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陽が暮れると高速道路を滑走路のように等間隔で照らすライトとコンビナートの
灯りがオイルの浮いた黒い海に浮かび上がる頃、排気音に取り付かれた者達の宴が始まる。

「よぉ~し、今夜のゼロヨンも同じくチームUDOのオレが仕切るからよぉ、おまえ等も
 ジャンジャン賭けてくれよぉ~!」

スタートラインに並び、必要以上に空ぶかしをする車に口笛とヤジが飛び交う
中に水銀燈のニンジャが現れる。

「おぉ、この前カレラ4とヤッたニンジャ乗りの姉ちゃんじゃねぇかよ、
 今夜も稼ぐ気かい? 姉ちゃんのニンジャぁ、凄ぇ速いから相手を選ばぁ
 ねぇと賭けにならないぜぇ?」

この宴を仕切っている男はニヤッと笑いながらヘルメットを脱ぐ水銀燈の
仕草を見ながら言う。

「相手ぇ? じゃぁブルーのGT-Rに乗ってるめぐってバカな女ぁ、ここに
 来てるぅ?」

ヘルメットを取ると銀髪がコンビナートの灯りを受けて白銀にキラメキながら
危ういまでの色気を誘う。
だが、そんな色気を感じる前に男は水銀燈の目を見て言葉を詰まらせてしまった。

「…、な、なんだよ今夜は怖ぇ顔、してんなッ。なにかブルーRとモメ事でも
 あったのかよ?」
「ブルーRぅ? あのGT-RってブルーRって呼ばれてるのぉ、つまんない
 呼びかたぁ~」

水銀燈はツバを路面にはき捨てるかのようにブルーRと呼ばれているめぐの
事をせせら笑うと、男にこの数日で金糸雀とジュンを傷つけられた事を話す。

「そうか、仲間をヤラれたんじゃ、姉ちゃんもキレるわなぁ~。で、姉ちゃんの
 チームってローゼンメイデンって言うのか?」

ニンジャのカウルに張られたRozen Maidenのステッカーを見ながら男は
周りにいる走り屋たちに声を掛けた。

「よう、ニンジャ乗りの姉ちゃん…ローゼンちゃんがブルーRを探してん
 だけど、どうよ? 知ってるか?」

男の質問に水銀燈のまわりに人が集まりだす。
その走り屋たちからの話ではめぐが乗っているGT-Rはフルチューンアップで、
推定650馬力を越すモンスターマシンとのこと、最近は顔を見ていないとか、
4~5日前に国道を走っているのを見たというあやふやな情報しか耳に入ってこない。
そんな中で一人の男が思い出したように話し出す。

「そー言えば、今週の土曜日に有栖川神社で祭りあるよなぁ~、あの祭りの
 ライブにenjuってバンドが出るんだけど、どーもツレから聞いたところによると、
 そのenjuのボーカルってめぐだぜぇ」
「へぇ~、そぉーなのぉ? それ、詳しく教えてくんないぃ?」

見開かれた目付きで水銀燈はその男の顔を睨むように見つめる。
いいようのない威圧感を感じたのか、男は少し間を置いた喋り方で話だした。
「あっ、あぁ、まぁ、オレも詳しくは知らねぇんだけど…」

その男の話では、となり街で人気のあったバンドenjuが2年前に突然解散したこと、
そして今年の夏に再結成し活動を始めた事、そのenjuのボーカルがめぐ、そのバンドが
奇しくもローゼンメイデンが出場する有栖川神社のライブに出る事が解った。

「へぇ~、そーなんだぁ……フフフッ、もう最高って感じぃ?」

男の話に水銀燈の冷たい笑みは口元だけでなく表情そのものを彩っていく。


そのころ、めぐはGT-Rのダッシュボードに置かれた1枚の写真を
見てボソッと話しかける。

「お姉ちゃんね、また歌うことにしたよ……薔薇水晶が好きだった
 ロックを歌うよ……」

その写真には無邪気に笑う真紅達と同じ年頃の少女が写っていた。
その薔薇水晶と呼ばれた無邪気に笑う少女の写真からの言葉はなく、
ただGT-Rが吼える爆音だけがめぐの耳に届いている。
そして、めぐは誰かの答えを求めるようにアクセルを踏み込んだ。

