「うん、確かに僕たちのやる曲は過激だし、聞く人が聞けば悪魔の歌に聞こえるかもね」
「まぁ、それも狙いですぅ…でも、翠星石達が言いたいのはそういうことではないですぅ」
ロックカクテルバー「Angel」
「あら、久しぶりね天使さん」
「えぇ、久しぶりねぇめぐぅ…」
めぐは水銀燈の顔を見て違和感を感じる。いつもの笑顔じゃない。何か尋常じゃない覚悟を感じる。
「今日はこの後用事があるのよぉ…悪いけど、すぐ帰らなきゃいけないわぁ」
「え…えぇ、いつものやつでいい?」
「…ううん、今日はぁ…キツイやつをストレートで頼むわぁ…」
めぐは言われた通りきつい酒をそのままグラスに注ぐ。
「(…嫌な笑い方だ…)」
生死の淵を何度もさまよっためぐは、その笑顔を気分の悪いものに感じた。
「(まるで…昔の私だ…)」
病院生活のなか、いつも死を覚悟し、達観していた自分の顔に似ていた。
「きらきー、飛び出したのはいいけどぉ…あてはある?」
「…聖ローズ会は最近のカルト教団の中でも特に秘密主義…信者以外は教会の場所も分からないと聞きます…」
「…探すあてなしってことねぇ…」
「…えぇ…」
二人は夜の東京で途方に暮れていた。そして焦っていた。
啖呵を切ったのはいいが、まったく薔薇水晶を探すあてがないのだ。
「…いったん別れましょう。お姉さま…なんとか情報をかき集めてみます」
「えぇ、私も…ついでにちょっと覚悟きめてくるわぁ…」
二人は疲れた表情で笑い合い、それぞれ別の方向へと歩いて行く。
再び、「Angel」
「はい、水銀燈…」
「うん、ありがとう…」
水銀燈は酒を一気にあおる。
「………やっぱり、こんな時に飲んでもおいしくないわねぇ…」
「…そりゃぁ、そんな死に急ぐ人みたいな顔してちゃ、おいしくないわよ」
めぐが言うと、水銀燈は驚いた顔でめぐを見て、笑った。
「やっぱり…めぐには分かっちゃうのねぇ…」
「水銀燈のことならね…それに、昔の私の顔そっくりなんだもん…」
「あらぁ?私、そんなにひどい顔してたかしらぁ?」
「あっ、さりげなく酷いこと言うわね…」
しばらく二人は笑い合う。
「で?実際のところはどうしたの?」
水銀燈は真剣な表情になり、ことのいきさつを話した。
「薔薇水晶ちゃんが!!?」
「ええ…」
「…しかも、聖ローズ会って言えば、最近話題のカルト教団じゃない」
ロックに携わる者には、彼らの名はよく知られている。しかし、ここまで直接的な攻撃をしてきたのは初めてだった。
「それで、そんな覚悟を決めた顔してたのね…」
「えぇ…、じゃぁ、私は行くわぁ…」
そういって水銀燈は立ちあがる。
「あっ、ちょっと待って!」
「?」
「…とっておきのものがあるの」
めぐが案内したのは、「Angel」の入っているビルの裏手だった。
「この子をあなたにあげるわ」
「…これって…」
そこに置いてあったのは真っ黒な大型バイクだった。
ボディには逆十字の模様が描かれ。「Mercury-Lamp」と書かれている。
「ライブ終わったら、水銀燈にあげようと思ってね…お金貯めて、カスタムしたのよ…ちょっと早いけど、薔薇水晶ちゃん探すのに使って」
「めぐぅ…ありがとぉ」
水銀燈はバイクにまたがる。女性にしては身長の高い水銀燈が乗っても、その大きさは圧倒的だった。
「そのかわり、約束して水銀燈…危ないことは絶対しないで…」
「…めぐ…」
「薔薇水晶ちゃんは大事。絶対に助けてね。でも、水銀燈もちゃんと帰ってきてよ…ライブしっかりやらなきゃ、ファンががっかりするんだから」
「…そうね、全部いただいてこそロックバンド…だものねぇ…」
二人はまた笑い合う。
「じゃぁ、行ってくるわぁ…ライブまでに絶対間に合わせるわねぇ」
「うん、私も何か情報を仕入れたらすぐ連絡するわ。もうすぐお客さんたちも来るから」
「お願いするわぁ」
バイクは走り出す。これで一気に捜索範囲が広がった。水銀燈の目に別の光が宿る。
それは、ステージの上の彼女と同じ、ロッカーの目だった。
ところで…彼女は思いっきり飲酒運転になるのだが、そこはどうなってるのか…
「あぁ、あれはただの水よ?それに気づかないんだから、よほど焦ってたのね」
そうですか…
最終更新:2008年10月25日 22:28