「…つまり、ツアーに向けてのNewアルバムがまだ出来てないんですね?」
「そうなのよぉ、今まで勢いに乗って新しいことばっかりしてきたからぁ」
「気がついたらみんな同時にネタにつまっちまったですぅ…」
力無く笑う水銀燈&翠星石。
蒼星石は再びベースを相手に悪戦苦闘。
真紅は紙に何か書いてはグシャグシャに丸めて捨てている。
雛苺はとうとうどこかの黒魔術で使われてそうなナイフで机に逆ペンタグラムを描き、悪魔を呼び出そうとしている。
薔薇水晶は…珍しくツッコミだったのが祟ったらしい、眠りについている。
金糸雀に至っては、「みっちゃんと夕飯食べに行く約束かしら~」と言って逃げた。
「私も最近、作曲した曲に自信がないのよぉ」
そういって水銀燈はギターを構える。
素晴らしいテクニックで演奏してみせるも、確かに何かが足りない気はした。
「…私、最近の皆さんの作品を聞いてて思ったことがあるんです」
雪華綺晶の言葉に全員の手が止まった。
「…お姉様達、ローゼンメイデンらしさに拘りすぎてませんか?」
それは、「止まった時間が動き出したような感じだった」と後に執筆した自伝を蒼星石は語っている。
メジャーデビューして早一年を過ぎ、ローゼンメイデンにはローゼンメイデンらしい雰囲気が定着していた。
退廃的な真紅の歌詞に、雛苺の地獄の底から響く様なデス声。
翠星石のモンスターのようなツーバスドラム。
蒼星石のテクニカルなスラップ奏法。
水銀燈の速弾きを重視したギタープレイ。
シンフォニックさを追求した薔薇水晶のキーボード。
それらが、ローゼンメイデンであるために必要な要素だったように思う。
しかし、いつの間にか彼女たちはそれに拘りを持ちすぎていたようだ。
果たして、本当に自分たちの歌詞は退廃的で無ければならなかったか?
デス声を入れるタイミングは本当にいつもあそこで良かったのか?
ツーバスは速く踏まなきゃいけないと、誰がきめたのか?
ベースにはピック弾きだってある。実際に蒼星石は最初、ピック弾きだった。
ライトハンド奏法等より、ヘドバンに力を入れてもいいんじゃないだろうか?
「薔薇水晶はタンバリンだっていいじゃないか!!」
「…いや、最後のは駄目ですよ?蒼星石…」
「あっ、ゴメン…ちょっと疲れた頭で考えたから途中からおかしくなってた」
よほど疲れているらしい蒼星石…考えてたことをそのまま喋っていた。最後の問題発言はともかく、その発言は確かに的を得ていた。
思えば、新しいこと新しいことを模索しながら型にはまってしまっていたのかもしれない。
彼女たちは、少しそのことを恥じて雪華綺晶を見た。雪華綺晶は笑っていた。
「私もアイデアを考えてみます。頑張りましょう…お姉様」
その日、結局一日仕事でアイデアを出し合った。
話し合いの途中で、久しぶりに真紅と水銀燈が音楽性の違いから起こる言い争いが起こったりもしたが、何となく話がまとまってきた。
ヒッピーの聖地であるインドやロック大国イギリスなど、様々な国を巡り歩いた雪華綺晶の音楽性の広さは、確実に新たな戦力になっていた。
古いロックを愛する者同士で蒼星石と雪華綺晶は一気に仲良くなり、今回のアルバムにはサイケデリックやガレージロックの様な曲も多くなりそうだ。
さらに、実はオカルトが好きな雪華綺晶は雛苺ともどんどん仲良くなり、今回のアルバムは今までになく悪魔的な曲も多くなりそうだ。
「せっかくのツインギターなんだから、ソロは思いっきり弾いてぇ…」
「そうですね。じゃぁ、思い切ってボーカルに被せるというのは?」
「あっ、それいいわぁ!真紅の歌い終わりかき消すぐらいでぇ…」
「…二人とも、ちょっとこっちに来るのだわ」
「雛のデスヴォイスの出番は何処にあるのぉ~!!?」
「うるせぇですぅ雛苺!私だって今回そんなに出番がねぇです!!」
「まぁまぁ、二人とも…メタルっぽい曲もまた作るから…」
「…Zzz」
そんな感じで、新メンバー雪華綺晶を加えたローゼンメイデンは自らのスタイルを一新する、新たなアルバムを完成させた。
最近多くなっていたメタル系の曲がほとんどなく、サイケデリックやパンクスタイルの曲が増えていることが賛否両論のようだが、それでも楽曲の完成度は世間で十分すぎる評価を受けた。
また、水銀燈と雪華綺晶のツインギター構成によって、音の重みが変わった。
数少ないメタル系の曲では、素晴らしいツインリードギターをきめている。
「いや~、なんとかなってよかったかしら~。これもカナのおかげかしら~」
…彼女の株がメンバー内で思いっきり下がったのは…まぁ、当然だろう。
何はともあれ、こうして「新生」ローゼンメイデンは始動した。
全国ツアーに向けて…彼女たちはもう止まらない…
最終更新:2008年04月05日 00:06