「私たちが言いたいことややりたいことは、一言で表すのは難しいわぁ」
「雛は特に過激なパフォーマンスをするから、嫌いな人にはとことん嫌われてるみたいなのぉ~…でも、それは本の表面で真意ではない…難しいことは分からないけど、それは間違いないのよぉ」
水銀燈のバイクは猛スピードで走っていた。薔薇水晶を探している過程で恐ろしい情報を聞いたのだ。
「あの娘ったら、何考えてるのよぉ!!」
水銀燈の通る道のあちこちに、どういうわけか自動販売機や標識、ついでに不良やら暴走族やら暴力団の関係者やらが倒れている。
「…私は、聖ローズ会っていうカルトの根城を探してるんです…早々に答えないと…」
「ちょ!いや、本当に知らないんだって!!」
雪華綺晶は…手当たり次第に情報をかき集めようとしていた。
その筋には詳しそうな人物を見つけてはこの調子である。
「そうですか…では、あなたにも用はありませんね…」
雪華綺晶は胸倉をつかんでいた男の腹に一撃を与え気絶させると、道端にほった。
「早く…早く…早く…」
ぶつぶつと呟きながら再び歩き出す。
と、彼女の眼の前にバイクが止まった。
「…お姉さま?」
「はぁ…ようやく見つけたわぁ、おバカさぁん」
その頃、コンビニで一人缶コーヒーをすする男がいた…
「ふぅ、百円で買えるぬくもりとはよく言ったものだなぁ…」
今の若い人には全く分からないであろうことを呟く彼はJUN ProjectのボーカリストJUNこと桜田ジュンである。
数日後の東京でのライブの為にこちらに来ていたのだが…彼は偶然にも目撃することになる。
一台の車が彼の視線に入った。
夜とはいえ妙に蛇行したりして、危ない運転だと思った。
しかし、よく見ると意図的な危険運転ではないようだ。
まるで中で何かが暴れているように…
ちょうど彼の目の前にその車が来たとき、その車の窓が開いた。
一瞬視界に入ったその顔は見覚えがあった。
顔を出した彼女はすぐ抑え込まれ、窓も閉められる。
あれは…真紅のバンドの…!!?
「あれは…薔薇水晶!!?」
JUNは慌てる。何事かはわからないがただ事ではない。
何とかあの車を追わなければ…
ふと彼は、コンビニに止められているスクーターの存在に気づく。
カギがささりっぱなし、不用心だな…とか言ってる場合じゃない!
彼はそのスクーターに飛び乗ると、エンジンをかけ、走り出した。
「おい!俺のスクーター…」
「わりぃ、ちょっと借りるぞ!!」
「おいぃぃぃぃぃぃ!!?」
慌てて駆け寄った妙にデコの広い男を取り残して、JUNはスクーターを駆った。
「…ここからが本当の地獄だ!!」
…彼は途方に暮れた…
「まったく、あの調子で暴れたらサツにしょっぴかれてばらしぃー探すどころじゃなくなっちゃうじゃないのぉ!」
「ごめんなさい…お父様もあの調子だし私がなんとかしなきゃと思って…」
「ふぅ…まぁ、あなたがやらなくてもそのうち私が暴れてたでしょうけどねぇ…」
二人は合流して薔薇水晶を探していた。
と、その時水銀燈の携帯電話が鳴り響く。
「この着信音は真紅ねぇ。きらきー、悪いけど出てくれる?」
「はい…もしもし、真紅お姉さま?…えぇ、今一緒にいますよ…えっ!?ばらしぃーちゃんが!?」
JUNは放されないように必死で薔薇水晶を乗せた車を追いかけていた。
スクーターではスピードが出ず、追いつくことが容易ではないが、小回りが利くので何とか放されずにいた。
しかし、向こうもJUNの存在に気付いたようで回り道をしたり、小道に入ったりと追跡を妨害してくる。
「くそっ!気づかれてるな…」
と、その時だった。追っていた車が急ブレーキをかけたのだ。
「うわっ!!?」
慌ててブレーキをかけるJUN。あまりに急なブレーキで車体が倒れてしまう。
「いてて……しまった!」
JUNが立ち上がった頃には、車は走り去っていて追い付けそうになかった。
「…ふぅ」
JUNは携帯を取り出し、真紅に電話をかけた。
「もしもし、真紅か?…そう、そのことだ…あぁ、ナンバーは…」
◇
