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なんだろう・・・・・・やわらかいなぁ……もう少し、このままで・・・・・・。

少しづつ意識が浮上してきた。ぼんやりした頭でうっすらと瞳を開けると世界は横になっていた。
違う、これは私が寝ているんだ・・・そう思ったら一気に頭がクリアになった。

「あっ目が覚めた?」

頭上から聞こえてくる聞き憶えのある声。

「・・・・・・私、どうなったの?」
「泣くだけ泣いたらストンって寝ちゃったのよ。ちょっとビックリしたかな」
「・・・・・・そう。・・・・ゴメンナサイ、迷惑かけたわね・・・」
「そうでもないわよ。可愛い寝顔も見れたし」
「・・・・・・・・・・・・ハッ!」

ガバッ!!
私は急に身体を起こした。当たり前だ。ついさっきまでひ、"膝枕"なんかしてたのだから…。

「わ、私が目を覚ましたならさっさと身体起こしなさいよぉ!」
「えーだって、水銀燈気持ちよさそうだったよー」
「……うう」

それを言われると少し弱くなるじゃない・・・確かに気持ちよかったんだけどぉ・・・・・・。

「とにかくお礼言わなきゃね。ありがとう・・・」
「いいよ、大したことしてないし。膝貸したぐらいだから」

そう言って彼女は笑う、ひどく潔白された笑顔で。
やっぱり少し彼女の笑顔は今の私には眩しいみたいだ。

「・・・・・・もうそろそろ帰るわ」
「そう、さよならね。今日は楽しかった。じゃあねバイバイ…」

彼女が立ち上がってここから離れようとした時、

「・・・・・・待って」呼び止めた。

彼女は振り返り「何?」と言った。

「・・・・・・私まだあなたの名前聞いてない。私だけ自己紹介してあなたがしないのは、ルール違反だわ」
「あら・・・そういえばそうだったわね」
「だから・・・教えて。あなたの…名前」
「・・・・・・めぐ、柿崎めぐ」
「・・・・・・めぐ」
「気軽に"めぐ"って呼んでね、水銀燈?」
「…うんわかった・・・・・・ねぇ、めぐ…明日も会える?」
「会えるわよ。あなたが私に会いたいと思うなら」
「・・・・・・・・・・・・」
「午前中は大抵この公園にいるわ。歌ったり風を感じたりしてる。だから、会えるわ」
「ホント!?」

彼女は笑顔で答えてくれた。
また明日も会える・・・その気持ちだけで私はまた泣き出しそうになってしまったが、なんとか堪えることができた。

「約束よぉ?」
「うん、約束」

スッと小指を差し出してきた。私も自然に小指を差し出し、お互いの小指を絡ませた。

『ゆぅびきりぃげんまん うそついたらぁ はりせんぼんの~ます ゆびきったっ!』

最後の言葉を発した時、同時に小指を離した。

「ほら約束もしたし。これで安心でしょ?」
「うん!」
「気をつけて帰りなさいな。車とかにもね」
「めぐ・・・・・・お母さんみたい」
「あらあら。うふふ」
「アハハッ」

二人、目を合わせて笑った。
そしてお互いの姿が見えなくなるまで手を振り合い、それぞれの帰り道へと歩き出した。

次の日から私の世界が変わった。表面的には何も変わってないように見えるけど、めぐとの出逢いが確かに私を変えたのだ。
朝起きて身支度もそこそこにすぐに出かけた。もちろんあの人がいる公園に行くために。
ハァハァハァ・・・・・。
息を切らせて走る。一秒でも早く目的地に辿り着きたかった。めぐに・・・・・・逢いたいから。

そして公園に着いた。少し落ち着くために深呼吸。スゥゥ・・・・・・ハァァ・・・・・・。
息も整ったので、めぐを探すことにした。適当に探してもしょうがないので検討をつけることにした。
 ・・・・・・もしかしたらあそこだろうかと思い、向かってみると・・・・・・いた。昨日みたいにあの歌を歌っている。
驚かしてやろうと少しづつめぐに近づいていくと、めぐは私を見つけてしまった。

