眠い目をこすりながら蒼星石はベッドから起き上がる。
「どうしたの、こんな時間に?」
始めは言い出しにくいのか「あの~」を繰り返していた翠星石だったが
蒼星石の「それじゃ解らないよ。何でもいいから話してみて」の一言で
重い口を開いた。
「す、翠星石達、薔薇乙女のことなのですがァ、蒼星石はどう思うですぅ?」
今夜のライブを思い出しながら蒼星石は満足気に言う。
「うん、凄く順調だと思うし、ヤッていて最高に楽しいよ。初めた頃なんて
ライブハウスなんかでヤレるとは思わなかったし、ましてやファンが付く
なんて思いもしなかったよ。これで真紅と水銀燈が復帰したら凄いことにな・・」
蒼星石が話し終えるのを待たずに翠星石は話し出す。
「ヤッていて楽しいのは翠星石も蒼星石と同じです。ただ真紅と水銀燈が
帰ってきても今と同じ音楽が出来るですか?」
翠星石の言葉に不安を感じた蒼星石はやや困惑した表情を作る。
「翠星石、それはどう言う意味なんだい?」
「す、翠星石は真紅と水銀燈がいる薔薇乙女が大好きです。でも今の
薔薇乙女の音楽は楽しいのですぅ。翠星石は今の薔薇乙女だけでも十分
だと思うのですぅ・・・」
蒼星石は困惑した表情から厳しい表情に変わる。
「まさか真紅と水銀燈を外したいってことなのかい?」
「それは翠星石にも解らないのですぅ。翠星石は真紅も水銀燈も大好きです、
ずっと一緒にバンドをヤッて行きたいのですぅ。でも音楽的には今のほうが
翠星石は好きなのですぅ」
音楽性の違い、それはよく耳にする言葉であるが、それが原因でバンド内が
ギクシャクし、最後は解散していくバンドも多い。しかし薔薇乙女に関しては
そんな問題など関係の無い話だと思っていた蒼星石は部屋の入り口で立った
ままの翠星石に優しく声をかける。
「僕も今の薔薇乙女は好きだよ、もちろん真紅、水銀燈がいる薔薇乙女も
大好きさ。だから今の薔薇乙女と元々の薔薇乙女が合体したらもっと大好き
になると思うよ」
静かにゆっくりと語りかける蒼星石の言葉に翠星石も少し納得した表情に
なるが、すぐに翠星石のは元の思いつめた表情に戻った。
「そうですね、音楽のことは真紅も水銀燈も解ってくれると思うですぅ、
水銀燈なんかああ見えて80年代のポップスなんかよく聴いてるですしィ~。
ただ翠星石が思うのは水銀燈がヤバイからなのですぅ」
「水銀燈がヤバイ?どう言う意味なんだい?」
首をかしげながら質問をする蒼星石に翠星石は大きな声で答える。
「ここまで聞いてまだ解らんかですぅ。水銀燈がライブをヤッてるのが
バレたりしたら今度こそ水銀燈は退学になりやがるですぅ」
「翠星石、君はそこまで考えていたのかい・・・」
「当たり前ですぅ、水銀燈は大切な仲間なのですぅ!それにもう誰か居なく
なるみたいな話はイヤなのですぅ」
翠星石は今回の真紅、水銀燈の飲酒問題で一番心配し、真紅と水銀燈に
一番多く皮肉たっぷりのメールや電話を入れていたのであった。
*
薔薇乙女達がよく集まる茶店アンセム、そこで蒼星石はメンバーに集合
をかけ、昨夜の翠星石との会話を告げた。
「確かにバレたら水銀燈はヤバイかしらッ。でも水銀燈の復帰を待ってる
人も多いのかしら~」
「ヒナは水銀燈に早く帰ってきて欲しいの~。でもバレて居なくなるのは
イヤなの~」
「私は早く 真紅、水銀燈と一緒に ヤッてみたいわ」
「そうだね、薔薇水晶はまだ真紅、水銀燈とはまだ音合わせもした
ことがないんだったね。停学がとけたら一度ヤッてみようよ」
蒼星石の言葉に金糸雀が突然大きな声をあげる。
「5月の薔薇女、音楽祭があるかしら~」
それには翠星石が答える。
「停学2人組みがいるから春の出場はダメと言われたですぅ」
パフェ、卵サンド、苺ソーダフロートなどが置かれたテーブルで考え込んで
