真紅の話を聞き終えた金糸雀は腕を組み「ん~」と少し考え、言う。
「その話だと水銀燈と白崎は付き合ってはいなかったかしら?」
「うん、だけど後で後輩に聞いた話なんだけど白崎が真紅の声を選び、新しいギターの人を見つけるまでに2~3回ほど一緒に歩いてるのを見たらしいよ。とても仲良くまるで恋人のようだったと言っていたよ」
蒼星石が説明する横で雛苺が相変わらず頬を膨らませて言う。
「真紅と水銀燈はおなじようにスキっていわれたの~」
真紅は紅茶のおかわりを注文しながら雛苺の言葉を訂正する。
「雛苺、前にも言ったように白崎は私の声、水銀燈のトーンをスキって言っただけなのだわ。そこに恋愛感情なんて存在しないわ」
首をかしげる雛苺に翠星石は口に含んでいた氷をプッと飛ばす。
「バカ苺が話しに入ってきたらヤヤコシくなるですぅ、お子様は黙って聞いていやがれですぅ」
「あぁ~ん、汚いのぉ~」
飛んできた氷を避ける雛苺のとなりで金糸雀は真紅に最後の疑問を聞く。
「じゃぁ、あの5月の音楽祭に水銀燈もなぜメンバーとして一緒にヤッてたのかしら?」
それには先ほど氷を飛ばした翠星石が答える。
「それは、この話をまだ真紅から聞いていなかった翠星石が無理やり水銀燈を引っ張っていったですぅ。その後に水銀燈はギターを止めてしまいやがったですぅ」
残念そうに肩を落とす翠星石。まだ納得がいかない金糸雀は薔薇女子高に転校し始めてのイベントであった5月の薔薇女子高 春の音楽祭を思い出していた。
・・・・吹奏楽部のクラシックや有名な映画音楽、同じ校内の真紅達のようなバンドの演奏を聴いていた。
(みんなどうってことないのかしら~)
これが当初の金糸雀の感想。
(そろそろ飽きたのかしら~)
そう思ったとき真紅達が現れた。
(あっ、マイケルもいるかしら~)
水銀燈はずっとうつむいたままギターを弾き翠星石のドラムが続き真紅の声が入る。
(あら、U2のDESIREかしらぁ~・・次はNIRVANAのABOUT A GIRLね、なかなか面白い子達かしら~)
金糸雀をはじめ体育館の全員がしだいに真紅達の音の中に入っていく、しかし真紅、雛苺、翠星石、蒼星石には解っていた。
ふてくされた表情の中に諦めのような目をした水銀燈のギターの音色を真紅の声が無理やり引っ張っているのを・・・・。
金糸雀はタメ息交じりで言う。
「もったいないかしら~。水銀燈のギターはイイ感じだったのにぃ~」
「イイエ、水銀燈の本当のギターはあんな気の抜けたトーンではないのだわ」
真紅の言葉に驚きの声を出す金糸雀。
「えぇ、あれでダメなのかしら!本当の水銀燈のギターを聴いてみたいのかしら~。よぉ~し、このカナが明日かならず水銀燈を説得するかしら~!!」
金糸雀が決心した夜、水銀燈は一人あてもなく駅ビル地下にあるショッピングモールを歩いていた。
トンッ、店から出てきた男の肩に引っ掛けているソフトケースが軽く水銀燈の横顔に触れる。
「チッ」不機嫌な顔を男に向けたあと男が出てきた店にも目を向ける。
ショーウインドウにレスポールや年代物のフェンダーなどが飾られていた。
自分では気付かないうちに足は店の中に向かって進む。
壁にかけられているギターを1本1本と見ていく水銀燈。
(シャーベル、グリーンミーニーぃ?翠星石が好きそうな色ねぇ・・フフフ)
自然と笑みが口元に現れる。
知らない間に水銀燈の心の中に独特の振動が芽生えていた。
それはある種の音楽がもつビートのようでもあった。
忘れかけていた、いや無理に忘れ、閉ざしたはずの感情がかすかに甦る。
見ていただけの水銀燈の手が伸びギターに触れてみる。トン、トン、トン、心の中の振動が大きくなる。
