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人気急上昇中のロックバンドRozenMaiden。
彼女達の勢いは衰えることを知らない。

今日もスタジオに、美しい音が流れ始める。

と、急にスタジオの扉がノックされた。
演奏はそこで中断される。
「誰だろう」
蒼星石がベースを弾く手を止め、扉に寄る。
「金糸雀じゃないですかぁー?あいつ、今日は遅れてくるって言ってたです」
翠星石は言い放つと、ドラムを軽く鳴らし始めた。
曲が気持ち悪く終わってしまったため、再び最初から練習を始める。
「まったく、あの子もおばかさんねぇ」
水銀燈はやる気をなくしたのかパイプ椅子に腰をかけてヤクルトの封を開いた。
「ちょっと水銀燈!まだ練習は終わってないのだわ!」
真紅が言うが、水銀燈は「関せず」の表情を浮かべ、こくん、と口に含みはじめる。

背後の様子を気にしながらも、蒼星石は扉を開いた。
「どなたですか、と……?」
そこには、見知らぬ客人がいた。
ドラム打ちをしていた翠星石も手を止める。
「えーと………?」
蒼星石が少し困ったように呟いた。
「(ど、どこか薔薇水晶に似てませんか?)」
翠星石が隣にいた雛苺に話し掛ける。
「(似てるのー!双子なの?)」
リレーのように薔薇水晶へ話し掛けるが、薔薇水晶はただ無言で否定した。
どうやらまったくの他人らしい。

彼女は無言で蒼星石を見つめる。
右目は薔薇のコサージュで隠れていた。
そこがまた微妙に薔薇水晶に似ているところなのだが。
「今はね、練習中なんだ。サインはあとで……」
「カナを」
突如客人が口を開く。

「へ?」
思わず変な声を上げる。
「カナ……金糸雀を呼んでいただけませんか?」
しん、と静まり返るスタジオ。
「(い、意外な展開ですぅ)」

「金糸雀になんの用事?」聞くが、彼女は答えない。
「……………」
「今、金糸雀いないんだ。こっちのほうに来たら伝えとくよ」
蒼星石がにこっと笑う。ガールズキラーのその笑み。
だが、その人は表情を微動だにせず、軽く礼をすると何も言わずに身を翻した。
と、そのときだ。
「皆様こんにちわかしらー!美人マネージャー金糸雀参上かしらー!」
別の出口から、渦中のマネージャーがやってきてしまった。
あぁ、話がさらに複雑になった、と蒼星石が頭を抱える。
「金糸雀……」
真紅がつぶやく。と同時に金糸雀の耳に声が届いた。
「カナ!」
「あっ!ちょっと!」
蒼星石の制止も振り切り、彼女は金糸雀の元まで走ってきた。
その姿を確認すると金糸雀は一気に顔を白くする。
「きっ!きらきー!?」
きらきー、と呼ばれたその少女の肩には、今気付いたのだが黒光りするギターケースがあった。ギタリストだろうか。
「きらきー!来ちゃダメって言ったかしら!」
「そうだけど、リハにはベーシストがいないと……」
言い掛けた瞬間金糸雀は叫ぶ。言葉をかき消すように。
「と、とりあえず外出るかしら!」
金糸雀は彼女を外に押し出し、自分も外へ出ていった。

「…………何あれ」
水銀燈すらヤクルトを持った手を止め茫然としていた。
「あの人、カナって呼んでたの……」
雛苺は少しむくれたような表情で扉を見た。
一種の嫉妬のようなものだろうか。
「ベーシストがどうたらって言ってたのだわ」
一同の視線が一瞬蒼星石へ向かう。
「ぼ、僕は無関係だよ」
「わかってるですぅ、んなことは」
翠星石がはぁ、とため息をついた。
「普通に考えて金糸雀とベーシストって
ものすごくねじれの位置にあると思うんだけどぉ」
ヤクルトを一気に飲みあげて、殻をごみ箱にシュートする。
見事殻はインした。
「うゆ……?カナは……」

