「最っ高の海水浴日和です!」

海の家で買ったばかりのサングラスで真っ白な太陽を見上げて、水着姿の翠星石が言った。
その後ろにはRozen Maidenのメンバー真紅、雛苺、蒼星石、金糸雀と、部活も休みに入った巴、部活など入っていなくても荷物持ちのジュンがそれぞれ水着姿で、海や砂浜や増え始めた海水浴客の様子を眺めていた。

「キラキラして、とってもキレイなの!」

ゆれる海面の輝きをそのまま瞳に写して、きょろきょろとあちこちを見回している雛苺は、
ちんまりとしたブラにスカパンの水着だった。白地に細かいピンクの花柄がかわいらしい。

「ふぁ……まだ眠い……けどもっ!海!といえば海の家!
 おいしいもの食べて、泳いで、夏を満喫するかしらっ!」

金糸雀は今日が楽しみであまり眠れなかったらしく、朝乗ってきた電車の中でもずっと船を漕いでいたが、
眠気を吹き飛ばしてせっかく来た海本番(造語)を存分に楽しもうと燃えている様子だった。
着ているイエローのワンピースはあまり起伏の無い体系に似合っていた。
胸元や背中に細かいフリルが飾られていて、あまり子供っぽくならないよう印象が中和されている。

「けっこう人が出てきたね」
「うん、僕らの他に駅で降りた人たち、ほとんどやっぱりここだろうね」

巴と蒼星石は一同の後方、パラソルと荷物をまとめて置いてあるシート近くで話していた。
巴は紐で結ぶタイプのビキニで、スカイブルーの爽やかなグラデーションの一部に
意外とかわいらしいハートマークがワンポイントで入っているのは、
皆で水着を選びに行った時にもっと地味なものを選ぼうとした巴を翠星石がやや強引に説得して買わせたせいだ。
本人は未だに少し落ち着かなさそうだったが、皆の意見では好評だった。

巴が翠星石の餌食となっている間に蒼星石が自分の意志で選んだのは紺色無地のセパレーツで、
下がボクサーショーツのスポーティな印象の水着だった。
今年はこれで安心……とは言え、来年こそ露出の少ないビキニを着せると息巻く翠星石に少し不安を覚える蒼星石だった。

その翠星石といえば、グリーンやベージュの細いボーダー模様が描かれたホルターネックのビキニ姿で
早くも準備体操のつもりか、何故かバットを振るような動きを見せていた。
その動きのたびに、小さめの布地に覆われたわりと量感のある胸が揺れている。

「暑いわジュン」
「僕はもっと暑い」

真っ白なビキニにパレオをまとった真紅は、パラソルの下でどこから持ってきたのかデッキチェアに寝そべって、
シートの上からジュンに団扇で扇がせながら、これも出自不明のサイドテーブルに置かれたアイスティーのストローをくわえていた。

一応言っておくとジュンはなんか地味な色の水着にパーカーを羽織っていた。

「さ・あ・て・と」

一しきりエア素振りを終えた翠星石が皆の方に向き直って、全員の注目を集めたことを確認すると、腰に手をあてて満足げにうなずいた。

「さて、これからジュン以外、各自自由に遊ぶわけですが……」
「ちょっと待て」

さっそくジュンが口をはさんだ。

「ジュンは荷物番です。決定済みです」
「この暑い中一瞬も海に入れないのか僕は」
「まあまあ、荷物は交代で見ればいいんじゃ……」

あわや日が暮れるまで荷物番兼真紅の団扇係だったジュンを、蒼星石の提案が助けた。

「そのために連れてきたですのに……じゃあ、いくつか注意事項です。
まず翠星石たちのような純情可憐かつ健康的な美少女を狙う夏の害虫
つまりナンパ野郎にからまれた場合ですが、しつこい場合は翠星石かジュンを探すです」
「僕か?まさか、か、彼氏のフリ、とか、しろってんじゃ」
「んにゃ、翠星石が居た場合は力づくで追い払っちゃるですが、ジュンしかいなけりゃ身代わりにして逃げるです」
「おい」
「次に……」

ジュンの抗議をことごとく受け流しつつ、翠星石は注意事項の伝達を続けた。
海に入ってもパラソルの見える範囲にいること、
海の家に行くなどその範囲を離れる場合は必ず荷物番に伝えてからにすること、
でもまあ基本的には買い物はジュンに任せていいこと。(ジュンが声を上げた)
その他トラブルが発生した場合速やかに翠星石に報告、後処理はジュンに任せること(ジュンが怒りの声を上げた)など……。

「じゃあ行くですよ!」
「「おーっ!」」

伝達を終えて、拳を振り上げて海へと走る翠星石に雛苺と金糸雀が続いた。
巴と蒼星石は3人を追いかけながら、同時に(そんなに走ると危ない……)と思って、声をかけようとしたところで案の定金糸雀が盛大につんのめって砂浜に顔面を着地させた。
後方のパラソル下では、やはりジュンが真紅を扇ぎつづけていて、

「結局荷物番の最初は僕なのか……」

とつぶやいた。

「ジュン、おかわりを頂戴」
「……はいはい」

真紅が無造作に突きだした空のグラスを受け取って、ジュンは傍らのクーラーボックスに手をかけた。




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最終更新:2008年07月18日 11:27