたわ」と水銀燈の髪を優しくなで、話を続ける。
「始めは水銀燈が帰るのを待とうって思ったけど、知らない間に話しかけていたわ。
私、寂しかったし水銀燈も同じような少し寂しい、考えるような目をしてたから」
「えぇ~、私そんな目してたぁ~?」と水銀燈は少し首をかしげながら聞く。
「うん、してたよ。でも今はそんな目じゃないよ、水銀燈。」
「ウフフフ、メグも今はそんな寂しくてぇ、考えるような目はしてないわぁ」と
肯くように水銀燈はメグに言う。メグは小さな声で「ありがとう」と言い、しば
らくうつむく、数秒、いや10数秒間か、静かな短い時間が流れた。メグは顔を
上げると笑顔でこう言った。
「水銀燈もメジャーを目指してるんでしょ?だったら競争よ」
「そんなのズルぅイ~、明日オーディションがあるメグのほうが有利じゃない?」
「じゃぁ、水銀燈。オーディションに受かったら私になにか曲を作ってよ」
「それならイイわぁ。ねえぇ、オーディションの結果はいつ解るのォ?」
「来週の今日よ・・その日にまたこの時間にここで会いましょ水銀燈。」
「いいわぁ、約束よメグ」2人は笑顔で握手し別れた。
「恋が人格を変えたですぅ~」 「相手はどんな人かしら~?」 「私が思うに相手は
年上、それも不倫なのだわ」 「僕は違うと思うけど~」 「う~、ヒナ解らないの~」
メグとの約束の日は明日、水銀燈は約束の曲をここ1週間考えつづけていた。
「ウルサイわねぇ、なに後ろでコソコソ言ってるのォ、メロディーが浮かばなぁい!」
一瞬ビクッとなる真紅たち。
「す、水銀燈・・何か悩みがあるなら聞くわよ、その大人の悩みでも・・」と少し言葉が
小さくなりながら真紅が言う。
「大人ぁ?ワケ解らなぁい。私は明日までに曲を・・」水銀燈の言葉をさえぎるように
昨日からの雨が突然カミナリを伴った大雨に変わった・・そして次の日。
「大型の台風19号はいぜん勢力を保ちながら北上し今夜にも首都圏は暴雨風圏内に・・」
TVのニュースキャスターが緊張した面持ちで伝える。水銀燈は窓からビルを見ようと
するが強風に舞う大粒の雨が視界をさえぎる。時計の針は午後9時を少しまわっている。
(もうすぐメグとの約束の時間・・)そう考えていると携帯電話から着信メロディーの
Queenのwe will rock youが流れる。
「もしもし、水銀燈?私、メグ・・ダメだったよ、今回も。」受話器越しに
雨音交じりのメグの声が聞こえる。
「メグ、いま何処にいるのぉ?ねぇ、大丈夫なのォ?」と聞くといつもと変わら
ないトーンでメグは言う。
「私は大丈夫よ、それよりお別れの電話なの・・水銀燈・・」
メグは地方から親の反対を押し切り2年間の期限付きで上京していた。
今回のオーディションが期限最後のチャンスだった。
「私ね水銀燈・・明日にはこの街を出て行くけど忘れないわ。水銀燈と
出会えたこと、そしてあのビルから見る街の灯り、街の音、街の声、そして
あの日ギターで歌ってくれた水銀燈の歌声・・ねえ、泣いてるの?水銀燈。」
「グスッ・・な、泣いてなんかないわよぉ」水銀燈は鼻の奥がツンッとし、
目の前の時計の針がボヤケて何時を指しているのかよく確認できない。
メグの話は続く。
「そうよね、水銀燈は強い子だもんね。今日はこんな天気で会えないけど今度こそ約束
しましょ。私はきっとこの街に帰ってくるわ。そして夢を掴むの。
その時まで曲はおあずけよ、水銀燈。これは絶対の約束・・」メグは言いながら
徐々に涙声になっていった。
「約束よぉ絶対の約束よメグぅ」 「うん、約束よ水銀燈。」
激しさを増した雨音が2人の会話を消していく・・・・。
首都圏を直撃した台風が去り、ちぎれた雲が足早に通り過ぎていく。
