割勘でタクシーに乗り込み、バスより先回りして駅に着こうと計画。
実際、早く到着することができ、彼女たちはバスを待ち伏せをすることにした。
「ちょっと誰か37円払ってないのだわ!誰!?」
「うっさいわねぇ、37円ぐらいいいじゃない」
「ダメなのだわ!早く出しなさい!」
「……あっ、2人とも、バス来たよ!」
蒼星石が言い争う二人をひっぱり、皆が待つところに連れていく。
バスの開く音がし、中から数人の人たちが降りてくる。
中には、もちろん金糸雀の姿もあった。
が、彼女は一人ではなく、誰かを連れていた。
「(いつのまに合流してたですか………)」
「(あの人も見たことないのー)」
黒髪のポニーテールの女性。眼鏡が知的なイメージを醸し出す。
「(あ、駅には………?あれ?入っていかない)」
2人は見事に駅をスルーし、どこかへ歩きだす。
「(怪しいのー!)」
「(追うのだわ!)」
「(言われなくてもするわよおばかさぁん)」
「(な、なんですって!?)」
「(おまえらはもういいです、追うですよ!)」
その駅は港に近い駅で、古風な感じの町だった。
のんびりと歩く2人の後ろを、6人の乙女がこそこそと追跡する。
「(どこ行くのでしょうか?)」
「(うーん、流れ的にはフェリー乗り場かな?)」
すぐ傍には大きな建物がある。
「(わぁ、お船なのー!大きいー!)」
雛苺が目を輝かせて停泊していたフェリーを見る。
「(なんなら乗っていきますか?チビ苺だけ)」
「(ひっ、ひどいの翠星石ぃー!)」
2人はどんどんフェリー乗り場へ近づく。
「(…………船乗ってどこ行く気なのよぉ)」
やはり、誰かの見送りだったのだろう。
水銀燈は面倒臭そうに呟いた。
「(別に秘密にしないでもいいのに)」
「(あいつも水臭いやつですぅ)」
双子も呆れながら笑う。
「(まぁここからはよそ者はいらないのだわ。
練習仕直し。帰るわよ皆)」
「(……でも……もうスタジオ次の組が使ってる……)」
帰る雰囲気になりかけたそのときだ。
「(!?ち、ちょっと待つのー!)」
予想は見事に外れた。
彼女達はフェリー乗り場の前をちらりとも見ずに歩いていく。
そして、そこから少し離れた場所に足を止めた。
そこは蔦が絡み付いた小さな建物。
何か言葉を交わすと、2人は中へ入っていく。
「な、なんなのここは」
姿が消えたことを確認すると、帰りかけた足の向きを変える。
その建物の前に集まる。
どうやらここは……。
「え、るざ……ライブハウス?」
にしか見えなかった。
自分達自身も似たようなライブハウスを借りたことがある。
倉庫街に違和感なく溶け込んでいる様にかっこよさを感じる。
「えーっと、今日のバンドは……『pizzicato』の貸し切り…ってあるけど」
看板にはそう書かれていた。
『あのナイト(騎士)達とプリンセス(姫)が
ついに今夜ERSAに降臨!』
みたいなキャッチフレーズででかでかと飾られていた。
写真がないため確認は取れない。
遠目で見ると、その建物の中は
外見に比べきれいで、広い。
まだ中にはスタッフらしき人しかいなかったが、
チケット売場やグッズ売場が完璧に設営されている。
「わ、わかんなくなってきたですぅ。
金糸雀とピッジカトがどー関係あるんですかぁ!?」
「翠星石、落ち着いて。それにピチカートだから」
開演は20時から。
金糸雀への疑惑を胸に抱きつつ、そのライブを見ていくことにした。
P.M 18:34
「ヒナお腹空いたのー」
「…………赤ピーマン、食べる?」
「かじれと?生でかじれと?」
P.M 18:38
「あら?雛苺は?」
「泣きながら水飲みに行った」
P.M 18:49
「そーいや、件の雪華綺晶はどうなったんですかね?」
「さぁ……でも金糸雀がここに来るまでに彼女はいなかったね」
P.M 19:01
「待たされるオーディエンスの気持ち、わかった気がする」
「ですねぇ」
「暇だわぁ、真紅、なんかおもしろい事してぇ」
「そうね、日本国憲法を第一条から朗読しましょうか?」
「ごめんやっぱいいわぁ」
P.M 19:17
「私は土星人だったわ」
「ヒナは天王星人なの」
「僕達は火星人の霊合星人だね」
「私は水星人よぉ」
