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「いい、金糸雀。私も辞めるなんて翠星石達には内緒よ。
これは3人の秘密なのだわ」
橋の上でしばらく流れていくレポートを見ていた水銀燈と金糸雀に
真紅が合流したのは美術室を出てから20分後の事であった。
「どうして真紅も辞めちゃうのかしらッ?」
「そうよぉ、真紅まで辞めることないわァ」
「もうウンザリなのだわ、それより金糸雀は学校に戻りなさい。今頃は
翠星石や雛苺が騒いでるはずだから・・・それから私は停学ってこと
にしておいて頂戴」
「でも、でも・・・」
「早く戻りなさい金糸雀」
何度も振り返る金糸雀を見ながら水銀燈が小声で話す。
「本当に真紅はおバカさんねぇ~。あきれちゃうわァ」
「貴女に言われたくないのだわ。それよりこれからの事を考えないと」
「そうねェ、真紅はともかく私は中退決定だからねェ~」
しばらく2人は行くあてもなくブラブラと歩きながら話す。
「はぁ~、最悪ぅ。バイトでもぉ探そうかなァ?真紅はどうするのォ?
今なら梅岡に謝れば許してもらえるんじゃァない?」
「あんなのに誤るくらいなら野垂れ死にしたほうがマシよ」
「ウフフフ、野垂れ死にィ。イイわぁ、それ。私も付き合うわぁ」

2人がこれからの不安を吹き飛ばすかのように笑っていると信号待ち
をしている大型バスが目に入ってくる。
水銀燈と真紅は互いに顔を見合わせ小さくうなずく。
「あんなクソに誤るくらいならァ~、野垂れ死にねぇ」
「そうよ、でも野垂れ死にする前に勝負するのもイイのだわ」
「それ最高よォ~。私ィ、勝負事って、だァ~いスキよぉ」
信号が変わるとバスはゆっくりと発車し出す。真紅と水銀燈はバスが
見えなくなるまで目で追いかけた。そのバスには「東京行き急行バス」
と書かれていた。
そして2人は家出の計画を話し出した。ラプラスがいた街でのライブの後、
真紅と水銀燈はこの街を出る決心をつけた。
17歳の少女達の将来、未来に対する自分なりの選択。その中にはかすかな
夢や希望、目標という想いが5月の風に乗り大きく羽ばく。
その風は先ほど走りさったバスを追いかけ、そして追い越していった。
真紅、水銀燈の決意を翠星石、蒼星石、雛苺、金糸雀、薔薇水晶の5人は
まだ知らない。
                    *

金糸雀が学校に戻ると真紅の言うとうり翠星石が他の生徒相手にケンカを始めていた。
「真紅と水銀燈の悪口を言うならこの翠星石が許さないのですぅ!」
イスを持ち上げようとする翠星石を止める蒼星石と金糸雀。
「止めるんだ翠星石!こんなことをしたらキミまで」
「暴力はイケナイのかしら~!」
「でも、でも、アイツ等が真紅と水銀燈の・・・」
「言わせておけばイイさ、真紅も水銀燈もきっと大丈夫だから」
蒼星石の言葉に金糸雀は真紅と水銀燈の事を言いそうになるのをグッと飲み込む。
(ここで真紅と水銀燈のことを言ったら大変なことになるかしら)
「水銀燈もきっと大丈夫かしらッ。それに真紅はただの停学かしら~」
「そうだよ、金糸雀の言うとうりだよ。2人ともすぐに戻ってくるよ」
蒼星石と金糸雀の言葉に翠星石は落ち着きを取り戻す。
「そうですよねッ、薔薇乙女はずっと一緒なのですぅ。そして全員で東京
に乗り込むんですぅ~」
「うん。水銀燈も泊まりに来た時に約束したし、大丈夫だよ。僕達はそろって
乗り込むんだから。それに今は来週のライブのほうが大切だよ」
「そうですぅ、忘れてたですぅ。なんてったって真紅と水銀燈復帰ライブ
なのですからッ。ねっ、蒼星石、カナ、リ。あれ、金糸雀はどこですぅ?」
「あれ、今まで僕のとなりに居たのに、どこ行ったのかな?」

                    *

「おい金糸雀。どこ行くんだ、もう授業は始まるぞ」
そんな教師の声など聞こえない金糸雀はそのまま靴に履き替えて出て行く。
「なぁに、金糸雀。うん、うん・・・えぇ、真紅と一緒よぉ~」
「今の電話だれなの?」
「金糸雀よぉ、話があるからァ~、アンセムに来いだってさァ~」
フゥ~。水銀燈の口から煙がゆっくりとアンセムの天井に向かって行く。
「それはァ、私もイヤよ。でも私は退学なのよ、もう戻れないのよ」
「私もあんな所に戻る気はないのだわ。それに私も水銀燈と同じ退学でしょうね」
「じゃ、この先2人はどうするのかしら?翠星石達はみんなで東京に行く
って希望を持ってるかしらッ!」
少し興奮気味にしゃべる金糸雀に真紅と水銀燈は先ほど決めた2人の東京に行く
想いを話すと金糸雀はテーブルに手を着き体をグイッと前に突き出し声を荒げる。
「さんざん期待や希望を持たしておいて、何の相談もなしに結局2人で学校を辞め
てその場のノリで東京行きを勝手に決めたのかしらッ。そんなのズルイかしらッ!!」
「だってェ、しょうがないじゃない。私は退学よ、退学。もう私の机は無いのよぉ!
私だってみんなと一緒に行きたいわよォ!」

