私、真紅は今猛烈に悩んでいる。
誰のことかって?あの梅岡に決まっている。
雛苺を泣かせたときはもう駄目だわこの教師と思ったのだけれど、なんと昼ごろには彼女を連れ戻すことに成功した。
おまけに雛苺もなにか吹っ切れたように自然に私たちと接するようになった。
私たちでもどうすればいいか悩んでいたことを。
只者じゃない。この男は。
おまけにあれだけ殴ってしまったのに、私に対してなんのおとがめもなしに終わった。
彼は今、廊下で雛苺に絡まれて?いる。
「わーい梅岡のぼりー♪」
「高校生にもなってなんてことしてるのかしら…パンツ見えるのかしらぁ」
「ふわーっ高いのぉー。先生何センチ身長あるの?」
「えーと…195cmだったっけ」
「でかっ!!なんで誰も突っ込みを入れなかったのかしら?」
「それはアレだろ…作者の後づry」
彼らは私の悩みをよそに能天気にしている。
ひょっとしたら、あの人なら……ジュンを……
試す価値はありそうだ。
ただ、問題がひとつあった。
あいつのことだから、私から頭を下げにいけば、間違いなく図に乗るだろう。
あの病的なテンションで私を小ばかにするはずだ、間違いない。
でも、ジュンのためなら…いや、雛苺の場合はまぐれってことも…。うーん。
「なーに悩んでるですか真紅ぅ?」
「翠星石…ちょっと、ね」
「またあのヒッキーのことですかぁ?まーったく真紅も物好きなやつですぅ。あんなのほっとくですよ」
何も言ってないのにジュンのことだと当てた。そんなに私はいつもジュンのことを考えているのだろうか?
「そうね…貴方の言う通りかもね。でも、やっぱりジュンには戻ってきてほしいのだわ」
「…そりゃあ翠星石もあいつがいなくなってからはちょっとさびしい…あ、いや今のナシですぅ。
と、とにかく本人が引きこもってるんじゃどーしようもないですよ」
「でも…あの先生なら、雛苺を連れ戻した梅岡なら…もしかすると…」
「う~あのセンコーなぁんか嫌ですぅ、ていうかウザイです。
ま、でもあのくらいの強引さならジュン程度ならとっとと連れ戻しそうですかもぉ」
「…正直頼みに行くのは気が引けるけどね」
「しょーがねーです。翠星石も一緒に行ってやるです。感謝するですよ」
「あら、ジュンはほっとけって貴方言わなかったっけ?」
「そ、それはまぁ、別の話です。とにかくいくですよ」
なんだかんだで翠星石もジュンに戻ってきてほしいようだ。まぁあの子は昔から素直じゃないから。
…ちょっと、『お前もな』って言ったの誰?
***
「ん~~~~するというと真紅。あなたはこう希望しているわけだ
『この俺に不登校の生徒桜田ジュンに学校へ来させて欲しい』……と?……そうかね?」
予想通りだ。わかってはいたがそれでも腹が立つ。なんだこの偉そうな態度。
いすにふんぞり返ってこっちを見る姿が私に不快感を惜しげもなく与える。
というかその手に持っている薔薇は何?あとなんで十字架を握り潰してるのっ!?
