**約束はみどりのゆめの彼方に ◆iDqvc5TpTI 「[[ビクトール]]さん!?」 「おうよ!」 そういえばこいつに名前を呼ばれるのは久しぶりな気がするな。 なんてとりとめもないことをビクトールは考えながら熱を奪って仕方が無い氷塊を横に放り投げる。 素手で触っていたらしもやけどころじゃ済まなかったはずだ。 超低音に晒され、凍り、砕けて用を足さなくなった手袋に心底感謝する。 とはいえ、これからすることを思うと、手袋以外も新調する羽目になりそうで頭が痛い。 なにせ[[ルカ・ブライト]]を思わせる程の炎を平然と防ぐ男達を相手するのだから。 「ジョウイ、ここはおれが食い止める。お前達は逃げろ」 それも、一人で。 「そんな、魔王一人でも厄介な相手なのに、それを一人でなんて無茶だ!」 「ああ、分かってる。こいつらただの人間じゃねぇ。 いや、外見からして人間離れしているが、とにかく強さがここまで届いてくるぜ。」 「だったらぼくとビクトールさんの二人で!!」 「ジョウイ、お前はよ。その嬢ちゃんを守ろうとしたんじゃなかったのか?」 [[ルッカ]]さえ見捨てれば魔王と[[カエル]]の連携魔法をぎりぎりかわせた。 巻き込むことを厭わず黒き刃の紋章の最強の力を使えば一人逃げおおせるくらいはできたはずだ。 ビクトールが対応を決めかねているうちに走り出した時もそうだ。 ジョウイはビクトールが追いつくことを許さないほど、必死に全速力だった。 そこまでして救おうとした少女が死に瀕している。 にもかかわらず戦いにかまけて治療を怠ったら本末転倒だ。 ビクトールの言っていることは正しい。 正しいとおもって尚、ジョウイはもう一度誰かを置いて魔王から逃げたく無かった。 そのことを見透かしたかのようにビクトールは言葉を締める。 「それにおれはどうも女性を守りきるのは苦手みたいなんでな。……任せる」 ジョウイは黙って従うしかなかった。 ビクトールが守れなかった女性、そのうちの一人を殺したのは他ならぬジョウイだ。 その仇とも言える男に、ビクトールは言ったのだ。 任せると。 「おれは都市同盟が誇る優秀な軍師様公認のおせっかい焼きなんでな」 デイパックから奇妙な石を取り出し投げ渡す。 死に掛けの奴にでも持たせてやれといったことが書かれていた説明書が付いていたんだ、ほら見てみろ。 言って渡した裏返しの説明書には座礁船の文字。 ティナを守れなかった上に、ジョウイのことでも面倒をかけると松に心の中で謝る。 「ビクトールさんもどうかご無事で!」 「なーに、大丈夫だ、心配するな。すぐに後を追う。行け!!! 死ぬなよ」 「逃がすか……。刻め、死の時計を!」 「やらせるかってんだ!」 髑髏の渦が飛来するも諸手を広げ立ちふさがったビクトールに大半が遮られ、かするに終わったジョウイはそのまま足を止めず走り去る。 南に向かったのが心配だったが、賢いジョウイのことだ、考えあってのことだろう。 これでいい。 後は足止めに励むまで。 「よう……、てめぇらの相手はおれだぜ?」 「大した魔力も持たぬ人間がよもやたった一人で我らの相手をすると?」 「そうだ、覚悟しやがれ!」 魔王が指摘したとおり、状況は二対一。 前衛に剣士、後衛に魔法使い。 定番だが敵の陣形は強力なものだった。 加えて剣士はビクトールがジョウイを説き伏せている間に、回復魔法を使っていた。 タッグとしては理想的と言えるだろう。 二人が組んだ理由も分かる。 だというのにビクトールは笑ったままだった。 二対一ならともかく、同じ二対二なら腐れ縁と組み、うるさい剣を握った自分が負ける姿が想像できなかったからだ。 「覚悟などとうにできている! 俺はお前達を殺し俺の願いを叶える!」 「あいにくと生き残る気満々さ。けどよ」 跳躍で得た落下速度を味方につけてのカエルの斬撃を見切り、カウンターの一撃を加える。 カエルは吹き飛ばされるも脚力を活かして無事着地。 その面に向かってビクトールは吐き捨てる。 「命さえ助かれば、願い事を叶えられれば、なんでも良いってもんじゃないのさ、少なくともおれはね」 「そうか。お前は俺よりよほど勇者に相応しい強い意志を持っているんだな」 「勇者? 違うね。俺はただの傭兵さ。人呼んで風来坊ビクトール! 耳ん中かっぽじってよおおっく覚えておきな!!」 カエルが頷き、魔王が興味なさげに鼻で笑う。 それを合図とするように、今度はビクトールが地を蹴りカエルへと大きく踏み出した。 「いくぜ! この心臓が破裂するまで、俺は戦いをやめんぞ!!」 ――悪いな、松。約束、少しばかり遅れそうだ &color(red){【ビクトール@幻想水滸伝Ⅱ 死亡】} &color(red){【残り36人】} 「ハッ、ハッ、ハッ……!」 