「き、きっとカツラだよ、ははは……」
「で、ですよねぇ」
もしも彼女なら、いつも髪の毛をロールにセットしてあるはずだ。
だが、ステージの彼女は髪を下ろしている。
違うよ、
と殆ど祈りに近い否定をしながら引きつり笑い。
と、件の彼女がマイクを取った。
「姫の降臨だぁぁぁぁぁぁー!!
無礼は許さねぇぞぉぉぉぉ!!!!!」
……
…………
………………
「 」
会場では対応したように歓声が上がり、声を揃えて何かを呼んでいたが
対称的に、6人は茫然としていた。
なんとか真紅が口を開く。
「こ、声が似ているだけなのだわ」
半ば自分に言い聞かせる。
「うゆー……」
少しして、中央にスポットライトが当たった。
再び3人は闇へ消える。
代わりに、そこには一人、きらびやかなドレスに身を包んだ少女(?)がいた。
瞬間、本日何度目か。
観客のボルテージが一気にヒートアップ。
「ユナさまぁァァァァー!!!!!」
「姫ェェェェェェー!!!」
声援に笑顔で答え、彼女は胸元のマイクを取った。
「ようこそいらっしゃいました」
語尾にハートでも付きそうな言い方。
やっとまともな人が………と安心したのも束の間。
その笑顔を彼女は豹変させる。
「ここは私の国ぃぃぃぃー!!
ここでは私がすべての法律!憲法!
意見は許さない!貴様等は奴隷なのだからぁぁぁぁぁ!」
キャー!!!
うぉぉぉぉー!!!
さらにヒートアップ。
地球温暖化の理由、わかった気がする。
「国歌斉唱」
闇の中から静かに声が響き、ドラムが音を刻みはじめる。
あわせて、ベースが勢い良くかき鳴らされ、土台の出来上がり。
それにギターの最初から激しいプレイが合わさり、最初の曲が始まった。
「……パンク」
「だね」
「頭が痛いわぁ、出ましょうよぉ!」
水銀燈が出口に向かおうとするのを真紅の手が遮る。
「それじゃあ金の無駄遣いよ!
払ったからには最後まで居なきゃ駄目なのだわ!」
「真紅……」
水銀燈はげんなりとした表情を浮かべ、元の立ち位置に戻った。
激しい曲が何連続も続き、その度に6人は人の波に酔いながらも耐えながら聞いた。
「セックスピストルズ…」
「あっ、本当だわぁ」
か細い声で呟く。
どうやら、終わりが近づいてきたようで、激しさはさらに勢いを増していった。
「ミィ様ぁぁぁー!!」
「ユナちゃん萌ぇぇぇぇー!」
「きらきーテラカッコヨス!!!」
メンバーへのコールも高まる。
「カナ様ー!!!!」
と言う声も耳を通ったが聞こえないことにした。
やがて、最後の曲を終えた頃には貧血を起こして運ばれる人や
呼吸困難に陥る人が多発した。
………ここにも。
「薔薇水晶が倒れたー!」
「雛苺、顔が真っ青よー!?」
「ひ、ヒナ、短い生涯だったの………」
「やばいですぅ、鼓膜が破れそうですぅ!」
メロディが止むと、逆に何も聞こえなくなるぐらいの声が響く。
「愚民共ぉぉぉ!
貴様らは永遠にこのpizzicatoの支配下にある!
脱走は許さん!!!
次回も一人残らず集え!いいかぁ!?」
うぉぉぉー!
姫様の叫びに会場が答える。
そんな顔でそんな言葉言わないで。
「ごめんなさぁい姫様、私は無理だわぁ……」
「私もですぅ……」
ステージが闇へ還る。
アンコールはないようで、再び光が戻る頃には無人のステージと化していた。
気が付けば、6人は夕方通ったフェリー乗り場の前に立っていた。
何も言わずに水銀燈は地面に体を落とす。
普段は咎められるであろうそれは、誰も口をださず、習って倒れる。
視界には夜空が映った。
「綺麗なの……」
雛苺が呟く。
「そうですねぇ……」
半ば目を閉じながら翠星石が同意。
精魂使い果たした表情で、ゆっくりと蒼星石が皆へ語りかける。
「帰ろうか」
「……そうね」
ため息をつきながら、再び立ち上がり、
ライブハウスに背を向け、よろよろとバス停まで歩いていく。
こうして、波乱の一日は終了したのである。
*
翌日。
今日もRozen Maidenのメンバーはスタジオにて練習を行なっていた。
が、どうにも覇気がない。
真紅は声の調子があまりよくなく、今日はギターに徹する様。
水銀燈は目の前にヤクルトがあるにも拘らずぼんやりと宙を見上げる。
翠星石はドラムのセッティングの時点ですでに放棄。
蒼星石は取り掛かろうとはしているのだが、真紅と同じく調子がでない。
薔薇水晶は昨日一番重症だった。今日はまだ一度も声をだしていない。
雛苺に至っては声が調節できず、デス声しかでていない(本人は気にしていない様)
重たい空気がスタジオを包む。
と、
「皆々様ー!こんにちわかしらー!」
それを打ち消すように明るい声が響く。
すべての発端の登場だ。
「今度のライブの日程が決まったかしらー!
255人収容ライブかしら!
気合いいれて練習……………」
言いかけてやめる。
「……って!なんでこんなにやる気ないのかしら!?」
翠星石がジト目で金糸雀を見た。
「おめーのせいですよ」
金糸雀は眉をひそめる。
「カナ何かしたかしら!?」
「間接的にですけどぉ、………ねぇ?」
同意を求めると、
あるものは激しく頷き、
あるものは苦笑し、
あるものは無言だが鋭い視線で金糸雀を抉った。
「な、何かしら!?
水銀燈のシールドにヤクルトかけたことは謝ったし、
カナが振り回して壊した翠星石のスティックは新しいのに変えたし
真紅のクロスでお茶拭いたのはばれていないはずかしら!」
「考えが声に出てるですぅ。
っか!お前だったんですかぁ!?
なんか変と思ったら!」
「そうなのだわ!なんか雑巾臭いとは思っていたのだけど、
貴方の仕業だったのね!」
墓穴を掘り、金糸雀はうぅ、と身を縮めた。
「それはあとで咎めるとして、まずは」
真紅が皆を見回す。そして頷いた。
「金糸雀、プレベだったね」
蒼星石の一言に、金糸雀はその若葉色の瞳を見開いた。
「なななななななんの話かしら??」
明らかに挙動不振になった金糸雀にメンバーは集中放火を浴びせる。
「確かに金糸雀はよくセックスピストルズを擁護するもんねぇ」
「好きなら仕方ないのだわ」
「弾き方シドっぽかったよ」
「姫さま元気?」
言われるたびに金糸雀の頬を汗が伝う。
「今度こそ、詳しく聞かせてもらうわよ。pizzicatoのカナさん」
真紅の言葉に、金糸雀は後ずさった。
「ヒナ達ちゃんと見てたんだからー!」
「……」
雛苺は怒り、薔薇水晶は無表情ではあるがオーラが明らかに黒かった。
「金糸雀ぁ」
「金糸雀、白状するですぅ」
「金糸雀」
「金糸雀」
「金糸雀ー、ちゃんと言うのー」
「………金糸雀」
ぺたん、と床に座り込む金糸雀。
何を思ったか両サイドの縦ロールをグッと外し、髪を解いた。
そして一言。
「……なんでバレたのかしら」
そこには昨日、一心不乱にベースを掻き鳴らしていた金糸雀がいた。
最終更新:2006年07月20日 10:14