これは金糸雀が真紅達の学校へ転校する前の話。
「カナ、私達と世界を目指してみない?」
日曜の午後、急に呼び付けられてきてみれば、こんなことを言われた。
「いきなりなんなのかしら?雪華綺晶」
金糸雀は不機嫌そうに言う。
目の前には友人の雪華綺晶。
そして金糸雀の返事をわくわくしながら待っている、
同じく友人の由奈と先輩のみつ。
「言ったとおりの言葉だけど」
「どーゆー事なのかしら?世界を目指すって」
待ってました、とばかりに由奈が口を開く。
「私達ね、バンドすることにしたの!」
はぁ…、と金糸雀は首を傾げる。
「で、カナもメンバーになってほしいんだけど…」
「私はそんなのできないかしら」
即座に断り、立ち上がろうとするが、由奈が手首を捉える。
帰るに帰れなかった。
「カナ、ヴァイオリンできるじゃない!」
みつがスライディング抱きつきをしてくる。
可愛いを連呼するみつは置いといて、由奈は話を進めた。
「カナ、音楽得意でしょ」
「……そりゃー」
雪華綺晶はうん、と嬉しそうに頷いた。
「だったらいけると思う。私は、カナにベースをしてほしいの」
ベース。
「四弦のギター?」
音楽好きとしては、聞いたことはあった。
「……うん、そんなもん」
「でも無理かしら。私、ギャンギャン喚く、中身のない音楽は嫌い」
何回か聞く機会はあったが、何を言っているのかわからないし、頭が痛くなるばかりだった。
様々な感情を旋律に乗せて伝えるモーツァルトやヴェートーベン、ショパンとかの方が音楽美を映し出している、と思う。
否、金糸雀はそれしか美しいと思えない。
「違う!」
雪華綺晶が叫んだ。
こんな雪華綺晶は初めてだ、と金糸雀は咄嗟に思う。
「カナは誤解してる!確かにカナにしたらそれは野蛮かもしれない。
でも、ロックにはロックの素晴らしさがある!
私は……」
一間置いて、雪華綺晶は金糸雀を見据えた。
「カナと一緒に、世界をロックでつなぎたい……」
これがPIZZICATO結成の瞬間だった。
由奈は幼い頃から合唱クラブにいた腕を生かし、ヴォーカルへ。
みつはその絶大なリズム感でドラムに。
雪華綺晶は得意のエレキギターを。
そして金糸雀は、ヴァイオリニストから転身、ベーシストへとなった。
最初は人気のなかったこのバンドも、その特徴ある性格のお陰で徐々に頭角を現し、見事に市内一のバンドへと成長していったのである。
それは、金糸雀自身を大きく変えていった。
頑固で、友達も少なかった自分を、ロックというものが壊してくれた。
そして、自由に放してくれた。
「(ロックって楽しいかしら!)」
心から、金糸雀はそう思った。
……そんなある日の事。
『……転勤?』
『あぁ、本州な方に』
両親の事情で、金糸雀は遠く離れた地へ引っ越すことになってしまった。
「いやぁぁぁぁぁぁー!!カナァァァァァァァー!!」
みつは半狂乱。
「あっ、ちょっ、みっちゃん、まさちゅーせっつー!」
由奈は涙を目に浮かべて、
「そんな……」
と呟く。
「……カナだって、本当はずっと一緒にいたいかしら」
やっと本当の自分を見つけたのに。
「……カナ」
「きらきー……」
雪華綺晶に普段のポーカーフェイスはなく、辛そうな表情を浮かべていた。
「カナが初めて。私をこんな気持ちにさせるのは」
ぎゅっ、と金糸雀を抱き締める。
「きらきーには感謝してるかしら。カナにたくさんのモノを教えてくれて」
静かに、金糸雀は雪華綺晶の胸で泣いた。
雪華綺晶も、頬に一筋の光を映している。
「…カナは、遠くに、行くけど……
カナは永遠にPIZZICATOのベーシストかしら!」
「当たり前よぉカナー!!!!」
「そうだよ、私達は仲間なんだから」
みつと由奈も、2人を抱いて泣いた。
「カナは……っ、カナはこのバンド以外では
絶対にベースを弾かないかしら!!!」
「私達だって…カナのいないPIZZICATOはやらない!」
「ずっと、カナの事待ってる」
こうしてPIZZICATOは活動を停止した……。
(以下執筆継続中)
最終更新:2006年07月20日 10:23