水銀燈の顔にはより柔らかくより自然な笑みが広がっていく。
ビンッ・・指で軽く弦を弾く・・ドン、ドン、ドン、振動はより確かなものに変わろうとしているかのように大きくなる。
それはトキメキ、衝動という言葉に近いものかもしれない。
そのとき他の客がギターの試し弾きを始めたのかあるメロディーが水銀燈の耳に入る。
「チッ・・シラケたわぁ~。こんなジャンクメロディーを聴くなんて」
そう独り言をいうと水銀燈はENJUの曲のイントロが流れ出した店から出て行った。
しかし店から出る水銀燈の口元にはかすかに笑みが残されている。
そして心の中の振動は大きなままトキメキと衝動を形取りはじめていた。
*
昼休みを告げるチャイムが鳴るとそれぞれがお気に入りの場所に移動する。
水銀燈は一人いつもの屋上の片隅に行き、そこから見える海を眺めパンを食べていた。
真夏の海からふく熱風に銀色の髪を踊らせ静かに手すりから下を覗くとイチョウの木の下で真紅、雛苺、翠星石、蒼星石が大声ではしゃぎながら昼食を取っているのが見えた。
ほんの数ヶ月前までいた場所を見ていると後ろから突然目隠しをされる。
「こぉんな所に居たのかしらッ、水銀燈」
金糸雀が笑いながら立っている、その金糸雀の手には12月にある薔薇女創立記念祭の出場用紙が握られていた。
「なァに、その紙?」
少し言いにくそうに金糸雀は話を再結成した真紅達のバンドと12月の記念祭について言うと水銀燈はポケットからタバコを取り出しジッポーライターで細長いタバコに火をつけ静かにフゥ~と煙をはきだす。
「興味ないわぁ~、だいたい私ギターもってないものぉ」
「えぇ~、5月のマイケルはどうしたのかしらぁ~?」
「そんなの売っちゃったわァ、結構な金になったわよぉ。それでコレを買ったのぉ。残りはパチンコね。ウフフフ」
と水銀燈は小さな薔薇のレリーフが埋め込まれたジッポーライターを金糸雀に見せる。
「マ、マイケルがライターに・・・」
驚きを隠せない金糸雀はじっと水銀燈の顔を「ありえない」と言いたそうな表情でみる。
「そ、それじゃ、カナが持ってるギターを貸すかしら?」
金糸雀がギターを持っている、その以外な組み合わせに驚く水銀燈。
「貴女ギターもってるのォ~?ウクレレとかはナシよぉ」
「こう見えてもカナは小さい頃バイオリンとか習ってたのかしらッ。ギターも弾けるのよ。もってるのはサンバースト・レスポールでお父様に頼み込んで買ってもらったジョーウオルシュのモデルなのかしら」
「なァに、そのジョーなんとかってギター?まぁ私には関係ないわぁ~。だいたいギターもってるなら貴方が真紅のバンドに入ればイイじゃない?」
そういい残し水銀燈はまだ吸い終わっていないタバコを屋上から投げて去っていく。
その後、水銀燈はサボったらしく午後の授業に姿は現さなかった。
金糸雀は昼休みの一連の話を真紅達につたえる。
「それは初耳ですぅ、金糸雀がギターをヤッていたなんて以外ですぅ!」
水銀燈を説得できなかった金糸雀に向かって真紅がいう。
「今の水銀燈はそっとしておくのだわ。それはそうと水銀燈の言うように貴女がバンドに参加してもらえたら助かるのだわ」
「えぇ、カナが参加してもイイのかしら~」
横で聞いていた雛苺も真紅の案に喜ぶ。
「それがイイの~、さっそく今日から練習なの~」
モヤモヤした気持ちのまま水銀燈の足はいつの間にか楽器屋に向かっていた。
それは初めて自分のギター、金糸雀にマイケルと名づけられたフライングVを買った店に向けられていた。
先日から自分の胸の中で高鳴り始めたあの忘れたはずの夢に少しずつ見えない天井から小さな小さなスポットライトが照らし始めている。
