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~17時03分 翠星石および蒼星石自宅~

「ただい「遅おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!ですッ!!!」
ま、まで言えなかった。
自宅のドアを開けた蒼星石を待ち構えていたのは、涙目で眉を吊り上げるという難易度の高い表情で玄関マットの上に仁王立ちしている翠星石だった。
「一体全体どこほっつき歩いてたですか!?携帯は家に置きっぱなしだし
その辺探してもどこにもいないし翠星石がどれだけ心配したと思ってるです!!この姉不孝もの!!!」
翠星石は蒼星石の肩につかみかかると、こちらが何か言う間も与えず一気にまくしたてた。
「あ・・・」
しまった。色々あったせいで翠星石のことをすっかり忘れていた。電話の一本でも入れておくべきだったのだ。
(携帯に関しては持つ間もなく翠星石に放り出されたわけだが)


「ごめん、翠星石・・・心配かけて」
「・・・ッ~~~~」
しばらくじっとこちらを睨んでいた翠星石だったが、蒼星石が素直に謝ると、やがて肩をつかんでいた手を離し、ゆっくりと首の後ろへ腕をまわして蒼星石を抱き寄せた。
「心配・・・したですよ・・・」
「うん・・・ごめん・・・」
「連絡くらい入れるです・・・」
「うん・・・うっかりしてた・・・悪かったよ・・・」
蒼星石はそっと姉の背中をなでてやる。
2人しかいない姉妹なのだ。お互いのことは大事に決まっている。
だというのに、わずかでも姉に不安を与えてしまったことを反省する。
(くどいようだがそうなった元凶が翠星石にあることなど思考の片隅にものぼらないのは姉妹愛のなせるワザとしか言い用が無い)

さてそのまま約3分が経過したころ、
「あのー、お2人さん?」
「い!?」
突然の声に驚いて顔を上げた翠星石の前に、空きっぱなしの扉の影から金糸雀が姿を現した。
「か、金糸雀?お、おまえ何でこ、こここここにいるですか!?」
「その前にー、蒼星石も人をほったらかして姉妹で盛り上がるのはやめてほしーかしら。
冷やかすのも違う気がするし、どー反応していーやら困るかしら」
「あ、あはは・・・ごめんね、金糸雀・・・」
半眼でこちらを見やる金糸雀に、蒼星石が首を回して応答する。
「も、盛り上がるとか、ひや冷やかすとか、何を言ってるで・・・」
完全に動揺してしまっている翠星石に、蒼星石が穏やかに進言する。
「翠星石・・・あの・・・そろそろ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・離れた方が」
「え?」

言われてようやく、翠星石は自分が蒼星石に抱きついたままの姿勢で固まっていたことに気がついた。
「ひ、ひぎぃ!あ、くぁ、こ、これは、その、あの、だから、つまり・・・」
全て見られていたという事実が翠星石から冷静な判断力を失わせる。
羞恥心と困惑が同時に精神をさいなみ、見る見るうちに血圧を上昇させた。真っ赤。
ミラレタ。ダキツイテルトコロヲミラレタ。ドウシヨウ。ハズカシイ。カナリアニ。ダキツイテ。ミラレタ、ミラレテ、ミラレタミラレタミラレタミラレタミラレ――

ぎしり。

「いっ!?」
蒼星石の首あたりから異音があがった。

「あ、あの、これは、だから、そ、そう!蒼星石!!し、心配かけやがってです~~!!
そんな妹はこうしちゃるですぅ~~~~~~~!!」
ぎりぎりぎり。
「す、翠星・・・石・・・くる、くるじ・・・」
翠星石は錯乱の末、蒼星石に抱きついた姿勢のままその首を締め付けはじめた。
抱きついた姿勢はこのように首を絞めるためである、とても合理的である、と言わんばかりに。
見事な逆スリーパーホールドであった。
「は、反省するです!後悔するです!!
翠星石は蒼星石をそんな子に育てた覚えはないのですぅ~~~~~~~~!!!」

ぎぎぎぎぎぎぎぎぎりりりり。
「ギブ、ギブ、し・・・しんぱん・・・ロープ、ロー、プ・・・」
蒼星石が翠星石の腕をしきりにタッチしている。が翠星石はおかまいなしに締め付けを強くしていく。
全く気づいていないようだ。
「翠星石・・・」
しだいに空間そのものが軋りをあげているかのような擬音が辺りに充満してきたところで、金糸雀が声をかけた。
「な、何ですか!?翠星石も時にはこのように厳しくなるのですよ!?」
「・・・蒼星石が死んじゃうかしら」
「え」

言われて初めて、翠星石は妹の状態を視認した。すでに両腕は力なくたれさがり、がくりと首をうなだれさせている。
なんとなくネジが切れた人形のように見えないこともない。
「ひぃやぁあ!!蒼星石!!しっかりするです!生きる方が闘いなのですよ!!蒼星石ぃぃぃ!!!」
「翠星石と闘う人生よりあの世の方がまだ楽かもしれないかしら・・・」
「蒼星石ぃぃぃぃぃ!!!」
堕ちていく意識の中で、姉の呼ぶ声と金糸雀の嘆息を耳にしながら蒼星石は思った。