「ま、まぁそういうことなのだわ」
「泣けるじゃあないかOK!そのジュンとやらを連れ戻す。この梅岡誓おうではないか」
「ちょっとッ!こっちは真面目に頼んでるんですよッ!!」
うう…やっぱりむかつくわっ。特に微妙にニヤついてるその口元。特別な用事じゃなきゃぶっ飛ばしてるところだわ。
その辺は翠星石も一緒みたいね。
「OKOK!それじゃあ放課後早速いってみるか。どれだけ引きこもろうともこの梅岡の前では無駄無駄ァ!!フハハハ」
「…ほんとに大丈夫ですか?真紅」
「…どうでしょうね」
正直頼みに来たことを後悔しつつ、私は放課後を待った。
***
「あのジュンとかいうガキめ!けっこうあったかそうな家庭に住んでるじゃねーか」
「黙りなさいアンジェロ」
放課後、私と梅岡はジュンの家へ向かった。
私もジュンの家も学校から歩いてむかえる距離なので、梅岡のバイクは学校に置いて徒歩で向かった。
しかしあんな大型バイクで通学する梅岡は、やはり頭のねじが10本ぐらい抜けているのだろう。
「今ほかに家族はいるのか?」
「ええ、ジュンの姉で大学生ののりがいるわ。自転車があるからもう帰ってるはず」
「まぁなにはともあれ入れてもらうか、ぽちっとな」
呼び鈴が鳴る。しかし反応はない。
「でないぞ」
「おかしいわね。いつもはのりがすぐ出てくるのに」
「もしもぉ~し、ノックしてもしもぉ~し」
ドンドンドン、とドアを叩き始める梅岡。しばらくその光景を見ていた。
「……誰もいないんじゃあないのか?今日のところは…」
梅岡が手を離した瞬間、階段を下りてくる気配がした。かなり勢いがある。
「梅岡、今ドアが…」
ドガッ
「おっぱぁあぁあああああッ」
気配を感じ取れなかった梅岡は、突然すさまじい勢いで外に開いたドアに激突した。
「ああっごめんなさいっ。ついうとうとしててその呼び鈴に気づかなくて今急いで出たんですけど、だっ大丈夫ですかぁ!?」
「へ、平気ですよ…この程度。若い女の血があれば…ぐふっ」
「とりあえず入りましょう。あ、のり。この人うちのクラスの臨時の担任で梅岡先生よ」
「あああ~救急箱はどこだったっけ~」
どうして梅岡はこうも騒動を引きおこすのだろうか。トラブルメーカーは惹かれあうのかしら?
***
「あ、紅茶淹れました。どうぞ」
「ああいえ、お構いなく」
「あの、怪我のほうは…」
「もう大丈夫ですよ。キズはあさく叫び声は大げさにってやつです」
「まだ葉が完全に開いてないわ。次はちゃんとおいしく淹れて頂戴」
「このガキは~ッ礼儀ってもんを少しは知れッ」
「貴方にだけは言われたくないわ」
「いいんですよ先生。真紅ちゃんには…助けてもらってばかりなんですから」
「…ジュン、君の件ですか。今彼は二階に?」
意外と常識人な態度の梅岡にすこし肩透かしな感じがした。
その姿にちょっと期待した。
「ええ…食事の時ぐらいしか降りてこないんです」
「じゃあそのタイミングを見計らって連れ出しましょう。ああ大丈夫です、暴れるようなら一発ブチこみますから」
駄目だ―――っ。このひと根本的なことわかってないっ!!
少しでも期待した私を心の中で責めた。もう何度目だろう。
「ジュンは昔からドレスとか、特に女性の服のデザインが得意だったの。本人はただの趣味のつもりだったのだけど、本当に上手だった。
ただ、人に見せるのは恥ずかしいって、幼なじみの私と、のりにしかみせてくれなかったわ」
私はそれを見るのをとても楽しみにしてたこと。
『その日』は、ジュンの書いた新作のドレスの絵を私に見せるために学校に持ってきたこと。
前の先生が、それを見つけてクラスであまり目立たなかったジュンの才能を見つけたこと。
そして、あくまで『善意』でそのことを全校集会で勝手に発表したこと。
「…それで、その後は…まあ、想像の通りよ」
「……それはまた、痛々しい話だな。悪気はなかったっつってもそれはないぜ。そいつ両手が右腕だったろ?」
「茨の鞭で串刺しの刑にしましょうか?梅岡」
「それが確か高校に入ってすぐのことで、それ以来ずっと、もう学校には通ってません…」
のりはうつむいた。いつもと違う、悲しそうな顔だった。いや、本当はいつもこんな気持ちだったのかもしれない。
私たちにはそれを隠して、気丈に振舞っていただけかもしれない。
それは……私のせいでもある。
「……わかりました。この梅岡、クズとかダメ人間とか言われてますが、約束だけは守る主義です。
ジュン君はこの梅岡が連れ出して見せますよ」
先生の目つきが変わった。この顔は、雛苺のときと同じ。確かにこの後、梅岡は約束を守った。
でもその変なポーズはなに?
