一、乙女たるもの自分に誇りを持て
《Rosen's story【Ⅶ.ナース喫茶】》
「私、薔薇様達がなされている"ろっく"というものの音楽を聞いてみましたの」
「あら私も聞きましたわ」
「すごく刺激的で良い音楽だと思いますわ」
「同意見ですわ」
見た目は完璧なお嬢様なのに、会話は凄い。
「ロックが受け入れられたんだね」
「ですぅ!」
笑顔で蒼星石が言い、翠星石も笑顔で返す。
ローゼン、理事長が認めて以来、ロックがこの薔薇学園に広まっていた。
「さて、ソロライブももうすぐだし気合い入れるよ!」
「オー!ですぅ」
「ビデオ用の衣裳が出来たわよ」
と言うみっちゃんからの連絡を受け、八人はライブハウスに向かった。
「みんな遅いわよ!」
ぷりぷりと怒るみっちゃんに簡単に謝ると、話は本題へ。
「はい!これよぉ」
じゃん、という効果音で現われたのは。
「ナース服…だわ」
そしてそれぞれのワンピースがそれぞれの好きな色になっていた。
喜ぶ者、放心状態の者、何にも思ってない者、とさまざまな反応を余所にみっちゃんは続ける。
「コントみたいなのはできないけど、設定だけ考えたわ」
一枚の紙を全員に配る。
「ありきたりだわ」
「うぅ」
真紅のきつい一言に泣きそうなみっちゃん。
設定は『メイド喫茶に対抗して作られたナース喫茶で働いている同僚。最後の客が帰った後のスタッフルームで』
「私だけ台詞があるのね」
と、言っても『またお越しください』だけである。ちなみに真紅だ。
「今日は喫茶店の方、閉めてあるからそっちで撮影しましょ」
「カナ達にもあるのかしら?」
黄色と白のワンピースを見付け、金糸雀が問う。
「もちろんよ。さ、さ、着替えて!」
十六方向にカメラがしかけてある喫茶店にカラン、とドアの開閉を示す鈴が鳴る。
その方向へ真紅が頭を下げる。
「またお越しください」
頭を上げると真紅は一息吐いた。
「はぁい、真紅ぅ。お疲れぇ、乳酸菌摂ってるぅ?」
右手にヤクルトを持ち、妖しい笑顔で水銀燈が話し掛ける。
「…お疲れ、も何もないのだわ!」
癇癪玉が弾けたように真紅が叫ぶ。
「何で他のみんなに比べて私の仕事、接客は多いの!?納得行かないわ!」
「あらぁ?だって、この指名制ナース喫茶"La-plus"では…」
意外そうに目を見開きながら言った水銀燈は真紅に耳を近付けながら続ける。
「貧乳マニアが多いものぉ」
ピシ、と真紅が固まる。
「さぁ始まったですぅ世紀の対決、巨乳VS虚乳。読み方こそ同じでも意味は全く正反対なこの二語。
この世紀の対決、実況を努めさせていただくです。私、翠星石。そして、解説の…」
「蒼星石です」
のりのりな翠星石に比べ、テンション低めの蒼星石。
どこから持ち出したのかマイクも握っている。
「ベースの僕がまさかこんな形で初めてのマイクを握るなんて思ってもいませんでした。そもそも僕がベースをやり始めたのは…」
前言撤回。
蒼星石ものりのりなようだ。
「小うるせぇ解説はほっとくですぅ!さぁ、レフリーが開始の合図を出そうとしているですぅ!」
両手を大きく広げた薔薇水晶が素早く腕を交差させる。
「…ファイト!」
「先手は真紅ですぅ」
キッ、と真紅は水銀燈を睨み付ける。
「大体、貴女はいちいち嫌味っぽいのよ!貧乳のなにが悪いの!?」
「まぁ確かに悪くはないですぅ」
翠星石が頷く。
「あらぁ、悪いなんて言ってないわぁ。私は貧乳が羨ましいくらいよぉ。寝るとき俯せに寝れるものぉ」
ぐい、と両手で自分の胸を見せ付けるように持ち上げる。
Illust ID:aa8fXMffO 氏(79th take)
「おぉっと、水銀燈の得意技、SHOW THE CHICHIが出たですぅ!!」
「これはきついですね。本来この戦いは聴覚によりダメージを与えるものなんですが、SHOW、つまり乳を見せることで、視覚によるダメージを与えれます」
このSHOW THE CHICHIが効いたのか真紅はぐっ、と詰まった。
「…だったら吸引でもして小さくすればいいじゃない!」
「やぁよ。大事な体、傷つけたくないわぁ」
この後も二人は言い合っているが、水銀燈が優勢だ。
