アットウィキロゴ
「じゃあ私は帰るわぁ~ 明日はスタジオに顔出しなさいよぉ~」

「うん、曲は今日中に完成させて持ってくよ」

玄関先でブーツをコツコツと鳴らし、まだ眠気残る顔を下げながら水銀燈はゆっくりとドアを開ける

(……でも不思議だな)

引っかかるのはアノ言葉


――水銀燈に頼んで隣で寝てもらった


(水銀燈がそんなに易々と頼みごとを受けるかなぁ……てっきり『いやよぉ』とか言って断ると思ったんだけど……)

閉まったドアに確認する術なし、蒼星石は昨日のカップの片付けをするため、いそいそとキッチンに向かった

                    *

「まったく……とんでもない悪夢だったわぁ……」

帰路の途中、朝日の眩しさと反し、まだ冷える朝は水銀燈の整った肩をキュッと縮こませる
吐く息と気持ちは真っ白、朝日と肩の荷が同時に降りたのを深々と実感した足取りはいつもより軽い

「ふう……感謝するべきか悪態をつくべきか……不思議な子だったわねぇ」

――――

―――

……


「妙ねぇ……」

一ヶ月ものスランプに嫌気がさして、いつもより早くベッドに潜り込んだのが確か……昨日の夜

でも……今迎えたのはいつもの朝ではない

――そう、夜と朝の狭間。普段決してこんな認識の形はしない“夢”の世界

「……」

私は進むことも出来ずにその場に立ち尽くす

いや、進めるわけ無いのだ。こんな漆黒の空間を、こんな気味の悪い世界を

静寂が――五月蝿い

『水銀燈』

「誰!? 姿を見せなさぁい!」

静寂と暗黒ばかりだと思っていた世界を切り裂く声、私は思わず声の方に振り返り、叫ぶように確認する

そこにいたのは黒をかき分けたように存在する“白”の輪郭

凛と佇むソレからどうにか分かるのは、私と同じロングで、私と同じくらいの身長、凄く身近で聞いたことがある声――

「アナタ……だぁれぇ?」

『自分に自己紹介するのぉ? ふふ……お馬鹿さぁん』

そこまで言うと彼女はクスクスと笑いながら、ゆっくり、コツコツと足音をたて近付いてきた

『いらっしゃあぃ私、夢の世界に』

白はそう言うと、そっと右手を私の左頬に添えようとする

「触らないで」

馴れ馴れしい……私はその何よりも白い右手を一瞥し、叩く

『あらぁ……いいじゃなぁい、自分の頬くらぁい』

……彼女は一体何者なのだろうか

いきなり夢の世界に来てしまい、いきなり誰かに話しかけられる

……これ自体が夢だからだろうか

何が起きるか分からない場所
何が起きても寛容される場所

だからこその可能性だってある、普段絶対に顔を合わせない相手

――まるで鏡のような

『今日は早くおやすみしたのねぇ~ 長く話せていいわぁ~』

叩かれても赤くならない、いつまでも真っ白であり続けるかのような手の人差し指をそのまま唇に運び、クスッと微笑む白

「そう、それは幸いねぇ……私には聞きたいことが山ほどあるわぁ」

私は出来る限り、鋭い眼光で白を睨みつける

この訳の分からないやつにナメられないように、付け込まれないように

『ふふ……私が何者か知りたいんでしょお?』

……本当に訳が分からなくなってきた

予想だにしない白の言葉に軽く目眩がする、気張った眼光の先、私は本当に白を見ているのか……


――全てを見られているのか


『ワタシは他でもない、水銀燈の“記憶”の部分よぉ』

……バカバカしい

「ふん、あり得ないわ」

私はくだらない、といった面持ちで白の言葉を一蹴する
何を言ってるんだかコイツは……夢なら何を言ってもまかり通るわけじゃない、まして今回は夢だと分かってる、そんなことがあるわけ無いのだ