「本当ですか先生」
「…まぁ今日中はさすがに無理ですがね…とにかく行ってみましょう」
梅岡は紅茶を持ったまま立ち上がり、階段へと向かった。
私たちも目を合わせ、後に続く。
***
「ここがジュンの部屋か?」
「ええ…」
私たち三人はジュンの部屋の前に立った。
ごく普通のドアは、私たちを拒絶するような威圧感があった。
「ノックしてもしもぉ~し、ジュン君か?お前のクラスの臨時の梅岡ってんだ。ちょっくら入れてくれないか?」
「……」
「…反応ないな」
「ジュン!!いるなら返事しなさいッ」
反応はなかった。
「もしかして窓とかから出て行ったとか」
「いや、それはないぜ。紅茶が生命エネルギーを感じて『渦』を巻いている。奴は中にいるぜッ!」
「このまま帰るのを待つつもりね。ジュン!!それでも貴方男なの!?出てきなさいッ」
やっぱり反応はなかった。
「梅岡、貴方ならこの状況。どう切り抜けるの?」
「切り抜ける?そいつはちょいと違うな…『ぶち壊し抜ける』どらぁッ!!!」
梅岡は思い切りドアを殴った。メキッっという音とともにドアが少しだけあいた。
「くそっこれ以上は開かないか。のりさん、ドア壊してすみません」
私は部屋の中をのぞき見ようとしたが、狭くてあまり見えなかった。
「これじゃあ入れないわ」
「いや、これで十分だ。真紅、のりさん、ちょっと下がっててください」
「?」
梅岡が向かいの壁まで後ずさりする。この展開、どっかでみたような……
「うおおおああああッ!!!!」
やっぱり走り出した。方向はやっぱりジュンの部屋。そしてジャンプ!!
「ああああっあれはッ!?」
「ドアのすきまに―――ッ!!」
「ああ、あんなスキマに!ほんの4cmの細いスキ間に自分の肉体を……おりたたんで入っていったーッ!」
「のり、うるさいのだわ」
上の三行は全部のりの台詞だ。
二度目だけど本当に何者なのだろうか……究極生物?
とにかくこの後は梅岡にまかせるしかない。ジュンは大丈夫だろうか?
***
な、何が起きたアアアアアッ?
目の前には、表現しようのない異状…いや異常な光景。
ヒトっぽいなにかが侵入してくるというもうわけのわからない状況だった。
き、記憶を掘り返せえぇぇッ
たしか数分前。
やけに下のほうが騒がしいと思ったら案の定真紅だった。
しかもクラスの担任まで出てきた始末だ。(この時点ではただのおっさんだと思っていた)
臨時の梅岡とか言ってるがとにかくうるさいし学校のことが連想されて吐き気がする。
今真紅が何か言っている。もう僕のことはほっといてどっか適当ないい男と付き合えばいいんだ。
どうしてみんな、僕をほっといてくれないんだ?
そんなことを考えていると「どらぁ」という怒声とともに鈍い音がした。
ベッドから顔を上げてドアを見る。鍵をかけ、椅子やらなにやらを釘で打ちつけたドアが少し開いた。
だがあの程度じゃ手が入るかどうかだろう。僕はたいして気にも留めなかった
「家を壊しやがって…後で請求書送ってやる」
そんなことを考えてまた自堕落な眠りにつこうとした。
『うおおおおあああああッ』
なんだ? いいから眠らせてくれよ。僕はまたドアの方を向いた。
それから……
「ぎゃああああああッ、なっあっ……」
今に至る。つーかこいつは何だっ!人間か?それとも柱の男なのかッ!!