「おはよう水銀燈」
「・・・・・・おはよう(つまらなぁい)」
「どうしたの?今日も体調悪いの」
「何でもないわよぉ・・・今日は調子がいいわ」
「そう。それはよかった」

昨日みたいに自然に私はめぐの隣りに座り、あの歌をリクエストする。めぐは柔らかな笑顔で快く歌ってくれた。

 からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ・・・・・・
 からたちの棘はいたいよ 青い青い針のとげだよ・・・・・・
 からたちは畑の垣根 いつもいつも通る道に咲いてる・・・・・・

歌を聞きながらふと思ったので、めぐに尋ねてみた。

「ねぇ、この歌なんて題名なの?」
「う~んわかんない」
「わかんないって・・・・・・」
「この歌はね、死んだおばあちゃんが子守唄代わりに歌ってくれてたの。それをそのまま憶えてるだけだから・・・ゴメンね」
「い、いいわよぉ。別に謝らなくたって・・・・・・」

そう言うと彼女はクスリと笑ってまた歌い始める。
ほんの少し、寂しい笑い方だと思った。・・・・・・もう余計なことは考えないようにしよう。
今はただめぐの歌を聞いていたい。私は歌に集中するために瞳を閉じた・・・。
 ・・・・・・・・・・歌が終わった。
私は瞳を開けて、めぐの顔を見た。笑っている。・・・・・・私もつられて笑った。

 ・・・・・私を肯定してくれる人なんていないと思っていた。
だから視線を恐れた。
だから周りの人を憎んだ。
そして・・・・・・世界を呪った。
私は・・・・・・今、幸せだ。心の底からそう思える。
あの部屋にいた頃とは考えられないくらい、私の中が満たされているのが分かるから・・・・・・。

「・・・・・・水 銀 燈?」
「えぁ!?」
「どうしたの、なんかボォっとしちゃって」
「な、なんでもないわよぉ。それより、いきなり顔近づけるのやめてよぉ」
「だって目の前で手を振っても、耳に息吹きかけても反応しないんだもん・・・エイ!」
「耳って・・・ちょっ、何すんのよめぐ!!」
急に抱きついてきた。
「ジョークよ。ジョ・オ・ク♪」
「ジョークって・・・・・・暑いから離れてよぉ!」
「銀ちゃんつれない~」
そう言ってすぐに私から離れた。
「銀ちゃんって言わないでよ・・・・・・」
「ニックネームのつもりだったんだけどねぇ~」
元々こんな性格か?コレが本性なのか?
たった一日にして、築き上げた彼女のイメージがガラガラと音を立てて崩れ去った。

まぁ別にいいか・・・私は彼女に対して絶対的な信頼を置いている。
これくらいで・・・・・・(少しはするけど)ショックなんて受けるもんか!

「しかし暑いわねぇ」
早々に話題を切り替えることにした。
口に出してようやく気づいたが、太陽はすでに私たちの真上にあってそれがジリジリと柔な肌を焼いているのだ。
「そうねぇ・・・・・・そうだ!」
「何か思いついたのぉ?」
「私の家に来ない?」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハッ!
あやうく脳がフリーズするところだった。
いきなりも度が過ぎるとエキセントリックの領域よぉと教えたくなったが提案が興味深いので黙っておくことにした。
「・・・めぐのお家?」
「そ。私の家・・・来る?」
そう言いながらめぐは掌を差し出してきた。
ズルィなぁ・・・・・・これじゃ断れないじゃない・・・・・・。
私は返事の代わりに自分の掌をそっと重ねた。
「フフ。行きましょ!」
私の手を取ると駆け出した。
「ちょっと、そんなに急がないでよ・・・キャッ!」
危うくこけそうになった。アブなかったぁ・・・。
「あらあらゴメン、嬉しくってついはしゃいじゃった」
「ついって、もぅ・・・・・・気をつけてよねぇ」
「そうね。ゆっくり行きましょう」
今度は二人並んでゆっくり歩き始めた。
もちろん、手を繋いでお互いの体温を確かめながら。