しまう翠星石達。スプーンでグラスに浮かぶバニラアイスを突付いていた
雛苺にあるアイデアがうかぶ。
「ヒナにイイ考えがあるの~」
「イイ考えって何ですぅ。くだらない事ならここのオゴリ決定ですぅ」
「うぅ~・・・あ、あのね、ヒナはラプラスの巴と時々メールしたり電話
するの。だから巴にライブハウスを紹介してもらってラプラスがいた街で
ヤッたらバレないの~!」
「そのアイデアいっただきかしら~!」
雛苺が巴に連絡しラプラスが高校時代に出ていたライブハウスを紹介して
もらってる頃、蒼星石が今回のアイデアを真紅、水銀燈に電話報告する。
「それはイイ案なのだわ。私たちのことを考えてくれて、本当に感謝
してるって、翠星石にも言いたいのだわ、翠星石と代わって頂戴」
「翠星石は真紅、水銀燈復活ライブで目立ちたいからって服を買いに
行ったよ。なんでも雛苺が買ったワル服に対抗するためだって言ってたけど」
受話器越しに苦笑する蒼星石にタメ息をつく真紅の声が聞こえてきた。
「まったく、その服を見てから決めるのだわ。変な服なら却下よ!」
その頃、ミリタリーショップで物色する翠星石の姿があった。
(これで決まりですぅ、男はみんな制服が大好きなのですぅ。チビ
苺がワル服なら翠星石は本当のワル服とかっこ良さで決めるですぅ)
店を出た翠星石は紙袋の中身を確かめニヤニヤと笑い出す。
(やっぱりナチスドイツですぅ、ジオン軍みたいでカッコイイですぅ)
翠星石が手にしているのはアルゲマイネSS、それは第2次大戦で
ドイツ軍が着ていた黒い制服であった。
ニコやかな顔つきで駅に向かう翠星石。電車の中はゴールデンウィーク中
なのか時間帯なのか、人の数がいつもより若干多く翠星石は窓際に
引っ付くように立ち、車内から流れる景色を見ていた。
*
翠星石がナチ服を握りしめ電車に揺られてる頃、ラオウが昇天する画面を
見て水銀燈はニヤリと笑い景品交換所から10万円近い札を手にするとタイト
なジーンズのポケットにそのまま入れる。
(ウフフ、勝っちゃった、勝っちゃったァ~。設定6は最高よぉ)
軽い足取りで駅へ向かい何を買おうか考える水銀燈の携帯がメグからの
着信を知らせる。
「もしもし、水銀燈。大丈夫なの?」
緊迫したメグの口調に水銀燈は駅前にある噴水脇のベンチに座り反対に
聞き返す。
「どうしたのメグぅ、何かあったのぉ?」
「何かあったじゃないわよ、巴から聞いたよ。真紅ちゃんと退学になり
そうだったってヒナちゃんから連絡があったって聞いたわ」
パチスロで大勝ちする前に蒼星石と真紅から雛苺の案でラプラスがいた街
でライブをする計画を知らされていた水銀燈はそろそろメグから電話が来る
頃だと思っていたようで普段と変わらない口調でこれまでの経緯を
冗談交じりで話す。
「ウフフ、楽勝よぉ~、私とォ真紅が退学になるはずないわァ~」
「水銀燈の話を聞いて安心したわ。でも薔薇乙女はみんな素敵な仲間ね」
「当たり前よぉ、みんな最高の仲間よぉ。翠星石なんかライブがバレたら
ヤバイからワザと私を卒業までェ外そうと考えてたみたいだしぃ~。でも
今になったらァ、ちょっとムカつく考えだわァ」
「フフフ、翠星石ちゃんは水銀燈の事を想ってるのよ」
メグの言葉に水銀燈はテレ笑いを含みながら答える。
「解ってるわよぉ、でも今の薔薇乙女のサウンドがイイなんて言ってる
のよぉ、ねぇ、ちょっとムカつかないィ~?」
「フフフ、それは問題ね、もしかして薔薇乙女は解散?そうなったら
水銀燈はラプラスに入ってもらおうかなァ~」
「やぁ~よ、メグのギターと私のギターは正反対だわぁ。合わないわよぉ」
「あら、それは水銀燈がダメで私のほうが上ってワケね。フフフ」
メグの言葉に笑いながらも少しムキになる水銀燈。
「それは逆よぉ、メグより私が上よォ」
