アットウィキロゴ
「早く走りやがれですぅ。 翠星石の大切なドラムが濡れるですぅ!」
「なんでお前は棒しか持ってないんだよ、それに真紅って娘はどこ?」
「棒じゃね~です。 ドラムスティックですよッ。 真紅は生徒会ですぅ」

それほど広くない軽音楽部の部室にドラムセットを運び終えた頃には
ジュンと翠星石は雨でビショ濡れになっていた。

くそォ~。 なんで転校初日でこんな目にあうんだよ・・・。
濡れて体に付くシャツからポタポタと滴が落ちる。
その後ろ姿はベットリと密着したシャツに背中が透けている。

「こ、これでも使えですぅ・・・」
「あっ、サンキュー・・・」

ジュンの透けて見える背中に頬を赤らめた翠星石はタオルを投げて渡す。
そのタオルからは、かすかにイイ香りがしていた。

「あっ・・・!」
「えっ、何ですぅ?」

渡されたタオルをキャッチしたジュンの目には、同じように雨で
透けた翠星石の肌が目に飛び込んできた。
体にまとわり付くシャツから覗く翠星石の肌は白く、そこに薄い
ピンク色のブラが彼女のバストの大きさと形を伝えていた。

「なぁ~、なに見てやがるですかッ!!」
「ちょ、み、見てない見てない。 うわぁぁ~」

顔全体を真っ赤にし、片手で胸を隠した翠星石はドラムスティックを
振り上げながら1歩ふみ出す。
その時、床に置かれたアンプから伸びるコードに足を取られる。
バランスを崩し、勢いよく倒れそうになる翠星石。

「きゃっ」
「あぁ、危ない!」

ジュンに向かって倒れる翠星石をとっさに抱きとめる。
柔らかい胸の感触。
濡れた髪から伝わる香り。
そして抱きとめられた翠星石の唇はジュンの頬で止まっていた。

2~3秒?
いや、1秒くらい?
とにかく2人の体温が触れていたのは、ほんの一瞬だった。
部室の入り口からヒュ~と吹かれた口笛に翠星石は素早くジュン
から離れる。

「翠星石もヤルわねぇ~、部室に男連れ込んでラブな雰囲気って
 感じぃ~? 私、お邪魔だったかしら?」
「あぁぁ、す、水銀燈。 ここ、これは事故ですぅ!!」
「事故ぉ? ふ~ん。 そのわりには頬に甘~いチュッ、なんて
 してわねぇ、翠星石ぃ?」
「だ、だから事故ですぅ。 タンスの角に足をぶつけたよーなもんですぅ」

タンスって、僕はタンスの角かよ。 でも、この水銀燈って美人だな・・・。
翠星石にむかってニヤニヤ笑っている水銀燈をチラッと見る。
意図的なのか、水銀燈は制服のシャツの胸元を大きく開け、やけに
短いスカートを穿き、女性であることを前面に押し出している。
ジュンの視線に気付いた水銀燈はクスッと小さく笑う。

「フフッ、ねぇイイこと教えてあげるぅ。 この娘わぁ~ここが
 弱点なのよぉ~」

そう言うと水銀燈は翠星石の腰に手を回し、引き寄せる。
長い髪をかき上げて、翠星石の耳にフゥ~と息をかける。

「やーん。 な、なにするですかぁ~。 んん~」
「フフフ、冗談よ~。 なーに本気で感じてるのぉ?」
「かか、感じてなんかねぇですぅ!!」
「フフッ、ほぉーんと、からかい甲斐があって面白~い」

何だぁ、この水銀燈って娘・・・?
一連の動作を唖然と見ていたジュン。
そのジュンに水銀燈は近寄り話しかける。

「ところで貴方、見ない顔ねぇ。 だ~れ?」
「僕は桜田ジュン。 今日、転校してきたばかりなんだ」
「へ~、それでもう翠星石を食べちゃったのぉ? すご~い」
「なァッ。 す、翠星石はこんなオタク小僧になんか食べられて
 ねぇ~ですぅ! 変な妄想するなですぅ!!」

