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アナスタシア、『手』を繋ぐ - (2010/07/27 (火) 13:11:42) の1つ前との変更点

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**アナスタシア、『手』を繋ぐ ◆Rd1trDrhhU 砂漠は暑い、というイメージしかなかったのだが、夜の砂漠となると流石に少しは涼しいようだ。 砂漠での昼夜の体感温度差は凄まじく、それはオーブントースターのスイッチをオンオフと切り替えるかのように大きく変動する。 夜の砂漠に迷い込んでしまったら、日の出前にはなんとしてもここから抜け出さなくてはいけない。 朝になれば太陽が昇り、この砂漠という名の巨大オーブンのスイッチも捻られるのだ。 そうなってしまったら後は灼熱地獄だ。 照りつける太陽が肌を焼き、カラカラとした空気が喉を焼く。 終いには砂を踏みつける音に鼓膜を焼かれるような気にさえなる。 全てが、自分を包み込む森羅万象が敵と化すのだ。 頼れるのは水だけ。 もう水しか眼に映らなくなる。 ひたすら水を求めて、オアシスを捜し歩く木偶人形となるのだ。 そして目の前に池が見えたら、躊躇無く頭からダイブしてしまうだろう。 たとえその水の色が真っ赤でも、その池の横で鬼が金棒を持って手招きをしていても、だ。 信じられないだろうが、人間とはそういうものだ。 欲望とはそういうものなのだ。 気付いたら私たちの心に存在していて、私たちは欲望の小躍りに支配されるままに我を忘れる。 そして我に返ったときにはもう遅い。 自我を取り戻したそのときには既に、欲望は私たちの心から忽然と消えているのだ。 まるで初めから欲望なんてものは存在してなどいなかったかのように。 そして私たちは悩むのだ。振り上げたこの拳はどこに下ろせばいいのだ、と。 自分を責めようにも、その心に欲望がいないのなら叱りようがない。叱る対象がいないのだ。 こうして、人は反省という大事な作業をスキップせざるを得なくなる。 そしてまた心に欲望が姿を見せたとき、同じ過ちを繰り返すのだ。 ずっと、ずっと。反省することなく犬のように同じ場所をグルグルと回り続ける。 欲望とは、人間の宿す中で、尤も厄介な感情なのかもしれない。 しかしその悪魔の感情は時として、とは言っても非常に非常に稀な事だが、人々を幸福足らしめる。 彼女がそうだ。 彼女の欲望は世界を救った。 それは比喩でもなければ、勿論皮肉でもない。 文字通り、彼女はその心に棲まわせた欲望によって世界を救ったのだ。 彼女のその功績は『剣の聖女』として後世に語り継がれている。 大いなる厄災から世界を救った聖なる女騎士。 それは、神々が天地を創造したのと同系列の寓話として詠われていた。 だが、神話にまで上り詰めた少女のその実は、苦悩の日々であった。 剣など握った事すらないのに、望まぬ戦いに駆り出され。 親しい友だっていた。好きな男だっていた。そんな日々とも離れ離れになり。 終いには世界の為に命を絶つこととなる。 そこに『英雄』などいなかった。 人々の崇め続けた神話などありはしなかった。 現実にあったのは、『生け贄』となった少女の悲劇。 それだけ。 ただ『欲望』が強かった。それだけで……。 それだけで彼女は『生け贄』として殺されたのだ。 彼女の持つ『欲望』とは、『生きたい』という願い。 その願いこそが、『生け贄』の素質であった。 誰よりも『生きたい』と願い、そのために剣を振るった。 そこにいる皆を守り、皆と笑いあうことを望み、その希望を叶えるために苦しみ続け……。 その果てに少女を待っていたのは、『死』。そして永遠の『孤独』。 そして今、彼女は2度目の生を受ける。 『英雄』という鎖をから解放された彼女を待つのは……。 ◆     ◆     ◆ 「……きっついわね…………」 一刻も早く、砂漠からの脱出を。 その一心で歩き続けていたが、流石に疲れた。 夜だから若干涼しいとはいえ、やはりここは砂漠なのだ。決して住み良い環境とは言えない。 さらに見渡す限りに広がる砂、砂、砂。 