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目を開けた先には純白の服を纏った少女、ロングヘアの髪型をなびかすその様はまるで――

――ばらしぃ……?

違う、その姿はいつも無邪気なアノ子と似てはいるものの、決定的に違う所が二つあった

一つ目は背筋が凍るような冷たい“左目”で私を見ていること
二つ目は右目から白薔薇が私を見るように咲き誇っていること

「アナタ……誰なのぉ?」

「自己紹介は自分から名乗るのが礼儀ではなくて?」

純白の彼女は、驚く私の顔を見てクスッと微笑む

「私は……ローゼンメイデンのリードギター、“水銀燈”よぉ」

彼女は、一体

「ふふ……私はローゼンメイデンの記憶……」


「――雪華綺晶、ですわ。よろしく、“お姉様”」

……ローゼンメイデンの……記憶?

意外な言葉に、私は聞いた言葉を頭の中でリピートする

……私の記憶じゃなくて、ローゼンメイデン?

「そうですわお姉様、先程まではお姉様の記憶の部分としてお話していましたが、今の私、つまり雪華綺晶はローゼンメイデン全体の記憶を管理していますの」

「……それは御大層なことねぇ」

記憶?管理?

一体何を言ってるのぉ……

「ふふ……お姉様は今まで“盗作”をしたことがありまして?」

雪華綺晶は挑発、とも取れる口調に笑顔を添える

「ッ――ふざけないで!!」

怒号、まさにそんな言葉が相応しい声が漆黒を駆け巡り、貫いた

「誇り高いローゼンメイデンの水銀燈が盗作ぅ? 馬鹿を言わないで欲しいわぁ~」

水銀燈は興奮を冷ますように、右手で暗黒の中でも映える銀髪に指を通す

「そんなことするくらいなら私は音楽を辞めるわ、生き恥を晒すなんてまっぴら御免よぉ」

「そうね……ごめんなさい、でもお姉様……お姉様は無意識の盗作を意識したことはありまして?」

無意識の……盗作?

また私は頭を悩ませる、ああ、それにしてもコノ夢の世界に来てから考えてばかりだ
起きても全然疲れがとれないんじゃないだろうか……

「自分ではオリジナルメロディーと自信を持って言えるけど、その実、実際は街頭のメロディーやCMソングだったりしてしまうこと……」

「……それは……」

そう言われてしまうと自信が無い、出来上がったメロディーは全て、近辺に似通ったメロディーが無いか毎回チェックしている

……それでも、もし記憶の合間を似通ったメロディーがすり抜けていたら、思い出せない範囲にソレがいたら……

「……」

私は思わず雪華綺晶から俯くように視線を外す

怖い、怖い怖い怖い

果たして今まで作ってきたメロディーは本当にオリジナルだったのか

駄目だ、自信が持てない……頭が痛い、喉奥が熱い、世界が――回る

「愛しいお姉様……でも安心して、だから私は存在する」

私が顔を上げたとき、もしかしたら涙目だったのかもしれない
いくら夢の世界といっても他人に涙なんか見せたくなかった、でも……今回は仕方ない……夢なのだから

「メロディーを紡ぐ時、全ての記憶を巡り巡ってローゼンメイデンを記憶の錯誤から護る……それが私のパート」

雪華綺晶はゆっくりと目を瞑り、パチンと指を鳴らす

「……これは……」

現れたのは闇をくり抜く数多の扉
右には金銀細工で作られた豪華絢爛な扉、左には木製で飾り気のない質素な扉
それだけではない、他にも沢山の扉が辺りにある、一つは開いて一つは閉じて、まるでこちらを見るかのように扉は存在していた