とにかくそいつは強引にドアの隙間から体をねじ込んで入ってきた。
金髪で顔がよく見えない、あと体が妙に大きい。
怪物映画で襲われる人のような言いようのない恐怖が体を駆け巡る。
「ちょっとそこ、シ・トゥ・レイ~~するぜ」
「うわああ、なんにも見えない~明かりをけせぇ~っ」
「落ち着けッ、ローゼンキャラはうろたえないッ、俺は担任の梅岡だ、まぁよろしく」
あんな光景を見て落ち着いていられる奴がいたら顔を見てみたい。
布団をかぶって現実から逃避する。音が消えたのでそっと顔を出すと、いつの間にか完全に僕の部屋に侵入した男は、なぜか紅茶を2個持ちこんでそのうち1個を飲んでいた。
「のんどる場合かーッ」という突っ込みを抑えつつ、僕は現実逃避への願望を断腸の思いで断ち切った。
覚悟を決め、この男をどうやって部屋から追い返すかを考えた。僕はこれでも前向きな性格なのだ。
ドアを開けたら真紅らが入ってくるしそもそもこの男をどうやって追い出すか…そういえば通販で買った『ストレッジハンマー』があったっけ。
クーリングオフのつもりだったけどアレで背後から殴ろうか。でもそれじゃあ死んじゃうかもな…そんなことを考えていると。
「むっ、なんだこりゃ…『呪いの動く人形』お前こんなもん買ってんのかよぉ~」
「なにやってんだああああああッ!!!!!!」
たまらず突っ込みが飛び出るっていうか……
お前は遊びに来た中学校の友達かあああっ!!なんで教師が生徒の部屋あさってんだよ!!
「あそこが本物と同じかためしてみようぜぇ~」
「やめろぉぉぉぉ!!!それ返すやつだからァァ」
「両腕が右手の男フィギュア?こっちはアバ茶製造セット。ギャハハ傑作だぜ」
「いいから帰れェェッ。ぶっ殺すぞてめええええっ」
前のニコニコ笑顔を貼り付けた偽善者教師は大嫌いだったが、こっちはその逆だ。
悪と偽善はどっちがましか。今ならはっきり言える。まだ偽善のほうがマシだよぉぉぉぉ。
「さて、ちょいとテンション上げすぎたかな…まぁいいや」
良くない、割ときれいと自負する僕の部屋が、奴のせいで商品の散らばるゴミ屋敷と化しつつあった。
というかやっぱりテンションあがりすぎていたのか…まぁあれが普通だったら今頃精神病院行きだよな。
男はまだベッドの上にいる僕の目の前の床にどかっと座った。こうしてみるとかなりデカいな。
「のりさんの淹れてくれた紅茶だ。うまいぞ、JUM君」
「ジュンだ…僕の名前はジュン。これ飲むから帰ってくれませんか?」
「まぁそう言うな。俺だって正直引きこもりなんざかかわる筋合いもないんだが、
あの真紅が俺に頭を下げて頼んできたことだ、断るわけにはイカンのよ」
「また真紅か…どうしてあいつはいつもいつも僕に付きまとうんだ?」
「まったくだ、何だってこんなチビメガネ君の世話なんか焼くかね?」
自覚してはいたが…くそっムカツクなぁ~。いやまて、何でお前にチビメガネ言われなきゃいけないんだッ!!