そんな自分がモドかしく、そして少しイラダチはするが心の中の振動は今やはっきりと形になりつつあった。
「いらっしゃい・・あぁ、キミか。どう?ギター弾いてる?」
初老の優しそうな目をした店主が笑顔で水銀燈に挨拶する。
「えぇ、まぁねェ。今日はちょっとよってみただけよぉ」
水銀燈は店内のギターを見て回る。
真新しいボード、張りつめた弦、店のライトに光るアーム、それに触れていく水銀燈。すると今まで水銀燈の中で霧のように覆っていたモヤモヤ、イラダチが不思議と消えていく。
「キミは本当にギターが好きなんだね、目が凄く笑っているよ」
店主の言葉に困惑しつつも笑顔になり答える水銀燈。
「そ、そうかしらぁ?・・私そんな顔してるぅ?」
「あぁ、してるよ。コレでも楽器のプロだよ。好きな人はみんな目が笑ってるもんだよ。それ試しに音を出してごらん」
店主は水銀燈が触れているギターとアンプを繋ぎ水銀燈に渡す。
初めてギターを持った時のように水銀燈の手には薄っすらと汗が出る。
今やはっきりと水銀燈にも解るくらいのトキメキと衝動が心の中で大きな風のようになり身体を疾走する。
弦を押さえピックをつまむと自然と疾走していたトキメキと衝動は穏やかな春風のように優しくなり水銀燈の身体の中を満たしていく。
そして静かに息を吸い込み弾き始める。
その水銀燈の指先を通じアンプからはWHERE THE STREETS HAVE NO NAMEが流れ出す。
(私は音が好き、この6本の弦の振動を電気的に音に変えてるだけのカラクリ・・この音の魔法が泣いたり怒ったり笑ったりする・・)
水銀燈はいつしかギター、音、音楽、ロックに対する本当の自分の気持ち、そして夢
を見つけたような気になった。
その夢の中には真紅、雛苺、翠星石、蒼星石、金糸雀と一緒にステージで光を浴びる自分自身の姿があった・・・・。
*
私立薔薇女子高はスポーツや勉学より音楽や美術の方向に力を入れている。
そのため吹奏楽部などは県内屈指の実力で全国大会などで頻繁に表彰されていた。
それは美術部も同じであり、学校としても音楽、美術関係の部屋や部室の数は普通の高校よりはるかに多く設備も整っていた。
その中でもほとんど物置のような状態になっている音楽準備室というのが学校の裏側にあり、水銀燈はよくその準備室で昼寝をしたりタバコとマンガで時間を潰すことがあった。
「あらぁ、無いわぁ・・?あそこに忘れたかしらァ?」
水銀燈は放課後、忘れたタバコとジッポーライターを取りに音楽準備室に近づく。
「これでセットはOKですぅ、今日もヤルですよ」
翠星石の声が聞こえる。それに続き金糸雀や真紅達の声も混じる。そしてストーンズのSTART ME UPのイントロが聴こえてくる。
水銀燈は足をとめ聴き入る。金糸雀をくわえた真紅達のバンドはスタジオに入れない時などはこの準備室で練習していた。それは水銀燈がいた頃からよくやっていたことであった。
水銀燈は準備室の外壁にもたれバンドの出す音を感じていた。
もたれている壁は普通のコンクリートの壁、だが今の水銀燈にはとても厚く積み重なった時間と自分のプライドのようなもので塗り固められた壁のようにも感じた。
(フフフ、金糸雀もなかなか弾けるじゃない)
壁にもたれ水銀燈は目を閉じ金糸雀が弾くギターの音、翠星石のドラム、蒼星石のベース、雛苺、真紅の歌声を確かめるように聴いている。
曲も変わりGUNSN’ROSESのLIVE AND LET DIEが始まとニヤリと笑う水銀燈は壁ごしに聴こえる真紅達の音を捉え足でリズムを取っていた。
最終更新:2006年12月01日 16:08