夏も終わり真紅達が昼食をとっているイチョウの葉が紅葉を迎え赤く染まった頃にはバンドとしての音も水銀燈がいた頃に近づきつつあった。
だが新メンバーの金糸雀には致命的な弱点があった。
それはソロでよくドジるという弱点である。
練習後のミーティング、行きつけのアンセムでパフェを食べる翠星石が口からチョコチップを飛ばしながら早口でしゃべる。
「金糸雀はミスが多いですぅ、来月までに完璧なフリーハンドタッピングをマスターしやがれですぅ!」
「そんなの無理かしら~。カナは、本当はギターよりキーボードが好きなのよ、みんなが水銀燈の変わりにカナをギターにしたのかしらッ」
「翠星石。そんな無茶を言ったら金糸雀がカワイソウなのだわ。ところで金糸雀、最近の水銀燈の様子はどうなの?」
金糸雀は水銀燈と同じクラスであり真紅達と違い何の蟠りもなく自然と休み時間などは一緒にいる時間が長い。
「そうねぇ~、前と違って水銀燈のほうから音楽の話をしてくるようになったのかしら~。それとまたパチンコで大勝ちしたお金を一瞬で使ったと言ってたかしら~」
それを聞いた蒼星石はフゥ~とため息を漏らす。
「水銀燈は何に使ったんだい?」
「さぁ~、知らないわ。連チャンで大勝ちしてたからたぶんバイクでも買ったのかしら?」
真紅もそれを聞き深いため息を漏らす。
イヤホンを耳にした水銀燈はベッドに座り1週間前に買ったギターを手にしばらくアルペジオで音を出しながら右足の指で器用に足元にあるアンプのボリュームを上げる。
アルペジオから途端に指の動きが滑るように動き出す。
時にはピアノを弾くようにタッピングを交えていく。
目は指の動きを追いながらも脳裏には優雅な旋律が流れ水銀燈の心を満たし胸の鼓動を静かではあるが確かな情熱が広がっていく・・・・・。
4時間目から登校してきた眠そうな水銀燈はいきなり金糸雀に捕まる。
「昨日の夜に3回も電話したかしらァ~!」
水銀燈は明け方までギターを手にしていたので金糸雀の着信には気付かなかった。
「昨日は早くから寝てたのよォ~、で、用事は何ィ?」
「昨日アンセムで翠星石にテクニックを磨けとボロクソに言われたのかしら。
だから・・できれば教えて欲しい・・ダメかしらァ?」
だんだん言葉が小さくなる金糸雀を見つめる水銀燈。
「あらぁ、金糸雀はギターが好きなんじゃないのォ?」
「大好きよ、でも、カナはギターを弾くより聴くほうが好きかしら」
少し考える仕草をしたあと水銀燈はニコッと笑う。
「イイわよォ~、私どうせヒマだしぃ~、昼休みに音楽室が開いてるからァ音楽室がイイわねぇ、ギターは金糸雀のを貸してもらうわよぉ」
金糸雀は音楽室で昼食をとりながら水銀燈にギターを教えてもらう。
「と、こうやったらキレイにハーモニックスが出るわぁ」
「す、凄いのかしら水銀燈!・・・でもカナには無理かしら・・・」
うつむき加減になる金糸雀、その姿を見た水銀燈は数ヶ月前の自分の姿をチラッと一瞬だけ見た気がした。
「ほらぁ、金糸雀ァ~。音楽は音を楽しむものよォ~・・貴女ピアノ弾けたわよねェ。一緒に何かジャムるぅ?」
水銀燈の提案にうつむいていた顔をあげ笑顔になる金糸雀。
「これ、これをヤッてみるかしら?」
授業で使われていた譜面がそのままピアノに立てかけてあった。それを見る水銀燈は自然な笑みをこぼす。
(あらぁ、これ昨日の夜に弾いていた曲だわぁ)
「面白い選曲ねぇ、イイわよォその曲で。でもボリュームはMAXよォ~」
水銀燈のレスポールが美しくも迫力のあるトーンを出し音の波を空気中に漂わす。金糸雀は音の波間ではじける水泡のように可愛い音で答える。
2人の広がる音と音の協奏はやがて外で食事をしている真紅達の耳にもはいり音楽室に向かうとそこには数十人の人が静かに音楽室を覗き込んでいた。
金糸雀のピアノが突然その風貌を変えたかのごとく力強さを出し、反対に水銀燈のギターは小さく答え金糸雀のピアノソロを引き立たせる。
数十人の生徒に混じり真紅達も水銀燈と金糸雀の協奏を見つめる。
ピアノの音とテンポが少しづつ元に戻ると水銀燈のギター主張し始める。
そして金糸雀のピアノが合図したかのように鍵盤の上を指が踊るように叩くとギターのトーンが大きく広がり音楽室の机の下、ロッカーの中、窓ガラス、そして静かに見つめる真紅達の中に音が入り込む。
大気を振動させ空気を支配したような2人の協奏は昼休み終了のチャイムで終わった。
突然のチャイムで我にかえる2人を音楽室入り口で聴いていた数十人が大きな拍手で迎える。真紅、雛苺、翠星石、蒼星石も2人を拍手で迎える。
「凄いイイものを聞かせてもらったよ水銀燈」
「金糸雀のギターはヘボイですけどピアノはまぁまぁイケルですぅ」
「凄いのだわ、ギターとピアノだけでチャイコフスキーのピアノ協奏曲をこのレベルでするなんて・・」
「す、水銀燈もう一回ヒナ達とバンドやろうよぉ~」
真紅達に囲まれ一度にしゃべられた水銀燈はギターのコードを抜きながら笑顔になる。
「ま、まぁ、別にヒマだしぃ~、考えてもイイわよぉ~」
その言葉に両手を口にあて喜び泣きそうな真紅、蒼星石はポンッと真紅と水銀燈の肩を叩く。金糸雀は水銀燈に向けて親指を立てる。
そして真紅と水銀燈はあの日以来の笑顔で向かい合っていた。
最終更新:2006年12月01日 16:10