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「乾杯なのだわ!」
真紅の声にそれぞれがグラスを合わせ今夜のライブの成功を祝う。
「プハァ~。汗をかいた後のビールは格別ですぅ~」
「そのとおりかしら~。来週もこの調子でイクかしらッ」
音楽コンクールでの成功は真紅達、薔薇乙女というバンドをただの
ロック好きな女子高生が趣味で組んだありきたりのバンドという枠を
はずれ今や真紅達が住む街では名が知れたバンドになっていた。
翠星石が雛苺が飲んでいるストロベリーフィズカクテルを物欲しそうな
顔で眺める横で蒼星石はビールを飲みほしながら真紅に話しかける。
「この時間がいつまでも続いたら最高だろうね」
「ええ、そうね。バンドをヤッていて本当に良かったと思うのだわ」
真紅と蒼星石の会話を聞いていた水銀燈も会話に入る。
「私はァ、このまま薔薇乙女として音楽界に殴りこみをかけてもイイわァ」
「それって僕達でメジャーデビューって事なのかい?水銀燈」
「そうよォ~。だって私達はぁ、最高のバンドよォ。このまま卒業したって・・・」
水銀燈の言葉は途中で途切れた。その言葉を績めるように真紅の言葉が続く。

「そうね、このまま終わる訳ないのだわ。私達、薔薇乙女は最高よ!」
真紅の力強い言葉にみんなが一斉に声をだす。
「そうですぅ、翠星石達が一番なのですぅ~!」
「当ったり前かしら~!」
「ヒナもずっとみんなと一緒にバンドをヤッていきたの~!」
「このまま一気にイクわよォ~」
「それじゃ、もう一度乾杯だね」
「乾杯なのだわ」
真紅達は笑顔でイスから立ち上がりそれぞれを見つめる先には
笑顔の真紅、水銀燈、雛苺、翠星石、蒼星石、金糸雀がいる。
ひとしきりそれぞれの笑顔を確認した彼女達は口を揃え大声を出す。
「薔薇乙女最高!  乾杯ィィ!」
この短い言葉の中には薔薇乙女としてこの先進むべき道と期待と
夢が込められた熱い乾杯の言葉であった。
そんな彼女達、薔薇乙女にとって高校生活最後の1年が始まろうとしていた。

                    *

真紅達が住む街から高速道路を東に2時間ほど走らせると徐々に建物の数が増
え、そのうち高層ビルが立ち並ぶ日本有数の大都会になる。
その街では有名なお嬢様学校であり帰国子女や留学生が数多く在籍する
聖コリンヌ学園がある。
「あと2週間だねぇ~、この黒板を見るのも、この教室にこうしているのも」
卒業式をまぢかに控えたメグ達ラプラスのメンバーは春が近づき優しい日差し
が差し込む教室で過ぎ行く時間を惜しむと同時に新たに始まる大学生活に期待
を込めた心境で話をしていた。
幼い頃から日本とフランスを行ったり来たりの生活をしていたオディールが
流暢な日本語で話す。
「デモ良かったデス。この4人が同じ大学に合格して、私嬉しいデス」
オディールの言葉にノリは大げさにもハンカチを目にあてて言う。
「そうね、私なんかオディールはフランスに行っちゃうんじゃないかと
心配したわよ」
大げさなノリの姿を見てクスッと笑う巴。
「相変わらずノリちゃん大げさね。それと来週のライブが高校最後だね」
巴の言葉にメグも笑いながら高校最後のライブの話をする。
「来週のライブはショックリーダーでヤルのが決まったわ」
「ショックリーダーってとなりの県だよね?そこってあの薔薇女子高の
薔薇乙女の地元ね?彼女達も出るの?」
巴の質問にメグはニコッと笑い、答える。
「そうよ、先月のコンクールでのカリはきちんと返してから卒業よ!」

                    *

メグ達がライブの話をしている頃いつもの音楽準備室で真紅達もライブの
話で盛り上がっていた。水銀燈は食後の煙をフゥ~と口からだす。
「へぇ~、あのラプラスがショックリーダーでヤルのォ~。私達とタイバン
ねェ。面白いわァ~」
「油断は禁物かしら、カナが調べたところによるとラプラスはとなりの県
では物凄い人気かしら~。たぶん薔薇乙女を超えているかしら~」
「地元で負けるわけにはいかないのだわ!」
真紅の言葉に深くうなずく水銀燈の胸にはある思いがあった。
(あのメグとかいう子のギター。あの繊細なトーン。もう一度聴けるわァ)
水銀燈の脳裏にはコンクールの時に聴いたメグのトーンが強く焼きついていた。
あの聴くもの全てを魅了するかのような繊細で美しく流れるようなメグ
のギターを水銀燈はずっと考えていた。

