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Story  ID:i0wJyFMW0 氏(14th take)
如何なる場合でも大切なのは下積み。
日々を積み重ね、人間関係の網を広げる事こそが肝要。
それは彼女達も例外ではなく───

          Audience~忘れてはいけない事~ 


小さなライヴハウス。
オールスタンディングで50人入るか入らないか、そんな規模の半地下な会場に彼女達は居た。
オーディエンスの入りはそれほど多くは無いが、しかし少ない彼らのバンドに対する情熱は素晴らしい。
まだ経験の薄い彼女達を育てる、一種親のような振る舞いさえ見せるオーディエンス達は、都合が合う限り、半月に一回ライヴハウスで行うライヴに必ず顔を出している。
まだまだ駆け出しの彼女達は、頻繁にライヴハウスを借りられるほどの経済的余裕も無く、路上を──彼女達が懇意にしている食堂の小さな店内でさえも──会場にして極めて小さな規模のストリートライヴを行う事が多かった。
勿論、フルセットを毎回持ち込むわけには行かない。
その為、ストリートライヴでは自然とギターとヴォーカルが主体となっていた。

『You'll remember the heaven's gate,Desember forty eight~~』
「雛苺ー、歌詞違うよー」

オーディエンスから飛ぶ声。
オリジナルの曲も無く、それぞれが好きなバンドの曲をコピーしていた。
当然、多くの人が知っている──中には一部の人しか知らないようなマニアックなものもあったが──曲であり、ちょっとしたミスがすぐにばれてしまう。
オーディエンスに指摘され、慌てながらもなんとか1曲を終え、そして次のライヴでは指摘された個所を修正されている。
正に「バンドとはオーディエンスに育てられるもの」という言葉の通りであった。

小さな規模の、安いホール。
最低限の防音設備、時にはそれすらない粗雑な場所であっても彼女達は精一杯歌っていた。
時にはオーディエンスが一人二人しか居ない、そんな事もあった。
それでも彼女達はめげず、次のライヴに向けての準備をするのだった。
バンドを組んで数ヶ月、素人の毛の生えたような、「聴いて貰えるだけ幸せ」な時期である。
小さなホールを行脚し、ストリートで自分たちの歌声を街に響かせ、オーディエンスに教わる日々。
ライヴの後のアンケートは、好評よりも厳しい指摘が多い。
そんな毎日を繰り返していた彼女達に、ある種の転機が訪れた。

「─ちょっとぉ、これ見てよぉ」

スポーツドリンクで喉を潤しながらアンケート用紙に目を通していた水銀燈は、その中の一枚に目を留めた。
そこには、整った字体での文章が認められている。
アンケート用紙ではなく、どうやら別紙に書き込まれたものらしい。
全員が集まって、用紙に注目する。

Rozen Maiden各位

初めてのライヴからずっと観ています。 
回を重ねる度に上達しているのが解り、次はどのような成長をみせてくれるのかがとても楽しみです。 
ですが、ここに来て少し気になる事が出てきました。 
外部の人間が指摘する事では無いと思いますが、こういう意見もあるという事で参考にしてください。 

それは、一部のメンバーが本来の特性を生かせてないように思えるという事です。 

Vo.の水銀燈さんは歌声のアグレッシブさが強すぎて、このバンドに多く見られる
明るい曲やバラードに合っていないように思います。 
時折演奏するGt.が凄く良いと思うので、そちらに注力されてはいかがでしょうか。 

Gt.の翠星石さんも水銀燈さんと同様にアグレッシブすぎるように思います。 
そのパワーはGt.よりもDm.向けではないでしょうか。 

Bs.の真紅さんのプレイは基本に忠実すぎるため、画一的なリズムになりがちです。 
以前一度だけ歌われていた時の声が非常に印象深いので、Vo.向けかもしれません。 

他の皆さんは特に問題無いと思います。 
強いて言えばDm.の蒼星石さんが少しパワー不足な感じがする程度でしょうか。 

差し出がましいとは思いますが、一オーディエンスからの意見ということで。 
ご一考の程を。 

「…なんですか、これ」
「感じ悪いわぁ」

指摘された三人のうち、翠星石と水銀燈は不快感を露にしている。
それもある意味当然であろう。メンバー同士で熟考し、決めたパートだ。
それを事情も知らない人間に指摘され、組替えの提案をされるという事は、彼女達のプライドを傷つけるものだった。
だが。