全ての生命を拒絶するかのような地形に足を取られ、進む速度は遅くなるばかりか、疲労もどんどん蓄積する。 「殺し合い……か」 躊躇いながらも、砂の上に腰を下ろす。 砂で服が汚れる事を気にしている自分に気付いて、不思議な感覚にとらわれた。 戦いの中で、ずっと敵の血を浴び続けてきたはずだ。 汚れる事など気にしてはいなかった。そんな余裕などありはしなかった。 だが、今の自分は砂が付着する事にすら躊躇いを覚えているではないか。 まるで……ただの乙女だ。 「ただの、乙女……か…………」 そういえば、なぜ自分が生きているのだろう。 そんな疑問が今更ながら浮かんだ。 これは夢なのか、と疑った。 が、すぐにその可能性を考えるのを止めた。 夢なんだとしたら、そのうち覚めるのだから、考えるだけ無駄だ。 今は『これは夢なんかじゃない』と思い込んで行動すればいい。 これが夢じゃないのだとしたら、自分は魔王オディオによって生き返させられた事になる。 2度目の生を与えられたことになる。 「私、生き返ったんだ……」 とは言え、口に出してみても、いまいち現実感が持てない。 瞬きをして、目を開いたその瞬間に、またいつもの孤独な空間が広がるのではないか。 そんな予感がしてならなかった。 だが、この茹だるような暑さを感じる皮膚も。砂で汚れた両の手も、現実に存在しているのだ。 だとすれば、自分は本当に生き返ったのだろう。 「じゃあ、私は……やり直せるの?」 ただの乙女として、1人の人間として……もう一度生きることが許されるのだろうか。 服が汚れる事に不満を抱き、友人と河原で笑いあったり……。 好きな人と手を繋いだり……。 そんな生き方が許されるのだろうか。 だとしたら……。 「これはチャンスなのかな……?」 これは神様がくれたチャンス? 世界を救ったご褒美に、新たな命をプレゼントして貰えたのかもしれない。 だとしたら、彼女の望む事はただ1つ。 (生きたい……) 今度こそ、普通の少女として生きたい。 特別じゃなくていい。『英雄』なんかじゃなくていい。 重い運命から逃れて、ただ1人の少女として生きたかった。 ただ1つ気になるのは……魔王が言い放った言葉。 「殺し合い……」 魔王は言った。 生き残れるのはただ1人だけだと。 殺し合いに勝利した1人だけしか生きて帰れないのだと。 「何も、変わってないじゃない……」 彼女は『英雄』として犠牲になった。 生きたいが為に犠牲となったのだ。 そして今度は、誰かを犠牲になければならない。 誰かを殺さなくては生きられないのだ。 「そんなこと……」 本当に自分は、人を殺す事は出来ないのか? 自分に問いかける。 今までだって、剣を降るってきたじゃないか。 そこに高尚な理由などあったか? そこにあったのは『生きる』という欲望だけ。 それは、今ここで殺し合いに乗る事と何も変わりはしないじゃないか。 「そう、何も変わらない……」 生きたいから、殺す。 もしそれが、悪なのだとしたら、自分が世界を救った事だって悪だ。 そう、同じなのだ。 この殺し合いと、自分の神話は……同じことなのだ。 だから、同じように……。 「ねぇねぇ、おねーさん。ちょこと遊ぼ!」 いつから少女はそこにいたのだろうか? 自分が考えに没頭していたからだろう、話しかけられるまでその存在に気付けなかった。 赤い髪をした幼き少女。 おそらく、この殺し合いのことなど何一つ理解してはいないのだろう。 無邪気に遊ぼうと、何度も何度も話しかけてくる。 その眼は純粋そのもので、頭の中すら見通せるのではないかと思えるほど透き通っていた。 この少女が、自分の最初の被害者となるのか……。 アナスタシアの決断は早かった。 もしかしたら、悩みたくなかったのかもしれない。 殺してしまえば、踏ん切りがつくから。 何も知らない少女の首へ、両手を伸ばす。 一直線に伸ばしたはずの手は、フルフルと小刻みに震えていた。 「ごめんね……」 「なんで謝るの?」 生きるためには仕方がない事なのだ。 心の中で必死に言い訳を繰り替えすい。誰に向けての言い訳なのだろうか。 おそらくは、自分への弁解だ。 殺さなければ、生きられないのだから、仕方がない。 