「じゃあそのうち勝負よ水銀燈」
「イイわァ、場所はどこでもOKよぉ、ウフフフ」
水銀燈の言葉にしばらく考えていると始めて薔薇乙女の音を肌で感じた
あの日のことが頭をよぎる。
「じゃあ水銀燈と初めてあった市立文化ホールでね」
「望むところよぉ~。私はいつでも準備ばぁ~んたん」
「そうね、お互いが表舞台に出てからね。フフフ」
「イイわぁ、表舞台はラプラスより薔薇乙女が先に出るわよぉ。ウフフ」
その時、メグと話しているベンチの後ろを翠星石は気付かずに通り過ぎ
点滅した信号を見て交差点を急ぎ走って渡る。
「じゃあ、またねぇメグぅ。来年はみんなで東京に行くからぁ」
「楽しみにしてるわ、市立文化ホールの前に東京でタイバンよ」
話を終えた水銀燈がベンチから立つと噴水に設置された時計の針は
午後9時を少し回っている。何気に時計から視線を外すと交差点を
渡り向こう側を歩く翠星石を見つける。
(噂をしてると本当に出会うものねぇ。追いかけてビックリ
させてやるわぁ。ウフフフ)
赤信号で立ち止まる人込みに紛れている水銀燈に気付かない翠星石は
そのまま帰りを急ぐ。
(この時間のこの通りはイヤですけどぉ~、近道はここしかねぇですぅ)
駅近くの繁華街から裏通りに足を進めると、そこは派手な原色のネオン
が怪しく光る店やホテルが並んでいる。
すでに足付きがおぼつかない酔っ払いの姿もチラチラ見られ必要以上
に短いスカートを穿いている翠星石をなめるように見つめる。
(このエロオヤジぃ最悪ですぅ。早く帰るですぅ)
翠星石の足は自然と速くなり出したとき前から来る3人組の40歳半ばほどの
酔っ払いが突然両手を広げて立ちはだかり近寄ってくる。
「イイ足してるねぇ~。姉ちゃんも援助交際ってやつヤッてんだろ?」
そういい肩に手を伸ばそうとする手を払いのけようとする翠星石。
「止めやがれですぅ、このエロオヤジぃ~」
「おいおい、ちゃんと金は払うからさぁ~」
男はそう言いながら払い退けようと伸ばした翠星石の手を掴み強引に
引き寄せ、もう一方の手を翠星石のスカートに伸ばそうする。
(も、も止めてですぅ)
目を閉じ涙をためた翠星石のスカートを掴もうとした瞬間、悲痛な声が
漏れ、男は崩れるように膝を地面に着く。
「あぁ~ら、ゴメンなさァい。痛かったぁ~?力が入って折っちゃったわぁ」
口元に冷たい笑みを浮かべた水銀燈が逆方向に折れ曲がった男の人差し指を
握り、立っている。
「私ぃ、酒グセ悪い男は嫌いよぉ~」
そう言い水銀燈は折れた指をなおも締め上げ膝を着く男の顔に
ケリを入れるとグシュと鈍い感触がショートブーツ越しに伝わる。
折れた鼻を押さえ地面に倒れこむ男を見て水銀燈の冷たい笑みは
よりはっきりと口元に現れる。怒りの声を出したもう一人の男が水銀燈に
近寄る。
「おい、お前!・・・ウゥゥゥッ」
男が水銀燈に近寄ると同時に水銀燈の足は男の股間を捕らえていた。
「男はあせっちゃダメよぉ~、ソンするわよォ。ウフフフ」
すでに冷たい笑みは水銀燈の顔全体に広がっている。
「私の仲間に手を出した償いにしてはラッキーねぇ、貴方達はまだ
完全なジャンクになってないからぁ~」
残るもう一人の男に近寄る水銀燈。それを唖然と見ていた翠星石が叫ぶ。
「そ、そこらで止めやがれですぅ!それ以上はダメなのですぅ~!」
「でもぉ、まだクソが一匹残ってるわぁ~」
騒ぎに近くの店から表に出てきた人や通りがかった数人の人達が
ことの成り行きを周りで見ている。その中から一人の男が翠星石と
水銀燈に声をかける。
「おいおい、そこらでイイだろう?オレは始めから見ていたよ、
お姉ちゃん方は悪くねぇ。後は警察に任せておけばいいだろう?」
(チッ、まぁ~た警察ぅ?やっかいだわぁ~)
最終更新:2006年05月14日 03:50