言い掛けた瞬間、スタジオの扉が開く。
「改めて美人マネージャー金糸雀参上かしらー!」
金糸雀が入ってくる。
あのきらきー、と呼ばれた人はいない。
「今日はちょっと用事できたかしらー。
スタジオは9時までだから、8時50分には出てほしいかしら。
あ、スタッフの人にはちゃんとお礼言うのよ。じゃ!」
「まっ、待つです金糸雀!」
言いたいことを言って帰ろうとする金糸雀を翠星石が慌てて止める。
「少しは翠星石達に説明してほしいですぅ!」
「そうだよ。さっきの彼女は誰なの?」
言われた瞬間、金糸雀は明らかに動揺していた。
あはは、と引きつり笑いをしながら
「あ、あの子、雪華綺晶はカナの友人かしら。
今日はちょっとこっちのほうに出てきてて。
あっ、彼女実は趣味がギターで、これからどこかで演奏を………」
「金糸雀、私達の目を見て話しなさい」

12の瞳に見つめられ、金糸雀はさらに頭を下げる。
「僕達が面識がない、ってことは、
金糸雀の前の学校の子?」「うぅ……」
「彼女との関係性を問うわ」
1人づつの尋問に、耐えきれず、金糸雀は勢い良く立ち上がった。
「いっ、今あなた達が集中しなきゃならないのは今度のライブかしら!
カナなんか気にしないで練習に打ち込め!かしら!
じゃ!」
また一気にたくし込めると、
何も言われてなるものかと金糸雀は脱走した。



スタジオにまた静寂が降る。
それを、すぐに誰かが破る。
「…………追う?」
薔薇水晶の一言に全員がにやりと笑った。

                    *

スタジオを飛び出ると、6人は金糸雀の姿を探した。
特殊な髪の色をしているため、見つけるのは容易いはずだ。
6つの視線が街中を巡る。
だが、それらしき人はまったく見当たらない。
「あいつ足だけは早いですからねぇ。もう遠くにいるかもしれねぇですよ」
学生時代から遅刻魔だった彼女に走らない朝はなかった。
それのおかげか知らないが、7人の中では一番足が早く、長距離短距離共に早かったので、もし陸上部に入ってたらまた別のスプリンター人生があったと思う。
「そうだとしたら早速お手上げなのだわ」
わざわざ練習を中止してまで来たのに、と真紅は不機嫌そうに言った。
と、薔薇水晶がぽつりと呟く。
「いた」
だが、誰も彼女の一言に気付いてくれない。
とりあえず、近くにいた水銀燈の袖をひっぱった。
「いた」
「なぁに?板がどうしたのよ」
「いや、違う……金糸雀が」
「へ?」
薔薇水晶が見ていた方向にはバス停でバスを待つ金糸雀の姿があった。
「(ちょ、皆集合しなさい!)」
水銀燈が小さな声で呼ぶ。


赤い外見のバスが来る。
金糸雀はそれに乗り込むと、中に姿を消した。
死角の位置でそれを見ていた6人は、バスが発車したあと急いでバス停へ駆ける。
「今のは……18時03分のだね」
「蒼星石、今日は休日ですよ」
そっか、と蒼星石は休日の時刻表に目を移す。
「えっと、……あぁこれだ。
○○駅前」
「駅?」
「駅に何をしに?」
「見送りじゃない?」
なるほど、合点がいく話である。
例の雪華綺晶を見送りに駅へ向かったのなら、それは立派な用事であるし、彼女が金糸雀を尋ねて来たことにも納得がいく。
「おかしいのー。だったら秘密にする必要ないのー」
雛苺が首を傾げる。
「確かにそうなのだわ」
「おバカ苺にしては鋭いですぅ」
とにかく、と水銀燈が雑談にうんざりして言う。
「なんであれここまで来たら最後まで追跡するわよぉ」

最終更新:2006年07月12日 16:39