「もしもし…ジュン、どうしたの?こっちは今大変な…なんですって!?ばらしぃーを連れ去った車を!?…ええ…わかったのだわ」
真紅は携帯を切る。蒼星石と翠星石がこちらを見ていた。
「JUNがばらしぃーを乗せた車を見つけたのだわ」
「…それで…居場所は?」
「見つかったのですか!?」
真紅は首を横に振る。二人は落胆の表情を見せた。
「でも、ナンバーはひかえたのだわ。これでだいぶ目標は狭まったのだわ」
「そうだね。とりあえずみんなに収集をかけよう…きらきーあたりが暴れださないうちに…」
※手遅れです。
「そうね。連絡してみるのだわ」
ローゼンメイデン達は槐レコードのビルの前に集まっていた。
広大な駐車場に集まるメンバーたち。
「はぁ~い、真紅ぅ…待たせたわねぇ」
「いいのだわ…ところでそのバイクは?」
「めぐにもらったのよぉ…で、ばらしぃーを乗せた車を見たって?」
「正確には、JUNが見て、私に知らせてくれたのだわ」
「ナンバー以外の情報はないんですか?」
雪華綺晶が尋ねると、蒼星石が首を横に振った。
「…残念だけど、それ以上の情報はないよ」
「悔しいけど、情報ゼロですぅ…」
二人がそう言うと、水銀燈がフッと笑った。
「大丈夫よぉ皆…ナンバーさえ分かればこっちのものだわぁ」
我に秘策ありといった感じで水銀燈が言った。
「何か策があるの?」
「当然よぉ」
そういって水銀燈が取り出したのは携帯電話。猛スピードで何かを書き込んでいく。
「…何をしてるの?」
「私のブログでねぇ…」
「全国の水銀党員に情報収集を要請したのよぉ…」
「お!ブログ更新されて…ナンダッテー!!?」
「これは一大事!」
「銀様の頼みとあらば、都庁にハッキングして(ry」
「銀様!銀様!」
「おまいら、行くぞぉ!!」
「ジーク銀様ぁ!!」
水銀燈がブログで情報収集を呼び掛けてすぐに、車の目撃例や教会のあると思われる位置が書き込まれていく。
「ネット社会の力ねぇ」
「素敵ですわお姉さま!」
「…なんだか、こちらも危ないカルト集団の気分なのだわ」
「気にしちゃ負けよぉ…ほら、すごい勢いで書き込まれていくわぁ…」
そうこうしているうちに情報は集まり、徐々に薔薇水晶を連れ去った奴らの本拠地が絞り込まれていく。
「…だいたいこの辺りだね…」
「ここからそんなに離れてないのだわ」
「じゃぁおめぇら!さっさと準備していくですぅ!殴りこみですぅ!!」
翠星石がそういって歩き出そうとする。
「ちょっと待って、まだ雛苺と金糸雀が来てないよ」
「そういえばぁ…何やってるのかしらぁ、あの娘たち…」
そんなこといってると…
駐車場に何やら大きな車が進行してくるのが見える。
「なんでしょうか?…こんな時間に…」
「…なんだか僕…嫌な予感がするんだけど…」
その車はバスほどの大きさがあり、なんだか日の丸やよくわからないかたっ苦しいけどヤンキーチックな文字が書かれていた。
あとスピーカーもついてる。
「が…街宣車!?」
「こんな時間に何で右の人たちが………」
その街宣車は彼女らの前でとまり…
「みんな、お待たせなのぉ!!」
…中から雛苺が出てきた…
「ひ…雛苺!?…ということはまさか運転してるのは…」
「わたしかしらぁ~」
街宣車のスピーカーから金糸雀の声が響く。
「…雛苺、これどこで手に入れたの?」
蒼星石が恐る恐る尋ねる。
「うゆ~、カルト連中にはインパクトで勝負なのよぉ~」
「いや、そうじゃなくて…どこで手に入れたの?」
「こういう人が集まるところ襲撃してぇ…大丈夫、一人残らず叩きのめしてきたのよぉ」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
笑顔のまま言ってのける雛苺に、おもわず頭を抱える蒼星石…
「まぁ…これから似たようなことしに行くんだからぁ…いいんじゃなぁい?」
「同感ですわ」
水銀燈と雪華綺晶があっけらかんと言う。
「そういう問題じゃなぁい!!」
出撃を前に蒼星石の叫びが虚しく木霊するのであった…
最終更新:2008年10月25日 22:30