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ドッペル - (2010/06/28 (月) 23:14:26) の1つ前との変更点

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**ドッペル ◆xFiaj.i0ME 東の空が白ずみ、夜が明けようとする時間帯。 険しい、という程ではないが、それでも道行く者に多少の負担を与えるであろう山道を軽快に……という表現は多少の語弊があるが、苦もなく進む二つの人影。 漸く上り始めた朝日を右手に進む二人の歩みは、常人のそれよりも多少早く、二人とも多少なりとも身に覚えがあるという事が伺える。 先を進むのは、黒い装束に身を包み、そこそこの長身を否定するかのような猫背で、音も立てず、体の動きも少ない、滑るような歩み、 まるで己の存在が影であるかのように歩きながら、唯一その燃えるように髪の毛だけは見るものの心に刻まれるであろう、赤い少年。 そして、その数歩後を進むのは、それほど上等な物ではないにせよ、赤く染め上げられ、飾りの入った中華服を身にまとい、三つ編みにした髪と野性的な表情が特徴的な少女。 歩みを進めながらもその三つ編みは歩きながらも殆ど揺れず、少女の歩みの巧さが伺える。 そんな、不揃いな二人組み……いや、彼らを二人組み、と呼ぶのは多少の躊躇が必要となる。 先ほど軽快にという表現を控えたが、彼らの間には言葉も無く、互いを気遣うような意思も無い。 むしろその逆、彼らのお互いに対する態度は、赤の他人のそれに対する無関心のほうが生易しい、明確な警戒心を含んでいる。 その、重苦しい空気を漂わせながら彼らはそれでも同じ方向へと歩みを進めて行く。 それは、二人の目的のみが唯一共通する事柄であるとの表れなのかもしれない。 「……ねえ、少し、待ってくれない……かしら」 何が切っ掛けなのか、長らく雄弁な沈黙の時間過ごしていた少女、シンシアが、前を行く少年、ジャファルに声を掛ける。 いや、これまでにも何度か、少女は少年に話しかけようととはしていた。 だが、その都度少年はそれを拒絶し続けていた。 彼がそれに応じたのは最初の一度、どちらの方角に向かうのかの決定の時のみ。 二人に唯一共通する目的である『人捜し』の為には、人の寄り付きやすい方角に向かう必要がある。 シンシアが捜し人であるユーリルの身体的特徴をジャファルに告げ、ジャファルはニノという名前しか告げなかったが、人里に向かうことを反対しなかった事からしてそれほど強くはないのだろうということをシンシアは悟った。 その為、とりあえずは近場にある北の村か、或いはその西の城を目指し、北上する。 そして、そのまま早足で歩き出して以来、ずっと二人の間柄に変化は無い。 「…………!!」 ……だが、しかし。 今回だけは、どういうわけか少年の反応は劇的に異なった。 とっさに振り返りながら頭を腰の高さまで下げた低い姿勢を取り、利き手を腰の後ろに吊るした短剣に掛ける。 元から鋭い眼光は、今や睨み殺さんばかりに吊り上げられ、それでいてその顔からは元から少ない表情が消えた。 いつでも飛び掛かれる、切っ掛けがあれば即座に短剣を標的に埋め込める、そういう姿勢へと瞬時に変化したのだ。 いや、或いは少年の対応は当然のものなのかもしれない。 何故なら、先ほど彼に掛けられた声は、彼の記憶には存在しないもので、 彼の視線の先にいるのは、茶色の長い髪に作りは良いが質素な服を纏った見たことの無い相手なのだから。 「……誰だ」 少年は最低限の言葉だけを少女に告げる。 即座に飛び掛らないのは、相手の能力を警戒しての事。 先ほどまで確かに気配のあったシンシアという同行者の影も形も無くし、そして彼自身の背後を取るという力量。 と、そこまで考えたところで、ふと彼は気づく、 「私は…シンシアよ、ジャファル。  貴方の名前を知っているんだから信じてもらえるでしょ」 目の前の少女こそ、彼、ジャファルの同行者であるシンシア本人であると。 