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「……あっ!」
「どうしたのぉ、ばらしー?」

突然、足を止めた薔薇水晶はクルリと振り返る。
不思議に思った水銀燈が尋ねると、薔薇水晶は通り過ぎたコンビニを指差す。

「牛乳…買わなきゃ、もう冷蔵庫に入ってないよ…」
「えっ、もう2ℓも飲んだのぉ~?」
「…うん…」
「飲みすぎよぉ~、お腹痛くなっちゃうわよぉ~」
「…痛いのはイヤ……でも牛乳ほしい…」
「しょうがないわねぇ~」

2人はコンビニに入ると水銀燈は何気なく雑誌を手にし、パラパラとページをめくりだす。
一方、薔薇水晶はすぐに牛乳が置いてあるコーナーへと向かう。

「……あっ…」
「なぁ…?」

牛乳を掴もうとしたとき、不意に横から伸びてきた腕に、薔薇水晶はサッと伸ばしていた手を引き、横を向く。
そこには同じように引いた手を胸の前で組み、薔薇水晶を見ている顔がある。
始めは申し訳なさそうな表情で薔薇水晶を見ていたが、途中から何やら思い出したようにじっと薔薇水晶の目をみつめる。

「んん~~? もしかしてバカ水晶ですかぁ~~?」
「…えっ……だ、誰…?」

バカ水晶、そう言った彼女は薔薇水晶の弱々しく途切れがちな話し方を聞き、確信したのか、いきなり頬をつまみ出した。

「誰って、この翠星石を忘れたですかぁ、このバカ水晶!」
「ほっぺた…痛いふぉ…」

翠星石は薔薇水晶のほほをつまんだまま軽く横にひっぱり、顔を近づける。

「なぁ~んで、こんな所にバカ水晶がいるですぅ~?」
「…ふぇぇ…銀ちゃ~ん」

いきなり頬をつままれた薔薇水晶は体を硬直させながら水銀燈の名前を呼ぶ。


「ちょっとぉ~誰か知らないけどぉ、そのクソ汚い手を離しなさいッ!」

翠星石の後ろから肩をガシリと掴んだ水銀燈。
その声に翠星石は頬から手を離すと、肩にかかった手を払いのけ、振り向きながら鼻で笑う。

「やぁ~っぱり水銀燈もいやがったですかぁ~」

ニヤリと不適に笑う顔に水銀燈は一瞬驚きの表情になる。

「翠星石なのぉ?」
「4年ぶりですねぇ~水銀燈、相変わらずバカ水晶なんかと一緒ですかぁ?」
「そんなの翠星石には関係ないじゃない~、それよりブサイクな顔を近づけないでくれるぅ~、ブサイクが移っちゃうわぁ~フフフッ」
「なっ、なんですぅ~、この翠星石のどこがブサイクですかぁ!!」
「あらぁ?貴女はカガミってものを見たことが無いのぉ~~?」
「も、もう、我慢ならんですぅ、表に出やがれですぅ!!」
「へぇ~、この私とヤルって言うのぉ~?って言うかぁ~、ねぇ、翠星石、貴女、私に勝てたことってあるのぉぉ~フフフッ」

今にもケンカが始まりそうな2人の顔を交互に見ていた薔薇水晶は溜まり切れずにグスッと鼻を鳴らしながら泣き出す。

「ふぇぇぇ~~ん、ケンカは……ダメだよぉ……」

まるで幼い子供のように泣き出す声にコンビニにいる他の人達や店員の注目が3人に集まる。

「ちっ、しゃーねぇ~ですぅ、今度見かけても翠星石の半径5m以内に近寄るなですぅ、この負け犬どもですぅぅ!!」

そういい残すと翠星石は何も買わずにコンビニから出ると表に停めているスクーターに乗って走り去っていった。

……胸クソ悪ぃ2人ですぅ

いつもよりスピードを出して帰った翠星石は少し乱雑にドアをあける。

「ただいまですぅ~」
「おかえり~、ふふ」

靴を脱ぎ、ドアにチェーンをかけて部屋に入ると、ニコやかに笑っている蒼星石がいた。

「どうしたですぅ、ニヤニヤしてぇ?」
「あのね、さっき凄く懐かしい電話があったんだよ、誰からだと思う?」

誰からだろう、そう思いながら考えてみるが、これといった答えが出ない。

「だれですぅ~?」
「ふふふ、巴さんから電話があったんだよ、それにバンドもしたいんだって」
「本当ですかぁ、どうして翠星石と電話を変わらなかったですかぁ?」
「だって翠星石は出かけてたじゃないか~、所でどうしたの?なんだか機嫌が悪いみたいだね、何かあったの?」
「うぅ~翠星石の方も懐かしいヤツに会ったですぅ~~」
「懐かしい人…誰なんだい?」
「水銀燈とバカ水晶ですぅ~~!!」
「えぇ~、あの2人もこの街にいたのかい?懐かしいなぁ、元気そうだった?」
「相変わらずレズっ気全開で気持ち悪いやつらですぅ!」