「…でも、一理あるわね」

残りの一人である真紅が神妙な顔つきで頷いた。
バンド内の頭打ち感、そして常に感じていた僅かな違和感。
それの原因がこの指摘にあるとしたら。
一度試してみる価値はあるのではないか。
真紅が蒼星石へ視線を向けると、蒼星石が頷いた。

「一度だけ、試してみようか」
「やぁよぉ」
「冗談じゃねーです、こんな怪文書の言いなりになるなんて」

蒼星石の言葉に、水銀燈と翠星石が反発する。
彼女達にもプライドがあるから当然かもしれない。
だが、蒼星石は静かに諌めた。

「けれど、このままじゃ多分バンドとしての伸びが段々頭打ちになると思う」

バンド全体を考えるのならば、試してみるのも必要だ。
事情を知らない外部だからこそ見える部分というのもある。
それを蔑ろにするのは、駆け出しの自分たちにとって重大な機会損失だ。
プライドも大事だけど、教わる事も必要。

ゆっくりと、諭すように蒼星石が語ると、水銀燈と翠星石は渋々ながらも納得したようだった。

「──それで、今の形に落ち着いたんですね」

ええ、と真紅は頷いた。

「始めは嫌だったんだけどぉ。試してみたら…こう、何ていうのかしらぁ?」
「使い古された表現ですけど、パズルのピースが合ったみたいに違和感が無かったです」

続いて、水銀燈と翠星石が答える。
3人の目の前には大きなマイク。そして、女性パーソナリティ。
とあるFM放送局の企画である、「バンドに歴史あり」。
人気バンドのメンバーを招き、結成当初の苦労と思い出を語ってもらうというものだ。
金糸雀が出演依頼を受け、そして出演する事にしたのが真紅、翠星石、水銀燈である。

「勿論、翠星石はドラムスなんて叩いた事が無かったから、始めは酷いものだったわ」

懐かしそうな目で記憶を追う真紅。
それに対して「そ、それは言うなです!」と耳まで真っ赤にして抗議する翠星石。
それを横目にヤクルトを飲みながら、パーソナリティの質問に答えてゆく水銀燈。
三者三様の楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。

「そろそろ時間となりました。それではお三方、ファンの皆さんやこれからデビューを目指す人々に何か一言お願いします」

パーソナリティが言う。
残りの時間は僅かだった。
バックには新譜から「血潮の空」が流れている。

「オーディエンスは私達に勇気と力を齎してくれるわ。
それに応える為にも、もっともっと腕を磨いて沢山のライヴを開催するから、是非来てちょうだい」

「翠星石達のようなバンドを目指す奴らに言っておくです。
オーディエンスは自分たちじゃ解らない所を指摘してくれるです。だから大切にして、真摯に対応するですよ」

「そうねぇ、私からはぁ…乳酸菌摂ってるぅ?
…冗談よ、じょぉだん。私達はもっと色々な曲を作るわ。だから、貴方達も、私達と一緒に踊りましょぉ。
ライヴ会場で待ってるわねぇ…ふふふっ」

3人のメッセージが流れると、BGMはいよいよクライマックスに差し掛かった。

──探し続けて 逃げ切った草原の空は
──血潮の流れる 赤い空

曲はソロへ入り、ボリュームが絞られる。パーソナリティが〆の言葉をマイクの向こうへと流し、再び曲のボリュームが上がった。

──立ち上る灰が 私の神様さえ殺しそうで
──逃げることも出来ずに 私は泣くしか出来なくなる
──嗚呼、潰されてしまったあの雛も
──私と同じように 無力だったのかしら
──だから私も死んでしまうのかな

静かに曲が終わり、余韻を感じながら。
3人は、マイクに向けて──


──See you next time!


最終更新:2006年04月06日 23:41