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――――ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・

狭い楽屋の中で6人の少女達の荒い呼吸が響く。
「ふぅ……あと何分ぐらい休めるの?」
「5分が限界かしら~」
「たったそれだけぇ?もうちょっと休ませてよぉ」
「無茶言わないでほしいかしら~。ほら聞こえるでしょ、貴女たちを呼ぶ声が…」

 ―――――ドンドンドンドン…………

何百人もの観客の足踏みと彼女達それぞれの名前を呼ぶ声がこっちまで大きく響いてきた。
「しゃ~ねぇですぅ・・・そろそろ行くですよ!」
「そうだね、皆を待たせるのは良くないしね」
「紅茶もゆっくり飲めないのだわ」
「うゆ~…もうへとへとだけど…頑張るのー!アイトアイトー!!」
「――――やれやれだぜ(ニヤリ)」
「さぁ~て……かったるいけどぉ……行きますかぁ」
「さあ皆アンコール頑張っていってらっしゃいかしらー!」

マネージャーが元気よく私たちを見送ってくれた。そしてステージ脇に着き、一人ずつステージに登場する。
一人、また一人とステージへ行く中、私はその側に置いておいたギターを手に取った。
「さぁ、行くわよ…めぐ…」
そう呟くと、私も皆がいる光溢れたステージへと向かった。

―――――右手にギターを、左手に忘れられない思い出を持って―――――

 ――――ライヴはアンコールも含めて大成功に終わった。
会場の片付けを手早く済ませ、メンバーとスタッフは打ち上げへと向かう。

貸し切り予約した打ち上げ会場に着き皆各々勝手に座り、全員が座ったことを確認したマネージャーが喋り始めた。
「え~コホン!今日のライヴ本当にお疲れさまかしら~」
「「「「「「「お疲れさまでしたぁ~!!」」」」」」
「本日も大入り満員に加え、物販も完売という結果にカナびっくりかしら~♪」
「(ボソッ)……話が……長いよ」
「(うぅ)それじゃ皆手元のグラスを持って!か~んぱぁ~~い!!」
「「「「「「「乾杯ッ!!」」」」」」」

始まって早一時間、皆めいめいに飲んで騒いで楽しんでいる。
そういう私もそんな皆を見ながらこの場の雰囲気を楽しんでいる。
フッ、と笑いグラスを傾け――――――マズイ・・・。
放置して氷が溶けすぎたせいか、せっかくのスコッチウイスキーがこれじゃ台無しだ。

「すいませ~ん。これ、同じやつ入れ直してぇ」
「かしこまりました」

――――――フゥ
ウェイターが去った後、思わず漏れてしまった溜息。
そんな自分に苦笑しているとバンドのもう一人のギタリストが近づいてきた。

「楽しんでいる、水銀燈」
「あたりまえじゃなぁい。美味しいお酒もたぁくさん飲んでるわよ?」
「そう。それならいいのだわ・・・」
「……なぁに?何か言いたそうな顔してるじゃない」
「そうね。貴女に三味線弾いてても仕方ないのだわ。水銀燈、今日貴女がアンコールの時持っていたあのギターはもしかして・・・」

そうか、彼女は知っているのだ。あのギターは誰のものだったのかを……。

「隠してた訳じゃないわぁ……別に言う必要はないと思ったから……」
「確かにそうだわ。それは貴女だけのもの。貴女だけが背負える傷であり思い出だもの」
「……恥ずかしいセリフ禁止よぉ……?」
「う、うるさいのだわ!」

そういうと彼女はそっぽを向いてしまった。
全く…こういうところが可愛いからついつい過剰にからかわれる原因なのだということを本人は全然気づいていない。

「――――むかぁしむかし、一人の女の子がいました」
「……水銀燈?」
「……黙って聞いてて。その女の子は、父方のおじいちゃん譲りの奇麗な銀髪をしていたの――――」

両親やおじいちゃん、おばあちゃんはとても奇麗だって誉めてくれた。
でも、他の人はそうとってくれなかった。

『子供のくせに髪なんか染めて!黒くしてきなさい』
――地毛なんですって言ったけど、信じてくれなかった――
『お前外人だろ!?外国帰れよ、日本から出てけ!』
――違うよ…おじいちゃんはドイツの人だけど、お父さんとお母さんは日本人だもん!だから私は…日本人だよ…皆と同じだよぉ……――
『あいつ気持ち悪いよなぁ~』
 ――…うるさい――
『全然喋らないし』
 ――……うるさいうるさい――
『超暗ぇ、気味悪ぃ』
 ――………ウルサイウルサイウルサイィ!――
『『『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』』』
――ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイユルサナイユルサナイアイツラゼッタイニユルサナイユルサナイユルサナイ………!!――