その日の放課後、校門を出ようとした水銀燈の袖を引っ張る雛苺。
「ねぇ、ねぇ水銀燈、ヒナの買い物に付き合ってほしいの~」
「なぁに買い物って?また和菓子屋をハシゴするなら私はやァ~よ」
「違うの~、今度のライブで着るお洋服を買いに行くの~」
「ふぅ~ん、どんなのを買うのォ?」
「ヒナも水銀燈みたくワルぶってる服を買いたいの~」
水銀燈は好んで使い古したような革ジャンをよく着ていた。
つい先週のライブでも背中に天使がタバコを持つ絵の書いたライダースを
着ていたのを興味津々の眼差しで雛苺が見ていたのを水銀燈は思い出した。
「ヒナも革ジャンとか買うのォ~。今からユニクロに付いてきてなの~」
「貴女本気で言ってる訳ェ?そんなとこには置いてないわぁ」
「ほえぇ~?じゃあどこにあるの~?イトーヨーカ堂?」
「本当におバカさんねぇ。いいわぁ少し遠いけど連れて行ってあげるわァ」
水銀燈と雛苺は電車に乗り目的地に到着するとすでに夕暮れ近くであった。
2人は駅からさほど離れていないショッピングモールを歩き古着屋に入り
雛苺が選んだ「?」な服を購入し、駅に向かい歩く水銀燈と雛苺。

※雛苺が選んだ「?」な服↓
Illust ID:fAoscVvk0 氏(23rd take)

「雛苺のセンスに文句はないけどぉ、それは見た感じハードゲイよぉ」
「ヒナ女の子だもんゲイにはならないの~。水銀燈はそんなのも知らないの」
「・・・貴女、私の言ってる意味解って言ってるぅ?」
不意に2人の耳にギターの音が入ってくる。その音に足を止める水銀燈。
(あれ、このトーンは、確かラプラスのギターぁ?)

そのかすかに聞こえる小さな音はショッピングモールから横に伸びた路地に
ある大きな楽器屋から聞こえていた。水銀燈はそのトーンに惹かれるように
店のドアに手を掛ける。
重く厚い防音処理をしたドアが開くと同時に水銀燈の鼓膜をメグのトーンが
直撃する。それは繊細で流れるようなトーンに混じりどこかで芯がある力強さ
も感じられる不思議なトーンであった。
(コレよ、この音よォ。私が聴きたかった音だわぁ~)
メグの細く今にも折れそうな指先から作り出されたオズの魔法使い
Over the Rainbowのメロディーが店内をメグの音が支配する世界に変えていた。
「ほえぇ~、凄くキレイな音なの、それに凄く早いの~」
「えぇ、インペリテリバージョンのOver the Rainbowそのままねェ」
そのときメグは店内で自分を見ている視線に気付きギターから手を離す。
メロディーが止りメグは水銀燈と雛苺にニコリと笑いかける。
「確か薔薇女子高の薔薇乙女のメンバーの人でしょ?」
「えぇ、そうよォ~」
「私はラプラスのギター、柿崎メグ、よろしくね。貴女達は?」
「私は薔薇乙女の雛苺、よろしくなの~」
「ギターの水銀燈よ」
コンクールの時に見せた水銀燈の圧倒的なパフォーマンスと
エネルギッシュなトーンがメグの脳裏に甦り、しばし水銀燈を見つめるメグ。

「水銀燈さんってギターのテク凄いのね。私聴いてて鳥肌できちゃった」
「さん付けなんて気持ち悪いわァ。水銀燈でいいわよォ」
「じゃぁ、私もメグでいいわよ、雛苺さんもメグって呼んでネ」
「了解なの~。メグもヒナのことヒナって呼ぶの~」
「水銀燈さんのタッピングにはビックリしたわ、どのくらい練習したの?」
「さん、じゃなァくぅてェ~、水銀燈でイイわよぉ~。練習は蒼星石が
貸してくれたビデオをみたらァ、すぐ出来ちゃったわァ~」
「蒼星石?」
「ベースの子よォ。で、ドラムの翠星石と双子の・・・・」
水銀燈と雛苺はメグに薔薇乙女というバンドの紹介をする。メグは時に
無邪気に笑い、時には「ん~!」と考え込むような仕草を見せた。
「ねぇ、水銀燈。今、ちょっとでイイからギターを弾いてみてよ」
「やァ~よ」
水銀燈が否定をすると2人の会話を聞いていた店員が話しに入ってくる。
「オレも聴きたいなぁ。あんただろ?コンクールでラプラスより拍手を
もらった薔薇乙女のギターって。メグから聞いてからオレもあんたの
ギターに興味があるんだよ」
そういうと店員はレジの裏からギターを出し、水銀燈に渡す。
ギターを手にする水銀燈の顔には少し険しい表情が見て取れた。
男に「ギターに興味がある」と言われたのはあの日、白崎に言われて以来である。
「いいわぁ、そこのアンプにセットしてもらえるゥ?」

