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 ―――ライブハウスには魔物が棲んでいる。その場に居合わせた全ての人をトリップさせる魔物が…
     ギラギラと照らし出されるライト。
     その全ては俺を照らし出す。
     そして、俺のランディ・ローズも真っ青な美メロソロを決めまくっている……はずなのに……なのに……



    おいいいいいいッッ!!!!!俺を無視すんなぁああああああ!!!!!!!!


 ……いまいちノリの欠ける観客。唯一最前列で異様なテンションを放つグルーピーはみんなボーカルのカズキの馬鹿しか見てなかった。
なんでだ、チクショウ。あいつなんざただのイケメンだというのによぉ。素数も数えられねえ馬鹿なのに
しょうがないので俺は段取りを無視してそのままギターソロを続行する。ドラムの奴がうろたえてるが気にしない。
よしっ、最高にハイになった俺はギターを投げ捨てるッ、そして熱気溢れる(多分)観客たちの真上に舞った。
落下する感覚を味わいながら観客の愛に受け止められ………って、アレ、なんで俺まだ落下してんだ?

   俺が最後に見た光景は、蜘蛛の子を散らすが如く俺の愛を交わした連中による即席エアポケットに突っ込む俺、そして体が分離してしまうかのような衝撃だった……。


「う~ん、むにゃ…愛しのアリスゥ…」
「おい、起きろよローゼン、おいっ」
「あんたは完璧な女だぜぇ…Zzz」
「おい、起き「おきなさいこのバカロオォォォォオゼエェェェェン!!!!!」
「ぅおわっ、梅岡、そしてコリンヌじゃねぇか」
首を振り、ぼやける目をこすると目の前にいるのは俺の同期の青年…梅岡とその恋人(信じらんねぇな)でそのままでいれば非常に美しいフランス系の女性コリンヌだった。
「ぅおわ、じゃないわよ、ローゼン。アンタいつまでここに居座る気?」
しかし俺を見る彼女の目は、あきらかにゴキブリとか、あのへんのものを見るときのそれだった。
あるいは養豚場のブタでもみるかのように冷たい目だ 冷徹な目だ…
「なんだよ寝起きに……金が貯まったら出ていくからもうちょいまってくれよ」
「今月の家賃も払ってないくせに…早く返さないとアンタのバイクとギター勝手に売るからね」
「ちょ…それはやめろオオォ。俺から手足を取るようなもんだぜ?」
「だったらとっとと仕事に就くことね。ホントいい年してまだバンドやるなんて…」
お前こそバンドでボーカルやってたから梅岡と上手くいったくせになんだチクショウ。
捨て台詞に部屋を出て行くコリンヌを見送って、俺は思った。
しかし奴の『ギターとバイク売る』の目はマジだったな…どうしようかね。

「おい…梅岡よぉ」

俺は起き上がって部屋の隅で黙ったままだった梅岡に近寄る。
付き合い始めた頃からこんな調子だったなこいつら。

「なんだよ、ローゼン」
「アイツ、なんとか説得できねぇか?」
「無理だよ、というか僕も正直彼女と同じ意見だよ。
そりゃ今でも音楽の夢を諦めてない君を応援したいのはやまやまだよ。
でもさぁ、こっちはこっちで事情があるんだよ」

普段気弱目なこいつが言うんだからかなりキテるな。

「そりゃ俺がお荷物だってことは自分でもよくわかるさ。でもな、だからこんな四畳半の部屋で、しかも家賃も払って我慢してるんじゃねぇか」
「払ってないけどね」
「う…。と、とにかくもうすぐ俺のバンドのライブがあるんだ。そんときのギャラでなんとか家賃は払えるはずだ。
とりあえずそー言っといてくれ。じゃ俺はバンドの練習に参加せねば。そんじゃグッドラック」

グッと親指を挙げて、梅岡の反論を聞かないうちに奴の家から飛び出そうとする(話しながら着替えと準備をしていた)

