ローゼンメイデンが薔薇乙女の頃の話。
薔薇乙女は地道なライブ活動とストイックな練習の効果で薔薇乙女の人気は日を追うごとに上昇していった。CDもインディーズながらトップ3に入るほどの売り上げだった。
またそのルックスと演奏能力の高さから、地元で公演するメジャーバンドの前座の依頼を受けることもしばしばだった。
そんなある日。
「たたた大変なのかしらー、特に真紅ぅぅぅぅ!!!!」
金糸雀がいつも以上にあわてた様子でスタジオに乱入してきた。他のメンバーはいつものことという感じで演奏をやめた。
「どうしたの、金糸雀。私がどうかしたの?」
「えっと、その、あwせdrftgyふじこかしら~」
「ちょっと、落ち着いてってば金糸雀。ほら深呼吸して」
蒼星石が酸欠気味の金糸雀に深呼吸させる。
「すーはーすーはーかしら~。…ふぅ、実はさっき前座の依頼がきたのかしらー」
「……すごいけど普通じゃなぁい。エアロスミスでも来るっていうのぉ?」
「それが……あのKUNKUNなのかしら~」
「え」
「え」
「えぇ」
「ぅえええええええええええええぇぇぇぇええあwせdrftgyふじこ」
本日2回目のあwせ(ry…は意外にも真紅だった。
「ホントにあのKUNKUNなのぉ?KANのまちがいじゃ…」
絶叫の後、絶句したきりの真紅に代わって水銀燈が聞いた。心なしか、彼女も興奮気味である。
「間違いないなのかしら~。だって本人の生声も聴いちゃったのかしら~♪」
「ほ、ほんとに、本当に…KUNKUNが来るの…?」
半ば放心状態の真紅が恐る恐る確かめるように言った。
ここで真紅のキャラを変貌させたKUNKUNとは何者か書かねばならない。
KUNKUNとは伝説となったロックバンド『トロイメント』のボーカル、ギター、フロントマンで、解散後もソロとしてシングル、
アルバムとも爆発的なセールスを記録、そのスターでありながら優しくもどこかすっとぼけた犬のようなルックスと、計り知れない才気からアーティスト、プロデューサー業から、テレビ、映画にも数多く出演した(蒼星石曰く「そんなのロッカーじゃないよ」←その後真紅にキレられる)ロックスターである。
ここで重要なのは真紅がKUNKUNの『熱狂的なファン』であることである。
どのくらいファンかといえば水銀燈でさえ「真紅の前ではKUNKUNの話題禁止」を守っているほどである。(一度KUNKUNの話題を振ればゆうに5時間はしゃべってしまうため)
どのような経緯があったかは不明だが、それこそ地元の人気ならすでにダントツだった薔薇乙女が出ること自体は自然な流れのようだった。
「でも、僕らじゃ少し荷が重くない?」
「確かに…今までの有名かどうかよくわかんねぇバンドとは格がちげぇですよ」
「確かにアウェーではあるわね。でもせっかくのチャンスだし、やらなきゃ損だわぁ。ねぇ真k「いいい今すぐOKするのだわ金糸雀!!!KUNKUNの前座…KUNKUNと一緒、はわわぁ//////」
「し…真紅…?」
「キャラが、違うですぅ……」
「わーなんかワニ見つけたときの翠星石みたいなの~」「何いってるですかバカ苺!!!」
真紅の普段とは想像もつかない異常な振る舞いに、とまどいつつも蒼星石がなんとか話そうとした。
「お、落ち着いて真紅。そりゃぁ憧れの人の前座に抜擢されて嬉しいのはわかるよ。でも、その分プレッシャーも凄いだろうし彼ほどのアーティストだったら会えない可能性の方が高いだろうしそれに……わかった、わかったから、お願いだから落ち着いてってば」
「…何を言っても無駄みたいね…」
異様なテンションの真紅には水銀燈さえもサジを投げてしまう。無敵状態の真紅に押され、結局金糸雀は二つ返事で申し出を受けたのだった。
しかし、である。
テンション高い時にやったことは、大抵しらふになってから後悔する。その差が激しい人ならなおさらだ。
真紅もその例に漏れなかった。次の日には金糸雀になんとか断れないかと半泣きで無茶なことを言い出したのだった。
「金糸雀ぁ、一生のお願いだから昨日の取り消してぇ……」
「え、あの、それは流石に……無理なのかしら~」
Illust 845 氏
結果、薔薇乙女の面々は真紅が金糸雀にすがりついてお願いするという、多分これ以降絶対見ることのない光景を目にしたのだった。
「ちょっと真紅、自分の言ったことには責任取りなさい。乳酸菌とらないからこんなことになるのよ」
「(関係ないと思うけど…)もう決めちゃったことだから…あきらめて練習しないと」
「サイン色紙買ってきたの~。ライブの時一緒にサインもらおうなの~」
「ううぅ……」
真紅はまるで全ての希望に見捨てられたようにガックリとうつむくのだった。
果たしてライブは成功するのだろうか?