……水銀燈、薔薇水晶、懐かしいなぁ~あれからどれくらい経つのかな?
たしか初めてあったときは……

翠星石の言葉に蒼星石は記憶を遡ってみる。
初めて2人と出合ったのは小学生の頃だった、交通事故で両親を亡くした翠星石と蒼星石は親戚の家に引き取られるも、すぐに家出を繰り返し、最後は水銀燈と薔薇水晶がいた施設に入った。
その施設は親を亡くしたり、家庭の事情で親の保護を受けられない女の子を預かるキリスト教系の施設、聖アリス教会。
やや古くなった礼拝堂には絡みついたツタが緑の血管のごとく外壁を取り巻いている。
そのツタは所々に小さな葉を付け、太陽をうけて影を落としている十字架にまで伸びている。
そんなある種の不気味さをも感じる礼拝堂の中で薔薇水晶は時々パイプオルガンを触っては音をだして遊んでいた。

 ~~~♪♪~~♪~♪~~♪~~~~~♪~~

入所して1週間ほどたった時だろうか、翠星石と蒼星石は礼拝堂の中から聴こえてくるぎこちない音色に魅かれて重厚な扉を開いてみた。
長イスが等間隔で並び、聖マリア像の後ろにあるステンドガラスから陽光が虹色に変化しながら差し込んでいる。
その光はフワリと漂う小さな埃をキラキラと光らせ、まるで塵や埃を神聖なもののように見せていた。

「……誰…?銀ちゃんなの……?」

扉がギィ~っと軋みながら閉まる音にパイプオルガンの音色は止まり、弾いていた薔薇水晶はイスから立ち上がると、パイプオルガンの隙間から扉のほうをうかがい見ると、自分より2~3歳ほど年上の少女がたっている。
腰に届くほどの長い髪と、正反対に髪先が肩に触れるくらいのショートカットの少女がいる。
その2人は一見しただけでは髪の長さと服装くらいでしか見分けがつかないほどよく似ている。
薔薇水晶は覗かせていた顔を半分ほどパイプオルガンの陰に隠すとショートカットの少女がニコッと笑いながら話しかけてきた。

「こんにちは僕は蒼星石、こっちにいるのは姉の翠星石、君の名前は?」

女の子なのに自分の事を僕と呼ぶ蒼星石を少し変かな、と思いながらも小学生とは思えない落ち着き払ったモノの言い方に薔薇水晶も答える。

「…わ……わたしは…ば、薔薇水晶………」
「キレイな曲ですねぇ~、何ていう曲ですかぁ~」
「……ベ、ベッド……ミドラーの…えぇ~っと…あの~…The…Rose……って言う……曲で…あのぉ~、えぇっ~っと……わ、私の名前は……」

ゆっくり途切れがちに話す薔薇水晶に少し苛立ち始めた翠星石は1歩前に進み出ると、やや声を荒げながら言う。

「お前の名前はさっき聞いたですぅ、もっとはっきり喋りやがれですぅ」

もともと口の悪い翠星石の言い方にビクッと体を振るわせた薔薇水晶はパイプオルガンの陰に隠れ、座り込み泣きそうな顔をする。
そん時、ギィ~っと扉の開く音がし、その後に水銀燈の声が聞こえた。

「ちょっと、だぁれ、貴女達? ばらしーをイジメたらタダじゃおかないわよぉ~ッ」
「うぁ~ん、銀ちゃん…」

半分泣き出しそうな顔と声を出して薔薇水晶はパイプオルガンの陰から飛び出すと、蒼星石と翠星石を睨みつけている水銀燈の後ろに身を寄せた。

「イジメられたのぉ?私が来たからもう大丈夫よぉ~」
「……銀ちゃん」

薔薇水晶の頭をなでる銀髪の少女、おそらく自分達と同じ年齢くらいだろうと思いながら蒼星石はすぐに誤解だと説明する。
それを鼻で笑いながら聞いている水銀燈に翠星石は目を吊り上げた。

「な~んです、その態度はぁ? 蒼星石が誤解だと言ってるですよッ、だいたいお前に後ろに隠れているヤツが余りにも頭の悪そうな喋り方をするのがいけねぇのですぅ!」
「なぁに? 誰の頭が悪いですってぇ~?」
「はぁ?聞こえなかったですかぁ~?おまえは耳まで悪いですかぁ~?」
「ふぅ~ん、貴女は顔だけじゃなくて口まで悪いのねぇ~、ふふふっ」
「誰の顔が悪いですぅ~~ッ!!」
「なぁに? やろうって言うのぉ~?いいわよぉ、相手になってあげるぅ」
「じょ~と~ですぅ、来やがれですぅ!!」

今にも取っ組み合いが始まりそうな水銀燈と翠星石、そんな両者の間にわって入る蒼星石と水銀燈の服を掴む薔薇水晶。

「ヤメなよ、2人ともー、ケンカはいけないよッ!」
「……銀ちゃん…ダメ、ケンカはダメ……」

そんな騒動が外まで聞こえたのか勢いよく扉が開くと年配の女性が入ってくる。