「真紅とは幼馴染だって?『強気で高飛車な美少女』が幼馴染なのが幸せか不幸かは別にして…お前少しは学校に顔みせな。
そりゃあよぉ、お前がされたことはトラウマもんさ。見知らぬ男にズギュゥゥゥンとキスされたようなもんだ。
でもよぉ~、今のお前は視野が狭いんだよ。こーなってんの。こー…」
男は両手を立てた状態で自分の顔の横に当て、横の視界をさえぎるようなジェスチャーをする。軽くムカつくのは気のせいか。
僕は紅茶を少しすすって、聞き流しを決め込む。確かに姉ちゃんの紅茶は、おいしい。
「こーなってこーなって…おい、聞いてんのかジャム君」
「ジュンだ…二度と間違えるな!僕はジュンというんだ!JUMでもジャムでもない!」
「すまんね。……?」
しょーもないやり取りのあと、男はふとなにかに気づいたように僕の顔を覗き込んだ。
「な、なんだよ。気持ち悪いな」
「いや、お前…昔どっかで見たような気がすんだよなぁ~」
「数センチのドアの隙間から体をねじ込んで進入してくる外人…というか人外には一度だって会ったことないよ!!!!」
「…そうか、まぁいいや。こんな時間だ…今日はこんぐらいでいいだろ、また来るぜ」
「二度と来るなよ」
「あ、忘れてた。俺はロー…梅岡だ。ドイツ人の母とジャズミュージシャンの父(日本人)との間に生まれた男だぜ、じゃあな」
すさまじくどうでもいい自己紹介を終え、梅岡は内側から扉を開けて出て行った。
散らかした商品は片付けなかった、チクショウ。
また来る…か、本当に勘弁してほしいな。そんなことを考えながら片づけをしているせいで、僕は真紅のことや梅岡の一言もすっかり忘れてしまった。
***
「結局、連れ出せはしなかったのね。まぁそんな簡単にいけばなんの苦労もないけれど」
「ま、時間をかけてゆっくり…つっても俺はすぐやめちまうがな…」
「無責任ね」
「そういうな」
帰り道、太陽はすでに西へと傾いている。
しばしの無言。夕焼けの太陽が、二つの影を長く、薄く伸ばした。
「なぁ真紅。お前、なんでそこまでJUM君にこだわるんだ?」
「貴方わざと間違えてるでしょう。……別に、幼馴染の下僕が引きこもったら、誰だってまずいと思うのだわ」
「幼馴染を『下僕』と呼ぶ奴はそうそういないぞ、真紅。そうじゃなくてな…まさか…ひょっとして、お前…」
「何よ…」
梅岡は私の少し前を歩き、突然片手で指差し、もう片方は頭に当てたポーズ(逆光で顔が見えなかった)で私に言った。
「真紅!きさま!惚れているなッ!」
バチィィン。黄昏の小道に、私のツインテールビンタが綺麗に響いた。
「いってええぇぇぇ。てめー真紅、なにも殴るこたぁねぇだろうよッ」
「黙りなさい。この私を侮辱した罰よ。侮辱には殺人もゆるされるわっ」
「どこのギャングだてめーはッ。次やったら教師の権限で停学にすんぞ…二人仲良く引きこもらせるぞコラァ」
「その前に息の根を止める必要があるようね…」
「へっ…うわわわやめろぉぉぉ。『ラブ・デラックス』発動してるぅ!!??」
夕焼けに向かって走り出した梅岡を追って、私は走り出す。
真っ赤な夕日で顔が照らされたおかげで、私は気持ちを悟られずに済んだ。
***
翌日、朝
「…やれやれだぜ」
「まだヤレヤレには早いですよ。梅岡先生」
「?」
「知らないんですか?そろそろ文化祭の季節ですよ。クラスの出し物とか、店を出すとか仕事が一気に増えて大変ですよ」
「ああ…そんなのあったねw」
「そんな自分が忘れていた自身の漫画ネタを出されたときの作者みたいな言い方しないでください
…とにかく、忙しくなりますから覚悟しておいたほうがいいですよ」
白崎はそう言って席を離れた。…文化祭ねぇ、確かクラスの出し物とか色々決めないといけないんだよな。
めんどくさい。適当にすませようか。
まぁでも雛苺を活躍させればあいつも自信つくだろうな、クラスが一致団結して感動の嵐にでもなったら…
真紅も俺を見下したりしなくなるんじゃないのか?
