その頃、真紅も水銀燈と同じような気持ちでいた。
人より強い責任感が重く真紅の胸と背中に押しかかってくる。
(私のせいで水銀燈を・・・)
行く当ても無く街をさ迷う、駅の雑踏の中、車が行き交う交差点、
歩道橋の上、賑やかな繁華街、いつしか真紅の足は薔薇女子高に
向けられていた。
その頃、真紅と水銀燈がいない教室に蒼星石、雛苺、金糸雀が翠星石の
机に集まっていた。
「真紅と水銀燈がいないと寂しいですぅ、それにライブはどうするですか?」
「ボーカルとギターが居ないんじゃキャンセルだね」
「でもチケットとかかなり出ているって聞いたの~」
「ボーカルはチビ苺でカナがギターでヤッても迫力が出ないかしら?」
「その案は昨日の夜に蒼星石と話したですぅ、もちろん電話で真紅と
水銀燈にも聞いたですぅ」
「なんて言ってたのォ~?」
「真紅と水銀燈は面白いアイデアと言っていたよ。ただ僕達のバンドは
真紅の歌唱力と水銀燈のギターがあってを前提にした選曲だからね、
ヤルには曲調を思いっきり変えないと、今からできるかい?」
蒼星石の言葉に金糸雀は考え込んでしまう。
「打ち込みで曲をほとんど作ったらできるかしら?でもカナにはそんな
機材も技術もないのかしら」
金糸雀の言葉に斜め後ろの席から小さな声が答えてきた。
「私が 打ち込み してもいいわよ」
蒼星石達は一斉に声の主を見る。
「君は吹奏楽部の、たしか名前は、ば、薔薇すい」
「私は 薔薇水晶 時々ライブを 見てた」
会話の中に独特の間を出す薔薇水晶。彼女はそのまま会話の中に
入っていった。
*
その時、真紅は校門を抜け廊下を職員室に向けて歩いていた。
私服で廊下を歩く真紅に生徒達は道を空け通り過ぎるとヒソヒソと話し出す。
「あれ、警察に補導された真紅じゃない?」
「何しに来たんだろうね?まさか退学届けぇ~?」
そんな言葉を無視し真紅は職員室の扉を開け、担任の梅岡の姿を探す。
「ん?どうした真紅。お前は停学中だぞ?」
「少し話しがあるのだわ」
何かを決意したような表情の真紅。梅岡はイスから立ち上がる。
「話か・・・じゃぁ指導室で聞こうか」
真紅と梅岡が指導室に入っていくのを通りかかった翠星石達が発見する。
「し、真紅?あれ今、梅岡と入っていったのは真紅ですぅ」
「うん、僕も見たよ。確かに真紅だったよ」
急ぎ指導室まで走りドアに耳を当て会話を聞く翠星石達。
「話は今回の停学のことか?お前は成績もいいが今回の場合は・・」
梅岡の言葉を真紅の強い口調がさえぎる。
「話は私のことではないのだわ、水銀燈のことよ!!」
梅岡は真紅の口から出た言葉の真意が掴めずに聞き返す。
「水銀燈の話?」
「そう、水銀燈の話なのだわ」
真紅は梅岡が水銀燈に出した留年か自主退学かの選択を取りやめてもらう
よう梅岡を説得する。
「そうは言っても真紅、水銀燈の素行の悪さはお前もよく知ってるだろ?
酒、タバコ、パチンコ、そして今回の補導だ。まぁ今回の件はお前も
入っているがな・・」
梅岡の言葉に真紅は1歩前にでる。そして机に両手をつき深く頭を下げる。
「お願い、お願いなのだわ。水銀燈の処分は私と同じにして欲しいのだわ」
気位が高い真紅からは考えられない行動に梅岡は動揺する。
「す、翠星石からもお願いするですぅ」
「ヒナもお願いなの~」
指導室から聞こえてくる真紅と梅岡の会話を盗み聞きしていた翠星石達
が入ってくるなり真紅同様に頭を下げる。
「あ、貴女達・・・」
蒼星石は頭を下げたまま小声で真紅にささやく。
「水銀燈は僕達の大切な仲間だからね」
予測もしなかった展開にたじろぎ困惑する梅岡はついに折れた。
「わ、解った。お前達がそこまで言うなら考えておこう・・・」
その言葉に真紅達は顔を見合わせ満面の笑みをこぼした。
*
夕暮れ、空から降りてくる夜のカーテンが街の景色を変えていく時刻。
その中で水銀燈は膝を抱えベッドの上で窓越しに点き始める街のネオンを
見ていた。
(やっぱりィ、やぁ~めた。学校なんて辞めだわァ)
枕元に落ちているピックをつまむと意味なくネオンに浮かぶビルの
シルエットと重ねてみる。そのとき真紅からの着信が入った。
「水銀燈、貴女、辞めなくてもいいのだわ!もう大丈夫なのよ!!」
真紅と翠星石、蒼星石、雛苺、金糸雀、そして薔薇水晶までもがあの後も
梅岡に懇願し条件付ではあるが水銀燈の処分は真紅と同じようにする約束
を取り付けたのであった。その条件は卒業まで欠席、遅刻ゼロ、
音楽活動は学校内だけで認める。もちろん成績向上も入っていた。
「守れるわね?水銀燈」
「さぁ~、全部が難しい条件ねェ」
水銀燈の言葉に厳しい口調になる真紅。
「何を言ってるの水銀燈!」
「冗談よぉ~、冗談。本当におバカさんねぇ真紅ぅ。フフフ」
ほっとした真紅も受話器越しに笑う。
「バカと言ったほうがバカなのよ、だから水銀燈は大バカよ。フフフフ」
「あらそおゥ?でも本当に貴女達はおバカさんよフフフ・・ウッ、ウッ」
水銀燈は笑いながらも溢れてくる涙を止めることはできなかった。
いつしか話しながらビルのシルエットに重ねていた銀色のピックがネオンの
灯りを受けて眩しくキラリと光り輝いていた。
*
真紅と水銀燈がしばらくライブに参加できない薔薇乙女にとって新たに
メンバーにくわわった薔薇水晶の存在は大きく、元々薔薇乙女が持っていた
太く体の中に響くロックとは対照的にポップ調なサウンドとメロディーを
うまく薔薇乙女の音と融合させた。
そのためボーカル雛苺の愛らしさを前面に押し出すことに成功し、今夜の
ライブも高く上げられた無数の腕と歓声がライブハウスを揺らしている。
雛苺はギターを弾く金糸雀と額をくっつけ、声を合わせて歌う。
「All we hear is Radio ga ga~ Radio goo goo~♪」
その2人の歌に無数の声が答える。
『Radio ga ga~♪』
真紅と水銀燈がいる時とは違ったノリと一体感が自然と薔薇乙女達にも
感じられ、その表情が緩む。
(翠星石達だけでも結構ヤレるかも・・・ですぅ?)
