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一、乙女たるもの常に周りを気に掛けるべし

 《Rosen's story【Ⅵ.ローゼン】》 

 真紅達の停学も解け、今日は待ちに待った学園祭である。
 生徒達は活気づき、わいわいと楽しそうである。
「今日が無事に終わればいいね」
 ベースを片手に蒼星石が呟く。
 基本的に生徒会は学園祭を廻らず、いざという時の救護班のような役割である。
 故に生徒会室でゆっくりと新曲の練習にあけていたりする。
 少し寂しいが生徒達に会わないで済むのは気楽だった。
「何時からだったっけ、生徒会企画」
 文化祭では20分ほど生徒会主催のオリエンテーションがある。
「二時間後…だわ」
 デモテープを聞きながら真紅が呟く。
 途端に生徒会室の電話が鳴り響く。
「はぁい、こちら生徒会室でぇす………分かりましたぁ、すぐ行きまぁす」
「何だったですか?」
「なんかぁ、看板の一部が取れちゃったみたぁい。行って来るわぁ」
 水銀燈が生徒会室を出る。
「水銀燈が帰ってきたら、生徒会企画の打ち合せをするのだわ」
 真紅の提案に皆は賛同した。
「たっだいまぁ~。今日は暑いわねぇ。これ差し入れぇ」
 と、水銀燈が取り出したのは八人分のアイス。
「わーい!水銀燈、大好きなのー!」
 雛苺は真っ先に飛び付いた。
「悪いわ、水銀燈。いくらだったの?」
「いいのよぉ、私のお・ご・り」
「水銀燈…太っ腹…」
 それぞれはアイスを取出し頬張り始める。
「それで、生徒会企画の打ち合せをしたいんだけど…」
 大まかな段取りを話し、次に要所要所を細かく話し合う。
「うん、いいわね」
「大丈夫なのー!」
「そろそろ時間だわ」
 ガタ、と真紅が立ち上がったのに七人は続く。
『次は、生徒会企画です。題は【心響】です』
 真っ暗な体育館に丁寧なアナウンスが流れる。
 それと同時に優しいキーボード音が流れる。
 ざわざわとざわつく生徒。
 優しくてか弱くて、どこか力強い歌声が木霊しはじめた。
「赤薔薇様…」
 誰かがそう呟いたのと同時に舞台は明るく照らされ、心臓に響くような音が発せられた。
「薔薇様達…!」
 生徒達が騒つくのを余所に、真紅達は演奏をやめない。

明るい月夜に 誘われて ふらふら飛び立つ 
暗い闇は物哀しげに 君を勇気づける 
世界のどこかで 枯渇する音が響く 
誰の悲鳴だろう 私はあれを救えるのかな? 

You can see the paradice.汚れなき者達への楽園は 
I can't go to the paradice.私には行けない見えない 
届かない 

何を恐がっているの 何が君をそうさせてるの 
こんな楽しげ月夜に 君は一人寂しそう 
世界のどこかで 自分を嘲笑う顔を見た 
汚れた者を救う手立てはないんだと 頭のなか響いた 

I want to go to another world.もうここにはいられない 
You don't need the another world.でも貴方は必要じゃない 
皮肉だね 

私に必要などこかは 私を受け入れてはくれない 
貴方がいらないどこかは 貴方しか受け入れられない 

You can see the paradice.私が悪いってことくらい 
I can't see the paradice.理解してるけど少し悪あがき 

逃げ道なんかはないよと言ったあの声 
またどこかで響いた 
勘違いも甚だしいよね 
助けが欲しいのは私だったのに… 

 演奏が鳴り止むと同時に静けさが訪れた。
 はぁはぁ、と真紅達は肩で息をしている。
 …ぱちぱち、と小さな拍手、それは体育館全体に広がった。
 ぽかん、としていた生徒の顔にも少しだけ高揚の色が浮かんでいた。
 正真正銘のお嬢様達にロックが受け入れられたようだ。
 ほっとメンバーの顔に安堵の色が浮かんだとき、あのヒステリックな声が響いた。
「待ちなさい!」
 Aだ。
「貴女達!この前の騒動を忘れたの!?こんな恥を皆さんの前で…」
「恥じてなんかないの!」
 キーン、とマイク特有の機械音が耳に響く。
 叫んだのは雛苺だ。
「ねぇ、先生。ヒナ達悪いことした?好きな音楽をやるのが悪いこと?」
 いつになく雛苺の顔が真剣だ。
「皆だって、ピアノやってる、バイオリンやってる。ヒナ達はそれがギターやベースなだけ。皆と変わらないのよ!?」
「確かに薔薇学生として恥ずかしいのかもしれない…けど私達自身、恥ずかしいと思ったことはないわ!」
 雛苺に続くように真紅が言った。
「この前、お話したはずです!僕達は真剣にこのロックをやってるんです!」
 蒼星石は生徒達に自分の境遇を説明した。
「僕達は誰より真剣にやってる自信がある!」
 シーン、と水を打ったように体育館が静まり返った。
 そこにパチンパチン、と強く拍手する者が。
「お父様…」
 薔薇水晶が小さく呟く。
 八人の保護者、ローゼンだった。
 水銀燈ががくりと膝をつく。
 八人の仲で誰よりも父親――ローゼンを好いていた水銀燈にとってはそれほどショックだったということだ。
「お父様…」
 真紅も顔面蒼白になっている。
 今度こそ退学だろうか、いやまた捨てられてしまうのかもしれない。
 八人の脳裏に久々に絶望の二文字が過る。
「…素晴らしかったよ」
「…………へ?」
 翠星石が間抜け面で言った。
 他のメンバーも同じ表情だった。
「とても素晴らしい演奏だった。これからも続けるといい」
「…おと、さま…」
 笑顔でそう言ってくれたローゼンに思わず泣きそうだった。
 雛苺はすでにくしゃくしゃの泣き顔だ。
「理事長!」
 今にも噛み付いてきそうなAが叫ぶ。
「何だね?」
「こんな特例を認めてしまってはこれからの…」
「特例?私は学校以外まで干渉する気はない。法律を破らないかぎり、外で何をやっても自由だと思っている」
「っ…ですが!」
「学校から出て、制服を脱いだら彼女達だって立派な女の子達だ」
 ローゼンはAに近付きながら凛とした声できっぱりと言う。
「薔薇学生である前に、彼女達は立派なニンゲンなんだよ」
 悔しそうな顔でAは俯いた。
「真紅達。これからもノビノビとやってくれていい。ただ、問題は起こしてくれるなよ」
 ウィンク付きでローゼンはそう告げた後、八人分の体重をその体で受けとめることとなる。
 生徒達の頑張って下さい!という声が何重にも重なり合うのを聞きながら。

つづく


最終更新:2006年09月20日 22:34