**red tint ◆SERENA/7ps 正義や悪、それらは概念に過ぎない。 それらは、語る者の立場や信念によって、コロコロ定義を変えるあやふやなものだ。 自らを正義と自称する者と戦う敵もまた、我こそが正義であると主張することだって珍しくはない。 だが、もしも悪が具現化し、人の形を取ったのなら、[[ルカ・ブライト]]という人間が出来上がるのだろう。 他ならぬルカが、自らが邪悪であると自称し、そう在ることを望んだのだから。 ルカ・ブライトは生まれつきの悪ではない。 根っからの善人とは言わないが、最低限の良識は備えていた。 だが幼き日の出来事により、後天的に悪に目覚めたのだ。 それは父親を侮蔑するようになった切っ掛けであり、弱いものは強いものに蹂躙されるだけだという真理に気づいた出来事。 優しかった母の心と体が汚されていく。 半裸の男たちに囲まれて、母は耐え難いほどの辱めを受けていく。 皮膚にはぬめりのある何かが纏わりつき、見ているだけに過ぎなかったルカも原始的な嫌悪感を呼び起こされる。 母の悲痛な叫び声を、ルカは涙ながらに聞いていた。 母の体が揺さぶられる光景は、いつまでも続くかと思われた。 親衛隊にようやく救出されたときも、ルカは助かったなどと安堵はしなかった。 瞼を閉じればすぐに、その時の光景が鮮明に蘇ったからだ。 そして、そんな母の危機に対して、父が何をしていたかも聞いて、ルカの価値観は一変した。 幼き頃のルカ・ブライトに影響を与えるには、それは十分すぎる出来事だった。 この世界は何もかもがくだらない。 醜いブタが蔓延り、大地を汚している。 自分の妻を見捨てるような男がのうのうと国の頂点に居座り、しかもそれを咎める者はいない。 矛盾に満ちた世界で、矛盾を抱えて生きる人間が、ルカの目には酷く醜く見えた。 人の欲という垢で汚れた世界を浄化するには、人の血で洗い流すしか方法がない。 血液が灼熱のマグマのごとき熱さを持ち、ルカの殺意を刺激する。 細胞の一つ一つに刻み込まれた憎悪が、ルカに命ずる。 殺せ。 殺して薄汚い魂を浄化しろと。 薄汚れた人間の血で、大地を清めるのだと。 そして、ルカはその声に従って幾千もの人間を殺した。 いつしか、都市同盟の人間を殺すのが、ルカは何よりも好きになった。 殺した数だけ、ルカの疼きが消えていくような気がしたから。 流された血が大地に染み込んでいくのを見ると、胸がすくような気持ちになった。 誰よりも邪悪に、人を殺すのが生きがいだった。 これこそが、ルカ・ブライトの生きる道だと確信できた。 ありとあらゆる手段で都市同盟の人間を血祭りにあげた。 大軍で無人の荒野を行くがごとく進軍するのも。 寡兵で大軍を蹴散らすのも。 敵の囲みを破って突破するのも。 敵を包囲して逃げ場もなくしてやるのも。 張り巡らされた小賢しい罠を切り抜けるのも。 詐術を用いて敵を罠に陥れるのも。 正面から敵軍とぶつかるのも。 背後から敵を急襲するのも。 夜襲をかけるのもかけられるのも。 逃げ惑う敵軍を追撃するのも。 ただ通りがかっただけの村を襲うのも。 火を放ち、全てを焼き尽くすのも。 全て好きだった。 それで都市同盟の人間が殺せるのなら、喜んでそうした。 必死に逃げている敵を背後から串刺しにするのも。 涙ながらに命乞いする腰抜けの心臓を一突きにするのも。 捕虜を一列に並べて、一人ずつルカ自ら斬り殺していくのも。 友の仇を討とうと、真っ直ぐに切りかかってくる敵を殺すのも。 敵将を討って、名を上げようとする命知らずを返り討ちにするのも。 狂皇子ルカ・ブライトを目の前にして、戦意を喪失した兵士を斬るのも。 死ぬ間際に家族の名を口にして、無念とともに倒れる敵に止めをさすのも。 信じる神の名前を口にし、神の奇跡を期待する愚か者に現実を教えてやるのも。 半狂乱になって、絶叫をあげながら武器を振り回す敵を一思いに楽にしてやるのも。 数人で囲んだくらいで得意げになった敵の集団をちぎっては投げ、ちぎっては投げるのも。 これは夢なんだと自分に言い聞かせ、現実逃避する腑抜けを一生覚めない夢につかせてやるのも。 最後の最後まで、自分の死が近づいてることを理解できずに、呆けた表情をする敵の首を刎ねるのも。 堪らなく好きだった。 それらの人間は全て哄笑と共に切り伏せてやった。 暴力という、悪にのみ振るうことを許された力で、善人を気取るブタを殺すのが爽快だった。 そうやって、大量に都市同盟の人間を殺した日の夜は、決まってよく眠れたものだ。 そして、それ以上に、戦場で敵を殺すよりも、無力な民間人を殺すのが格別に楽しかった。 無力な人間は強い人間に搾取され、奪われていくことしか出来ない。 弱肉強食という普遍的な真理だ。 