「…きらきー姉さんは…私の姉」
事態が飲み込めず呆然としてるメンバーに、薔薇水晶が言った。
それを聞いて、水銀燈はあることを思い出した。
「そういえば、槐さんが言ってたわぁ…ばらしぃーには外国に住んでる姉がいるって」
中学校時代のほとんどを槐宅で過ごした水銀燈。彼女は雪華綺晶の事を薔薇水晶の父、槐に聞いたことがあった。
「きらきー姉さんは中学に入った頃に聴いたフランク・ザッパに憧れてギターを始めたの」
薔薇水晶が言うには、フランク・ザッパに憧れた雪華綺晶はしだいにロックレコードを漁るようになり、徐々にロックにのめり込んでいったという。
「…そして、ある日思い立ったように…」
「インドに行きました」
薔薇水晶が珍しく溜息をつくのと同時に、雪華綺晶がとんでもないことをあっさり言った。
「「い…インドォォ!!?」」
メンバーがハモって驚く。まだ中学生の子供がいきなりインドに行ったと聞いたら驚くに決まっている。
「はい、インドです」
槐の親バカぶり全開で、旅費だけもらった雪華綺晶はおんぼろギターだけを持ってインドに旅立ったという。
「最初はインドでインド音楽を学びつつ、弾き語りで生計をたててました」
インドに降り立った彼女は、そのギターの腕だけを生きる糧に生活していたという。
そのうち、現地のインド人と仲良くなりバンドを組んだ。
「インド音楽の要素を取り入れた、サイケデリックロックバンドでした」
しばらくするとバンドは有名になり、路上ライブだけで海外に行く資金を手に入れる。
「でも、丁度そのころ…ボーカルがLSDに手を出してしまって…」
ロックにドラッグはつきものとはいうものの…少々度が過ぎたのか、全く使い物にならなくなったそうだ。
「だからケミカル系はやめろって言ったのに…」
「…姉さん、そういう問題じゃないと思う」
雪華綺晶の問題発言につっこむ薔薇水晶…普段ボケてるばらしぃーがツッコミに回っていることもあり、メンバーは再起不能というくらい呆然としている。
雛苺だけは分かってるのか分かってないのかいつも通りである。
「仕方なくそのバンドを捨てて…イギリスに行きました」
「「い…イギリスぅぅぅ!!?」」
再起不能な上に、またダメージが乗っかってくる。
「イギリスでパンクやメタルの歴史に触れながら、音楽性を広めようと思ったんです」
にこやかに言う雪華綺晶。それを見て薔薇水晶が苦笑する普段見れない光景だ。
この調子で、雪華綺晶の余りにロックンロールしすぎている旅行記が語られた。
話が終わった頃には、雛苺と薔薇水晶を除く全員が白くなっていたとか…
聞いていると雪華綺晶は中学の頃のインド行きから、イギリス、カナダ、アメリカ、スウェーデン、ノルウェーなど各国を転々とし、それぞれで全くジャンルの違うバンドを組んで来たそうだ。
資金も自分で稼いできている辺りが凄い。
「これが、スウェーデンで友達になったバンドと撮った写真です」
といって取りだした写真にはごつい男達と雪華綺晶が写っている。
「こっちがノルウェーです」
そっちには白塗りの男達と雪華綺晶が写っている。
その二枚の写真に雛苺が飛びついた。
「あぁぁぁ!!カンニバルコープスとディムボガーなのぉぉぉ!!!」
「よかったら焼き回ししましょうか?」
「うゆぅ~!お願いなのぉ!!」
「ふふふ、分かりました」
なんだか、雛苺と雪華綺晶は一気に仲良くなった模様。
そうしてるうちに、だんだんローゼンメンバー達の解凍がすんだ。
「…で、その…きらきー?」
「はい、何でしょうかお姉様?」
「おね…まぁ、いいのだわ…なぜ、あなたはここに来たのかしら?」
真紅が尋ねると、雪華綺晶は今までで一番妖美に微笑み…棺桶型のギターケースからギターを取りだした。
真っ白なギブソン製のレスポール。イギリスにいた頃に知り合ったギタリストにもらった物だという。ピックアップが三つついている豪華な仕様だった。
ちなみに、そのギタリストはつい最近再結成した1970年代を代表する世界的ロックバンドのリーダーであるとかないとか…
「とにかく、私の演奏を一度お聞き下さいませんか?」
その一言に、水銀燈はわくわくした気持ちになった。
昨夜の彼女の演奏を思い出したのだ。
「えぇ、いいのだわ…水銀燈、アンプ使わせてあげて?」
真紅に言われるよりも早く、水銀燈はポケットから愛用しているシガレットケースサイズのアンプを取りだした。
「ありがとうございます」
雪華綺晶は優雅に礼をし…ギターをアンプにつなげた。
Eのコードを思いっきりならした瞬間、空気が変わった。雪華綺晶の雰囲気も…
ニルヴァーナのようなグランジサウンド。
勢いがあり、テクニック面も申し分のない。
なにより、荒れ狂うような雪華綺晶の演奏スタイルに全員が見入っていた。
「(これよ!この感じ!!)」
目の前の乙女の、狂ったような激しい演奏を見て水銀燈に血は熱くなっていた。
それは、彼女が求める演奏そのものだった。
曲が終わると、雪華綺晶の雰囲気も元に戻り穏やかな空気が流れ出す。
そして、しっかりとローゼンメンバーを…正しく言うと、水銀燈を見つめて、口を開いた。
「私を、このバンドのギタリストにしてくれませんか?」
と…
メンバー達は黙り込む。そして、水銀燈の方を見た。
この話の決定権は、同じギタリストである水銀燈にあると考えたのだ。
水銀燈の答えは決まっていた。
「もちろんいいわよぉ!あなたみたいなギタリストを待ってたわぁ」
水銀燈は笑ってそれを受け入れる。
こうして、雪華綺晶はローゼンメイデン二人目のギタリストとなった。
物語は加速を始める。全国ツアーに向けて…
「…そのまえに…アルバム」
薔薇水晶のツッコミは、全員の動きを止めるのに十分な力を発揮した…
最終更新:2008年04月02日 00:41