この時点で鐘がカーンと鳴った。
前半終了の合図。
「さぁ、前半戦終了です。蒼星石さん、今の前半戦どう思われたですか?」
「そうですね水銀燈がちょっとリード気味ですね。真紅も黙っちゃいないでしょう。水銀燈がこのまま逃げ切れるでしょうか?」
真紅と水銀燈、それぞれのマネージャーがタオルを渡し、アドバイスを送る。
「さすがですわ、水銀燈。勝利は間違いないですわね?」
ニコ、と笑いながら雪華綺晶は話し掛ける。
「当たり前じゃなぁい。私に敗北の二文字はないわぁ」
「たのもしいですわ」
「どうしたのかしらー?真紅、調子悪いかしらー!」
真紅についているのは金糸雀だ。
「大丈夫だわ、金糸雀。ちょっとペースを崩しただけ。後半は頑張るわ」
「乳はただの脂肪ということを忘れちゃダメかしら!」
真紅にガッツポーズを送る金糸雀。
「さぁ、後半戦が始まるですぅ!」
ここで鐘が鳴り、戦闘再開である。
「…ファイト」
次の先手は水銀燈だ。
「いい?とにかくぅ、胸なんかなくてもいいじゃなぁい」
言ってる事はまともだが、言い方と目線で真紅を挑発している。
「ふっ、そうかもしれないわね。所詮、乳なんてただの脂肪にしかすぎないのだわ!」
ピキッ、と水銀燈のこめかみに一筋の線。
「貴女、また重くなったんじゃなくて?」
こめかみにもう一本。
「ごめんねぇ、胸が大きいのよぉ?」
図星をつかれ既に笑顔が歪んでいる。
「水銀燈は痛いとこを突かれたね」
「でも、水銀燈は太ってないですよ?」
「うん、決して水銀燈は太ってない。でもここで言ってるのは太さじゃなくて、重さなんだ。胸は嫌でも体重に関わってくるからね」
あくまでも笑顔で言う蒼星石。
「好きな人に抱っこされないかもしれないわよ?私はそんなの嫌なのだわ」
真紅がそういうと水銀燈は俯いてしまった。
「………れ」
ぐぐ、と起き上がりながら水銀燈は小さく言った。
「なぁに?なんて言ったの?」
「えぐれっつてんのよ!この貧乳!知ってるぅ?くんくんは巨乳好きなのよぉ!?」
くんくんどうのこうのは全くの捏造だが、これは効いたらしい。
「な、何ですって!?あのくんくんが…っ!」
真紅の表情がだんだんと落胆の色に変化し、ついに膝をついた。
うわごとのように、くんくんが…あのくんくんが…、と繰り返している。
「……ドブス」
水銀燈が勝利を掴みかけたところで、真紅が言った。
「ドブス!ドブス!ドブス!ドブス!この色欲魔!」
何かの糧が外れた真紅は幼い子みたいに怒鳴り散らす。
「何よぉ!この貧乳!貧乳!貧乳!貧乳!貧乳!同じ貧乳なら金糸雀の方がマシだわぁ!」
「むきぃー!あんなどじめがねの何が良いって言うのだわ!?」
「ひどいかしらー!」
いきなり小学生並になってしまったこの戦いを前に、解説・実況は固まっている。
薔薇水晶も止めるタイミングを失ってしまいあたふたしている。
これはもう真紅、水銀燈両者の体力が切れるまで待つしかない、と誰もが諦めた時、あのデス声が響いた。
「やめるのぉぉぉぉお!」
デスレベルは2。
振り向いた先には雛苺が腰に手を当て、頬をプクーと膨らませている。
「あれはっ!」
「な、何です!?」
蒼星石の顔に驚きの表情があらわれた事に翠星石が問い掛ける。
「雛苺に…負けた…」
真紅が呟いた。
そう、雛苺の胸は水銀燈に負けず劣らずの巨乳。
「こぉんな…小さい子にぃ…?」
水銀燈も驚きの表情が伺えた。
「二人ともそこに座るの!」
二人は素直に座ったが目線は雛苺の胸にある。
「まったく、二人はいつもいつも喧嘩しすぎなのよ。だから、…」
「はい、…はい、…ごめんなさぁい…」
「っ…悪かったのだわ」
こんこんと説教する雛苺にただ、素直に謝る二人。「胸の大きさは個人個人で変わるもの。皆さんはそんなに気にしなくても大丈夫。きっと真紅よりは大きくなりますわ」
と、雪華綺晶がカメラの前で言ったのを真紅は知らない。
「納得行かないわー!」
珍しく二人の口調もぴったりとこの喫茶店に響いた。
みっちゃんはこのビデオをライブ用、観る用、保存用、緊急避難時用と編集し、ダビングしていた。
つづく
最終更新:2006年09月20日 22:38