そういった自論を持つルカにとって、弱者の代表格である非戦闘員を殺すのは何よりの楽しみ。 戦場で百万の軍勢を指揮して、思うままに戦うよりも夢中になれることだった。 誰か助けてと喚き散らす子供を抹殺するのが。 醜いブタの手によって作られた住居に火をつけるのが。 命乞いの口上をひとしきり聞いた後で、命を奪うのが。 土下座して命乞いしようとする女を、何か喋る前に無慈悲に殺すのが。 親とはぐれて泣き叫ぶ子供を、脳天から股間にかけて一刀両断にするのが。 逃げることを諦め、偉そうにルカに説教を垂れる老人の口を剣で塞ぐのが。 鬼や悪魔と罵る言葉を聞いて、その通りだ、俺は鬼や悪魔だと返してやるのが。 我が子だけは守ろうと子供を抱きかかえる親に対して、子供から先に葬り去るのが。 子供を身ごもっているから助けてくれと、懇願する身重の女の腹を割いてやるのが。 避難用の隠し部屋を見つけ、そこに立て篭もっていた女子供が絶望する顔を見るのが。 武具や農具を手に取り、住民を守ろうとする数少ない男を、ブタのように惨殺するのが。 何故、この村や町が襲われるのか分からないといった顔をして逃げ惑う女子供を殺すのが。 とてつもなく快感だった。 剣と鎧が返り血に染まろうとも、決して止まることはない。 命ある限り、都市同盟の人間を蹂躙し、皆殺しにし、根絶やしにする。 ルカの凶行を止められるものなどない。 殺すべきブタは何千も何万もいるのだ。 手にした剣が血を欲することを止めることはなく、ルカ自身も止まるつもりはなかった。 他者の命を含めた一切合財の運命を決めるのが、強者に許された特権だ。 強くなることを諦めた時点で、あるいは強くなれる才能がなかった時点で、その者が辿る運命は決まっていたのだ。 ルカ・ブライトはそんな当たり前のことを身をもって教えただけのこと。 ルカ・ブライトは己の悪逆非道さを全面的に肯定する。 貴様こそが悪の権化だと言われたら、だったらどうしたのだと返すくらいには、自分の悪意を自覚できている。 正義を自称する者がルカ・ブライトの悪を裁こうというのなら、何時でもルカは受けて立つだろう。 しかし、そんな公序良俗や平和の尊さを謳う輩はすべからくルカ・ブライトに倒されてきた。 ルカ・ブライトはそんな者共にこう言うのだ。 弱いくせに口だけは達者なブタだ。 自らの主張を貫き通すことすらできぬほど弱い者が、綺麗事をぬかすことほど虫唾の走るものはないと。 強きものこそが全てを決める権利を有するというルカにとって、弱いことは持たざる者、奪われる側の象徴だ。 ルカ・ブライトが殺人を止める時。 それは、ルカ・ブライトが死んだときしか有り得ない。 ルカ・ブライトの人生は殺戮の人生であるが故だ。 ◆ ◆ ◆ 重たい瞼を開ける。 その目に入ったのは、茜色に染まる木漏れ日だった。 鷹のような鋭い目つきをした男の名前はルカ・ブライト。 首を一度だけ振り、自分がどうしてこうしているかを思い出す。 覚えているのは、新たに三人の男を殺して、疲労も限界だったから手近な木にもたれかかって寝ていたこと。 同じ時間の違う場所で、セッツァーという男がしていたことを、このルカもしていたのだ。 ルカはセッツァーのように酔狂でしたのではなく、純粋に疲労が蓄積していたから。 近くに休憩できる施設等もなかったから、やむなくこうしたのだ。 もっとも、ルカが無様に寝込みを襲われる様なことは決してない。 外敵に対する警戒心はそれこそ狼の嗅覚のように敏感だ。 頭に疼痛を感じながら思い出したのは、血と悲鳴に染まった大地。 蜘蛛の子を散らすように逃げだす都市同盟の軍勢たち。 それを蹂躙し、制圧していくのは狂皇子ルカ・ブライトと白狼軍。 人命を奪いつくす愉悦を感じながら、ルカは戦場で破壊の限りを尽くしていた。 そう、ルカは浅い眠りの中で、夢を見ていた。 夢の中でも人を殺すのが楽しく、ルカは満足しながらその夢を楽しんでいたはず。 そんな夢に邪魔者が出たのだ。 ――私の声が、届いていますか? その声が聞こえた途端、ルカの見ていた光景は時間ごと凍りついたかのように動きを止めた。 桃色の髪をした女がルカの夢に割り込んできたのだ。 「ふん……」 夢の邪魔をされたことでイラつきの声が出る。 その後、女が何を言っていたかはあまり覚えていない。 覚えているのは女が[[ロザリー]]という名前であること。 殺し合いはいけませんから止めましょうという趣旨の呼びかけをしたこと。 聞く価値すらないような戯言を、ただ繰り返していたことだけだ。 そんなありきたりな言葉で、ルカを含めた誰かを止めようなどとは浅ましい。 弱き者の言葉など、考慮にすら値しない。 睡眠を邪魔された結果、疲労は消えてないのに目だけは覚めてしまった。 