「…………木星人」
P.M 19:26
「むげぇーんだーいなー夢のあとのぉー!」
「こんなとこで歌うなですぅ」
「……………でも、私もそれ好き……」
P.M 19:48
「どうせ海来たんだしぃ、ちょっと男引っ掛けに行きましょぉ」
「海関係ないしそんな時間はないわよ。
あと12分で開演なのだから」
気が付くとライブハウスの周りには朝の満員列車並の人込みができていた。
男女共に、いろいろな人たちがいる。
こんなに多いと、自分達がROZEN MAIDENである事も気付かれなかった。
「意外とバレないものね」
「まぁ格好が普段着だしね」
さらに人は増え、先程通ったフェリー乗り場よりも向こうまで長蛇の列ができていた。
「ひっ、人多すぎですぅ!あっ!このやろ!今押しやがったですね!」
「………あっ……うわっ……」
「まだ開かないのぉ!?」叫んだ瞬間、扉がゆっくりと開いた。
「開場ですー」
スタッフはもう慣れたもの、と冷静に外へ伝える。
瞬間、どっ、と人込みが開いた扉へ流れた。
「ま、マナーがなってないのだわ」
流れに逆らえず無理矢理中へ入れられてしまい、
バラバラになりそうになったため6人は隅に寄る。
「パンフでも買ってみる?」
蒼星石が尋ねる。
成る程、パンフレットには詳しい詳細が載っているだろうし、金糸雀の事についてヒントがあるかもしれない。
「そうね……頼むわ蒼星石」
「僕に買わせる気かい?」
だが、気が付くと購買エリアには何も置かれていなかった。
完売、というやつか。
買えなかったファンが狂乱しているのが目に入った。
「会場恐いのー……」
雛苺は顔を青くした。
「確かに。ここよりひどそうですぅ」
ここにいてもすでに会場内に入った人たちの声が届いてくる。
はぁ……と真紅はため息をついた。
「仕方ないわ。行くわよ」
「……………生きて帰れる事を祈る」
ぽつりと呟いた薔薇水晶の声は、周りの声にかき消された。
会場内。
予想どおり、中はものすごい世界だった。
あれだけの人数を収容ことができる、この会場に驚きを隠せない。
「ほんっとにオーディエンスの気持ち、わかったわぁ……」
水銀燈はうんざりと呟いた。
周りでは始まる前から絶叫してる人たちもいる。
口々にメンバーの名を叫んでいるようだが、
真紅達にはなんと言っているのか聞き取れない。
「ヒナ帰りたいのー……」
「何言ってるの、今ここで帰ったらチケット代が無駄になるじゃない。
来たからには最後までいるわよ」
「金糸雀ぁー恨むわよぉー………」
数分経ってから、急に会場内が暗くなった。
と同時に周りが一気にボルテージアップする。
「ぎゃぁぁぁーうるさいのー!!!」
「ひぎゃぁぁぁぁぁー!」「ぎゃぁぁぁー!薔薇水晶の顔がぁぁぁあー!」
阿鼻叫喚。今の状況にぴったりな言葉である。
そして、ステージにスポットライトが当てられる。
すると、会場が先程と違い、シンと静まりかえった。
ここのオーディエンスは統率力があると思う、と真紅は思わず考えてしまった。
カツ、カツと革靴の音が会場に響く。
闇の中から、ゆっくりと3人が登場した。
全員が俗に言うボディガードの格好をしており、ステージぎりぎりまで立つと、客席に向け、一斉に銃を向けた。
瞬間、再び会場内が沸き上がる。
「キャーーー!!」
「うぉーーー!!!」
3人の中の1人がマイクを取る。
「………今宵はよく来たな愚民共ぉぉぉぉー!!!」
声は女性。よく見れば3人とも女性のようだ。
MCに対しこの会場壊れてしまうのではないのか、と思ってしまうぐらいの音が響く。
耳が痛い。
…………と。
「……ねぇ、あれ……さ」
蒼星石が恐る恐る呟く。
「………私は何も見てないわぁ、えぇ」
水銀燈は首を振る。
「きっと、きっと見間違いですぅ」
ステージの上の彼女たち
1人は桃がかった白い髪の、薔薇のコサージュをしたギタリスト。
1人は漆黒の髪をした、眼鏡をかけているドラムのスティックを持った女性。
だが、彼女達が驚かされたのは、ステージ上のただ一人。
夢であってほしい。
エメラルドの髪をした女性が
ベースを持ってそこに立っていることを。
最終更新:2006年07月12日 16:42