メグと水銀燈の成り行きを見守っていた他の客の中から一人の少女が
出てきて素早くセットする。その少女が着ているのは水銀燈と同じ
薔薇女子高の制服であった。
「同じ高校ねぇ、貴女は誰ぇ?」
「私は薔薇水晶・・・真紅と翠星石と同じクラス」
薔薇水晶と名乗った少女はそれだけ言うと他の客に混じり水銀燈を見つめる。
(何ィ、この子。まぁイイけどぉ・・・)
ゆっくりと左手をネックに回し、握り感を確かめるとマーシャルから軽く音が
出る。その音は猛獣が威嚇すかのような太く鋭い響きがする。
それは水銀燈が好むトーンに近かった。
(へぇ~、薔薇水晶って言ったわねぇ~。なかなか解ってるじゃない)
ニヤリと笑うと水銀燈がつまむピックが動いた。その瞬間に店の色が水銀燈色
に染まる。他を威圧するかのようなトーンから繰り出される音の壁はまさに
重厚であり、また女性の悲鳴をも連想させるチョーキングは空気をいとも簡単
に切り裂き、水銀燈が最も得意とするタッピングはまるでオドケてダンスを
踊る道化師のごとく変幻自在であった。ただいつもより若干攻撃的なトーンは
薔薇水晶がそうセッティングしたのか、水銀燈に白崎のことを思い出させた
言葉がそうしたのかは解らなかったが、水銀燈が弾き終えた時に出た店員の
言葉が全てを語っていたようにも思われた。
「こ、怖ェ~。女が出すトーンじゃねェよ!」

                    *

次の日の放課後、雛苺から昨夜のことを聞いた翠星石は怪しい日本語を
炸裂させながら水銀燈に質問する。
「何ですぅ、ラプラスのギターとバッタリ会ってバッチリ弾いたあるか?」
「まぁね。ところで雛苺は見なかったァ?」
「チビ苺がどうかしたですぅ?」
「買った服をどこかにィ忘れたみたいで落ち込んでたからねェ~」
「翠星石は知らねぇですぅ。所でチビ苺はどんな服を買ったですぅ?」
「最悪だわァ~。見た感じハードゲイそのものよぉ~」
水銀燈と翠星石が話しながら校門に近づくとそこには笑顔の雛苺がいた。
その横には赤いBMWが停まり中から巴とメグが降りてきた。
「これ、ヒナちゃんの服でしょ?昨日お店に忘れてたわよ」
「うわぁ~い、ヒナのワル服だぁ~。ありがとうなの~。あっ水銀燈だぁ」
雛苺が指差す先を見ると水銀燈とその後ろに隠れるようにしメグと巴を見る
翠星石の姿があった。
「あれがラプラスのメグですぅ?」
水銀燈の背中に隠れ小声で囁く翠星石の問いに水銀燈はニコッと笑う。
「そうよぉ、雛苺のゲイ服を届けてくれたみたいねェ~」
メグも水銀燈と同じくニコッと笑い水銀燈に手を振っている。


その後メグ、巴、雛苺、水銀燈、翠星石5人は薔薇乙女がよく利用している
貸しスタジオに向かう。金糸雀が借りたスタジオに入る時間が迫っていること
を告げると車で送ってくれることになった。車内では人見知りの激しい翠星石
以外はわりと打ち解けながらスタジオに到着した。
水銀燈と雛苺がメグと巴を真紅達に紹介する。
「わざわざ届けてくれて、もし良かったらゆっくりしていくといいのだわ」
真紅の言葉にメグも巴も腰を下ろし真紅達と雑談する。ときおり見せるメグ
の無邪気な笑顔とはにかんだような笑みをみせる巴に真紅達はライバル視し
ているバンドという考えから同じ趣味をもつ仲間という感じに変化していった。巴と蒼星石が思いついたように同時に同じ言葉を発する。
「今度のライブは一緒に何かやろうよ?」
その言葉に真紅と金糸雀が飛びつく。
「それはいいアイデアなのだわ!」
「薔薇乙女とラプラスが融合?ドキドキするかしら~」
水銀燈とメグは互いを見、軽く笑いあう。
(メグとギターでジャムるぅ?面白そうねぇ~)
(水銀燈のギターにパワー負けしないようにしなきゃ)
その日にノリ、オディールにも連絡がいき、次の日からは薔薇乙女とラプラス
は互いの曲や音合わせをするようになる。
そして週末、ショックリーダーには長い人の列ができていた。


最終更新:2006年05月17日 14:41
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