こうなれば、ルカはもう人を殺すべく行動するだけだ。 睡眠以外の全ての時間を、ルカは殺戮に奉げているといっても過言ではないのだから。 皆殺しの剣を杖代わりにして立ち上がると、ルカは片手で皆殺しの剣を軽く振ってみる。 呪われた剣は禍々しい妖気を放ち、ルカに血と臓物と苦痛を要求する。 だが、ルカは強靭な精神力で剣の強制力を物ともせず、軽い素振りを繰り返す。 少なくとも、少しは体力は回復している。 剣を持つ手からは、戦闘直後の気だるさは消えていた。 今度は両手で剣を構え、右足を前に出し大きく真上に振りかぶり、全力で振り下ろす。 前方に振り下ろされる剣を、ルカは地面に接するギリギリの所でピタリと止める。 その剣先は少しもぶれてはいない。 ルカの恐るべき膂力で止められたからだ。 それにルカは満足し、剣を手に持ったまま歩き始める。 「剣に余計な声などいらぬ。 ただ斬れればいい」 ルカは皆殺しの剣から発せられる殺意を、余計なものとしか思ってない。 剣が要求しなくても、ルカは血を望んでいるからだ。 歩きながら、ルカはロザリーと名乗った女のことを考える。 睡眠を邪魔した報いを受けさせたかったが、生憎居る場所は言わなかった。 襲撃される可能性を少しは考えているのかと、考える。 「ブタにはブタなりの小賢しい知恵があるらしいな……」 思えば、儚げなくせにどこか芯のある強さを秘めているのは、ジルに似ているところがあるかもしれない。 ロザリーの言うことにはほとんど聞く価値がなかったが、一つだけルカにとっても意義のある情報があった。 ――オディオに屈さず、未来のために手を取り合える強さを、私は信じています。 ――憎しみに流されず、悲しみ囚われず、互いに理解する心を。 ――人間も、エルフも、魔族も、ノーブルレッドも。誰もが、抱いているのですから。 ノーブルレッド。 これだけならば、ルカには何のことか分からなかった。 しかし、人間とエルフと魔族と一緒に挙げられているのだから、種族名だということだけは分かる。 「世界は広いらしいな……」 人間もウイングボードもコボルトもたくさん殺してきたが、世界には未だ見ぬ種族がいるらしい。 純然たる赤を意味するノーブルレッド。 その種族を斬ったときの感触を、ルカは知りたくなった。 血の色は赤いのか、それともそれ以外の色なのか。 肉を切った感触は硬いのか柔らかいのか。 ウイングボードの翼のように、人にはない器官を備えているのか。 あるいは、コボルトのようにそもそも人間とは似てない種族なのか。 想像するだけで胸が躍る。 体中が未だ見ぬ種族を殺害せよと疼く。 「ふはははははははははははは!! 感謝するぞメスブタ! 貴様は俺に斬る新たな楽しみを教えた!」 ルカは殺しを止めない。 千人殺そうとも二千人殺そうとも満たされることのなかった渇きが、6人殺したくらいで満足するはずがない。 ここにいる53人全員をルカが殺したとしても、ルカは満たされることはないだろう。 彼の歩く道の先にあるのは、無数の屍が転がる戦場のみ。 それは、他ならぬルカ自身がよく知っている。 【F-2 中央 一日目 夕方】 【ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】 [状態]上半身鎧全壊、精神的疲労(大)、ダメージ大(頭部出血を始め全身に重い打撲・斬傷、口内に深い切り傷) [装備]皆殺しの剣@DQIV、魔石ギルガメッシュ@FFVI [道具]工具セット@現実、基本支給品一式×6、カギなわ@[[LIVE A LIVE]]、死神のカード@FFVI 魔封じの杖(4/5)@DQⅣ、モップ@[[クロノ・トリガー]]、スーパーファミコンのアダプタ@現実、 ミラクルショット@クロノトリガー、[[トルネコ]]の首輪 、武器以外の不明支給品×1 [思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。 1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る2人及び、名を知らないアキラ、続いて[[トッシュ]]優先。 [備考]死んだ後からの参戦です 。 ※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。 *時系列順で読む BACK△103:[[飛行夢]]Next▼105:[[第三回定時放送]] *投下順で読む BACK△103:[[飛行夢]]Next▼105:[[第三回定時放送]] |095:[[ですろり~イノチ~(後編)]]|ルカ|110-1:[[シャドウ、『夕陽』に立ち向かう]]| #right(){&link_up(▲)} ----