『ふふ……どうしてそう思うのぉ?』

白もまた、自分に自信があるかのような口調で返す

「いい、よく聞きなさぁいお馬鹿さん。私はまさに今、いろんな事を“思い出してる”わぁ」

「記憶が二つあるなんて聞いたことなぁい、私の今思い出している記憶とアナタの存在、この二つは矛盾してるわぁ」

得体の知れない真っ白なお馬鹿さぁん……私は勝ち誇る様にクスクスと笑う白を見た

『うふふ……お馬鹿さぁん』

「……何ですって」

私は先程より強く白を睨む、見る――見られる

『こう言えば通じるかしらぁ? 今、二人の水銀燈が、同じ自分の記憶をさまよっている……と』


『アナタもこれが夢だと分かってるんでしょお? なら今の状態は至極自然なハズだわぁ』

「……」

どれだけ睨もうと、どれだけ警戒しようとも、白はその合間をくぐり抜けるように話を続けた

『――夢は、記憶の形なんだからぁ』

「……」

白の言うことが正しいか嘘かなんて分からない
ただ筋は通っている、私はいま夢――つまり記憶に浸かっているのだから、記憶と対峙してもなんら不自然ではない

でも……余りに突拍子な話、私はどうするべきかさえ分からず、暗黒に足を釘付けされたように立ち尽くした

『まだ信じないのねぇ……いいわぁ、それなら始めましょう』

白はクルクルと踊り出す
頭はグルグルと悩み出す

――答え合わせを

「答え合わせぇ?」

私は右手をすっかり疲れた頭に添える
この世界はどうも駄目だ、声は響くし……ひたすら暗いし……

『そうよぉ 記憶の確認、存在の証明から認識に渡って、全部』

『アナタが自分しか知らないことを聞けばいいわぁ ソレにワタシが答えることが証明であって、確認よぉ』

……成る程……確かにそうだ。本当に記憶を媒介として今、対峙してるということならソレが証明となる

「……いいわぁ ちょっと待ちなさぁい」

向こうからそんな話を持ち出したということは……余程私の事を調べているか、もしくは本当に――

……アレでもない
……コレでもない

どうせ話すならとびっきりの話を……それこそコールドリーディングさえ許さない、一発で白黒がつくようなやつ……

「そうねぇ……じゃあ」

これでつく、真っ暗な世界と真っ白なコイツ
夢色な世界に白黒が

「……私が始めてギターに触れたとき、思ったことは?」

誰にも話してないこと
口にさえ出してないこと
そして――ローゼンメイデンとして一番深い、私の原動力

クスッと私
ニヤリと白

白の唇が、紡ぐ

『……“世界を、掴む”』

ふぅ……まったく……信じるしかないようねぇ

私は目を瞑り、小さくため息を漏らす

『ふふ……信じてくれてよかったわぁ』

――!!

いきなり口に出さない言葉に答えられ、背中の芯がビクリと震える

「アナタ、さっきからどうして私の……」

『簡単よぉ ソレだって記憶だもの』

……本当に参った、私はどうやら他でもない、ワタシに全てを見られてるらしい

……ん? ちょっと待って

「アナタ……私と会うのは初めてかしらぁ?」

気になることが一つだけある

私は裸の心のまま、心のどこかでは無駄だと知りつつも、ワタシにカマをかけてみることにした


『うふふ……素直に言いなさぁい カマをかけようだなんて……本当、私は油断も隙もないわぁ』

ハァ……やっぱりバレてるわねぇ

『まあ一応答えるわぁ ワタシと私はこれが初対面よぉ』

これで、確定した


――コイツはやっぱり私じゃない


「その質問が答えられるって事は……アナタは私と“アナタの記憶”を持ってるということになるわねぇ」

依然、白は不敵にもニヤニヤと笑う

「一人が二つの記憶を持つなんて……そんな事あり得ないわ」

私はニヤニヤと笑う白をギッと睨み、叫ぶように言葉を叩きつけた

「本当の姿を現しなさい!!」

『……あらあら』

瞬間、目の前の白が強く、強く輝きだし、周りの黒をあっという間に飲み込み、塗り変えていく

――クッ!

眩しい、私は太陽の様に強く輝くソレから逃げるように目を瞑った

アナタは――




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年03月17日 23:46