そう自分に言い聞かせなければ、この心は容易く折れてしまう。 2度目の灯を、無駄に消してしまう。 「仕方ないの……仕方ないのよ……」 うわ言の様に、口から漏れては煙のように消える言葉。 あのときだって、世界を救ったあのときだってそうだった。 生きるためには仕方がないと、自分に言い聞かせながら戦う日々が続いた。 そうしなければ、いつか折れてしまいそうな気がしたから。 あのときと同じ。同じなんだ。 怖がる事なんて何もない。 世界を救ったあのときと、何にも変わらない。 もう一度、同じことを繰り返すだけ。 「おねーさん、ちょこと結婚してくれる?」 不意にぶつけられた少女の言葉に、右手も左手も「首を絞める」というその役割を忘れて停止した。 この少女は何を言っているのか。 その疑問が石つぶてとなり、『自分への言い訳』という純水で満たされた意識の池に、大きな波紋を生じさせた。 『おねーさん』。これは間違いなくアナスタシアの事だろう。 『ちょこ』。これは、最初に少女が放った一言から考えて、少女の名前だ。 彼女は『ちょこ』という名前らしい。 そして問題は『結婚』という言葉。 アナスタシアも目の前の人物の性別くらいは見破れる眼を持っているつもりだ。 『ちょこ』は女の子だろう。これは間違いない。 だとしたら、女であるアナスタシアに結婚を申し込むというのはどういうことなのだろうか。 (そ……そういう世界も……あるにはあるらしい……けど……) 女同士で、それもこんな幼女相手に……。 そんな光景を想像してしまった。 一度脳内に生じたHなイメージは、彼女の脳細胞をたちまち桃色に染め上げていく。 (あーダメダメ! そうじゃなくって……) フルフルと頭を左右に振り回して、煩悩を空気中に逃がすと、少女の発した言葉の意味をもう一度考え直す。 ……そもそも、性別がどうとか言う前に、出会って1分も立たないうちにプロポーズをする人間がいるとは思えない。 つまり、『ちょこ』という少女は、明らかに可笑しい事を言っているのだ。 そしてそれこそが答えだった。 つまり彼女は『結婚』の意味を知らないのだ。 「ちょこちゃん、結婚ってどういうことか、知ってる?」 少女に伸ばしていた両手を引っ込めて、尋ねる。 「知ってるよ。ずぅーと一緒にいることなのー」 なるほど、見えてきた。 彼女にこの言葉の意味を教えた人物が父親か母親か教師は知らないが、その人物にそう教わったのだろう。 そして、そのせいで彼女は今でも『結婚』の意味を勘違いしているのだ。 「だめ……なの?」 真ん丸い眼をウルウルさせた少女が尋ねる。 勿論少女と結婚するつもりなどない。 自分はこの殺し合いを生き残るのだから。 だが、決心が鈍らされたのも事実。 今のアナスタシアは、どうにも少女を殺そうという気分にはなれなかった。 「……いいわよ。結婚しましょうか」 特に何を考えてたというわけじゃない。 ほんの気まぐれである。 しばらく彼女と行動を共にしてみるのもいいかもしれない。 殺したくなったときに、殺せばいい。 こんな少女、特に害はないだろう。 「ほんと? わーいのー!」 嬉しそうに砂を巻き上げて走り回る少女。 その姿は、殺し合いに乗ったアナスタシアの眼にも、微笑ましい光景として映った。 「あ……」 少女がその動きを止めると、舞い上がった砂塵が雪のように降り注いで髪を汚す。 ちょこは何かを思い出そうとしているようで、うーうーと唸りながら頭を抱えていた。 「どうしたの……?」 「あのね、結婚したら、2人でいろんな所へお出かけするんだって父さまが言ってたの……」 「もしかして、新婚旅行のこと?」 「そうなの! 『しんこんりょこー』なの!」 新婚旅行か……。 どうせならば、殺し合いに乗る前に色んな施設を見ていくのもいいかもしれない。 どうせ行く当てもない。 せっかくの新たな人生なんだし、最初くらいエンジョイするのも悪くないか。 「そうね、取り合えず、この砂漠から抜け出しましょ」 「分かったの! 熱いの嫌いだぁー!」 はしゃぐ少女の手を引いて、緑の大地目指して歩き出す。 「おねーさん、ずっと一緒だよね?」 ちょこはアナスタシアに言った。 ずっと一緒にいて欲しいと。 「えぇ。