*
「ちょっと真紅ぅ、その声じゃ盛り下がること請け合いじゃない」
水銀燈が言った。
現在薔薇乙女は、数週間後に控えるKUNKUNの前座のライブの練習を行きつけのスタジオで行っていた。
情緒不安定気味な真紅の状態からボーカルは雛苺に任せてもらうという意見もあったが、雛苺は真紅ほど場数を踏んでないことと、当時のオリジナル曲のほとんどが真紅メインの曲だったため一番安全パイな真紅&雛苺のツインボーカルということで落ち着いた。
まだまだライブはだいぶ先なのにも関わらず、真紅の声は始めてのライブのようなナーバスしきった声になっていた。当然ギターのミスも多い。
「真紅…ライブはまだ先だから落ち着いていこう、ね」
「う、うん……」
「そうですよ、あこがれのKUNKUNに自慢の歌声を見せ付けてやるですよ」
気を使ってか翠星石がオーバーぎみのアクションで真紅に言った。真紅はそれを受け取ってか
「そうね…よし、じゃあもう一回、気を取り直していくわよ~」
と、少しばかり元気を取り戻したようだった。
「なの~」
何も考えてない雛苺がノリを合わせた。
アマチュアとはいえ場数を踏んでる薔薇乙女、特に真紅はメインボーカルなだけはあって数テイク目にはいつもの声になったのだった。
「(一時はどうなるかと思ったけど…歌い出せばなんとかなりそうだね…)」
ところが世の中そうそううまくはいかない、というかそれじゃ読者的に面白くない。
ライブまで一週間を切るころ……
「ふぅ……」
真紅はその日、行きつけの喫茶店でいつもの熱い紅茶を飲んでいた。
日増しに増すプレッシャーと緊張の重圧だが、この瞬間はその全てから開放される。
「ちょっといいかな…ここ」
「ええ、どうぞ…って蒼星石じゃない。どうしてここに?」
顔を上げると目の前に蒼星石が斜めあたりに立っていた。この場所にいると言った覚えはないはずなのに。
「大体この時間真紅はここの喫茶店にいるからね。…少し話があるんだけど…」
「…わかってるわ、蒼星石。今の私のことでしょう」
「…正しくは、薔薇乙女全体の状態のことだけどね。みんな、表向きは元気そうだけど…」
重圧を受けているのは真紅だけではなかった。いくら場数を踏んでいるとはいえ、あくまでそれは地元のライブハウスでのことであって、人気のメジャーアーティストのファンの前、という凄まじいアウェーでは決してなかった。
そもそも客はKUNKUNを観に来たわけであって、前座の薔薇乙女なんて名前も知らない人がほとんどである。ましてライブハウスのようにノリが良いとは思えない。
そんな目に見えないプレッシャーをメンバー全員が感じていたのは言うまでもない。(雛苺という例外を除いては)
今の彼女達の演奏は最高を10とすれば4か5といった具合で停滞気味、つまりスランプに陥りつつあった。
そこでリーダーの蒼星石はメンバー一人一人と話し合ってみようと思い、今の行動に至ったのだった。
「真紅のせいじゃないよ。むしろ、みんな真紅のがんばりをみて奮起してる。でも…」
「やっぱり、ボーカルは雛苺に任せるべきかしら」
「雛苺は…確かに緊張知らずだけど、まだ経験不足だよ」
以前雛苺オンリーのボーカルでライブをした時、彼女は歌に力が入りすぎるとバックの演奏を全く無視してしまうことがわかっていた。
「だから、このまま変えないでいようと僕は思ってる、だから…」
「大丈夫、私なら平気だわ」
心配そうに自分を見る蒼星石に、真紅はふっと笑いかけた。
ホントにいい子だ。彼女がいるから薔薇乙女はあるのだろう、真紅はそう思った。
「心配しないで、ライブはきっと成功させてみせるわ。もちろん、薔薇乙女みんなの力でね」
その言葉に蒼星石の顔にも安堵の色が現れた。
しかし、蒼星石らの思いもむなしく、事態は最悪の方向へ向かってしまうのだった。
最終更新:2006年07月12日 12:03