「私もあんな事をしてしまったからほぼ退学は決定なのだわ。ねぇ金糸雀、もう
あの約束をした時とは状況が違うの、解って頂戴」
「そんな、真紅まで何を言うのかしらッ。もう、もう真紅や水銀燈なんか
知らないかしらァァ!!」
金糸雀はそれだけ言うとテーブルを叩き店を出て行く。
店を出ると涙で周りの景色が薄っすらとボヤける中を走る金糸雀。
(真紅と水銀燈なんてバカかしら、勝手に行けばいいかしらッ)
(なぜ真紅と水銀燈が退学かしら、そんなのはイヤかしら~)
勝手にすればいい。離れたくない。金糸雀の胸を駆け巡る2つの矛盾した思いに
金糸雀は薔薇女子高に転校してきた当初を思い出していた。
初めて会話をしたのは水銀燈のギターを見た時だった。
まだ馴染めていないクラスの中で水銀燈だけが金糸雀と一緒に昼食を取ってくれた。
水銀燈がいない時に他の生徒から邪魔者あつかいされそうになった時、助けて
くれたのが真紅と翠星石だった。音楽が、ロックが好きというだけで蒼星石、
雛苺も昔からの親友のように金糸雀を迎え入れてくれた。
その頃はまだ真紅と水銀燈の微妙な過去など知らなかったが、水銀燈がまた
真紅達と一緒にバンドを始めるのが決まった時は自分のことのように嬉しかった。
(離れるなんてイヤかしら、このままバラバラになるなんてイヤかしら)
「真紅も水銀燈も大バカかしらァァ~!!」
あふれる涙を拭うことも忘れて大声を出した後、金糸雀は泣き崩れてしまった。

                    *

真紅と水銀燈が久しぶりに薔薇乙女に帰ってくる。真紅、水銀燈とは
今回の音合わせが初めての薔薇水晶は内心緊張していた。
(うわ、真紅と水銀燈だぁ、愛想よくしたほうがイイのかな?)
「私・・・薔薇水晶・・・・よろしくね♡」
「同じクラスだけどバンドとしては始めてね。これからの薔薇乙女を
よろしく頼むのだわ」
「これからの?」
蒼星石は少し怪訝な表情で真紅の言った言葉を口に出す。いつもの真紅なら
「これからの」とはいわない「私達の薔薇乙女」と言うはずである。
「なぁに難しい顔してるの蒼星石ィ?それより翠星石はどこに行ったのぉ?」
「あぁ、まだ金糸雀から連絡がないから電話をしに行ったよ。ホラ、ここは
携帯の電波が届かないから」
今にも雨が降り出しそうな空を見上げながら翠星石は携帯を耳に当てる。
「おバカ金糸雀、何グズグズしてるですかッ、早く来やがれですぅ」
「ちょっとカゼで熱っぽいかしら、今日は止めとくかしら・・・」
「何ぃ軟弱なこと言ってやがるですか、真紅も水銀燈も居るですのにィ」
「真紅・・水銀燈・・その2人なにか言ってないかしら?」
「別に普段どうりですぅ、停学が1週間伸びたと言ってたですよ。
何ですか金糸雀?」
「ううん、なんでもないかしら~。とにかく今日は参加できないかしら」

「金糸雀はどうしたの~、おなかでも痛いの?」
翠星石がスタジオに戻るとマイクを持った雛苺が心配そうに聞く。
「カゼを引きやがったみたいですぅ。ライブまで後5日ですのにぃ~」
「そう・・・しかたないわね。今日は私達だけでヤルのだわ」
薔薇水晶のキーボードから幻想的なメロディーが流れ出し、水銀燈のギター
が追従するように入ると雛苺の高音が効いたコーラスが続く。
そこに真紅の美しくもハリのある声が切ないバラードを歌い出す。
(くぅ~、凄ぇぇのですぅ。翠星石の考えは間違ってたですぅ。やはり
真紅と水銀燈が入ると別物ですぅ、金糸雀もこれを聴いたらビビるですよッ)
翠星石の思いとは別に金糸雀はライブ前日になっても学校にすら姿を
見せなかった。

ライブを明日に控え最終的な音合わせが終わると翠星石はスタジオを
飛び出し携帯の受話器越しにツバを飛ばし怒鳴る。
「おバカ金糸雀、なにしてやがるですかッ?ライブは明日ですよッ」
「うるさいかしらッ、カナはもう薔薇乙女を止めたかしらァ!」
「な、なにを言い出しやがるですかッ、ちょっと真紅と代わるから
待っていやがれですぅ!」
「真紅と水銀燈なんか知らないかしらァ!」
そう言うと金糸雀は一方的に電話を切ってしまった。
翠星石がスタジオに戻り電話でのやり取りを説明すると真紅と水銀燈は
静かに話し出す。
「そう・・・金糸雀はそんな事ぉ、言ってるのぉ?」
「これはライブが終わるまで秘密にしておきたかった話なのだわ・・・
私と水銀燈はライブが終わったらこの街を出るのだわ」
「なッ!真紅まで何の冗談ですぅ・・そんなのウソですよね、ねっ水銀燈?」
「真紅の言うとうりよォ、私と真紅はもう学校には戻れないわぁ。それに
こんなイナカ街では何もできないわァ」
「そんな・・・じゃぁ、これからどうするですかッ?」
真紅と水銀燈はライブが終わると次の日の朝、この街を出て東京に行く
考えを告げる。そのために真紅は2日前に退学届けを出していた。
それを聞いた雛苺は涙ぐみ、薔薇水晶と翠星石は無言のままうつむいている。
そんな中で蒼星石はゆっくり話し出す。


最終更新:2006年05月17日 14:46