照れているのか? それとも怒っているのか? 翠星石は真っ赤な
顔をして事の成り行きを説明する。
水銀燈は肩にかけているギターケースを下ろしながら聞いていた。
へぇー、この水銀燈って娘はギターなのかぁ・・・?
水銀燈は部室の隅に置かれている小さな戸棚を開けて
中からバインダーを取り出す。

「な~んだ、そうなのぉ。せっかく楽しいネタだと思ったのにぃ。
 まぁ、いいわぁ。 ねぇジュン、コレにサインしない?」

なんだ、この娘も当たり前のように僕を呼び捨てに・・・。
水銀燈が差し出したのは1枚の用紙とボールペン。
イヤな予感がするものの、ジュンは無意識で受け取ってしまう。
その用紙に目を落としたジュンは驚きの声を上げる。

「軽音楽部入部用紙ぃぃ~?」
「すすす、水銀燈。 こんなオタク人間を入れる気ですかぁ?」
「そうよぉ~。 さぁ、そこに名前だけ書いたらOKよぉ~」

オ、オタク人間って。 ほんとムカつくことばかり言うな、だい
たい僕は楽器なんてヤッことないぞ・・・。
その時、生徒会が終わった真紅が肩に付いた雨粒を払いのけ
ながら現れた。

「なんの騒ぎ?」
「あっ、真紅ぅ。ちょっと聞きやがれですぅ、水銀燈がオタク人間
 をローゼンに入れようとしてるですよッ!」
「まぁ、ジュンを入れるの?」
「そうよぉ~、私にイイ考えがあるのぉー。 ちょっとイイ?」

水銀燈はそう言うと、来たばかりの真紅と翠星石で小さな輪を作り
小声で話し始める。

「どういうツモリですぅ?」
「考えって何なの?」
「フフッ、それはぁ~」

ジュンがドラムを運んでくれたのを聞いた水銀燈はジュンをローゼン
メイデンのメンバーとしてではなく軽音楽部員として招き入れて、自分達
の雑用をしてもらう。
それに必ず何らかの部活に入ることが決まりになっているこの学校では
転校してきたばかりのジュンは勧誘の手間が省け、人数不足に悩む軽音楽部
にとっても一石二鳥になる。
そんな考えを真紅と翠星石に話す。

「どーお? イイ考えでしょぉ~」
「それは美味しい作戦ね」
「でもぉ、翠星石はちィ~と反対かもですぅ」
「どうしてよぉ~?」
「ローゼンは、軽音楽部は、ずっと女だけで頑張ってきたです。
 それを今さら転校してきたばかりの男を入れると言うのは
 少し納得いかねぇですぅ」
「そんなこと言ってもぉ、部活として認めてもらうには最低5人は
 必要よぉ。 私と真紅、翠星石、金糸雀で4人しかいないのよ~
 まーた部室を取り上げられてしまうわぁ」

「そ、それはそーですけどぉ」
「そうね、ジュンを入れたら5人で正式に学校側に部活として
 認めてもらえるわ。 翠星石もイイわね、ジュンを軽音楽部に
 入れるのだわ」
「そこまで言うならしゃーねぇですぅ」
「これで決まりねぇ~」

おいおい、もっと小さい声で話せよ、聞こえてるよ。 でも、
いいか、どーせこの学校にも長くいないだろうし・・・。

「ねぇ、ジュン。 貴方なにか入る部活って決めてるの?」
「いいや、まだだけど。 でもいいよ、軽音楽部に入っても」
「そ~お、ウレシイわぁ。 音楽のことは私がオ・シ・エ・テ・
 ア・ゲ・ルぅ~」

ひょんな事から入部した軽音楽部。
こんな部活なんて、ほとんど帰宅部に近いんだろ? 
当初の僕はそう思っていた。
でも、ここで僕は忘れられない夏を過ごすことになるとは
この時の僕は、そんな事などまったく思っていなかった。


最終更新:2006年07月04日 01:29