そういうことがあって、女の子の心は少しずつ闇に沈んでいったわ。
学校にも行かなくなった。家でもあまりしゃべらなくなって、いよいよ固形物がのどを通らなくなったの。
飲み物と点滴だけで生き長らえる、そんな存在まで堕ちていった・・・。

そうなっても季節と時間は無常にもただ過ぎていくだけ。
気がつけば窓の外は夏になってて―――――そしてあの人と出逢った。

あの人と出逢った暑い夏の日、私はベットで横になっていた。
何時の間にか窓が開いている。生暖かい風が部屋に飛びこんできた。

――――――――鬱陶しい。

窓を閉めようと思い、倦怠感に包まれた身体を無理矢理引き起こし窓に近づいた。
その取手に手をかけた時、とてもか細い歌が聞こえてきた。

 からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ……
 からたちの棘はいたいよ 青い青い針のとげだよ……
 からたちは畑の垣根 いつもいつも通る道に咲いてる……

その歌声はとても奇麗だった。そして何故だか分からないけどすぐに壊れてしまいそうな儚さも感じた。

急いで窓から顔を出して歌がどこから聞こえてくるのか探した。

「どこ……どこから聞こえてるの……」

けれど歌はもう聞こえてこなかった。

「……なんだぁ……つまらなぁい」

またベットに戻ろうと歩き始めたらまた聞こえてきた。
奇麗だけど嫌なくらい儚げな歌が。
私は鈍くなった身体に鞭を打って部屋を飛び出し、玄関を開けた。

「――――どこ?あの歌…!」

さっきと違ってまだ歌は続いている、風の流れに乗って。
耳を澄ませて歌の居場所を探り、そして歩き始めた。
あれから一歩たりとも家から出た事はない。だからすぐに足は軋み出し、頭は等間隔で痛み始めた。
それでも歩く事は止めなかった。あの歌をもっと聞きたい、素直にそう思ったからだ。

家を出てからどれくらいの時間が経ったのかもう分からない。ただ歌を追いかけていた。
ボロボロの身体には夏の日差しはさらに体力を奪い、正常な思考さえも奪っていく。

「わたしなにしてるんだろう…?こんなにボロボロになって……バカみたい」

気がつけば公園にいた。

少し休んでから帰ろう……そう思い、側にあったベンチに腰を下ろした。

―――――スゥ……ハァ……

深く空気を吸い、そして吐く。幾度かそれを繰り返し息を整えると、上を見上げた。
近くに木が立っているおかげで丁度私が座っている所には陰が出来ていた。
枝の間から木漏れ日が私を射した。
「…まぶしいなぁ…そろそろ帰らなきゃ」
眩しさのあまり下を向いて呟いた時、またあの歌が私の耳に飛び込んできた。

 からたちの花が咲いたよ 白い白い花が……

私はすぐに立ち上がり、歌が聞こえた方向へ走り出した。

――――ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…

息がすぐに上がる。

「クソッ・・・この・・・ガラグタ身体め・・・・・・少し・・・は・・・言うこと・・・・・・聞きなさいよッ!!」

歌に導かれるようにここまでやって来た・・・そしてようやく歌の始まりに出逢った。

「・・・・・・畑の垣根 いつもいつも通る道に咲いて―――あら、あなた大丈夫?」

彼女は歌を途中で止めて私に向かって声を掛けた。
そりゃそうだ、いきなり子供が息を切らして自分の目の前まで走ってきたのだから。

「・・・・ッハァハァハァ・・・・・さっきの・・・歌・・・」
「歌?ああ、さっきまで歌ってたの?」
「・・・・・・もっと・・・聞かせて・・・・・・」
「いいわよ」

そう答えると彼女は始めから歌いだした。
細くてもはっきりとしていて、切なさと真夏の陽炎のような儚さが入り混じった声。
それが奇麗なメロディーになぞって広がり始めた。
そんな声を近くで聞いていると少し胸が痛くなった。
―――何でだろう?
―――分からない・・・けれど、今は・・・。