クラスを纏め上げた俺に『貴方の命がけの行動ッ!私は敬意を表するッ!』って言ってくれるかもなァ…フフフ
そんなことを妄想してニヤニヤしてたせいか、通りがかったきらきー校長に
『梅岡先生、前から変わった人だったけど…ついに…』
みたいな引いた目で見られたがま、いいか、良くないけど。
***
さぁはりきってやるぜぇぇぇッ!!!!
とは言ったものの…え?、また俺の独り言かよだって?
まぁまぁ、もうちょっと付き合ってくれ、別に嫌ならスクロールしてもかまわないぜ。
ああ!!待って、やっぱ待って、すぐ終わるからッ早く薔薇乙女出すから!!
実は文化祭の出し物について、クラスでやることについて教師はなるべく不干渉でいる、という決まりがあるのだ。
出し物の発想はもちろん材料の準備、場所決めに製作、発表とすべて生徒のみでやるとのことだ。
もちろんそれが可能かどうかの判断は最終的にこっちが決めるが。
…つまり早い話クラス展において俺の役割は全くナシ、なのだ。
あいつらが文化祭準備にせいを出してる間、俺はひとりいつもと変わらない授業をし続けているのだ。ちょっとさびしい。
「やれやれ…一息つくか…」
タバコは禁止なのでコーヒーを飲むことにした。
ちなみに今昼休み、時間経過早いね。
「…では先生、これでお願いします」
「…では先生、これでお願いします」
少し離れた席に白崎と生徒の誰かがいた。多分文化祭の出し物かなんかの許可をもらってるのだろう。
あれ、あの泣きボクロの娘、どっかで見たぜ。
「はい、確かに受け取りましたよ」
「よろしくお願いします、先生」
「チャオ、君は……ええと、そう…巴ちゃんだっけ」
「ひっ……あ、どうも梅岡先生」
「いきなりヘンに体をねじったポーズで登場しないでください先生。巴さん引いてますよ」
「ほっとけ」
「…えっと、その、雛苺のこと聞きました。色々ありがとうございます、先生」
「いいってことよ。クラス展決まったのか?」
「いえ、これはそれとは別で、私たちのバンドの参加申し込み書みたいなものです」
「バンド!?へぇ~懐かしいなおい。俺もやってたぜ、つーか今もやってるぜ」
「そうなんですか…」
「雛苺も入ってるのかい?」
「いえ、もう人数がいっぱいで…彼女楽器出来ないし、ちょっとかわいそうだったんですが…」
「ふ~ん、そうか、ま、がんばってくれよ。チュミミ~~ン♪」
「……」
「……」
このあとの空気はなかったことにして……
つーかこの学校にきたのも借金返してロックやるためだったんだよな。すっかり忘れてたぜ。
バンド…雛苺…このローゼン…俺はそのキーワードからある考えをひらめいた。そんな大層なことじゃあないが。
久しぶりにやってみるかな…バンド、雛苺と、あとはまぁ適当に集めてさぁ…面白いことになってきたぜッ!!