ずっと一緒よ」 アナスタシアはそれを軽い気持ちで受け取った。 適当な空返事で返したつもりだった。 生きるためには、彼女もそのうち切り捨てなくてはならない。 ずっと一緒にいるつもりなど全く無かった。 「ほんと? 約束だよ」 「……」 ちょこの瞳の奥に、恐ろしいものをみたような気がした。 アナスタシアは、ちょこが自分に鎖を巻きつけている、そんなイメージを感じた。 まるで、少女から自分は逃げられないのではないか、という気にさえなった。 アナスタシアは知らない。 ちょこが失ったもの、ちょこの求めているものを。 ちょこの封印した悲劇を。 アナスタシアは知らない。 今回命拾いしたのは、自分の方だということを……。 【G-4 砂漠 一日目 深夜】 【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:不明支給品1~3個、基本支給品一式 [思考] 基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。 1:砂漠からの脱出。 2:ちょこと施設を見て回る。 [備考] ※参戦時期は不明です。 ※名簿は未確認。 ※ちょこを普通の少女だと思っています。 【ちょこ@アークザラッドⅡ】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:不明支給品1~3個、基本支給品一式 [思考] 基本:おねーさんといっしょなの! 1:『しんこんりょこー』なのー! [備考] ※参戦時期は不明。 ※殺し合いのルールを理解していません。名簿も見ていません。 *時系列順で読む BACK△021:[[死んだのにイキテルマン(×2)]]Next▼023:[[いわゆるマーダーには向かない性格]] *投下順で読む BACK△021:[[死んだのにイキテルマン(×2)]]Next▼023:[[いわゆるマーダーには向かない性格]] |&color(blue){GAME START}|アナスタシア|032:[[ですろり~チカラ~]]| |~|ちょこ|~| #right(){&link_up(▲)} ----
**アナスタシア、『手』を繋ぐ ◆Rd1trDrhhU 砂漠は暑い、というイメージしかなかったのだが、夜の砂漠となると流石に少しは涼しいようだ。 砂漠での昼夜の体感温度差は凄まじく、それはオーブントースターのスイッチをオンオフと切り替えるかのように大きく変動する。 夜の砂漠に迷い込んでしまったら、日の出前にはなんとしてもここから抜け出さなくてはいけない。 朝になれば太陽が昇り、この砂漠という名の巨大オーブンのスイッチも捻られるのだ。 そうなってしまったら後は灼熱地獄だ。 照りつける太陽が肌を焼き、カラカラとした空気が喉を焼く。 終いには砂を踏みつける音に鼓膜を焼かれるような気にさえなる。 全てが、自分を包み込む森羅万象が敵と化すのだ。 頼れるのは水だけ。 もう水しか眼に映らなくなる。 ひたすら水を求めて、オアシスを捜し歩く木偶人形となるのだ。 そして目の前に池が見えたら、躊躇無く頭からダイブしてしまうだろう。 たとえその水の色が真っ赤でも、その池の横で鬼が金棒を持って手招きをしていても、だ。 信じられないだろうが、人間とはそういうものだ。 欲望とはそういうものなのだ。 気付いたら私たちの心に存在していて、私たちは欲望の小躍りに支配されるままに我を忘れる。 そして我に返ったときにはもう遅い。 自我を取り戻したそのときには既に、欲望は私たちの心から忽然と消えているのだ。 まるで初めから欲望なんてものは存在してなどいなかったかのように。 そして私たちは悩むのだ。振り上げたこの拳はどこに下ろせばいいのだ、と。 自分を責めようにも、その心に欲望がいないのなら叱りようがない。叱る対象がいないのだ。 こうして、人は反省という大事な作業をスキップせざるを得なくなる。 そしてまた心に欲望が姿を見せたとき、同じ過ちを繰り返すのだ。 ずっと、ずっと。反省することなく犬のように同じ場所をグルグルと回り続ける。 欲望とは、人間の宿す中で、尤も厄介な感情なのかもしれない。 