「こうして見ると、なんだか寂しいですぅ~」
「卒業かぁ…ここで3年間も過ごしたんだからね、僕も寂しいな」
中学を卒業し、3年間の思い出と新たな高校生活に期待を寄せながら彼女達は校門を出、卒業証書をもって家路についていた。
「ねぇ、翠星石、高校に行ったら軽音楽部に入るんだよね?」
「当たり前ですぅ、真紅や水銀燈も一緒に入るですよぉ~」
「また楽しい3年間になりそうだね」
「当然ですぅ~、もう楽しみで楽しみでじっとしてられねぇですぅ~~」
そう言うと翠星石はスキップ交じりで歩きだし、いつの間にか両手を広げ、笑いながら走り出す。
Illust ID:/tJoEPd+0 氏(158th take)
「早く高校に行ってみんなとバンドをやりたいですぅぅぅ~~」
「あっ、待ってよ、翠星石ぃぃ~」
笑いながら翠星石は横断歩道を渡っていく。
それを同じように笑いながら追いかける蒼星石。
あと2~3歩で渡りきろうとした時、翠星石はクルリと向きを変えて後ろからくる蒼星石に手を振る。
「早く来るですぅ~蒼星石ぃぃ~~」
「まってよ~翠星……あっ、危ないッ!!!」
蒼星石はわが目を疑った。ほんの数秒前までは笑っていた翠星石が、ほんの数メートルしか離れていなかった翠星石が今は赤い血の海に横たわっている。
その日、彼女の笑顔は信号無視で突っ込んできたトラックの轟音によって消えてしまった。
………………そして1年後。
あぁ~ようやく卒業だよ、退屈だったよなぁ~中学は…まぁ、高校に行ったら軽音楽部に入ってドラムとかガンガン叩きたいなぁ~~。
しっかし、イイ天気だなぁ~、って、うわぁ、花だよ、誰かこの場所で死んだのかぁ?卒業式の日にイヤなもの見たなぁ~、でも、誰か知らないけど一応拝んでおくか……南無阿弥陀仏ってねッ。
ジュンは軽い気持ちで横断歩道わきにポツンと置いてある花に向かって手を合わせ、そのまま気も留めずに家に帰った。
…………そして2週間後の夜。
はぁ~、夕食も食べたし、風呂にも入ったし、明日はいよいよ入学式だよ、
すぐに軽音楽部に入って好きなだけドラムを練習するぞ。
そしてできればバンド仲間とか作りたいなぁぁ~。
興奮のためかなかなか寝付けないジュンだが、時計の針が午前2時を過ぎる頃、ようやくまぶたが重くなり、寝息を立て始めた。
――――――おい、おい、起きやがれですぅ
ん?誰だ?もう朝か?んん?3時30分…、なんだよ、まだ夜中じゃないか。
夢でも見てたのかな?ふわぁ~、寝よう……。
―――――おい、なに寝ようとしてるですかぁ、このチビ人間ッ!!
はぁ、何?なんだよ、夢か…?
そう思いながらジュンは枕元にあるメガネをつけ、真っ暗な部屋を見渡してみる。
なんだよ、空耳か、夢だよなぁ~~っっっっあぁぁぁぁッ!!!
Illust ID:Vb/3JYFw0 氏(145th take)(クリックで元サイズ表示)
「やっと気付いたですかぁ~この鈍感人間ッ!」
「おぉぉぉ~うぅわぁぁぁ~~~」
「ん? 何ビビってるですぅ~?」
あぁぁ~、で、出たよぉぉ~、幽霊だぁぁ~~ッ!!
天井から上半身だけ出し、ベッドを見下ろす形でぶら下がっている翠星石を見、顔色を変えるジュン。
それに気付いた翠星石はいったん消えると、すぐに壁から全身を出す。
「悪い、悪いですぅ~、ちぃ~っとビビらせてしまったですねぇ~~」
「あぁわぁぁわぁぁぁぁ~~」
声にならずに目の前に姿を出した翠星石を凝視し、今にも気絶しそうだ。
そんなジュンに翠星石はお構いなしに近づく。
あぁぁぁ、ぼ、僕は、こ、殺されるのか? うわぁぁぁぁッ!!