最初に出会った時、シンシアは他人の姿を取る事が出来る、と言っていた。 つまり今までのシンシアの姿は誰か別の人間のものであり、おそらく今の姿こそが彼女本来のものだと。 そこまで至り、ジャファルは僅かに体の力を抜く。 これまで色々な人間を見てきたジャファルの直感に従えば、シンシアは恐らく弱い。 無論魔道士に肉体的な強さは求められはしないが、それでも彼が元々属していた黒い牙や、ニノと共に加わったリキア同盟の部隊の魔道士達は、近接された時の為に多少の肉体能力は備えていた。 だが、彼女にはそれらしい力量は一切感じられない、それこそ出会った当初のニノと同じ位だろうか。 呪文を唱えようとしても、詠唱が終わる前に二回は殺せる、そのくらいの差を見て取った事で、僅かに警戒心を緩めたのだ。 「……さっき言ったと思うけど、私は他人の姿を真似る魔法が使えて、それでさっきまではあの人の姿を借りていたの。  効果時間に制限があるのは知ってたのだけど、思ってたよりも早かったみたいね……」 「……さっきまでの女は、参加者か? そいつはどうした」 「……結構な怪我を負わせたのだけど、油断して逃げられたわ。  その後どうなったかは知らない……そう言えば名前も知らないから本当に死んだのか確認も出来ないわね……」 硬い響きを含ませながら、シンシアは色々な事実を述べる。 多少声に出てしまっているが、彼女の心中は穏やかではない。 今、ジャファルがその気になれば、シンシアの命は簡単に摘み取られてしまうのだから。 「……ねえ、この姿だと貴方に付いて行くのが辛いから、もう一度モシャスを使ってもいい?」 「……いいだろう」 付いて行くのが辛いのは、事実である。 山育ちとはいえ、普通の少女のシンシアでは、暗殺者の身でありながら黒い牙の最高の戦士である四牙の称号を得たジャファルの能力に追いつける筈も無い。 だがそれ以上に、最低でもジャファルがシンシアを殺すつもりになった時に、何とか逃げる事が可能な能力は無ければならない。 山道に、シンシアの短い詠唱が響く。 ジャファル自身とて、足手まといな相手に合わせるつもり等無いし、かといって今すぐシンシアを殺す事に価値を見出せない以上、妥当な対応ではある。 無論、シンシアが異なる呪文を使用して牙を向いたとしても、即座に対応できる距離には居るのだが。 そうして、 「モシャス」 短い呪文が唱えられ、シンシアの姿が煙に包まれる。 呪文書無しに使用できる、というのは多少の驚きをジャファルに与えたが、元より効果的な殺害方法にしか興味の無い身、その事を深くは考えない。 というより、それどころでない事態が起きた。 煙が消えたとき彼の前に現れたのは、赤い髪に黒い衣装、そしてその隙間から僅かにのぞく鍛えられた身体と、鋭い目。 他の誰でもない、ジャファル自身のものだったのだから。 「……どういう、つもりだ」 声に殺意を込めながら、自身の姿を取る意図を問う。 自分自身の姿が取られるという時点で、多少の嫌悪感を覚えるのは自然な事であり、ましてや今は殺し合いの場なのだから。 「……この魔法は目視している相手しか対象に出来ないの」 その口から紡がれるのは、やはり先ほどまでのものと違う、低い男性の、ジャファルの声だ。 今更、という感じで説明を加える、無論、意図的にその事は告げなかったのだが。 「……元に戻れ」 「それは無理、時間で戻る他は、別の人の姿を借りる事しか出来ないの」 (……私が死ねば、別だけどね) 「……そうか」 意外に……少なくとも、シンシアの予想よりもあっさりと、ジャファルは手を引いた。 腰の短剣に当てていた手も下ろし、少なくとも表面上は納得したように見える。 その反応に、シンシアは拍子抜けしつつも、力を抜き…… 次の瞬間、声を出す間も無く地面に押し倒され、その喉元に短剣を突きつけられた。 「ひっ!」 