***
昼休み
「ごちそうさまなのー」
「私もごちそうさま」
校舎の三階から屋上へと続く階段、その途中に雛苺と巴は腰掛けてお弁当を食べた。
いつもは屋上で景色を見ながら二人仲良く昼食をとるのだが、今日は五月の割にはまるで夏のように日差しが強かったのもあって、ちょっと気分を変えて階段に座って食べよう、ということにしたのだった。
意外と風も通り、いい場所を見つけたと、巴は思った。
「あ、私もう時間だから生徒会のほうに行ってるね」
「いってらっしゃいなのートゥモエ――っ」
どんな些細なことにも元気よく答える雛苺。前よりも屈託のなくなったそんな彼女がいることの喜びを感じながら、巴は生徒会室に向かった。
「さって、と…」
雛苺はささっと弁当箱を片付けると、誰にともなく言った。
「そろそろ出てきたらどうなの?先生」
声は、踊り場の隅にある掃除用ロッカーに向かっていた。
それに答えるように、ゆっくりとロッカーのドアが開く。
かなり無理のある体勢をした梅岡、もといローゼンがゆっくりと出てきた。
「フフフ…なぜ俺のいることがわかった?」
「先生はまぬけさんなの、ロッカーの中身が出しっぱなしで片付けてないの
というかなんでロッカーにかくれてたの?」
「いやまぁ、なりゆきというか…ネタ切れというか…いや、別に無理にやる必要もないんだけど…」
「う~…よくわからないの、なにか用なの?」
とりあえず195cmの長身がどうやってロッカーの中に入れたかは突っ込まないとしよう。
ローゼンは雛苺に近寄り、自信満々の表情で言った。
「バンドやってみないか?バンド」
「へ?」
雛苺は、ついついまぬけな声を出した。
「お前がボーカルで、俺がギター。後は適当に集めてさぁ、
バンドはいいぜぇ…みんなが俺らに注目するんだぜ。
キャーローゼン様ぁーとかきゃーわたしィィィィのヒナちゃああああん、とか言われるんだゼッ!!」
「うにゅ、ろーぜんって誰?」
「あ…えーっとアレだ、俺の知り合いだ、ダメでバカな奴でさ、ハハハ」
「ふーん…先生、気持ちはとぉっても嬉しいの」
「そうか、じゃあ早速…」
「でも、ヒナだめなの。人前に出ると緊張しちゃって…その…あれが…」
「はっ…そっか、そうだったな…悪いこと言っちまったな、すまない」
しまった、墓穴を掘った、ローゼンは思った。雛苺を元気付けるはずが逆に落ち込ませてしまった。
なるほど、ダメでバカな奴とは言ったものだぜチクショウ。
「いいの、でもね、ヒナちょっとやってみたいなって思ったの。ボーカルは出来ないけど、
もしメンバーが集まったら…一緒に何でもいいからやってみたいの」
「そっか…ありがとよ、じゃあな」
すぐに笑顔を取り戻した雛苺はそう言った。
ローゼンは、別に行くとこはないのに、後ろめたいのかちょっと足早に去っていった。
***
――――まったく、どうしたものか。
まずい、非常にまずい。早くも望み断たれたよ。絶望だよ、ノートリアスB・I・G戦的な絶望感だよ。
俺の人生…いっつもこうだ、バンド首になったときもだ…クソッ……あ、まずいそろそろ授業開始だ
どこやるんだっけな…思い出せないや
なんだか妙にこの生活になじむ!実になじむぞフハハハハ
…な俺がちょっと嫌だなぁと思いつつ、俺は教室へと向かう…
…久しぶりに鬱モードだ。第一話以来だよチクショウ。
大人になりきれず、ロックと言う都合のいい現実逃避にのめりこみ、それを社会の歯車になりたくないと言い訳し、そのくせその歯車になった奴らに寄生して生き、その職を奪って自分も歯車になろうとしている……本当に、何をやっているんだ、俺はよぉ。
……子供のころから……ずっと
ロックスターに……なりたかったんだ……
でもだめになった……俺という男は……
くだらない男さ…なんだって途中で終わってしまう
いつだって途中でだめになってしまう……
そんなしょーもないことを大真面目に考えながら角を曲がった時だった。
ごちーん、と。それはまた景気の良い音を立てた。
視界の隅にはぶつかった相手が持ってたであろう、書類の束が散乱している。
「うぐぁっ…!!」
「いたたた…あ、大丈夫ですか?」
……前にもあったぞこの展開。
あの時は翠星石による罵倒の嵐だったが今回はまともな人のようだ。
つーか久しぶりだよ、まともな人…俺の言う台詞じゃあないけど。
「すいません…ちょいと考え事を……ッ!!」
その人を見た瞬間、俺の心臓は一瞬鼓動を停止した。ば、馬鹿な……ありえない。
「どうかしました?あっ!あなたはもしかして臨時の梅岡先生で…」
「うぐおああああああああッ!!!!なああああああああにいいいいいいい!!」
「えええっ!?」
目の前でぺたっと座り込み、不思議そうに俺をみるその顔、それは…まさにまさにまさにイイイイィィ!!!!