翠星石はベッドの上で身動きが取れないジュンに顔を近づける。
そして互いの額が触れ合いそうな距離のまましばらく見詰め合う。
だ、ダメだぁぁぁ、僕は幽霊に殺されるんだぁぁぁ~~
そう思ったとき、ニコッと笑った翠星石はおもむろにジュンの額を思いっきり指で弾く。
「痛ぇ~ッ!」
「こんなカワイイ翠星石を化け物を見るような顔をしていつまでビビってるですかぁ~ッ」
「ば、化け物みたいって…化け物そのものじゃないか」
「なんですぅ~、翠星石は化け物じゃねぇですぅ、れっきとした霊体ですぅ」
「霊体…そ、それを化け物って言うんじゃないのか?」
「違うですぅ、化け物は妖怪の類ですぅ、翠星石は霊体、その中でも第3種地縛霊ってヤツですぅ~」
「じ、地縛霊……だ、第3種…?なんだよソレ?」
「解らねぇヤツですねぇ~、いいですかぁ、第3種地縛霊というのはぁ」
そう言いながら翠星石は指を立ててジュンに説明し出した。
その話によると、こうである。
地縛霊、それは思い残した念により成仏できない霊であり、成仏するために他人の力を借りて生前やり残した事をやり遂げようとする霊である。
ただ、第3種はその中でもとりわけ害はなく、人間に憑依して人格を破壊したり運命を変えるという力はない。
しかしコンタクト(見える、話す)してしまうと、成仏するまで付きまとわれることがある。
なお第3種は第2種、第1種のように怨念に近い念をもっている訳ではないので本人の記憶は曖昧で無きに等しい。
だが、稀に今回の翠星石のように名前などを覚えていることがある。
「と言うことですぅ~解ったかですぅ~~」
「わ、解ったような、解らないような……で、お前を成仏させるにはどうしたらいいんだ?つーか、どうして僕なんだよッ?」
「そんなのは自分で考えろですぅ~、翠星石もなんでお前と波長があったのか知らんですぅ~~」
「な、なんだよ、いい加減だな…しかしお前は自分の名前しか覚えてないのか?今までどこに居たんだ?」
「うぅ~、名前は翠星石って覚えているですけどぉ~、どこに居たのかまでは…」
そう言いながら翠星石は考え込んでしまう。
そんな頭を悩ます翠星石の目にふとドラムスティックが映る。
「あれぇ?なんだかこの棒が懐かしいですぅ~」
「ドラムスティックが懐かしいぃ? どういう事なんだ?」
「解らねぇですぅ~、とにかくお前は今から全力で翠星石を成仏させるためだけに生きろですぅぅ~~」
「な、なんだってぇ~ッ!!」
僕は桜田ジュン、なんだか解らないが、高校入学をひかえた真夜中に翠星石と名乗る謎の幽霊と出会った。
そしてここから僕と変な幽霊との共同生活が始まってしまった。
*
ピピッ、ピピッ。
デジタル表示が午前7:00を知らせると、ジュンはベッドの中で2~3回寝返りをうち、モソッと起き上がる。
窓から入ってくる朝日に目を細くし、大きく背伸びをする。
うぅ~ん、朝か? なんだか変な夢を見たせいか頭が痛いよ、
でも今日は入学式だし、初日から遅刻はマズイなッ。
真新しい鞄と教科書、そして制服に着替え髪に寝癖がついていないか、ジュンは鏡を覗き込む。
うん、寝癖はないみたいだ……なぁぁぁ~~ッッ!!
鏡に映った自分の後ろ、机の上に設置されているエアコンの周辺。
そこに栗毛色の長い髪がチラチラ見えている。
ジュンは恐る恐る振り向くと、天井から顔半分だけ出した翠星石は大きなあくびをしている。
「おはよーですぅ~」
いたよ……幽霊だよ…夢じゃなかったんだ……なんだか朝の挨拶をしてるけど、ここは無視したほうがいいのかな?
対応を考えていると、翠星石は天井からスーっと音もなく下りてくる。
そして床上30cmほどの所で宙に浮いたまま、またもやスーっと音もなく近寄ってきた。
おぉぉ~、浮いてる、浮いてる!!人間業じゃないぞぉぉぉ~!!
って幽霊だから人間じゃないんだよな…。
翠星石の一連の動きを見て妙に感心と興奮を覚える。
そんなジュンの前まで来ると翠星石は一際大きな声を出す。
「お は よ う ですぅぅぅ~!!」
「……おはよう」
「元気がないですねぇ~、チビ人間は体がチビだからパワーがないですかぁ?」
パワーも何も朝から幽霊におはようって言われて元気になる奴がいるか?
しかし、コレは現実なんだよな?実はまだ僕は寝ているんじゃ……。
そう思っていると翠星石はジュンの制服をシゲシゲと眺め出す。
「なんだよ、僕の制服がそんなに珍しいのか?」
「そんなんじゃねぇですぅ、ただ何か引っかかるものがあるですぅ」
「引っかかる?ソレってもしかして忘れた記憶か?」
「んん~~、解らないですぅ~、でも今からソレをお前と一緒に探しに行くですよぉ~」
「探しにぃ~?おい待てよ、今日は高校の入学式なんだぞ、行けるわけ無いじゃないかッ」
「ダメですぅ、翠星石の記憶を探しに行くですぅ、約束したはずですよぉ」
へっ、約束?僕はそんな約束なんかしたかな?