彼女をよく見てみると夜の闇より黒く長い髪に私よりずっと細い手足を白のワンピーズから覗かせていた。
彼女は目を瞑って歌っている。誰も近寄らせない雰囲気を滲ませていた、まるで細い綱を渡っているみたいに。
世界と自分を切り離して彼女は歌に集中しているんだということは、誰が見ても分かる。
私が彼女から歌声から儚さを感じるのは、彼女自身の雰囲気からもあるのだろうと思った。

彼女を見てそんなことを考えていたら彼女は歌い終わっていて、焦って惜しみない拍手を送った。
彼女は少し照れながら「そんな良いものじゃないよ」と言ったが、私はこの歌に導かれてここまで来たのだ。凄くない訳が無い。

「とても・・・・・・素敵な歌ですね。私・・・こんな歌初めて聞いた」
「そんなことないよぉ~もう!照れるからもう止めて。ところで…素敵なお嬢さん?」

――素敵なお嬢さん?
・・・・・・私の事だろうか?
私は自分を指差すと彼女は嬉しそうに頷いた。

「そう。あなたのことよ…お名前は?」
「―――水銀燈」
「すいぎんとう?・・・・・・水銀灯…水銀桃…水銀……」

そうやって私の名前を何回か呟くといきなり私の方を向いた。

「とても素敵な名前ね。あなたの奇麗な髪の色と同じ字が入っているなんて…とっても奇麗で素敵!」
「…ッ!止めてよッッ!!」
「どうして?」
「こんなの・・・・・・全然奇麗じゃない!素敵でも何でもないッ!!」
「・・・私はそうは思わない。」

――――――え!?
何を言ってるんだこの人は・・・。
私は"私自身を認め"てないのに…。

「私はね、自分が思ったことは正直に吐き出したいの。私はあなたの髪を見て『ああとても奇麗で素敵な髪だな』って素直にそう思えたの。だから声に出して言ったのよ」
「・・・・・・嘘よぉ…そんなの嘘だわぁ・・・・・・私なんて私な「ねぇ水銀燈」」

彼女は私の言葉を遮り、肩を強く掴み私の眼を見つめた。とても真剣な眼差し。逸らすことなんて……できない。

「……痛いわ」
「水銀燈、聞いて。あなたが何に悩んでコンプレックスを抱いているのか私には分からない。けれどこれだけは言える。世界中の人間があなたという存在を否定しても、私はあなたを肯定する」

 ・・・・・・何故だろう。彼女の言葉の一つ一つが私の中で欠けていたものを埋めていく感じがした。
私は・・・・・・ギュッ!
いきなり彼女は私を強く抱きしめた。

「・・・あなたはとても純粋な子なのね。それは悪いことじゃないわ、この世に生まれてきた人たちは誰もがあなたみたいだった、けれど水銀燈、もっと毅然と構えてなさい」

耳元で聞く彼女の声。なんて心地良く響くのか。
私も恐る恐る彼女の身体を抱きしめた。
 ・・・・・・なんて細いんだろう、見た目と全然違うじゃないか。こんなに細いのにあんなに一生懸命・・・歌って…生きて。

「簡単に人の悪意に押し潰されないで・・・・・・それができれば、本当にあなたは奇麗で素敵な女の子になれる…私が保証するわ」

ポロポロポロポロ・・・・・・・・
聞こえないはずの涙が零れる、音

「何?何で私、泣いてるの……?」
「今まで泣いてなかったのね。いいわ、たくさん泣きなさい。私が受け止めてあげるから」
「・・・・・・う、ううぅ・・・・・ウワァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!」

私は泣いた。恥じらうこともなく大声で。彼女の胸に顔を押し当て、ざめざめ泣いた。
どれだけ泣いてもまだ涙は枯れない。彼女の服の前はすでに私の涙でビチョビチョになってしまったというのに。

「・・・・・・ひ、ひと…り・・・は・・・いや・…ひとり・・・・・・もう…いやなの・・・・・・」
「・・・・・・独りで抱え込んじゃったんだね・・・・・・でももう大丈夫よ、それを私に話したんだから」
「…うぅ、ヒェェ~ン・・・・・・」

また彼女の胸に顔を押し当てた。
泣いている間、彼女は私の頭をずっと撫でてくれていた。
その柔らかな手に撫でられていると、私は・・・少しづつ・・・意識…が遠く・・・なっ―――


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最終更新:2006年06月24日 22:42