視界が急激にクリアになった。同時に自らの置かれた状況を思い出す。ここは翠星石と蒼星石の家。
サッカーの試合を観た後、翠星石のウサ晴らしにつきあっている真っ最中。すなわち、胸のサイズを測られていて、そして・・・・・・、
がし。
「ぉ、っと、どうしたですか・・・・・・?」
真紅は翠星石の両手首をがっちりと掴んでいた。翠星石が怪訝な表情でこちらを見る。
「まだサイズを測ってないですよ。放してくれなきゃ続きが」
「翠星石」
自分でも驚くほどに平板な声だった。しかしその声は不吉に鋭く、周囲の温度を低下させる響きを持っていた。
異常な気配を察知したらしく、翠星石だけでなく傍らの3人(蒼星石、金糸雀、雛苺)も身を強張らせたのがわかった。
「な、なんですか、真紅」
「さっき何と言ったの」
「さっき?」
「つい今しがた」
「つい今って・・・・・・あ、あー、その、つまりですね」
真紅の問う意味を理解したらしく、翠星石は視線を逸らして口ごもった。心なしか顔が蒼い。
しかし真紅は容赦せず、また言い訳の時間すら与えず、相手が答える前に、正解を口にした。
「水銀燈より、何ですって」
※
ごっ、と不可視のオーラとでも言うべき『何か』が真紅の全身から放射された。
その『何か』は一瞬のうちに広いリビングに充満し、真紅以外全員の神経を圧迫した。まるで急激に気圧が変化したかのようだった。
翠星石は一瞬にして口の中がからからに渇くのを感じた。気のせいか呼吸が苦しい。
見れば泣いていた水銀燈も床にへたりこんだままこちらを呆然と見上げている。
その顔に浮かんでいるのは紛れも無い恐怖の感情だった。(薔薇水晶はまだ血の海の中に横たわっていた)
気づくと手首に痛みがあった。ぎりぎりと音を立てて真紅が自分の手首を締め上げている。
「し、真紅、いた、痛いです。放し」
「そもそも」
真紅はおかまいなしに言葉をかぶせると、ひきつった笑みを浮かべてこちらをねめつけた。
「最初から無理にあなたが誘ってきたのがいけないのだわ・・・・・・眠りの時間を大幅に過ぎることになったのはあなたのせい」
「そ、そんなこと言ったって真紅もけっこう乗り気だったです、『たまにはスポーツ観戦も悪くないものね』とかなんとかへぶち!」
言い終わらないうちに右頬をはたかれた。真紅お得意のツインテールビンタである。
「黙りなさい。そして試合が終わったらすぐ帰るつもりだったものを、日本が負けた腹いせか何だか知らないけれど、くだらないことで私たちを引き止めて」
「で、でも真紅は何も言わなかったです、抗議の意思があるなら最初からもぶち!」
今度は左頬をはたかれた。まるで意志を持った蛇のように髪の束を操る真紅を見て、翠星石は目線だけで相手を石に変えてしまうと言われる神話の怪物を思い出していた。
「それで眠いのをこらえて付き合ってあげたというのに、人の胸を弄り回したあげく、何、水銀燈より・・・・・・小さい、ですって?」
ぎぃ、と翠星石の手首を掴む真紅の両手にいっそう力がこめられた。どこにこんな力があるのかと思うほどの握力だった。
「い、痛い痛い痛いですってば!」
翠星石が悲鳴を上げると真紅は少し手の力を緩めたが、こちらを解放するつもりは無いらしく、依然手首は掴まれたままだ。
「し、真紅・・・・・・翠星石が悪かったです、謝るです。だから・・・・・・」
このままでは何をされるかわからない。翠星石はとっさに謝罪の言葉を口にした。
すると浮かんできた涙で少し霞む視界の向こう側から、真紅が笑いかけてきた。
ぞっとするような酷薄な笑顔だった。
Illust 845 氏
「ひぎぃ!?」
翠星石は喉から変な悲鳴が漏れ出すのを抑えられなかった。全身が震えている。
真紅の視線にすさまじいまでの殺気が込められているのがわかった。あれは3日間は徹夜してハイになった人間の目だ。
睡眠を妨げる全てに対して憎しみを抱く者の目だった。
もっとも、何故4時間かそこら普段より長く起きているくらいでそこまでの状態に至るのかは理解しかねた。
どこまで健康優良児なのだこの子は。
「あ・・・・・・う、あ・・・・・・」
がちがちと歯が鳴るのを止められない。冷房を使っているわけでもなく、外の気温も20度は確実に越えているはずだというのに、すさまじい寒気が翠星石の全身を襲っていた。