そう思いながらジュンは昨夜のことを思い出そうとする。
そんなジュンを見て翠星石はニヤリと不適な笑みを見せた。
「霊体との契約は無効にはできねぇですよぉ~、もし契約を破ろうとしたら祟りや呪いが降りかかるですぅ~ヒッ~ッヒッヒッヒッ~~」
「た、祟り、呪い…!!」
そんな契約なんてした覚えはないぞッ!でも目の前に普通じゃあり得ないモノがいるし、どうしたらいいんだよ。
やや困惑した面持ちで固まっていると、下の階から姉の声が聞こえてきた。
「ジュンく~ん、電話なんか後にして早く行かないと入学式に遅れるわよ~」
どうやら翠星石との会話を聞いた姉は電話で友人と話していると勘違いしたようだ。
その姉にジュンは「解ったよ」とだけ答える。
「ん?今の声はお前の姉ですかぁ?」
「そ、そうだけど…」
姉……なんなんですぅ~この変な感じは?姉、弟…違うですぅ、姉……妹、ん~~、何か思い出せそうなのですがぁ~、ダメですぅぅぅ。
のりの声を聞いた翠星石は神妙な顔つきで考え始める。
無くした生前の記憶。
それに繋がる何かが彼女の中で引っかかっている。
「あの~、翠星石さん、そろそろ行かないと僕、入学式に遅刻しそうなんですけど…」
「ウルサイですぅ、行きたければ行けばいいですぅ!」
「は、はい、じゃ、行ってきますよ」
そう言うとジュンは考え込む翠星石に背を向け、そ~っと部屋から出ると一目散に階段を駆けて玄関を出る。
あぁ~っ、どうにか外に出れたけど、どーすんだよ僕は…。
あんな幽霊が住み着いてるってこの先どうすればいいんだ?
学校に向かいながら幽霊対策に頭を悩ますジュンの目にある建物が見えた。
「あっ、そうか、近所に有栖神社があるじゃないか」
赤い鳥居を見て思わずポツリと声に出す。
「その神社で何をするですぅ~?」
「うん、幽霊をお払いしてもらおうかなぁ~って思ったんだよ」
「お払いですかぁ?」
「うん、お払い、浄霊ってヤツかな?ほらTVとかで時々やってるヤツね、あれをしてもらおうかな~ってェェェ居たのかよォ!!」
知らない間に翠星石はジュンの肩あたりでフワフワと浮きながら付いている。
そして翠星石を見て言葉なく口をパクパクするジュン。
そんなジュンを見て怪訝な顔をした他の人は意図的に周りから離れていく。
中には同じ制服を着た生徒達が小さな声で囁いている。
「ねぇ、見て、あの子、ヤバイよね~~」
「ほんと、同じ高校の子よ~」
「おい、さっきは独り言ブツブツ言ってたぜぇ~」
「あんなのには関わらないほうがいいよ」
他の人には霊体となった翠星石の姿は見えない。
よってジュンがあたかもそこに誰かいるかのような独り言を言い、しかも内容がお払い、浄霊などと口走っていたら誰もが気味悪がる。
そんな周りの雰囲気を感じたジュンはゴホンっと咳払いした後、人気のない通りに急ぐ。
「クッソ~、お前のせいでいきなり入学早々変人扱いされたぞッ」
「そんなのは知らんですぅ~、お前が変な事を考えてたのがそもそもの原因ですぅ~、だいたい浄霊なんて無駄ですよぉ~~」
「どうしてだよ~?」
「浄霊する前にお前の一族を呪い殺すからですぅ~ヒッヒヒヒ~~」
「おい、お前って地縛霊じゃなくて悪霊だろ?」
「な、何を言いやがるですかぁ、いいですかぁ、悪霊って人間界で言ったらヤクザとかテロリストみたいな奴らですぅ、翠星石をそんな奴らと一緒にするなですぅぅ!!」
「わ、解ったよ、そんなに大声だすなよ、聞こえるだろ?って…そうかお前の声が聞こえるのは僕だけか?」
「そーですぅ」
「ま、まぁ、とにかく学校ではあまり話しかけるなよ」
入学式、それはこれから始まる高校生活を前に不安と期待が入り混じった独特な空気が体育館を満たしている。
部活は何に入ろうか? 恋人はできるかな? クラスに馴染めるかな?
他の生徒がそんな思いを考えている中、ジュンは一人だけ入学式の挨拶を続ける校長の周りを飛んでいる翠星石にビクビクしていた。
おいおい、頼むから飛ぶなよ~、あぁ~~校長のハゲ頭を覗き込んでるよ~、
うわぁ~、なんで校長の上でギターを弾く真似なんかするんだよ~~?
一通りステージではしゃぐ翠星石はジュンに向かって手を振る。
手なんか振って、僕にどうしろって言うんだよぉぉ~~誰か助けてくれよ~。
やっぱり帰りは強引に有栖神社に行ってやろうか……ん?どうしたんだ?
今までイタズラっ子な笑みを顔全体に浮かべていた翠星石はある一点を見つめたまま表情が曇っていく。
なんだ、今度は何だよ?
ジュンは翠星石の視線を辿ってみる。その先には退屈そうな、そしてどこか寂しい表情をした3人の少女がいた。
2年生の人か…、どうしたんだ、翠星石は?
ジュンと翠星石が見つめる彼女達はボソボソと何かを話しているが、内容までは聞こえない。
「ほぉ~んと、入学式って大っ嫌いよぉ~」
「そうね、本当なら翠星石も……」
「イヤなの~、翠星石の名前は言ったら悲しくなるの~~」
真紅と水銀燈、そして雛苺はうつむいたまま入学式が終わるまで顔を上げなかった。
最終更新:2007年04月09日 03:01