しかしその悪魔の感情は時として、とは言っても非常に非常に稀な事だが、人々を幸福足らしめる。 彼女がそうだ。 彼女の欲望は世界を救った。 それは比喩でもなければ、勿論皮肉でもない。 文字通り、彼女はその心に棲まわせた欲望によって世界を救ったのだ。 彼女のその功績は『剣の聖女』として後世に語り継がれている。 大いなる厄災から世界を救った聖なる女騎士。 それは、神々が天地を創造したのと同系列の寓話として詠われていた。 だが、神話にまで上り詰めた少女のその実は、苦悩の日々であった。 剣など握った事すらないのに、望まぬ戦いに駆り出され。 親しい友だっていた。好きな男だっていた。そんな日々とも離れ離れになり。 終いには世界の為に命を絶つこととなる。 そこに『英雄』などいなかった。 人々の崇め続けた神話などありはしなかった。 現実にあったのは、『生け贄』となった少女の悲劇。 それだけ。 ただ『欲望』が強かった。それだけで……。 それだけで彼女は『生け贄』として殺されたのだ。 彼女の持つ『欲望』とは、『生きたい』という願い。 その願いこそが、『生け贄』の素質であった。 誰よりも『生きたい』と願い、そのために剣を振るった。 そこにいる皆を守り、皆と笑いあうことを望み、その希望を叶えるために苦しみ続け……。 その果てに少女を待っていたのは、『死』。そして永遠の『孤独』。 そして今、彼女は2度目の生を受ける。 『英雄』という鎖をから解放された彼女を待つのは……。 ◆     ◆     ◆ 「……きっついわね…………」 一刻も早く、砂漠からの脱出を。 その一心で歩き続けていたが、流石に疲れた。 夜だから若干涼しいとはいえ、やはりここは砂漠なのだ。決して住み良い環境とは言えない。 さらに見渡す限りに広がる砂、砂、砂。 全ての生命を拒絶するかのような地形に足を取られ、進む速度は遅くなるばかりか、疲労もどんどん蓄積する。 「殺し合い……か」 躊躇いながらも、砂の上に腰を下ろす。 砂で服が汚れる事を気にしている自分に気付いて、不思議な感覚にとらわれた。 戦いの中で、ずっと敵の血を浴び続けてきたはずだ。 汚れる事など気にしてはいなかった。そんな余裕などありはしなかった。 だが、今の自分は砂が付着する事にすら躊躇いを覚えているではないか。 まるで……ただの乙女だ。 「ただの、乙女……か…………」 そういえば、なぜ自分が生きているのだろう。 そんな疑問が今更ながら浮かんだ。 これは夢なのか、と疑った。 が、すぐにその可能性を考えるのを止めた。 夢なんだとしたら、そのうち覚めるのだから、考えるだけ無駄だ。 今は『これは夢なんかじゃない』と思い込んで行動すればいい。 これが夢じゃないのだとしたら、自分は魔王オディオによって生き返させられた事になる。 2度目の生を与えられたことになる。 「私、生き返ったんだ……」 とは言え、口に出してみても、いまいち現実感が持てない。 瞬きをして、目を開いたその瞬間に、またいつもの孤独な空間が広がるのではないか。 そんな予感がしてならなかった。 だが、この茹だるような暑さを感じる皮膚も。砂で汚れた両の手も、現実に存在しているのだ。 だとすれば、自分は本当に生き返ったのだろう。 「じゃあ、私は……やり直せるの?」 ただの乙女として、1人の人間として……もう一度生きることが許されるのだろうか。 服が汚れる事に不満を抱き、友人と河原で笑いあったり……。 好きな人と手を繋いだり……。 そんな生き方が許されるのだろうか。 だとしたら……。 「これはチャンスなのかな……?」 これは神様がくれたチャンス? 世界を救ったご褒美に、新たな命をプレゼントして貰えたのかもしれない。 だとしたら、彼女の望む事はただ1つ。 (生きたい……) 今度こそ、普通の少女として生きたい。 特別じゃなくていい。『英雄』なんかじゃなくていい。 重い運命から逃れて、ただ1人の少女として生きたかった。 ただ1つ気になるのは……魔王が言い放った言葉。 「殺し合い……」 魔王は言った。 生き残れるのはただ1人だけだと。 殺し合いに勝利した1人だけしか生きて帰れないのだと。 「何も、変わってないじゃない……」 彼女は『英雄』として犠牲になった。 