「なぁローゼン」
「何だよ」
「俺思うんだけどさ…夢は、いつか諦めるものなんだと思うんだ……」

そう言って、奴は扉を閉めた。

 ………

 …まぁいいさ、俺はいつかロックスターになるのさ。今は売れないが、いつか武道館、いやアルバートホールを満杯にするようなスーパースター、ローゼンの名を轟かしてやるさね。

俺の野心はDIO並みだぜ。

                    ***

「今、なんつった?」

メンバーの一人の家にて。いつも俺らはこのただっ広い家で会議とか迷惑にならない程度(実際は迷惑千万)の練習をしてたりしていた。
その部屋の真ん中で俺は、ザ・ワールドッでもかけられたかのような徐々に奇妙な感覚を味わっていた。

「だから、お前はクビ!!つってんだよ。何度も言わすな」

カズキだ。この野郎、年上に向かってなんて言い草だ。イケメンの癖に。

「なんで俺がクビなんだ。つーか俺リーダーじゃねぇか!!!!!」
「全員一致だからしょうがねぇだろ。自分勝手だし、つーか第一お前だけ歳が離れてんだよ」
「そんなお前、トキオを見てみろ。リーダーをよぉ」
「知るかっ!!。とにかく決定事項だ」
「禁止事項です」
「いつから未来人だてめぇぇ!!!!。とにかくローゼン。お前はクビ、もう後任も決まったからな」

カズキが目線を俺からずらすと、俺は背後に気配を感じて振り向く。

「元華族の技巧派ギタリスト、結菱一葉。彼はライトハンド奏法や8フィンガー奏法を駆使する。
ルックスもイケメンだ。そういうわけでお前は……」

その先の台詞は言わずもがな、確かに最近メンバーから浮いた感はあったが、まさかクビはねぇだろ?
17歳の女の子になんかアレコレしたわけじゃなぇのに。

「そういうわけだ、ローゼン」どういうわけだよ?

「いやまてオイ、このローゼンが金やチヤホヤされるためにロックをやっているとでも思…」

はっと気づいて周りを見渡す。どいつもコリンヌが俺を見るときのような…いや、この目には見覚えがある…そうだ、学生の時、クソ先公が俺を見るときのような、蔑んだ、軽蔑するような、嫌な、嫌な目、目、目。

「……そーかい、あーそーかい。てめぇら下手糞の癖に俺の恩義も忘れてよぉ。
いいぜ、こんなバンド、俺からやめてやらぁ!!!!!チクショウ」

俺はちょうど近くにあったドラムセットのシンバルを蹴り上げた。
それはやたらと盛大に、まるで俺が出て行くのを歓迎するように派手に鳴り響いてムカついた。

                    ***

気がつくと、空はいつの間にかオレンジ色をかもし出していた。
「ん…いつの間に、俺…」
俺は記憶回路を反芻する。確かあの後俺はやけくそになってありあわせの金でパチンコへGO!!
したはいいがラオウ相手に惨敗…さらにすり減らした金で酒を購入。
飲みながらここに書くのはちょっと危険な汚い言葉を吐きまくって町を練り歩き、警察に補導(いつものことだったりする)
釈放後、公園のベンチで横になり、車とか人とか、町の音に耳を傾けてるうちに……今に至るわけか。

「くっそ、どーするかな」

どーするもこーするもない。もしコリンヌがこの状況を知ったら俺に就職を強要するだろう。まぁそこまでは行かなくとも一日中バイトをして、貯まった借金(家賃も含む)は返させられるのだろうな。つーか、まともな人間ならそーする。



でも俺は、まともじゃない。時折、自分でも悲しくなるくらいに、だ。

バイトをしてもこの性格が祟って長続きしない。そもそも俺はいわゆる『仕事』に向いていない。
就職ならなおさらだ。俺がスーツ着て一日中上司の説教聞くなんて発狂しろ、といってるようなもんだぜ。
ああ、悲しきダメ人間かな。ダ~メダメダメダメ人間♪にんげ~ん♪にんげ~ん♪…はぁ……