                    *

8月26日、真夏をイメージさせる8月最後の土曜日は朝から数発の花火が
有栖川の土手から青空に舞い上がると白い煙だけを残す。
その音を聞くと幼い子供達は今夜行われる有栖川神社の祭りの話で染まる。
ここ軽音楽部の部室でも同じく今夜の祭りの一環として行われるライブの
最終的な音合わせと話し合いが続いていた。

「このイヤフォンマイク、ちぃ~っと翠星石の頭に合わねぇですぅ」
「それは翠星石の髪がボリュームあるからかしらぁ、カナのはピッタリ
 かしら~」
「いっそのこと髪を切ったらぁ? それか蒼星石が変わりにしてみるぅ?」
「えっ、僕はラップなんてムリだよ、それに翠星石と金糸雀のラップの時なんか
 僕はチョッパーで弾いてるから、そんな器用なことはできないよ」
「うぅ~…、ホラ、なんとか装着できたですよッ、これで翠星石も大丈夫ですぅ~」
「じゃ、始めから歌ってみるのだわ」

真紅の言葉にコクッとうなずいた翠星石はドラムを叩きリズムを刻む。
そこに金糸雀のキーボードがデジタルな疾走感あふれるメロディーを
かぶせていくと水銀燈のギターと真紅の声が同時に入る。

Here We Go 気まぐれにまかせて~♪ 手探りで見つけた~♪ Gate! 
目覚めて感じるリアルに グラマラスな夢を描いて~♪ 

ロックを主軸にしながらも早いテンポのポップチューンな曲が進行していくと
リズムを支えていた蒼星石のベースが軽やかなチョッパーを展開させる。
それを合図に金糸雀と翠星石は交互にイヤフォンマイクに向かって言葉を刻む。

叫んじゃって波に乗っちゃって歌って踊って Keep On Grooving!!  
限界って言ってみても何も始まらねぇです そこのお前! 
ころがって現実逃避のつもり? めんどう事は明日?  

その曲と歌と言葉は軽音楽部の部室から飛び出していくと、グラウンドで
汗を流している野球部やサッカー部員たちもボールから目をそらし、
流れてくるローゼンメイデンの曲を聴いていた。

「ちょっと、薔薇水晶ぉ、走ってる車から顔を出したら危ないわよぉ~」
「…大丈夫よ、…私ね、こうやって走ってる車から感じる風ってスキなの」
「もう、本当におかしな妹ねぇ~」
「だって…風の中に気持ちいい歌が聴こえる時があるんだもん…」
「キャハハッ~もう、本当におかしなこと言うわね~。どんな歌が聴こえるの?」
「…私の大好きなロックよ…、でもロックよりめぐお姉ちゃんのほうが大好きよ」
「フフッ、私も薔薇水晶の事がだーいスキよ、ねぇ、薔薇すい………」

 ―――はぁ、はぁ、はぁ、はぁ

めぐはベッドから飛び起きると、時計を見る。
夕暮れ近い午後の5時を少し回った部屋はブラインド越しに暑い西日が
差し込んでいる。
その日差しを横顔に受けながら、黒い髪を片手でかき分けためぐのTシャツは
寝汗でビッショリと濡れている。
しばらくベッドの上で大きく肩で息をするめぐに電話がかかってくる。

「今、お目覚めかい? そろそろ時間だぜ」
「解ってるわ。 今から行くところよ」

そう言うとめぐは電話を切ると、携帯の待ち受け画面に切り替わる。
そこには無邪気に笑うめぐと薔薇水晶の写真が出てくる。

「お姉ちゃん歌ってくるからね……」

めぐはその画面にそっと一言いうと携帯をたたみ、GT-Rを有栖川神社に向けて走らせた。


最終更新:2006年09月13日 23:44