(もうやだこのパターン・・・)

~17時14分 同リビングルーム~

「・・・で、金糸雀」
「ふぇ?」
「何でここにいるですか?」
 ・・・もっともな疑問かしら。
玄関で気絶した蒼星石を2人がかりでリビングに運びこみ、
ソファに寝かせて濡れタオルを額に乗せてしばらくのち、翠星石の問いである。
「えーと、これには四季折々、いや悲喜こもごもの事情があるかしら・・・」
「早速うさん臭いですね・・・」
と言われても実際金糸雀は説明に困っていた。

ここに来るまでの事情をそのまま伝えることはできなかった。
なんせその過程には翠星石のことも大いに関わっているのだ。
それに金糸雀とて蒼星石に言われるままついて来ただけで、その真意は図りかねていた。
ここは何かもっともらしい理由をでっちあげる必要がある。
もっともらしい理由・・・。
金糸雀は頭脳をフル回転させた。最も『それらしい』理由を脳内で構成、設定、検証する。
巧妙に事実を隠ぺいし、確実にに相手の信用を得るためのシナリオ・・・これだ!!
その内容に金糸雀大審院のメンバー全員が親指を立てた。ゴーサイン。シグナルオールグリーン。
よし、いける。金糸雀は絶対の自信とともに、覚悟を決めて、言った。

「じ、実は金糸雀は蒼星石を守るために未来からやって来「嘘つけです」
「・・・・・」
「・・・・・」
この世に絶対なんてない、そんなフレーズが金糸雀の脳内で反響していた。
両者沈黙。絶対零度の視線が金糸雀を刺す。痛い。
「ほ、本当かしら!人類の未来に絶望した独身男たちの組織MMGD(もう無理限界団)の魔の手が蒼星石を狙っているのかしらー!!」
「・・・・・」
それでもなお食い下がる金糸雀に、翠星石は一貫して地上最低気温をマークする色違いの両目から視線を送り続ける。

「蒼星石は将来この国で一夫多妻制を認める法案の成立に関わるのかしら。
本格的にイケメンと金持ちが女性を独占するようになった未来では、
その事実を消滅させるために非モテの男たちが蒼星石を亡き者にしようと・・・」
「・・・・・」
「や、奴らはついに本格的な活動を開始したかしらー!
このままじゃ蒼星石は命が危ないどころか女日照りの奴らに頭の飛んだ同人作家ですら
二次元でも描写をためらうような仕打ちをぐりぐりと!もぐもぐと!」
「・・・・・・・・・・・・」
「な、何かしらその目はー!!信じてない!信じてないかしらー!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「くあぁぁぁぁぁ!可哀想な人を見る目で見ないで欲しいかしらーーーッ!!」
「僕が説明するよ・・・」
「「!!」」

(おもに金糸雀が)どうしようもない空気の中、ついに救いの手が差し伸べられた。
気絶していた蒼星石がソファの上で上体を起こし、こちらを見る。
「気がついたですか、蒼星石!・・・あの、もう大丈夫ですか?」
「ああ、うん。なんだか前後の記憶があいまいだけど」
「それって大丈夫って言うのかしら・・・」
ともあれ金糸雀はほっと胸をなでおろした。これで安心だ。
蒼星石ならうまく翠星石を納得させてくれるだろう。と言うより蒼星石の言うことなら信じてくれるはずだ。
「翠星石、金糸雀は今日外で食事をしようとしてたんだ。みっちゃんさんの帰りが遅くなるんだって。
そこをたまたま僕が見つけて、せっかくだからうちで食べたらどうかなと思って」
「め・・・迷惑だったかしら?」
蒼星石に追従するかたちで恐る恐る訊ねる金糸雀。

「・・・・・・ふ~~~む・・・・・・」
『事情』を聴いて、翠星石はしばらくの間何やら腕組みして考えていたが、
「ま、蒼星石がそう言うならしゃーねーです」
以外にあっさりとOKが出た。
「あ・・・ありがとうかしら、翠星石・・・」
よかった。さすが蒼星石である。「んなこた翠星石の知ったこっちゃねーです」とか言われて追い出される可能性も考えてはいたのだが、やはり蒼星石の言うことは素直に(?)聞き入れる様子だ。
ひょっとしたら最初に金糸雀が言った未来云々の話も蒼星石の口からであれば信じたかもしれない。
今度頼んで試してみようかしら。

「そのかわり」
「ふぇ?」
金糸雀の思考を遮って翠星石は言った。
その顔にとても爽やかな笑みを浮かべて、金糸雀の肩に手を置き、
「準備は手伝うですよ。・・・翠星石の代わりに」


最終更新:2006年07月12日 16:23