「……首の布で顔は極力隠しておけ、それと誰か他の人間に出会ったら、そいつの姿になれ」 だが、遅れて声が出た頃には、ジャファルは既にその手を離し、シンシアを見下ろしながら、事務的に告げた。 瞬間的に感じた恐怖を抑えながら身体を起こすシンシアには構わず、進行方向に向けて歩き出す。 そうしてジャファルの言葉に従い顔を隠しながら、少し遅れて彼の後ろにまで移動したシンシアに、今度はジャファルが声を掛ける。 「さっきの女の姿はどのくらい持った?」 「……四時間、くらい」 「目視している相手しか対象に出来ないと言ったが、どの位の距離まで可能だ?」 「え……、それは試した事は無いからよくわからないけど……」 「……そうか……」 そこで、ジャファルの言葉は途切れる。 必要な事柄を聞き終えた以上は用は無いと。 実際、中々便利な技能ではある。 先ほど試した限りでは、肉体を使用するのがあくまでシンシアである以上、そこまで大きな戦力としては期待出来ない。 だが、姿を変えられるならば、ジャファルの存在をまるで表に出さず他者を殺し、或いは意図的に生かして目撃させる事が出来る。 そして何よりも、その気になればほぼ確実に殺すことが出来る。 手を組むには最適に近い相手、ということだ。 「…………」 後を追うシンシアに言葉は無い。 ただ、殺されなかったということは、ある程度の価値は認められたと、そういう事かもしれない。 なら今はそれでいい、即座に殺される心配が無い上に、少しだろうが助力も期待できるかもしれない。 それに、ジャファルの先ほどの言葉、考えた事も無かったが、遠くから他人の姿を真似出来るとしたら……。 手を組むには不安が残るけど、それでも得るものも少なくない、そんな相手。 同じ姿を持つ二人。 何の信頼も存在しない関係ではあるが、それでも多少、お互いに価値は見出したようではある。 ……もっとも、その歩みの重さは変わらず、距離が縮まる事も無いだが。 【D-4 山地 一日目 早朝】 【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】 [状態]:健康 [装備]:アサシンダガー@ファイナルファンタジーVI [道具]:不明支給品0~2、基本支給品一式 [思考] 基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。 1:シンシアと手を組み、参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。 2:いずれシンシアも殺す。 2:知り合いに対して躊躇しない。 [備考]: ※名簿確認済み。 ※ニノ支援A時点から参戦 【シンシア@ドラゴンクエストIV】 [状態]:モシャスにより外見と身体能力がジャファルと同じ     肩口に浅い切り傷。 [装備]:影縫い@ファイナルファンタジーVI、ミラクルシューズ@ファイナルファンタジーIV [道具]:ドッペル君@クロノトリガー、かくれみの@LIVEALIVE、基本支給品一式*2 [思考] 基本:ユーリル(DQ4勇者)、もしくは自身の優勝を目指す。 1:ユーリル(DQ4勇者)を探し、守る。 2:ジャファルと手を組み、ユーリル(DQ4勇者)を殺しうる力を持つもの優先に殺す 3:利用価値がなくなった場合、できるだけ消耗なくジャファルを殺す。 4:ユーリル(DQ4勇者)と残り二人になった場合、自殺。 [備考]: ※名簿を確認していませんが、ユーリル(DQ4勇者)をOPで確認しています ※参戦時期は五章で主人公をかばい死亡した直後 ※モシャスの効果時間は四時間程度、どの程度離れた相手を対象に出来るかは不明。 *時系列順で読む BACK△054:[[灯火よ、迷えるものを導け]]Next▼056:[[夜空の果て -再来-]] *投下順で読む BACK△054:[[灯火よ、迷えるものを導け]]Next▼056:[[夜空の果て -再来-]] |039:[[守りたいもの、生きるべき人]]|ジャファル|071:[[暗殺者のおしごと-The style of assassin]]| |~|シンシア|~| #right(){&link_up(▲)} ----