ドラムをリズミカルに叩き、そんな考えすら浮ぶ翠星石がいた。
Illust ID:LIyh7uxG0 氏(25th take)
ライブも無事に終わり、まだサウンドの余韻が微熱のように残る翠星石は
眠れずに何度もベッドの上で寝返りをうつ。
(今夜のライブは良かったですぅ。真紅の唄は綺麗で強さもありますがチビ
苺の唄も飛び跳ねる感じで良かったですぅ、もし真紅と水銀燈がこのまま
ライブに出れないとしたら・・・ダメです。そんな考えはダメなのですぅ。
でも、でも、翠星石は・・・)
布団の中に隠れるように潜りこみ翠星石はその先は考えないようにした。
「ヒナね、土曜のライブ、すっごく楽しかったの~」
月曜日、いつもなら真紅の机の周りに集まるのだが、居ない今は
全員が翠星石の机に集まってくる。
「うん、僕もああいう感じの曲やアレンジでヤレて楽しかったよ」
「私も 楽しかった」
「これで真紅と水銀燈が復活したら最高なのかしら~」
「復活はいつですぅ~?水銀燈なんかライブに出てるとバレたら今度こそ
間違いなく退学になりやがるですぅ」
「どうしたの翠星石?やけにムキになって」
蒼星石は心配そうに翠星石の顔を覗き込む。
「な、なんでも無いですぅ。真紅や水銀燈のことを心配して
ヤッてるのですぅ」
それだけ言うと翠星石は「トイレ」とだけ言い席を立った。
(コレをヤッておかないと後で真紅達に怒られるわぁ~)
水銀燈は梅岡から出された課題レポートに向かっていた。
そのときメールが携帯に入る。
【水銀燈は元気ですか?土曜のライブは最高に盛り上がったです。
水銀燈はまたライブに出れそうですか?】
(あらァ、翠星石からだわぁ)
レポートに退屈していた水銀燈はすぐさまメールを打ち返す。
【今は退屈で死にそう。ライブは早く出たいわ、ただ梅バカにバレたら
ヤバイから出るのは5月の終わりかな?真紅もそう言ってたよ】
【そうですか、でもあまりムチャはするなです。早く学校に
来てくださいです】
短いメールのやり取りの後、水銀燈は笑みをこぼしレポートに取り掛かった。
(ウフフフ、翠星石もカワイイとこあるじゃない)
屋上で携帯をポケットに仕舞いながら自分の中で答えを出すのを怖がる
翠星石の長い髪を揺らす風が4月の終わりを告げていた。
*
ゴールデンウィークが始まり薔薇乙女は連日のように積極的なライブ活動
を展開し、当初は真紅、水銀燈の姿が見えない薔薇乙女に違和感をもっていた
ファンもしだいに薔薇水晶がアレンジをしたり新たに作り出す軽快なサウンド
と雛苺、金糸雀が見せる愛らしいパフォーマンスに慣れ、そして新たなファン
も獲得していく。軽快なリズムが満たすステージで雛苺が観客に向かい指を
さしウインクするとギターを弾く金糸雀がコーラスに入る。
「Sleeping in my car~」
そのコーラスにすかさず雛苺の甘い声が入る。
「I will caress you!」
そして2人で翠星石のドラムが叩き出すリズムに乗り1つのマイクに
声を合わせる。
「Laying in the back seat of my car making up~♪♪」
そのあと雛苺と金糸雀は背を向け合いステージの端に向けて走り、右端と
左端からコーラスと歌のシャワーを興奮する観客にむけて降りかける。
「ウオォォォ~」 「YEAェェェ~!」 「オォォ~」
無数の歓声が沸き起こり、その夜の薔薇乙女のライブは終わった。
ライブの興奮と熱狂を熱めのシャワーで流した蒼星石はすぐにベッドに
入る。どの位だろうかウトウトし始めた頃、翠星石がドアをノックする。
「蒼星石・・・翠星石の話を聞いてほしいですぅ。そ、そして意見を
聞かせてほしいのですぅ」
翠星石は思いつめた表情のままゆっくりと話し出す。
最終更新:2006年05月11日 00:42