生きたいが為に犠牲となったのだ。 そして今度は、誰かを犠牲になければならない。 誰かを殺さなくては生きられないのだ。 「そんなこと……」 本当に自分は、人を殺す事は出来ないのか? 自分に問いかける。 今までだって、剣を降るってきたじゃないか。 そこに高尚な理由などあったか? そこにあったのは『生きる』という欲望だけ。 それは、今ここで殺し合いに乗る事と何も変わりはしないじゃないか。 「そう、何も変わらない……」 生きたいから、殺す。 もしそれが、悪なのだとしたら、自分が世界を救った事だって悪だ。 そう、同じなのだ。 この殺し合いと、自分の神話は……同じことなのだ。 だから、同じように……。 「ねぇねぇ、おねーさん。[[ちょこ]]と遊ぼ!」 いつから少女はそこにいたのだろうか? 自分が考えに没頭していたからだろう、話しかけられるまでその存在に気付けなかった。 赤い髪をした幼き少女。 おそらく、この殺し合いのことなど何一つ理解してはいないのだろう。 無邪気に遊ぼうと、何度も何度も話しかけてくる。 その眼は純粋そのもので、頭の中すら見通せるのではないかと思えるほど透き通っていた。 この少女が、自分の最初の被害者となるのか……。 アナスタシアの決断は早かった。 もしかしたら、悩みたくなかったのかもしれない。 殺してしまえば、踏ん切りがつくから。 何も知らない少女の首へ、両手を伸ばす。 一直線に伸ばしたはずの手は、フルフルと小刻みに震えていた。 「ごめんね……」 「なんで謝るの?」 生きるためには仕方がない事なのだ。 心の中で必死に言い訳を繰り替えすい。誰に向けての言い訳なのだろうか。 おそらくは、自分への弁解だ。 殺さなければ、生きられないのだから、仕方がない。 そう自分に言い聞かせなければ、この心は容易く折れてしまう。 2度目の灯を、無駄に消してしまう。 「仕方ないの……仕方ないのよ……」 うわ言の様に、口から漏れては煙のように消える言葉。 あのときだって、世界を救ったあのときだってそうだった。 生きるためには仕方がないと、自分に言い聞かせながら戦う日々が続いた。 そうしなければ、いつか折れてしまいそうな気がしたから。 あのときと同じ。同じなんだ。 怖がる事なんて何もない。 世界を救ったあのときと、何にも変わらない。 もう一度、同じことを繰り返すだけ。 「おねーさん、ちょこと結婚してくれる?」 不意にぶつけられた少女の言葉に、右手も左手も「首を絞める」というその役割を忘れて停止した。 この少女は何を言っているのか。 その疑問が石つぶてとなり、『自分への言い訳』という純水で満たされた意識の池に、大きな波紋を生じさせた。 『おねーさん』。これは間違いなくアナスタシアの事だろう。 『ちょこ』。これは、最初に少女が放った一言から考えて、少女の名前だ。 彼女は『ちょこ』という名前らしい。 そして問題は『結婚』という言葉。 アナスタシアも目の前の人物の性別くらいは見破れる眼を持っているつもりだ。 『ちょこ』は女の子だろう。これは間違いない。 だとしたら、女であるアナスタシアに結婚を申し込むというのはどういうことなのだろうか。 (そ……そういう世界も……あるにはあるらしい……けど……) 女同士で、それもこんな幼女相手に……。 そんな光景を想像してしまった。 一度脳内に生じたHなイメージは、彼女の脳細胞をたちまち桃色に染め上げていく。 (あーダメダメ! そうじゃなくって……) フルフルと頭を左右に振り回して、煩悩を空気中に逃がすと、少女の発した言葉の意味をもう一度考え直す。 ……そもそも、性別がどうとか言う前に、出会って1分も立たないうちにプロポーズをする人間がいるとは思えない。 つまり、『ちょこ』という少女は、明らかに可笑しい事を言っているのだ。 そしてそれこそが答えだった。 つまり彼女は『結婚』の意味を知らないのだ。 「ちょこちゃん、結婚ってどういうことか、知ってる?」 少女に伸ばしていた両手を引っ込めて、尋ねる。 「知ってるよ。ずぅーと一緒にいることなのー」 なるほど、見えてきた。 彼女にこの言葉の意味を教えた人物が父親か母親か教師は知らないが、その人物にそう教わったのだろう。 