めぐの家は公園からそう遠くはなかった。歩いて5分程で着いた。
めぐが自分の家と言うアパートの外観を見て唖然とした。
コンクリートが蔓延しているこの現代社会で未だに土壁とは本当に驚かされる。
試しにちょっと触ってみたら触れた所が奇麗にポロっと崩れ、風に舞った。
「・・・・・・一応確認するけどぉ、本当にここがめぐの住んでるところなの?」
「そうよ、どうして?」
「・・・・・・ううん。何でもないわぁ」
これ以上聞けない・・・・・・え、これなんて廃墟?なんてねぇ・・・。
「さぁさぁ、入って入って」
少し引いた私の背中を押しながらそのアパートに入った。

 ・・・・・・中に入ると、意外なことに外と比べると中はかなりマシな方だった。
それでも裸電球が等間隔に並んでいるのはやっぱり異様に思えたけど。
めぐの部屋は一階の奥の角部屋だった。
めぐがポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。
カチ。小気味いい音が響く。
ドアを開けると私からどうぞと言わんばかりに手が部屋の中を指した。
「私、部屋にお客さまを迎えるの初めてなの」
とカワイイことを言ったので、私は素直に部屋に入った。
部屋に入るとそこは・・・なんと言うのだろう、明らかに外の空間とは別物としか言い様がない。
部屋の壁が白、天井も白、あまり物は置いてないがほとんど白系の物ばかりだった。
しかも床の板がリノリウムだ。私は病院に入ったのかと勘違いしてしまうくらいにこの空間の白さにヤラレかけていた。
「ビックリした?」
背中から声がして心臓が急に跳ねた。
「・・・・・・いきなり声を掛けられる方がビックリするわぁ・・・・・・」
彼女はフフっと笑い、私をすり抜け一つしかない椅子に座った。
「ベットに」
「へ?」
悪戯っぽく笑う。
「ウフフ。他に椅子の代わりになる物が無いからベットに座ってねって意味」
 ・・・・・・顔が赤くなる。
「・・・・・・・バカッ!」
そう言ってドガっとベットに座った。

腰を落ち着けるとまた余裕が生まれるものである。
もっとゆっくりとこの部屋を見ることが出来た。
しかしどこを見ても白、白、白・・・・・・。
「ホント病院みたいねぇ、ココ」
「私が勝手に塗り替えたからね。落ち着くの、白い部屋って」
フゥン・・・と少し気の無い返事をして横を向いた。
そして目に入ってきたのは、白い部屋には似合わない唯一の黒い物体。
「ねぇめぐ、アレはなぁに?」
私はそれを指差すとめぐはうれしそうに
「気づいた?これはねぇ・・・・・・」
と言って近づき、それを手にとった。
「ギブソン・レスポール・カスタム、1954年製のヴィンテージ・・・・・・って言っても分かんないかぁ」
めぐは一気に言ったことに照れてか、エヘへと頭を掻いている。

「・・・ギブソン?レスポール・カスタム?・・・・・・だからぁ何なのそれ」
全く分からない。これは一体何なんだ?
「ギターよ、これ。見たことないの?」
「家でテレビとか本とかあまり見ないから・・・」
「・・・・・・ふぅん、そうなんだ。これはね、電気通して音を出すのよ。誰が名づけたかエレクトリック・ギター略してエレキ!」
「・・・・・・・めぐは、出来るの?その・・・エレキっていうの」
「下手だけどね・・・少しは弾けるよ」
「・・・・・・聞いてみたいな、めぐのギター」
「えぇ!?リクエストしちゃうの?」
「いいじゃない、聞かせてよぉ・・・」
「う~んしょうがないなぁ・・・んじゃコレ付けて」
と言って手渡したのは大きめのヘッドフォン。
これを渡すと、なんか背中向けてゴソゴソし始めた。
「・・・よし、準備完了!水銀燈~そっちはどう?」
ギターを肩にかけためぐが尋ねてきた。
「え・・・こ、これでいい?」
ヘッドフォンを付けた私を見て満足そうに頷いためぐは、床に置いてある箱みたいなもののスイッチを入れた。

 ・・・・・・・ブゥゥゥゥゥン・・・・・・キュッキュッ・・・・・・

ベッドフォンから何か聞こえてきた。コレ・・・何・・・?
めぐの方を見ると、なにやらギターに付いているつまみらしき物をいじっていた。
「それじゃ・・・いくわよ」
いつのまにか右手には何か持っている。その手をゆっくりと上げて、一気に、振り下ろした。

ギャァァァァァァァァァァァァァァンッッッ!!