**ドッペル ◆xFiaj.i0ME 東の空が白ずみ、夜が明けようとする時間帯。 険しい、という程ではないが、それでも道行く者に多少の負担を与えるであろう山道を軽快に……という表現は多少の語弊があるが、苦もなく進む二つの人影。 漸く上り始めた朝日を右手に進む二人の歩みは、常人のそれよりも多少早く、二人とも多少なりとも身に覚えがあるという事が伺える。 先を進むのは、黒い装束に身を包み、そこそこの長身を否定するかのような猫背で、音も立てず、体の動きも少ない、滑るような歩み、 まるで己の存在が影であるかのように歩きながら、唯一その燃えるように髪の毛だけは見るものの心に刻まれるであろう、赤い少年。 そして、その数歩後を進むのは、それほど上等な物ではないにせよ、赤く染め上げられ、飾りの入った中華服を身にまとい、三つ編みにした髪と野性的な表情が特徴的な少女。 歩みを進めながらもその三つ編みは歩きながらも殆ど揺れず、少女の歩みの巧さが伺える。 そんな、不揃いな二人組み……いや、彼らを二人組み、と呼ぶのは多少の躊躇が必要となる。 先ほど軽快にという表現を控えたが、彼らの間には言葉も無く、互いを気遣うような意思も無い。 むしろその逆、彼らのお互いに対する態度は、赤の他人のそれに対する無関心のほうが生易しい、明確な警戒心を含んでいる。 その、重苦しい空気を漂わせながら彼らはそれでも同じ方向へと歩みを進めて行く。 それは、二人の目的のみが唯一共通する事柄であるとの表れなのかもしれない。 「……ねえ、少し、待ってくれない……かしら」 何が切っ掛けなのか、長らく雄弁な沈黙の時間過ごしていた少女、[[シンシア]]が、前を行く少年、[[ジャファル]]に声を掛ける。 いや、これまでにも何度か、少女は少年に話しかけようととはしていた。 だが、その都度少年はそれを拒絶し続けていた。 彼がそれに応じたのは最初の一度、どちらの方角に向かうのかの決定の時のみ。 二人に唯一共通する目的である『人捜し』の為には、人の寄り付きやすい方角に向かう必要がある。 シンシアが捜し人であるユーリルの身体的特徴をジャファルに告げ、ジャファルはニノという名前しか告げなかったが、人里に向かうことを反対しなかった事からしてそれほど強くはないのだろうということをシンシアは悟った。 その為、とりあえずは近場にある北の村か、或いはその西の城を目指し、北上する。 そして、そのまま早足で歩き出して以来、ずっと二人の間柄に変化は無い。 「…………!!」 ……だが、しかし。 今回だけは、どういうわけか少年の反応は劇的に異なった。 とっさに振り返りながら頭を腰の高さまで下げた低い姿勢を取り、利き手を腰の後ろに吊るした短剣に掛ける。 元から鋭い眼光は、今や睨み殺さんばかりに吊り上げられ、それでいてその顔からは元から少ない表情が消えた。 いつでも飛び掛かれる、切っ掛けがあれば即座に短剣を標的に埋め込める、そういう姿勢へと瞬時に変化したのだ。 いや、或いは少年の対応は当然のものなのかもしれない。 何故なら、先ほど彼に掛けられた声は、彼の記憶には存在しないもので、 彼の視線の先にいるのは、茶色の長い髪に作りは良いが質素な服を纏った見たことの無い相手なのだから。 「……誰だ」 少年は最低限の言葉だけを少女に告げる。 即座に飛び掛らないのは、相手の能力を警戒しての事。 先ほどまで確かに気配のあったシンシアという同行者の影も形も無くし、そして彼自身の背後を取るという力量。 と、そこまで考えたところで、ふと彼は気づく、 「私は…シンシアよ、ジャファル。  貴方の名前を知っているんだから信じてもらえるでしょ」 目の前の少女こそ、彼、ジャファルの同行者であるシンシア本人であると。 最初に出会った時、シンシアは他人の姿を取る事が出来る、と言っていた。 