紋章の力を使ったからか普段よりも重い足に力を込めジョウイは森を走る。 逃げ延びるために、救うためにひたすら逃げる。 魔王達に行き先を悟られぬようあえて座礁船や北の城とは反対の方向である南の方向へと。 そうこうするうちに随分と南下したことに気付く。 どうやら追ってくる気配がないことに一先ず安堵。 だがどうする? 黒き刃の紋章は攻撃一辺倒の能力だ。 頭に宿しているバランスの紋章も、 ビクトールに渡された石はどうか? 駄目だ、見た限り目立った回復効果は見られない。 額に流れる汗を拭うことも惜しみ、ただただ思考の海に没頭するも打開策は浮かんでこない。 せめて出血だけでも止めようとズボンを切り裂き包帯代わりにしようとした矢先、足音がした。 「お、おい、あんた!」 息も絶え絶えに飛び込んできたのは必死にカエルに追いつこうとしていた[[ストレイボウ]]だ。 目に入った光景に体力があるとは言えない身体に鞭を打ったことで鳴りっぱなしだった心臓の鼓動が一気に冷える。 銃弾に傷ついた少女と、それを守るように睨み付けてくる青年。 数時間前に見たばかりの状況に嫌な予感が絶えなかった。 「なおり草か何かは!? 回復魔法は使えないのか!」 誰がやったと聞きたい心を必死に抑える。 変わろうと決めた、誰かを救おうと思った。 だったら、今は少女の命を助けることだけを考えろ。 そのストレイボウの意思もむなしく、静かにジョウイは首を横に振る。 同時に僅かばかりの落胆も見て取れた。 ストレイボウの問いは彼自身も回復手段を持っていないと言っているも同様だったからだ。 そのジョウイの様子にストレイボウは己を責めた。 嫉妬に駆られ、オルステッドに勝つことだけを考え、回復魔法に目もくれず、攻撃魔法ばかり習得していったツケがこんな所にも現れるとは! 鍛え抜かれた身体からして戦士であろうジョウイとは違い、自分は魔法使いなのに。 くそっ、くそっ、くそっ、くそっ! 心の中で悪態を吐きつつも、ジョウイに習い纏っているローブでルッカの止血にかかる。 その時文字通り光明が射した。 眩くも暖かい碧色の光が。 何故か胸が熱くなる優しい光に包まれて、ルッカはまどろむ。 ああ、これは、この暖かさは、欠けていた何かが、居なくなってしまった誰かが戻ってきた時のものだと。 でも、あの時、死の山で感じた[[クロノ]]のあったかさには、ちょっと及ばないか。 きっと、私に向けられたものじゃないからだわ。 ねえ、クロノ。 消えそうな意識の中、カエルの戦う理由が聞こえてきた時、ああ、ついにきちゃったんだと思ったわ。 未来を変え、本来は生まれてくるはずだった命を奪った私達への裁きが。 皮肉よね。 その歴史の改変を防ごうとする誰かが、あのカエルだなんて。 散々今まで歴史を思い通りにしてきたルッカにカエルを非難することはできなかった。 仲間の進む修羅の道を黙っておとなしく受け入れることもよしとしなかった。 今一度少女は強く誓う。 私は止めるわ。 あなたもジャキもオディオも。 私にだって守りたい人が、引き寄せたい未来があるもの。 置いてきちゃったマールのとこまでクロノを連れ帰って、ロボがまた産まれてこれるよう研究に勤しむんだから……。 理屈抜きで全てを許す光の色に、大切な友達からもらった宝石の色を重ねて。 ルッカはいつの間にか手に持っていた石を強く握り締めた。 「身体が、癒されていく?」 なんだ、これは? いくつもの疑問がジョウイの頭の中を埋め尽くす。 左手に光るものの正体が分からない……のではない。 何故それが自分の左手の甲で輝いているのかが理解できなかったのだ。 輝く盾の紋章。 黒き刃と対を成す友の右手に宿っていたはずの世界の始まりの力の片割れ。 彼ら二人の命を削り、されどぎりぎりの所で生きながらえさせていたのもまた紋章の力。 互いに争いその果てに一つに戻すことで始まりの紋章を得たものが残り、失ったものが死ぬ。 そうではなかったのか? それが、どうして、どうして!? 始まりの紋章としてではないとはいえ、ぼくの手に宿っている!? ジョウイには納得できなかった。 理由なんて一つしかないのに認めたくはなかった。 「まだぼく達は約束を果たしていないのに!!」 天を仰ぎ絶叫する。 喜ぶべきことなのは分かっている。 今のジョウイは約束の場所でリオウに殺されるのを待っていた時とは違う。 オディオの力に新たな希望を見出し、再び刃を血に染め、罪を背負うことを決め立ち上がった。 相手が友でも手掛ける覚悟は決めていた……はずだった。 「ああああああああああああああああ!!」 止まることを知らない激情の渦に流されていたジョウイの肩をストレイボウが強く掴む。 