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――――朝が好き。どの季節も朝は空気が透き通っている気がするから。


――――昼も好き。太陽がサンサンと降り注ぐ中のお散歩はとても気持ちがいいから。


――――夜だって好き。外は暗くなってちょっぴり怖いけど…たくさんの星さんたちが明るく照らしてくれるからすぐに怖くなくなる。


他にもね、いっ~……~ぱい!好きなものがあるのっ!!
食べ物だったらやっぱり“うにゅー”がいいの~。
白くてぇ、黒くてぇ、赤くてぇ……ぷよぷよしててぇ……甘くって!
だからわたしはとってもうにゅーが大好きなの――――っと…何のお話してたっけ?
う~んとねぇ……あっ!そうなの、思い出したの!
最近忘れっぽいの、ゴメンね。
きっかけ…って言われても、あまりピンとこないのー。

ただ、わたしはね―――みんなといつも一緒にいたかっただけなの―――

ヒナがまだ学園に通ってたころ、毎日がとても幸せだったの。

 だって学園に行けば――――お姉さんみたいな真紅がいて、イジワルだけどホントは優しい翠星石がいて、いつでも優しくてカッコいい蒼星石もいて。
それでぇ、ちょっぴりドジだけどカワイイ金糸雀がいて。無口なんだけど、ヒナはなんとなく薔薇水晶のことはわかるの。とっても優しい子なの!
見た目で誤解されがちだけど…ホントはいい人なの。とってもキレイな恥ずかしがり屋さんな水銀燈がいて……。

 ―――――ヒナは、みんながいれば毎日がとーっても楽しくて幸せで嬉しかった

 いつまでもみんなと一緒にいれたらいいのーって、いつも思ってたの。でもね、みんなは一つの所に止まったままじゃなかったのね。
翠星石が「バンドをするですぅ」って言ってから、ヒナ以外みんな翠星石に付いていちゃったの。
 まえと変わらずにお話はするんだけど…音楽のお話になるとヒナは何も言えなくなっちゃう…。

 ――――だから笑ってゴマカシテタ

 いつだったかなぁ…そのことを蒼星石に相談したのって―――――

夕暮れの放課後。忘れ物をしたわたしは茜色に染まりつつある教室に戻ると、そこには蒼星石がいた。
一人でいるのは珍しいと思った。いつも大体翠星石とかみんなといるのに。
そう思いながら同時にいい機会かも、とも思った。
 「よし…いくの…!」
声に出して決意を固める。まっすぐに蒼星石の近くに寄った。

 「ねぇ蒼星石、ちょっとお話があるの…」
 「うん、いいよ。何?」
 「ここじゃちょっと話しにくいの…」
 ここはまだ学園内だから…誰が聞いてるかわからない。誰かに知られると思うと怖かった。 
 「わかったよ。じゃあ場所変えようか」
 蒼星石はわたしの気持ちを読んでくれたのか、席を立って教室を出ようとした。
 「……どうしたの?早く行こう、雛苺」
 「う、うん。待ってなのー」
 急いで蒼星石のとなりに並ぶ。
 「そんなに急がなくても良いよ。ゆっくり行こうね」
 ニッコリと笑いながらかけてくれた言葉がとってもうれしくて―――
 「うん!ゆっくりといくのー」
 だからわたしは元気な声で応えてあげた。それがみんなが抱いている雛苺のイメージだから。

                    *

 「――――それで、話っていうのは?」

 場所を変えて小さな喫茶店に入った。店内は薄くBGMを流している。その音量は決して客の会話の妨げになるものではない。
わたしたちは席につくとそれぞれコーヒーと紅茶を注文した。

 「うん…あの…最近、バンドの方はどうなの?」
 「まだまだだよ。それぞれの楽器もろくに揃っちゃいない。僕もそろそろ自分のベースを買わなきゃ…って思ってるんだ」
 「そうなんだぁ…」
 わたしはそれだけ言うとうつむいてしまった。
 「お話ってそれだけなの、雛苺」
 「ち、違うの!他にも聞いてほしいことあるの!」
 「だったら話してよ。人はちゃんと口に出さなきゃわからないことがあるんだから」
 「うん…あのね…最近みんなね、バンドを始めたでしょ?それでヒナと一緒の時間が少なくなったでしょ?ヒナね…それがとっても寂しくて…
  みんなと一緒にいたいけど…ヒナ、お邪魔虫さんにはなりたくないの…」
 もうこれ以上は言えない。これ以上はただのワガママだ。
 「ゴメンなの…変なお話して…」
 「それは別にいいんだけど…そうか…雛苺悩んでたんだね」
 蒼星石はひどく悩んでいるように見える―――――わたしのせいで。
 「今日はホントにありがとうね。それじゃヒナはこれで―――「待って!」

 席を立とうとするわたしの右手を蒼星石が取った。

「痛っ…!」
 「あっ……ゴメン。いきなり逃げようとするから…」
 すぐに離してくれたが、まだ掴まれた部分は痛い。

 「雛苺、確かに今僕たちはバンドが楽しくて他のことが少し目に入らなくなってるのかもしれない。君に対してがいい例だね。
  でも…僕は友達を忘れたりなんかしないよ。君は大切な人さ」
 どうして蒼星石は恥ずかしくもなくこんな言葉が言えるのだろう、聞いたこっちが赤くなるのに。
 「ありがとうね、蒼星石。ヒナはもう大丈夫だよ、さっきの言葉を信じるの…」

 「いや、僕の方こそ――――そうだ!」

 突然の大声を上げる蒼星石。木製の床がビリビリと震えだすほどの声量に少ないお客さんもマスターもウェイトレスもビックリだ。

 「――蒼星石ぃ声が大きすぎるのぉ~」
 まだ耳の中が揺れている。だめだ~立ってられない。
 とりあえず立とうとした席にまた座る。目の前にあったお冷やを飲んで気分を落ち着けた。
 「ゴメンナサイ…」
 耳まで真っ赤にして謝る蒼星石。正直言ってとても可愛い。それは反則なの!と思ったことは内緒だ。
 「それでーどうしたのー?急に大きな声なんか出しちゃって」
 「いいこと思いついたんだ。雛苺、週末の予定は?」
 頭の中でザッとカレンダーをめくったが、特に予定らしい予定はない。
 「これといって何もないの」
 「じゃあ今度の金曜日の放課後は?」
 「それも大丈夫だけど…一体なんなのー?」
 「よし、決まった。今度の金曜日の放課後、僕たちの練習があるんだ――――雛苺もおいで」
 突然の申し出に何も言えないで、石のように固まってしまった。
 「大丈夫だよ、他の人たちには前もって言っておくから――――」
 それから蒼星石が何か続けて話していたが、何も耳に入って来なかった。

蒼星石のこの何気ない一言がわたしの人生を変えてしまうなんて、この時は思いもしなかった。

 そして、まだわたしは気づいていなかった。

 わたしはまだ――――殻のついた雛――――だということに。



  第一話  蕾が開く時 END


最終更新:2006年06月29日 10:09
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