Story  60's好き 氏
「ヒマなのかしら~」
だらけきった声がテーブルの上で停滞し、消えた。
例によってサイゼリアの定例会議(にかこつけた雑談)
もう夏もすぐそこに迫ってせいか、この日は梅雨時期独特の蒸し暑さが店内を満たしていた。
「あっついです~、まだ六月ですよぉ~」
「だから蒸し暑いんだよ翠星石…」
「何か涼しくなることないのぉ~?真紅?」
水銀燈が話を振るも、
「ないわよ」 即答だった。
「うにゅ~」
もはやたれぱんだ(死語?)化している雛苺。このまま時間だけが過ぎていくと思いきや…
「あ…私…ある」
全員が声の方向へ向く。声の主は七人目の薔薇乙女、薔薇水晶だった。

「あの…私が聞いた…怖い話…」
「怖い、話?」
「そう…」
「へぇ、面白そうねぇ。ばらしーそーゆーの得意そーだしぃ」
「う~ヒナ、怖いのだめなの~」
「よし、その話するです薔薇水晶。雛苺も最後まで聞くですよぉヒッヒッヒ」
「翠星石…、君はホントに…いや、いい…」
「まぁいい暇つぶしにはなりそうね」
「それじゃあ始めて欲しいのかしら~」
コクリとうなずく薔薇水晶。
そして彼女を除く全員が気づいた。
髪で目の隠れた彼女からものすごい陰オーラが出ていることに。
「これは…私の友人が本当に体験したことです…」
いつの間にか外は薄暗くなっていた。


その子の通っている学校は、付近の施設から妨害電波でも出ているのか、携帯の着メロやウォークマンを聞くと、かなりの確率で雑音が入るそうです。

理由は今も不明だそうですが、あまりに普通に入るので、それが当たり前だとその学校の生徒は思っていたそうです。

そして、何時からか雑音の出ない場所はないかと休み時間に学校中を調べていたグループがいたそうです。

結局どこも雑音が入ってしまうことがわかったそうですが、調べているうちに意外なことががわかりました。

使われていないある教室での雑音が「ただのノイズではなくメロディーになってる」ということが。

他に楽しみが少なかった田舎の高校だったので、放課後みんなこぞってその教室でウォークマンを聞いてみたそうです。

聴くと、確かにメロディーらしきものが聴き取ることができる。

ある日、放課後に洋楽好きのS(友人のさらに友人)と友人を含む数人が例の教室に集まり、ノリノリでイヤホンを耳に当てていました。

すると「あっ、この曲聴いたことあるっ!!」とSが言いました。

「俺にも聞かせてくれ」ともう一人の洋楽好きWが聴くと確かにどこかで聴いたことがあるメロディーだったそうです。

「う~ん、おもいだせねぇ」しばらく考え込んでいると…




「わかったぁーー、クイーンの【アナザーワン・バイッツァダスト】だ」 Wは半狂乱気味にそう叫んだそうです。


「そ、それで…?」
「え?」
「いや、その、その後Wが行方不明になったとか、妙な事故が起きたとか」
「…ない、ここまでしか聞いてなかったから」
「「「ええ~~~」」」
全員が驚嘆の声を上げた。
「そんなぁ、ここまで話してそれはないですぅ~」
「オチもないし…」
「うにゅ~、一気に怖くなくなったのー」
「つまんなぁい」
「一気に暑さがもどったのかしらー」
「次はしっかりとした話を作ることね…」
「え、あ…」
怒涛のバッシングを受けて、返す言葉も出ない薔薇水晶。
「でも、その歌詞は…」
「クイーンって別に怖いバンドじゃないですぅ」
「ああ、もう6時を10分も過ぎてるわ。今日はもう帰りましょう」
会計を支払い、ぞろぞろと帰る一行。その後ろを、薔薇水晶は不服そうに俯きながら後に続くのだった。


「さて、もう寝るのだわ」
CDデッキを整頓しながら、真紅は誰にともなく言った。すると、一枚のCDがするりとデッキから落ちた。
「これは…」 クイーンのベスト版だった。
飛び出たCDは部屋を転がり、歌詞カードはちょうど見える位置に開いていた。
真紅の目に、【アナザーワン・バイッツァダスト】の日本語訳がとびこんだのだった。







また誰かが殺される
また誰かが殺される
お前も殺してやるよ
また誰かを殺してやるさ


end


最終更新:2006年06月02日 22:57