「泣いている場合じゃないだろ!? 今の碧の光を使えばこの娘は助かるんじゃないのか!」 事情を知らないストレイボウにはジョウイを気遣う余地は無かった。 ジョウイもまた裏切り者で、でも、空間を越えて輝く盾の紋章が宿るという奇跡は消えることのなかった二人の友情が起こしたものとも知らずに。 変わろうとしている男は、変わろうとする焦りに囚われ、優しい言葉をかけるよりも誰かを救うという自分の願いを通そうとしてしまった。 もう叶うことのない願いを。 「そ、んな、死んで、る?」 早く、早くと急かし、少女の方へとジョウイの左腕を伸ばさせた時。 少女は、ルッカ・アシュディアは。 記憶石を握りしめたまま静かに息を引き取っていた。 &color(red){【ルッカ@クロノ・トリガー 死亡】} &color(red){【残り35人】} 【G-8 森林 一日目 昼】 【ストレイボウ@[[LIVE A LIVE]]】 [状態]:健康、疲労(中)、呆然 [装備]:なし [道具]:ブライオン、勇者バッジ、基本支給品一式 [思考] 基本:魔王オディオを倒す 0:そんな…… 1:カエルの説得 2:戦力を増強しつつ、北の城へ。 3:勇者バッジとブライオンが“重い” 4:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない 参戦時期:最終編 ※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません) 【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】 [状態]:輝く盾の紋章が宿ったことで傷と疲労は完治、激情 [装備]:キラーピアス@[[ドラゴンクエストIV 導かれし者たち]] [道具]:回転のこぎり@[[ファイナルファンタジーVI]]、ランダム支給品0~1個(確認済み)、基本支給品一式 [思考] 基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先) 1:??? 2:座礁船に行く? 3:利用できそうな仲間を集める。 4:仲間になってもらえずとも、あるいは、利用できそうにない相手からでも、情報は得たい。 [備考]: ※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所で[[2主人公]]を待っているときです。 ※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。 ※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています ※ピエロ(ケフカ)と[[ピサロ]]、ルカ、魔王を特に警戒。 ※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾 ※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません ※G-8 森林に記憶石@[[アークザラッドⅡ]]を握ったルッカの死体と、 基本支給品、究極のばくだん×2@アークザラッドⅡ入りのデイパックがあります。 ※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます。 「……終わったか。言うだけのことはある渋とさだったな」 男は言葉通り心の臓を貫かれても止まらなかった。 ルッカを衰弱死させたヘルガイザーに体力を奪われ、ライジングノヴァに急所を撃ち抜かれて尚、突き進んだ。 振り下ろされた鈍器による打撃のなんと重かったことか。 得物が剣であったなら魔王かカエル、どちらかは断ち切られていたかもしれない。 現に強者二人をしてさえ空気が歪み赤いオーラを纏っているように幻視してしまったビクトールの最後の一撃は。 受け止めようと構えたバイアネットをひしゃげ折るに止まらず、そのままカエルの左肩を強打した。 後数秒わざと体勢を崩すのが間に合わなければ、今頃頭蓋をかち割られていたことだろう。 弾力と湿り気に富む蛙の身体、加えてマントが打点をずらしたことが功を奏し脱臼するだけで済んだのは幸いだった。 急いで応急処置をしなければならないことにかわりは無いが。 けれども異形の騎士は握ったままの銃剣の残骸を見つめたまま微動だにしない。 「……」 「その剣はもう使い物にならぬな。使え」 魔王とてカエルが黙ったままの理由が武器の喪失を嘆いてのことでないことは重々承知している。 だからといって優しい言葉をかけてやる関係でもない。 