それでまぁ、そんな俺の唯一の生きがいがロックだったわけで。だから今でもロックをやっているんだと思う。
奴らみたいに俺は、代えといものが利かない人種なんだと思う。まったく、自分にやれやれだぜ。

そんなセンチなことを柄にもなく考えていると、ろくでもないことが起こる。
何か気配を感じて俺はベンチに座りなおし、少し先の交差点の方を向く。
なんだ、女子高生くらいの女の子が道を渡ろうとしているだけだ、なんのこともない。と、思っていたんだ。

ところが様子が変だ。何故か、横断歩道の真ん中で驚いたような顔で硬直している。
なんかシュールだなぁ、と酔いの残る頭で考えてると、すぐにその意味が分かった。
トラックだ。それも暴走して女の子のところへ一直線に突き進んでいるじゃねぇか。
やっと覚醒した俺は、今まで聞こえなかったトラックの悲鳴のようなブレーキ音、更に目撃者たちのあぶなーい、という声ひとつひとつまで耳に届いた。

まずい、あのままじゃあの娘死んじまうぞ、オイ。現在女の子とトラックの距離約15m、助けに行く人影は無し。俺から女の子までけっこう距離ある、もうだめか……

 ……

いや 

いや、ここはッ、薔薇紳士(自称)のッ、俺がッ、行くしか、ねぇだろッ、ここでッ、行かなくて、何が、ロックだッーーーーーーッ!!!!

後に考えると本当にワケのわからないことを一瞬で思考して、俺は両足に力を入れ、ロケットダッシュの要領で飛んだ。いっけえぇぇぇぇぇ!!!!!!


「なっ!?座ったままの姿勢!膝だけであんな跳躍を!」
「何者!?」
(以下、野次馬の台詞)


イロイロ突っ込みたいところあるだろうけど無視してくれっ。間に合えぇぇぇ

女の子のいる位置に着地成功した俺は、もう一度跳躍、女の子を抱きかかえるようにして横断歩道から安全な歩道へ突っ込んだ。
「パウッ」 
ぐは、地面に激突して変な声が出ちまった。
金属がこすれるような嫌な音を出して、暴走トラックは少し先にぶつかりながら停止したようだ。               
「痛…おい、大丈夫か?」
俺は腕に抱きかかえられられている状態の娘に声をかけた。
言っておくがこれは不可抗力だからな。
「うううう…」
危機が一応去った今、冷静に女の子を見る。緑の髪で、おでこを出した髪形が特徴の幼い感じの残る可愛らしい娘だった。少なくとも制服を着てるから学生だろう。
正直この状態でしばらくいてもいいかな~とか思ったりしたが、あいにく俺にはロリ属性がなかったのでやっぱりやめてさっさと起き上がった。
道の真ん中であーしてるわけにもいかんだろう。いや、やましい思いはないぞ、本当に。

「おい、お前ら。ぼーっとしてねぇで警察に連絡しろ」
呆然と俺たちを見ている野次馬に指図し、もう一度俺は娘を見る。
まだパニックから脱出してないようだ。
「うう、うわあぁぁん。怖かったのかしらー」
その娘はいきなり俺に抱きついて、猛烈に泣き出した。
まぁ、一歩間違ってたら死んでたからなぁ。
「おい泣くなって、怪我はないか?」
その娘は泣きながらコクッコクッとうなづいた。ふぅ、本当によかった。
「ヒグッ、あ、あなたに怪我はなかったのかしらァ」
「ああ、俺はねぇよ。波紋法を習って…いや、なんでもない」
そんなこんなでその娘をあやしたり(?)トラックの運転手がこっちに来てしきりに謝ったり、てめぇもっと注意しやがれとか偉そうに俺が説教したりしているうちに警察がきたようだった。
パトカーが数台遠くに見えた。

