Story スイ 氏
「…蒼星石、ちょっと話があるですぅ」
夕日差し込む部室の中、翠星石はパイプ椅子に座りながら静かに口を開いた
「…どうしたんだい?翠星石?」
珍しく遅刻しなかった翠星石の珍しい切り出しに、蒼星石はチューニングの手を止める
「落ち着いて聞いて欲しいです…」
蒼星石はこの段階で一つの事を確信した
ーこれはそこまで大した話じゃない
「実は翠星石は……ロックの申し子かもしれないんですぅ!!」
目を輝かせながらガタッと椅子から立ち上がる翠星石
静かに目を閉じ、今日も平和であることに感謝する蒼星石
蒼星石は一応…一応聞いてみた
「……どういうこと?」
翠星石はクスクス笑いながら蒼星石に向き合う
「それはですねぇ…ズバリ!翠星石の語尾に秘密があるですぅ!!」
「…語尾?」
蒼星石は小首を傾げる
「そうですぅ…まず蒼星石、《ロック》とはつまり何ですか?」
「それはまあ…《反抗精神》だよ」
「そうです…次に蒼星石、翠星石の語尾は何ですか?」
「《~ですぅ》だよね…?」
「フフフフ…そうです!まさに《ロック》ですぅ!!」
蒼星石はますます首を傾げる、今日の翠星石は想定の範囲外だ
「いいですか蒼星石……人は……死ぬです」
「…うん…確かに…」
「《死人に口無し》つまりここから《生きる》ということは《話す》ということ、まさに《言葉は生の証》と取れるですぅ」
「…翠星石、それはちょっと意味が…」
「つまりですね…」
ああ…駄目だ
あの時と同じだ…
翠星石はまたもや勘違いを元に、暴走している
「…生きている翠星石の言葉に常に含まれる言葉…《ですぅ》もとい《DEATH》はまさに《生》への反抗精神……」
「…………」
蒼星石は暴走する姉を静かに見守っている…半分呆れながら
「そう!!つまり翠星石は無意識の内に《ロック》を表現してたんですぅ!!」
「でも翠星石……」
蒼星石は満面の笑みで語る翠星石にゆっくりと言う
「なん《ですぅ》?」
…気のせいかさっきより《です》が強調されてる気がする
「その理屈だとホラ……タ〇ちゃん…」
「!!」
この時蒼星石は気づいていなかった
ー自分が姉の暴走に加担してることに
「…す…翠星石とした事が…」
翠星石は崩れるように椅子に腰を落とす
「ホラね?翠星石、つまり君の理屈は間違ってー
「〇ラちゃんまでもが《生きるロック》だとは思わなかったですぅ…」
「……………」
蒼星石は確信した、止まらない暴走を
蒼星石は後悔した、自分の言動を
「そういえばあの一家はロックそのものですぅ……2007年だというのにあの奇抜な髪型…成長しない子供達…死なない年寄り……《磯野、野球しようぜ》…《ばぶぅ、チャーン》……まさに《時》に対するロックです…」
「…翠星ー
「蒼星石!!翠星石は…翠星石はこの61年という《時》のロックに勝つためには自分に革命が必要だと思うです!!」
「………………」
蒼星石はついに諦めた、何かを
「…とりあえず翠星石は意識的に語尾を変えてみるです」
「《生》に対して《死》をロックとするなら……」
蒼星石は差し込む夕日に照らされる姉を見て再確認した
ーやっぱり平和だな…
「フフフフ……逆転の発想ですぅ…今度は《生》に対して《生》を!つまり《LIFE》を語尾にして反抗に反抗を重ねるらいふぅ!!」
「…らいふぅ?」
「フフフフ……そうらいふ、この語尾こそロックの結晶なのらいふぅ!!」
どこか間抜けな語尾を振りかざし、翠星石は再び席を立ち上がる
「…フフフフ…真紅達が来るのが楽しみらいふぅ、ロックの真髄を叩き込んでやるらいふぅ…」
不適な笑みを浮かべる翠星石、彼女の願いが叶ったのか部室のドアは静かに開いた
「真紅に水銀燈…まったく遅いらいふ!!」