「貴女達、どうしたの? 何をしているの?」
「…あっ……シスター…」

その声に4人はシスターのほうを見る。
シスターは、ふぅ~っとため息をつきながら睨みあう水銀燈と翠星石を見ながら首をゆっくり左右に振る。

「また、水銀燈と翠星石ね、困った子ねぇ、後で私の部屋に来なさい」

そんなシスターの姿を見て水銀燈と翠星石はバツの悪そうな顔をしてうつむきながら答える。

解ったわぁ~…………
ゴメンですぅ~………

そんな場面を思い出しながらクスッと笑う蒼星石。

………あの時から翠星石と水銀燈はよくケンカをしていたなぁ~水銀燈と薔薇水晶か、ほんとうに懐かしいな、ちょっと会いたいな、ふふふ

笑顔を見せた蒼星石に少し首をかしげた翠星石は服を脱ぎながらバスルームのほうに歩いていく。

「なに笑ってるですぅ~? 翠星石は先にお風呂に入るですよぉ~~」
「うん、いいよ、先に入っていてよ」

翠星石の背中に声をかけながら蒼星石はもう一度クスッと笑った。
それは普段はいつもいがみ合っていた翠星石と水銀燈だが、不思議と音楽の話になると、どこかで2人は気が合ったのか、罵り合いながらも時折見せる互いの笑顔。
そんな一場面を思い出しながら蒼星石は壁に立てかけているベースをチラッと見ると、今度は声に出して小さくクスッと笑った。

次の日、金糸雀と雛苺がアルバイトに出かけた後、真紅は静まり返ったキッチンで紅茶を飲んでいた。
テーブルにはティーカップを口に運ぶ影がスローモーションのように動いている。
ここ数日続いている晴天のためなのか、影を作る陽光はガラス窓越しに差し込み、淡く柔らかいく、どこか春の兆しが感じられた。
熱い紅茶のせいなにか、それとも春を感じさせる陽気なのか、薔薇乙女を解散してからの日々の中で、今朝はどこか気持ちが軽い。
紅茶を飲み終え、ふぅ~っと一息ついた真紅は何気に昨日、公園で出会った薔薇水晶が口ずさんでいた曲が気になった。

……確かパナマって言ってたわね、インターネットカフェでも…

パナマだけではよく解らない真紅は近くにあるインターネットカフェを思い出し、そこで調べることにした。
さっそくダブダブのパジャマから私服にきがえると足早に出て行った。

マンションから10分ほどの距離、小さな交差点を渡ると角にコンビニエンスストアーがある。
その3件ほど隣に目的のインターネットカフェがあった。
店内はこじんまりとした作りで、簡素だが清潔感があり、セルフサービスになっているドリンクコーナーから好みの飲み物をカップに入れ、指定されたPCブースに座ると、さっそくPANAMAとキーを打ち込む。

……VAN HALEN、アメリカのロックバンド、1984ってアルバムに入ってる曲なのね、あっ、このサイトは視聴できるみたいだわ…

何度目かのクリックで画面に出てきたサイトにある視聴タブを押す。
イヤホンから流れるメロディーはシンセサイザーの音。
その音源は今となっては古めかしく感じられる。

……1984年の曲だから、こんな感じなのね

始めは古く感じられたシンセサイザーの音とメロディーだが、次ぎの曲にさしかかると、どこか陽気で楽しく、目を閉じて聴いている真紅の口元は知らない間に微笑んでいた。
そして3曲目になると薔薇水晶が口ずさんでいた曲が始まる。
ドラムが作り出すリズムにギターのメロディーが走っている。
曲の疾走感だけで言えば薔薇乙女のときに歌った曲、現代のダンサブルなアレンジを施した曲のほうがあるかもしれない。
しかし、いつの間にか微笑む口に紅茶を運ぶのも忘れて曲を聞き入っている。
それは真紅が生まれる前の時代、そんな知るよしもない時代をなぜか真紅はリアルに感じられたからだ。

……ロックって言ってもいろいろあるのね

PCデスクに頬杖をつきながら目を閉じた真紅は首を軽く前後に揺らし、かかとで床をトントンとノックするように踏み鳴らし、リズムを取っていた。

……ステージでロックを、こんな感じの曲を歌ってみたいのだわ

軽やかに、そしてクールに流れ、展開していくロックのリズムに、閉じたまぶたの裏では七色のスポットライトを浴びて歌う自分自身の幻影が動き出していた。

(以下執筆継続中)




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最終更新:2007年02月26日 23:40