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真紅には中学時代、桜田ジュンという名の幼なじみがいた。
真紅曰く「下僕」だそうだが、とにかくツンツンした態度をとる真紅とジュンという変な組み合わせながら、見る人から見れば非常に仲の良い幼なじみ同士だった。

…きっかけは担任教師の配慮のなさだった。ジュンが趣味で描いた服のデザイン画を公開したのだ。
無論、この教師は別に悪意があったわけではないのだろうが…中学生相手には避けるべき行為だった。人は自分と違う物を過剰に忌み嫌う事がある。
特にアイデンティティを確立しきれていない彼らは、「自分と違う」桜田ジュンをすぐ攻撃の的にした。

真紅が必死で彼を支えようとしたが、同時に起こり始めて水銀燈へのイジメの事もあり、彼女はすでにいっぱいいっぱいだった…
しばらくすると、ジュンは学校に顔を出さなくなり不登校児となった。
真紅は何度か彼の家に行ってみたが、いつも追い返されてしまった。
彼の姉は随分気にかけ、フォローを入れてくれたが…全く効果はなかった。

そして、水銀燈の飛び降り自殺未遂事件をきっかけに…彼は引っ越し、その行き先は誰にも分からなくなってしまった.

…JUM PROJECTのギター&ボーカル「JUM」がジュンである事に気づいたのは全くの偶然だった。ある日レコードショップで彼らの曲が流れていたのだ。
何となく曲に聴き入っていた真紅は気づいた。そのオドロオドロしい歌詞の内容がジュンの中学校時代の体験に非常に似ている事に…
真紅はまさかと思ったがその曲を演奏するバンド調べてみた。
そして、その姿を見て確信した。

…もはやその姿に昔の面影はなかったが、その冷め切ったようでどこかに情熱を感じる視線…その瞳は間違いなくジュンの物だと…

…もうすぐライブが始まろうとしている。昼のライブだというのに、多くのファンが集まっていた。女性ファンが多いのが少しムカツク…と真紅は感じていた。
多くのファンが、JUMのデザインした服に身を包んでいる。これがJUM PROJECTファンのトレードマークだ。
ファン達はJUM PROJECTの登場を今か今かと待ちながら、SEであるSEX PISTOLSのAnarcky in the U.Kのリズムにあわせ体を揺らしている。

 そして、SEが止んだ…歓声が上がる…バッとライトがつくと、パンクファッションに身を包んだ3人の男が現れる。
その中央に、エミリー・ザ・ストレンジが描かれたSGを持つ男…
彼こそがJUMだ。

なんのMCもなくドラムがカウントを入れる。
ハードコアパンクを思わせる単純で攻撃的なサウンド。
それに載るのはオドロオドロしく、毒のある心の内を暴露するような歌詞。
歌うのはそれを現実に感じ、現実に体験する男。
その悲痛なまでに歪んだ叫びは、聴衆の心を揺らす。
その勢いは何曲続いても衰えることなく、むしろ曲ごとに勢いが増していた。

そんな熱狂の中、真紅は静かにステージを見上げていた。

彼の歌う歌の内容が、暗いトラウマである事が辛かった。
しかし、眼前で雄々しく叫びがなり歌う彼の姿が嬉しかった。

真紅はそんな複雑な気分だった。

…真紅がそんな思いに浸っていると…

「おい!いったん静かにしろ!!」

ステージの上でJUMが叫んだ。途端に、ファン達が静かになる。
真紅はJUMを見る。
一瞬、JUMが自分を見た気がした。

「俺には…幼なじみがいた!」

静まり返ったライブハウスで、JUMは語る。

「そいつは横暴で、俺の事「下僕下僕」って言って馬鹿にしてた!」

それは間違いなく真紅の事だった。

「正直、その頃はムカツク奴だなって思ってたよ!」

JUMは語りつづける。

「…だけどな…いざ、会えなくなってみると…無茶苦茶寂しかったんだよ!」

嘆くように叫んだJUMに、真紅は見入った。

「…ジュン…」
「そんなあいつに送る!!ラストナンバーだ!!」

「CRIMSON」

それは穏やかで、彼らしくない曲だった。内容もまたしかり…

…あの頃 僕は子ども過ぎた…
…いつも 逃げてばかりだった…
…闘う事もしないままに ただ全て恐れた…
…あの日 君が僕を支えてくれていたと…
…ホントは気づいて いたんだよ…
…そんな君にさえ 恐怖してた…
…本当に 情け ないけど…

曲は徐々に激しさを増し、JUMの叫びは悲痛さをます。

…Crimson 輝いてたよ あの頃…
…Crimson 夕陽みたいにさ…
…Crimson 君といたあの時だけが…
…Crimson 青臭い僕の青春…

その歌詞はファン達の心に響く物だった。
ただし、その歌詞の真の意味が分かるのはこの世に二人だけだったが…

ライブは終わったファン達がはけていく。真紅も自分のステージへ向かうために歩き出した。
時計を見ると、もう入り時間間際だった。

「おい!」

不意に声をかけられ、足を止める。
さっきまで聞いていたが、とても懐かしい声。

「…ファンをほっておいて良いの?JUM…」
「別にいいさ…久しぶりだな…」

真紅はふり返らなかった。

「…あれからどうしてたの?」
「いろいろ…本格的にデザインの勉強したり…今はバンドやってる」
「…それは知ってるのだわ…」
「そうか」
「そうなのだわ」

しばらくの沈黙。

「…唇のピアス…邪魔じゃない?」
「これは偽物。普段は学生してるから」
「…気づかれないの?」
「むしろおまえに気づかれたのが驚きだよ…真紅…」

真紅は振り向いた…
その目からは、涙が溢れ出していた。しかし、口調を変えずに言う。

「私がジュンのこと…分からないはずないのだわ!」

JUM…いや、ジュンはしばらく黙って。頷いた…

「そうだよな…」
「そうなのだわ…」

二人は笑いあった。

「…じゃぁ…そろそろ行くのだわ」
「…うん」

「ところでさ…」

ジュンは真紅に尋ねた。

「今日のライブ…どうだった?」


「まだまだなのだわ…「下僕」」

真紅は微笑んでそう言った。
ジュンも「そうかよ」といって笑った。
心から幸せそうな笑顔で…




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最終更新:2008年06月06日 00:25