明らかにいつもと違う翠星石に無言で立ち尽くす真紅
必死に爆笑を堪える水銀燈
真紅は静かに蒼星石の下に向かい、小声で聞く
「蒼星石…」
真紅は上機嫌でスティックを握る翠星石を指差す
「……気にしないで真紅。すぐ戻ると思うから…」
ドアの前、水銀燈は小刻みに震えてながら翠星石に言う
「翠星石ぃ~その…フフ…らいふぅってなぁにぃ~?」
「水銀燈にはこのロックの美しさが分からないらいふ!?」
「フフ……くっ……アーハッハッハッハ」
爆笑する水銀燈に翠星石は少しムッとしたが、いつものように怒り出すことは無かった
「フン!他人に簡単に理解されないところもロックの醍醐味らいふぅ!」
笑い転げる水銀燈の後ろ、再びドアが開く
ー学生服にメガネ
ジュンが真紅のノートを手に部室に来た
「あら、私としたことが…ありがとう、ジュン」
「ん、気をつけろよな」
「真紅が忘れ物するなんて珍しいらいふぅ」
ノートを真紅に渡し部室を後にしようとしたジュンが立ち止まる
それを見た水銀燈は爆笑を続ける
「…いい加減うるさいらいふぅ!この巨乳!!」
瞬間!真紅はテーブルの上のピックを掴み水銀燈のおでこに向かって投げる!
ーピシィッ!
「きゃっ!」
…クリーンヒット
真紅の投げたピックは水銀燈のおでこをしっかりと捕らえた
「……え?あれ?」
おでこを擦りながら首を傾げる水銀燈をよそに、ジュンは振り返り翠星石の顔を、もとい何か異変が無いかを確認する
「おまえ……どうしたんだ?」
翠星石はいかにも得意気といった表情をしていた
「所詮ジュンじゃロックの精神は分からんらいふぅ、お子様はチビ苺と大福に食いついてろらいふぅ!」
「フン…どうせ語尾変えてロックがどうとかやってるんだろ」
「!!」
思いがけないジュンの言葉に翠星石の顔色が変わった
「いつもの《ですぅ》が《DEATH》だから今度はー
ジュンがそう言う中、翠星石は素早くジュンの襟を掴み部室の外へ引きずり出す!
「おまえちょっと表にでるです…ロックがなんたるかを叩き込んでやるです!!」
「うわっ!や…止めろ翠星石!僕はこれから家でサザ〇さんを見ー
「てめえなんかにあのロックアニメは千兆年早いです!!」
「く…苦しい…てゆーかおまえ語尾もどって…
拉致されるジュンの隣、水銀燈は未だにピックを見ながら首を傾げていた
「……?」
そんな水銀燈をよそに、真紅は静かにため息をつく
「ふう…仕方ないわね」
「…いつものことだよ」
真紅と蒼星石は苦笑しながら部室の外、寒空の中に響くジュンの悲鳴を聞く
「まったく…先に練習するのだわ蒼星石、水銀燈」
水銀燈は静かに椅子から立ち上がる真紅に向かってオドオドと話しかける
「あの…真紅ぅ…」
「どうしたの?水銀燈」
水銀燈はいつも通りの真紅に安心し、笑顔で話を続けた
「さっき巨乳っていったの私じゃなー
ーピシィッ!
真紅はポケットからピックを取り出し、再び水銀燈のおでこに向かって振り抜く!
「きゃっ!」
(……真紅……完全に《巨乳》の単語だけに反応してるわぁ………恐ろしい子…ッ…でもなんで……標的が私?)
水銀燈はおでこに当たった薔薇模様のピックを握り、今後巨乳という言葉を容易く使わないよう固く決心した
ー茜色のステージ
ギターに、そしてベースが奏でるメロディーにかかる澄み切った歌声
コーラスはージュンの悲鳴
「…ロックとタ〇ちゃんの深い繋がりを知るですぅ!!」
「す…翠星石…もう勘弁ー
「まだまだ後二時間は語るですぅ!」
ー結局翠星石は自分の最もロックな部分には気付かなかった
それはーー好きなものを好きといえない
ー子供みたいな《反抗精神》
「フフ…僕は翠星石のそんな所は本当にロックの申し子なんだと思うよ」
fin
最終更新:2007年01月12日 22:58