微かに残っていた夏の残り香もはるか彼方に吹き飛ばし街を秋の気配が
包む。そんな午後に薔薇乙女たちは午後の授業をサボり行きつけの楽器屋で
あるN‘sフィールドに向かい歩いていた。
「昨日のカミナリは凄かったですぅ」やけに軽い鞄を振り回しながら言う。
「ヒナね、怖くてふとんをかぶってたの~、水銀燈はどうだった?」
「・・・・・」みんなの声が耳に入らない水銀燈。それを見た真紅が言う。
「シ~ッ・・私が思うに昨夜たぶん水銀燈は不倫を断ち切ったのだわ」と小声で
メンバーにささやく。「やはり不倫だったのかしら~」 「そうかなぁ?」
「水銀燈、大人なのぉ~」 「ふ、不純ですぅ」 交差点の信号が赤に変わる。
足を止め後ろでヒソヒソ話をしているメンバーの声交じりに色んな音が水銀燈の
耳に入る。人々の歩く音、腕を組み歩いていく恋人達の会話、車のクラクション、
遠くで聞こえる救急車のサイレン、目の前を横切るバイクの爆音・・・。
それがしだいに水銀燈の脳裏に入り広がっていく。
「メグ・・」水銀燈はあの日にメグがしていたように両手を耳に添えて遠くの
何かを聞くようにし街の音を集める。渋滞だらけの道、歩道橋、急ぐ人波、
ビルの間を風が吹き抜ける。
「ゴメン、今日はこのまま帰るわぁ」というと水銀燈はそんな自分の姿を
マジマジと見ているメンバーに手を振り足早に人込みに消えて行った。
「みんな見たですかッ、あの水銀燈の行動。これは重症ですよッ。これは
ブロークンハートなのですぅ」 「そうねしばらくソッとしておくのがイイのだわ」 「これからは、この
話は禁句にするかしら~」 「うん、それがベターだと思うよ。」 「そうなの~」
その夜、水銀燈はギターを手にし、あのビルの屋上にいた。そして街の音を集める。
「The City」
Lyrics&Music:水銀燈
満員電車 渋滞だらけの街並み くぐり抜けて
高層ビル 独り見下ろす雑踏は 大きな箱庭
悲しみを知りすぎた この街 乾いた風につつまれて
喜び与えすぎた この街 いつわりの恋にみたされて
Tokyo 私は夢見 望み願う この街が好きだから
Tokyo 私は夢求め 歩き出す この街が好きだから
歩道橋 階段で見上げる 空のかなた
交差点 うなだれて行き交う 人の波
懐かしさ 跡形のなく 消えていく この通り
ビルの谷間 吹き抜ける 風はいつも セピア色
Tokyo 私は夢見 抱きしめる この街が好きだから
Tokyo 私は夢求め さまよう この街が好きだから
Tokyo 私は愛してるよ これからも この街で胸をはってこの街で生きていくから
Tokyo 私に夢を見させて そして与えて 胸をはってこの街で生きていくから
薔薇乙女時代に作ったこの曲は数年後TVドラマの主題化になる。
そのドラマは新人女優を主役に抜擢し異例の高視聴率を稼ぎ出した。
「私たちの曲にあのドラマはマッチしてるのだわ」と満足気に真紅は言う。
「そうだね、あの高崎ユミはイイ演技するね、翠星石なんか毎週見てるよ」
「昨日の話は泣けたですぅ~。所で水銀燈も見てるですか?」と聞くと
「まぁね、薔薇の時に自分が作った曲が使われてるからねぇ~」と水銀燈も
満足気に言う。
「曲もイイですけど主役の高崎ユミは本当にイイ演技ですぅ」改めて翠星石が言う。
「ウフフフ、解ってるじゃない翠星石ぃ~」と水銀燈は軽く笑った後に小さく。
「メグ、約束は守ったわぁ」と呟いた。高崎ユミ・・本名は柿崎めぐというのは
ローゼンメイデンのなかで水銀燈しかしらない。
~ローゼンメイデン前夜・水銀燈編 雑踏の唄~ 完
最終更新:2006年04月13日 00:00