「少々おいたが過ぎたようね翠星石・・・・・・おしおきが必要だわ。そうねぇ・・・・・・何がいいかしら・・・・・・
あ、そうだわ、そういえばまだあなたの胸はまだ誰も測っていなかったのではなくて?」
「ひぃっ!?そ、それは・・・・・・」
「そうねそうだわそれがいいわ私が測ってあげるわ大人しくしなさい!!」
身をよじって逃れようとする翠星石に、真紅が踊りかかった。あっという間に押し倒され、上着をまくり上げられていく。
「た、助けるです、誰か、ひ、雛苺、金糸雀、蒼星石、水銀燈でも誰でもいいから真紅を止めるですッ!!」
名前を呼ばれた4人は部屋の隅でひとかたまりになって震えていた。雛苺と金糸雀に至っては半泣きだった。
「こ、怖いのぉ~」
「ひぃぃぃ、天上天下唯我独尊、悪霊退散かしら~!!」
「た、助けるって言ったって・・・・・・」
「無理よぉ・・・・・・絶対無理」
「こ、この役立たずどもですぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「翠星石!往生際が悪くてよ!!こら、暴れるんじゃないの!!ちょっと、4人とも翠星石を押さえなさい!!!早く!!!」
真紅に命令された4人はびくりと飛び上がるようにして一歩後退したが、
続く真紅の「さっさとなさい!!」という一喝を受けて一斉に翠星石の四肢を押さえに走った。
「て、てめぇら裏切ったですねええええええええええええええええええ!!」
「ごめん翠星石、僕は従わないわけにいかない・・・・・・」
「言うこと聞かなきゃ殺されるかしら・・・・・・往生してほしいかしら」
「真紅が怖いの~・・・・・・」
「逆らったらヤバそぉ・・・・・・自業自得と思って諦めてぇ」
両腕を雛苺と金糸雀、両脚を蒼星石と水銀燈に封じ込められ、いまや翠星石は磔にされた罪人のように裁きを待つばかりとなった。
真紅は翠星石が動けなくなったことを確認すると、キッチンへと向かって何やら周囲を物色しはじめた。
やがて戻ってきた真紅の両腕にはごっそりと『モノ』が携えられていた。
「さて・・・・・・準備はいいかしら、翠星石」
翠星石の腹の上に馬乗りになって、真紅が上気した顔でこちらを見下ろしてくる。
「あなたが色々見せてくれたおかげで、お楽しみの手段には事欠かないと思うわ。だから安心していて頂戴」
言いながら真紅は様々な道具を両手に掲げて見せた。先ほど自分が水銀燈たちに使っていたものや、
完全に用途不明な台所用品、調度品、果ては食品までがあった。
「ひぃ・・・・・・ズッキーニなんて何に使うですかぁ・・・・・・!」
「あら、これが気になるの?いいわ、じゃあまずこれから始めましょう」
Music 160cm 氏
真紅は翠星石のブラジャーをむしり取ると、あらわになった裸の胸に向かって指をのばした。
「いぃっ!?う、ウソです冗談です、ぜーんぜん気になどなってないです、って、あ、やめるです、やめ、だめ、ウ、ウソですよね真紅?まさか本気で、そんなところに、あ、あ、やめ、よすです、思いとどまるです、あ、ひ、あ、う、上からマヨネーズまで!?」
そこからは悲鳴と嬌声の絶え間ない旋律だけが辺りを支配した。
「さあこれはどう翠星石、ほらほら、この程度で音をあげていたら後がもたなくてよ!」
「ひゃ、ひゃあぁうぅ!は、はぁっ、か、勘弁するですぅ・・・・・・いぎぃっ!!」
翠星石を苛む真紅の目には一種の狂気が宿っていた。
そしてその手になる種々様々な責め苦もまた、常軌を逸しているとしか言いようが無かった。
信じられないような眼前の光景に、翠星石を押さえつける4人は思わず赤面して目を逸らした。
参考までにその様子を横目で見ていた雛苺の発言をここに記しておく。
「わ、わ、ぬるぬるなの。びしょびしょなの。もう、まっかっかなの。うにゅーみたいなの」
それから20分後に薔薇水晶が意識を取り戻した。
が、起き上がった彼女は『それ』を見るなり再び鼻血を噴出させて昏倒してしまった。
ちなみに薔薇水晶は水銀燈以外の同性に全く興味を持っていないはずだった。
その後も真紅による、本人の言うところの『折檻』が続き、結局合計52分もの間(蒼星石による計測)に渡り、翠星石の悲鳴が途切れることは無かった。
最終更新:2008年04月05日 17:23