「それじゃぁ俺はこれで…」
俺はその場を去ろうと彼らに背を向けた。
「えっ。ちょっと、一緒にいないとまずいのかしらー」
もう泣き止んだ娘が言った。まぁその通りなのだが、ついさっき警察の厄介になったのでこれ以上彼らとかかわると色々マズイ
「あ~その、用があるんだ。じゃあな、これから気をつけろよ」
「そんなぁ、せめて名前と住所を教えてほしいのかしらー」
「いや、その名乗るほどのもんじゃないんだ、うん。エルメスのカップくれるんなら別だけどな」
とか言ってる間にパトカーが近い、これ以上厄介ごとに関わるのは御免だ。
俺はもうダッシュでその場から逃げる。体の節々が痛いが大丈夫と信じたい。

まったく、今日はロクなことがないぜ

                    ***

「……ただいま~(小声)」
そ~っと俺は家の中へ。コリンヌに出くわすと嫌なので小声での帰宅だ。
だったらわざわざ言うな、とか突っ込まんでくれ。

「はぁ……」

今日は疲れた。いろいろあったような、あっという間だったような。
いずれにせよはっきりしていることは一つ、問題は何一つ解決していないということだ。

「やりきれねぇよチクショウ」

今は誰もいないらしい。俺は家に入る際郵便受けから取り出した諸々をテーブルに広げた。


コリンヌ宛の汚い字の手紙…なんだ、うにゅ~って。あとどーでもいいチラシ、夕刊はまだだった、四コマしか読まんけど。俺への手紙は当然ゼロ、泣けてくるね。あとは……これは?

妙に綺麗な便箋に入ってたそれは梅岡宛のものだった。ちょっと興味に駆られて俺は中身を見る、梅岡だしいいだろ…なになに、私立薔薇乙女高校校長雪華綺晶、ああ、そーいやあいつ教員免許とって先生やってるとか言ってたっけ。
ハ、どーせ空気読めないあいつ(注:人のこと言えない)のことだ、どっかの少年のちょっと恥ずかしい趣味を公衆の面前で暴露して不登校にさせるんだぜ、きっと。

手紙の内容はその雪華綺晶とやらが書いたのか、達筆な字で複雑怪奇な文字が羅列していた。
で、要約すると『とあるクラスを担任していた先生が急病になったため、しばらくの間代理の先生が欲しい。一ヶ月の間、代わりに来て授業をしてくれないか』というものだった。

教師ねぇ…そーいや昔そんなのを目指して勉強した時期があったっけ。
何故か先公は嫌いだったのに先生にはなりたかったんだよな。
今思えば奇跡だな。なにせ俺の通っていた高校で大学に進学したのは俺と数名だったからな、まぁその大学も半年ぐらいで辞めちまったんだが……

おっと、最後のところ見落としていた。ほう、給料もらえるのか、げっ、何だこの金額、さすが私立ってか?
これなら家賃とか払えるじゃねぇか。それに教師ってアレだろ?5時まで働きゃ帰れるんだよな。
ふーん、教科の担当は地理、しかも週二回か……地理は唯一得意だったし、まぁなんとかなるだろ。多分。


フフ、こいつぁいいぜ。最高に「ハイ!」ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハーッ。
なんだか石仮面を発見した時のDIOの気分だぜ。有効利用させてもらうぜ、梅岡。




こんな俺のしょーもない打算が後の超人気バンド、ローゼンメイデンの誕生に関わっていたなんて、一体誰が信じるだろうか?
人生は何が起こるかわからないなんてよく言うが、多分俺ほどそれを体感した奴はいないだろうな。 
俺の人生で最高の、Gold Experience 
なんてな  

To Be Continued

最終更新:2006年07月29日 22:49