「!」
音が、歪んだ音がヘッドフォンを通して私の頭の中に響き、がなる。割れる。
目をつぶって音に耐えようとした・・・でも、不快じゃない。むしろ心地良くさえ感じる。どうして・・・。

めぐの指が少しづつ速さを増していくにつれて音もそれに付いていく。
上がったり下がったり、時にしつこく、時になめらかに・・・・・・。
硬質で切り裂くような音だと思ったら、瞬間柔らかく暖かい音に変わったり・・・とても、不思議・・・。
そんなジェットコースターで万華鏡みたいな音の流れに漂っていたら、急にプツリと途切れてしまった。

 ・・・・・・目を開けるとギターを持っためぐが私を見ていた。『どうだった?』とその目が語っていた。
ヘッドフォンを外し
「・・・・・・凄かったよ!あんなに大きな音なのに全然不快じゃなかったし、
 冷たかったり暖かかったり、色んな音の流れで私が宙に浮いてるみたいだった!」
私の心が感じたことをそのまま素直に吐き出した。
「そう・・・やっぱりあなたは・・・」
めぐが小さくそう呟いたのを私は聞き逃さなかった。
「・・・私が何?」
「ううん、何でもないの。気にしないで」
「・・・・・・ねぇめぐ」
「何?」
「・・・私にもギター教えて。私も弾けるようになりたいの・・・」
「いきなりね・・・一応聞くけど、どうして?」
「・・・・・・私は大人たちや同級生たちのココロナイコトバのせいで、大きな大きな穴が"ココ"にできてしまった。
スッと胸を指した。
「決してその穴は埋まらない・・・今までずっとそう思ってた。でもね、今日あなたのギターを聞いてその穴が小さくなっていく感じかしたの。
 ・・・・・・両親やおじいちゃんとおばあちゃんがどんなに優しい言葉やプレゼントを贈ってくれても!」
ドンッ!
床を強く踏んだ。

「私の穴は埋まらなかった!」
ドンッ!
「むしろ穴を広げていった!」
ドンッ!!
「私は、日に日に、心が黒色のクレヨンで塗りつぶされていくような、そんな感じに、私は・・・潰されそうだった・・・・・・」
ドンッ!!!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

部屋に漂う沈黙が心臓の鼓動をより明確に認識させる。
ハァ・・・(ドクン)・・・ハァハァ・・・(ドクン)・・・。
 ・・・少し息が荒くなってしまった。一息吸い込んで私はまた話し始めた。
「・・・・・・ごめんなさい、床踏んじゃって」
「別にいいわ・・・まだ続きがあるんでしょ、話してちょうだい」
「・・・・・・そうやって独りで腐ってる時、あなたの歌に出逢った。風に紛れて私の部屋に流れてきたあなたの歌に・・・。
 その歌を探してさまよって、そしてあなたと出逢い、私は救われた・・・。私、あなたと同じものが見てみたい・・・。
 あなたの歌とギターで私が救われたように!私は、私と同じような人たちを助けたいの!!」
全て吐き出した。私のまだ隠してた闇の部分も全部・・・・・・。
「・・・・・・・わかったわ。ギター私でよかったら教えてあげる・・・ううん私に教えさせて、お願い」
「いいの?」
「良いも悪いも・・・・・・こんなに真剣な目で真摯に言われて断ったら駄目っしょ」
悪戯っぽい笑みを浮かべ応えてくれた。
「ありがと・・・・・・めぐ。私・・・あなたのこと好きよ」
「あら今更?私は初めて逢った時からあなたのこと気に入ってたわよ」
私は一瞬豆鉄砲を食らったみたいにキョトンとした。
けどすぐに可笑しくなって、大声で笑い出した。
そんな私を見てめぐも笑い出した。
二人して大きな声で、近所迷惑になることも顧みずに。
幸せそうにいつまでも、いつまでも・・・・・・。


『Memory of Black Guitar』 第一章 ~The Beginning~ FIN


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最終更新:2006年06月24日 22:50