つまり今までのシンシアの姿は誰か別の人間のものであり、おそらく今の姿こそが彼女本来のものだと。 そこまで至り、ジャファルは僅かに体の力を抜く。 これまで色々な人間を見てきたジャファルの直感に従えば、シンシアは恐らく弱い。 無論魔道士に肉体的な強さは求められはしないが、それでも彼が元々属していた黒い牙や、ニノと共に加わったリキア同盟の部隊の魔道士達は、近接された時の為に多少の肉体能力は備えていた。 だが、彼女にはそれらしい力量は一切感じられない、それこそ出会った当初のニノと同じ位だろうか。 呪文を唱えようとしても、詠唱が終わる前に二回は殺せる、そのくらいの差を見て取った事で、僅かに警戒心を緩めたのだ。 「……さっき言ったと思うけど、私は他人の姿を真似る魔法が使えて、それでさっきまではあの人の姿を借りていたの。  効果時間に制限があるのは知ってたのだけど、思ってたよりも早かったみたいね……」 「……さっきまでの女は、参加者か? そいつはどうした」 「……結構な怪我を負わせたのだけど、油断して逃げられたわ。  その後どうなったかは知らない……そう言えば名前も知らないから本当に死んだのか確認も出来ないわね……」 硬い響きを含ませながら、シンシアは色々な事実を述べる。 多少声に出てしまっているが、彼女の心中は穏やかではない。 今、ジャファルがその気になれば、シンシアの命は簡単に摘み取られてしまうのだから。 「……ねえ、この姿だと貴方に付いて行くのが辛いから、もう一度モシャスを使ってもいい?」 「……いいだろう」 付いて行くのが辛いのは、事実である。 山育ちとはいえ、普通の少女のシンシアでは、暗殺者の身でありながら黒い牙の最高の戦士である四牙の称号を得たジャファルの能力に追いつける筈も無い。 だがそれ以上に、最低でもジャファルがシンシアを殺すつもりになった時に、何とか逃げる事が可能な能力は無ければならない。 山道に、シンシアの短い詠唱が響く。 ジャファル自身とて、足手まといな相手に合わせるつもり等無いし、かといって今すぐシンシアを殺す事に価値を見出せない以上、妥当な対応ではある。 無論、シンシアが異なる呪文を使用して牙を向いたとしても、即座に対応できる距離には居るのだが。 そうして、 「モシャス」 短い呪文が唱えられ、シンシアの姿が煙に包まれる。 呪文書無しに使用できる、というのは多少の驚きをジャファルに与えたが、元より効果的な殺害方法にしか興味の無い身、その事を深くは考えない。 というより、それどころでない事態が起きた。 煙が消えたとき彼の前に現れたのは、赤い髪に黒い衣装、そしてその隙間から僅かにのぞく鍛えられた身体と、鋭い目。 他の誰でもない、ジャファル自身のものだったのだから。 「……どういう、つもりだ」 声に殺意を込めながら、自身の姿を取る意図を問う。 自分自身の姿が取られるという時点で、多少の嫌悪感を覚えるのは自然な事であり、ましてや今は殺し合いの場なのだから。 「……この魔法は目視している相手しか対象に出来ないの」 その口から紡がれるのは、やはり先ほどまでのものと違う、低い男性の、ジャファルの声だ。 今更、という感じで説明を加える、無論、意図的にその事は告げなかったのだが。 「……元に戻れ」 「それは無理、時間で戻る他は、別の人の姿を借りる事しか出来ないの」 (……私が死ねば、別だけどね) 「……そうか」 意外に……少なくとも、シンシアの予想よりもあっさりと、ジャファルは手を引いた。 腰の短剣に当てていた手も下ろし、少なくとも表面上は納得したように見える。 その反応に、シンシアは拍子抜けしつつも、力を抜き…… 次の瞬間、声を出す間も無く地面に押し倒され、その喉元に短剣を突きつけられた。 「ひっ!」 「……首の布で顔は極力隠しておけ、それと誰か他の人間に出会ったら、そいつの姿になれ」 だが、遅れて声が出た頃には、ジャファルは既にその手を離し、シンシアを見下ろしながら、事務的に告げた。 瞬間的に感じた恐怖を抑えながら身体を起こすシンシアには構わず、進行方向に向けて歩き出す。 