一向に差し出した刀を受け取ろうとしないカエルに何も言わず、魔王は男の死体が握ったままの鈍器へと目を向ける。 見たことも無い道具だったが、魔王はその才覚から一目で銀色に輝く鍵が何らかの魔導具であることを見抜く。 ちょうどいい。 回収済みの魔剣は沈黙を保ったままだ。こちらの方を使うとしよう。 「……ファイガ」 命を失った身体は抵抗することなく炎の海に消えていく。 あれだけ何度も立ち上がり、熊の如くカエルと魔王の二人を薙ぎ払った姿が嘘のようだ。 図らずも火葬になってしまったが魔王にとってはどうでもよかった。 カエルの傍に刀を突き立てると、目論見どおり燃え尽きずに残った魔鍵を持ち上げる。 その時になってようやくカエルが動いた。 「墓のつもりか?」 「……少なくとも俺には死者を愚弄するような一文を墓石に刻む趣味は無い」 骨も残さず焼失した男の遺体跡に壊れた銃剣類を墓石代わりに置きながら、支給されたのが銃を兼ねた剣でよかったとカエルは思う。 剣では動きが鈍っていたかもしれない。 引き裂く肉の感触に耐え切れず断ち切りきれなかったかもしれない。 銃だから。 引き金を引けば最後弾が止まることのない銃だからこそ、俺はルッカを殺せた。 ああ、そうか。 それでか。 俺が知る飛び道具の担い手はルッカもマールも優しかったのか。 引き金の重さを理解できない人間が握っていい武器ではないのだ、銃も、弓も。 「……感傷だな」 カエルは虹の柄へと手を伸ばし、自嘲する。 銃や弓に限った話ではない。 いかな武器も本当は自分のような人間が握ってはいけないのだ。 「だから、許せとは言わない。恨め、クロノ。俺は、お前が未来を切り開いた刀で過去の為に人を殺すっ!」 地面に刺さったままの刀を引き抜く一瞬。 虹色の刀身に写った顔は酷く歪んで見えた。 ――涙よ凍れ。今だけは流れるな。 【F-8 荒野 一日目 昼】 【カエル@[[クロノ・トリガー]]】 [状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(大) [装備]:にじ@クロノトリガー [道具]:基本支給品一式 [思考] 基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。 1:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける 2:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。 [備考]: ※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。 【魔王@クロノ・トリガー】 [状態]:ダメージ(中)、疲労(大) [装備]:魔鍵ランドルフ@[[WILD ARMS 2nd IGNITION]] 、サラのお守り@クロノトリガー [道具]:不明支給品0~1個、基本支給品一式、紅の暴君 [思考] 基本:優勝して、姉に会う。 1:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける [備考] ※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。 ※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。 ※遺跡の下が危険だということに気付きました。 ※F-8の森林の部分は主にルッカと魔王の戦いが原因で荒野になりました ※壊れてF-8荒野に破棄されたもの一覧 オートボウガン@ファイナルファンタジーVI、17ダイオード(+予備動力)@LIVE A LIVE、 バイアネット@ワイルドアームズ2、使用済みバレットチャージ@ワイルドアームズ2 *時系列順で読む BACK△079-1:[[たったひとりの魔王決戦]]Next▼080-1:[[メイジーメガザル(前編)]] *投下順で読む BACK△079-1:[[たったひとりの魔王決戦]]Next▼080-1:[[メイジーメガザル(前編)]] |079-1:[[たったひとりの魔王決戦]]|&color(red){ルッカ}|&color(red){GAME OVER}| |~|魔王|098-1[[Fate or Destiny or Fortune?]]| |~|カエル|~| |~|&color(red){ビクトール}|&color(red){GAME OVER}| |~|ジョウイ|091:[[ジョウイ、『犠牲』に操られる]]| |~|ストレイボウ|~| #right(){&link_up(▲)} ----