そして、そのせいで彼女は今でも『結婚』の意味を勘違いしているのだ。 「だめ……なの?」 真ん丸い眼をウルウルさせた少女が尋ねる。 勿論少女と結婚するつもりなどない。 自分はこの殺し合いを生き残るのだから。 だが、決心が鈍らされたのも事実。 今のアナスタシアは、どうにも少女を殺そうという気分にはなれなかった。 「……いいわよ。結婚しましょうか」 特に何を考えてたというわけじゃない。 ほんの気まぐれである。 しばらく彼女と行動を共にしてみるのもいいかもしれない。 殺したくなったときに、殺せばいい。 こんな少女、特に害はないだろう。 「ほんと? わーいのー!」 嬉しそうに砂を巻き上げて走り回る少女。 その姿は、殺し合いに乗ったアナスタシアの眼にも、微笑ましい光景として映った。 「あ……」 少女がその動きを止めると、舞い上がった砂塵が雪のように降り注いで髪を汚す。 ちょこは何かを思い出そうとしているようで、うーうーと唸りながら頭を抱えていた。 「どうしたの……?」 「あのね、結婚したら、2人でいろんな所へお出かけするんだって父さまが言ってたの……」 「もしかして、新婚旅行のこと?」 「そうなの! 『しんこんりょこー』なの!」 新婚旅行か……。 どうせならば、殺し合いに乗る前に色んな施設を見ていくのもいいかもしれない。 どうせ行く当てもない。 せっかくの新たな人生なんだし、最初くらいエンジョイするのも悪くないか。 「そうね、取り合えず、この砂漠から抜け出しましょ」 「分かったの! 熱いの嫌いだぁー!」 はしゃぐ少女の手を引いて、緑の大地目指して歩き出す。 「おねーさん、ずっと一緒だよね?」 ちょこはアナスタシアに言った。 ずっと一緒にいて欲しいと。 「えぇ。ずっと一緒よ」 アナスタシアはそれを軽い気持ちで受け取った。 適当な空返事で返したつもりだった。 生きるためには、彼女もそのうち切り捨てなくてはならない。 ずっと一緒にいるつもりなど全く無かった。 「ほんと? 約束だよ」 「……」 ちょこの瞳の奥に、恐ろしいものをみたような気がした。 アナスタシアは、ちょこが自分に鎖を巻きつけている、そんなイメージを感じた。 まるで、少女から自分は逃げられないのではないか、という気にさえなった。 アナスタシアは知らない。 ちょこが失ったもの、ちょこの求めているものを。 ちょこの封印した悲劇を。 アナスタシアは知らない。 今回命拾いしたのは、自分の方だということを……。 【G-4 砂漠 一日目 深夜】 【[[アナスタシア・ルン・ヴァレリア]]@[[WILD ARMS 2nd IGNITION]]】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:不明支給品1~3個、基本支給品一式 [思考] 基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。 1:砂漠からの脱出。 2:ちょこと施設を見て回る。 [備考] ※参戦時期は不明です。 ※名簿は未確認。 ※ちょこを普通の少女だと思っています。 【ちょこ@[[アークザラッドⅡ]]】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:不明支給品1~3個、基本支給品一式 [思考] 基本:おねーさんといっしょなの! 1:『しんこんりょこー』なのー! [備考] ※参戦時期は不明。 ※殺し合いのルールを理解していません。名簿も見ていません。 *時系列順で読む BACK△021:[[死んだのにイキテルマン(×2)]]Next▼023:[[いわゆるマーダーには向かない性格]] *投下順で読む BACK△021:[[死んだのにイキテルマン(×2)]]Next▼023:[[いわゆるマーダーには向かない性格]] |&color(blue){GAME START}|アナスタシア|032:[[ですろり~チカラ~]]| |~|ちょこ|~| #right(){&link_up(▲)} ----

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