そうしてジャファルの言葉に従い顔を隠しながら、少し遅れて彼の後ろにまで移動したシンシアに、今度はジャファルが声を掛ける。 「さっきの女の姿はどのくらい持った?」 「……四時間、くらい」 「目視している相手しか対象に出来ないと言ったが、どの位の距離まで可能だ?」 「え……、それは試した事は無いからよくわからないけど……」 「……そうか……」 そこで、ジャファルの言葉は途切れる。 必要な事柄を聞き終えた以上は用は無いと。 実際、中々便利な技能ではある。 先ほど試した限りでは、肉体を使用するのがあくまでシンシアである以上、そこまで大きな戦力としては期待出来ない。 だが、姿を変えられるならば、ジャファルの存在をまるで表に出さず他者を殺し、或いは意図的に生かして目撃させる事が出来る。 そして何よりも、その気になればほぼ確実に殺すことが出来る。 手を組むには最適に近い相手、ということだ。 「…………」 後を追うシンシアに言葉は無い。 ただ、殺されなかったということは、ある程度の価値は認められたと、そういう事かもしれない。 なら今はそれでいい、即座に殺される心配が無い上に、少しだろうが助力も期待できるかもしれない。 それに、ジャファルの先ほどの言葉、考えた事も無かったが、遠くから他人の姿を真似出来るとしたら……。 手を組むには不安が残るけど、それでも得るものも少なくない、そんな相手。 同じ姿を持つ二人。 何の信頼も存在しない関係ではあるが、それでも多少、お互いに価値は見出したようではある。 ……もっとも、その歩みの重さは変わらず、距離が縮まる事も無いだが。 【D-4 山地 一日目 早朝】 【ジャファル@[[ファイアーエムブレム 烈火の剣]]】 [状態]:健康 [装備]:アサシンダガー@[[ファイナルファンタジーVI]] [道具]:不明支給品0~2、基本支給品一式 [思考] 基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。 1:シンシアと手を組み、参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。 2:いずれシンシアも殺す。 2:知り合いに対して躊躇しない。 [備考]: ※名簿確認済み。 ※ニノ支援A時点から参戦 【シンシア@ドラゴンクエストIV】 [状態]:モシャスにより外見と身体能力がジャファルと同じ     肩口に浅い切り傷。 [装備]:影縫い@ファイナルファンタジーVI、ミラクルシューズ@ファイナルファンタジーIV [道具]:ドッペル君@クロノトリガー、かくれみの@LIVEALIVE、基本支給品一式*2 [思考] 基本:ユーリル(DQ4勇者)、もしくは自身の優勝を目指す。 1:ユーリル(DQ4勇者)を探し、守る。 2:ジャファルと手を組み、ユーリル(DQ4勇者)を殺しうる力を持つもの優先に殺す 3:利用価値がなくなった場合、できるだけ消耗なくジャファルを殺す。 4:ユーリル(DQ4勇者)と残り二人になった場合、自殺。 [備考]: ※名簿を確認していませんが、ユーリル(DQ4勇者)をOPで確認しています ※参戦時期は五章で主人公をかばい死亡した直後 ※モシャスの効果時間は四時間程度、どの程度離れた相手を対象に出来るかは不明。 *時系列順で読む BACK△054:[[灯火よ、迷えるものを導け]]Next▼056:[[夜空の果て -再来-]] *投下順で読む BACK△054:[[灯火よ、迷えるものを導け]]Next▼056:[[夜空の果て -再来-]] |039:[[守りたいもの、生きるべき人]]|ジャファル|071:[[暗殺者のおしごと-The style of assassin]]| |~|シンシア|~| #right(){&link_up(▲)} ----

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