コリンヌだよ――ッ、コリンヌの顔だよ―――ッ
なんで、なんでこんなところにいるッ、アレか!?俺の正体突き止めて復讐のためにわざわざ学校に潜入したのかッ!!!!
「あ、あの…うずくまって先生、おなかでも痛いんですか?」
「オレのそばに近寄るなああ―――――――ッ」
「きゃあっ…す、すみません…で、でも大丈夫ですか?」
い、いや、落ち着け俺ッ。うろたえないッドイツ人はうろたえないッ。
素数を数えろ1、2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19……ふぅ、テンション下がったぜ。
もう一度冷静に彼女を見る。コリンヌ、じゃあない。かなり引いてるけど。
すらりとした体型はスーツ姿がよく似合う。女教師、にしてはまだあどけない雰囲気がある。
確かに似ているが、落ち着いて見るとかなり違うことがわかる。
まず本人より若い、そんでスレてない。あどけなくて、やつよりずっとやさしそうだ、俺あいつのキレた顔しかみてねぇもんな…
本人もアレはアレでかなりの美人だが、こっちはそれ以上だ。ていうかタイプだ。
くっ、胸がドキドキしてきたぞチクショウ
「ああ…大丈夫です……ちょいとトラウマ思い出してパニックになってしまって…もう大丈夫ですよ、ええ」
「そうですか…びっくりして一瞬救急車か警察呼ぶとこでしたよ」
「いや、すいません。あ、これあなたの書類ですね、どーぞ。この学校の先生…ですよね。
まだ会ったことなかったんですねぇ」
「ええ…だから始めましてですねっ!あ、私オディールっていいます!
担当は音楽です、よろしくお願いしますねっ梅岡先生!!」
そういうとオディールさんは少し首をかしげて眩しい笑顔を俺に向けた。ぐはっ…き、効いたぜ。
オディール、貴様ッ男を知っているなッ!!
しかしこんな綺麗なひとがいるとは教師生活も悪くないかも…とさっきのことをすっかり忘れていたり。
「あ、そうそう、文化祭の件はご存知ですよね」
「ええ、知ってますよ…こっちは全然上手くいってませんが…」
「私、文化祭でやる合唱のコーチを頼まれたんですよ~。今メンバーが集まって練習中なんですが、なかなか大変で」
「へぇ~」
正直、返答には困った。
やたら張り切って練習に参加しない俺らにキレて泣かれた女子がいたな、と中高時代の合唱コンクールを思い出した。
「どうです先生?放課後の練習見て入ってみません?忙しいならいいんですけど…」
それは別にして…こんな美人教師の誘いを断る男がおるか?い な ァ ァ ァ ~ ~ い ッ !
「も~ちろんです、すぐに行きますよぉ!!」
二つ返事だった。よく考えるとそんなにポイント稼げるイベントとは思えないが、少しでも印象良くなればそれでいいのさ。
この後の授業中はずっとオディールさんのことでルンルンルン、な状態だった
…まさか合唱のメンバーに奴がいるとも知らずに、なァ~~~~ッ!!
To Be Continued
最終更新:2006年10月26日 23:00