「これは記憶の扉、お姉様が何かを思い出すために開けたり、何かを感じた時に作られるもの」

「記憶の……扉」

私はすぐ近くにあるドアノブに手を触れる、おかしなノブだ……温かい……

「……真……紅ぅ?」

開け放たれたドアの向こう、そこにはこちらを見て何かを言ってる真紅がいた

――ローゼ――――の――だわ

声は段々とハッキリと聞こえてくる、それはいつもハッキリと喋る彼女の声

――ローゼン――デンの――まりなのだわ

もう……少し

――ローゼンメイデンの始まりなのだわ

「これは私達の……」

真紅の言葉、それは始まりの言葉
初めてスタジオに行って、初めて音を合わせて……最後に振り返りながら、笑顔を添えて全員に贈られたアノ言葉

「雪華綺晶……一つ聞いていいかしらぁ」

雪華綺晶は長い髪をなびかせ、くるりとこちらを振り向く

「私の作ってきたメロディーは……」

「ふふ……大丈夫よ、お姉様」

見透かされ微笑まれ、雪華綺晶は笑顔を、私は安堵をそれぞれ見せる

「でもアナタ、みんなが同時に作曲してた時に他のメンバーはどうするのぉ?」

雪華綺晶はクスッと微笑み、そっと握った右手を水銀燈の前にゆっくりと突き出す

「ふふ……この子達がいるから大丈夫ですの」

開かれた右手から現れたのは……紫色の――光?
雪華綺晶の手から飛び立った光はチカチカと水銀燈の近くまで来、そのままクルクルと周りを回る

「これは人工精霊と言って……アナタの精霊の名前は“メイメイ”ですわ」

人工……精霊?

「人工精霊は素敵な記憶のお手伝いさん達、私がいない時にある程度の記憶の管理をしてくれる精霊達です」

「まあ……最終的な管理は私がやってますが……それでも手が回らない時、後から加入した薔薇水晶を除く全員に備えた人工精霊に手伝ってもらっていますわ」

メイメイは紫色の、不思議な輝きを放ちながら雪華綺晶の元へ戻った

「そう……後、アレは何かしらぁ?」

水銀燈の指差す先には一つの扉があった、ボロボロでみすぼらしい小さなドア、ドアノブはもう壊れていて、開いてしまいそうな所を白いいばらがグルグルと巻きつき扉を閉めている

「……ここはお姉様の記憶が全てある場所、そして全ての扉は夢見る拍子に開いてしまうことがあります」

雪華綺晶は悲しげな顔で、白いいばらで閉ざされた扉を見る

「美しい記憶も……二度と見たくもない、忌まわしい記憶も……」

「そう……」

水銀燈は足元さえおぼつかない暗闇をコツコツと歩き、雪華綺晶の両肩に腕を通し、静かに彼女を包んだ

「ありがとう、と言っておくべきかしらぁ?」

ニコリ、と私

「優しいのね……お姉様」

ニコリ、と彼女

「うふふ……アナタ程じゃないわぁ」

――!!

瞬間、私は足元に違和感を感じ視線を落とす

「なっ……」

途端に私は足元のバランスを崩す、さっきまで確かに立っていた私の足がいつの間にかガクリと沈み、そのまま闇に飲み込まれようとしていた

「大切な贈り物は明朝、後もし一ヶ月くらい調子の悪い子がいたら隣で眠ってほしいのです、お願い出来ますよね? お姉様?」

「……いやよぉ、面倒くさいもの」

ズブズブと飲まれる中、それでも面倒事は御免なのだろうか、水銀燈は軽くあくびをしながら雪華綺晶の申し出を断った

「あら、誇り高いローゼンメイデンの水銀燈がまさか、夢の中に貸しを作るなんて……」

「なっ……私がいつ貸しを作ったのよ!」

彼女は本当に掴めない……時には困惑、時には哀愁、時には――

「知っての通り、あの白いいばらは私の力、ふふ……思い出したくない記憶も私の判断一つなのですわ」

――畏怖

「ッ……」

「では……よろしくお願いしますわ、愛しい愛しい……迷子になったお姉様」

彼女はそこまで言うと踊るように消えいき、私もまた墜ちるように夢から覚めた

――

―――

――――

「確かにメロディーは出来たけど……どこか釈然としないわねぇ……本当、アレは」

水銀燈は後ろから自身を照らす真っ白に輝く太陽に顔を向ける
その時見た、差し込む白光はまるで私の背を支え、押してくれているかのようだった


ふふ――悪夢だったわぁ

fin





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最終更新:2007年03月18日 23:43