**龍の棲家に酒臭い日記(後編) ◆wqJoVoH16Y 「3等賞。先ずは貴方ね、カッコイイ魔王様ぁ?」 「フン。やはり見抜いていたか。その眼、魔眼か?」 ルーレットが片付けられ、テーブルを挟んで魔王と店主が向かい合う。 「ちょーっとばかし魅了の力はあるけど、そんな大したものじゃないわよぅ」 [[ピサロ]]に魔眼と評された店主は眼鏡越しのその瞳でピサロの痩躯を見渡す。 くすんだ銀の髪、疲労の色を隠すことはできないが、その表情に充実する気力を見とって店主は満足気に頷いた。 「煩悶は乗り越えた、ということかしら。貴方の内に根差す想いが――――貴方の憎悪すべき人間にもあるということに」 「……それがどうした。誰が何を想おうが、この想いは私だけのものだ。そして、誰にも邪魔は出来ん」 それは、邪魔立てすれば貴様だろうと屠るのみという店主に向けての魔王のメッセージだった。 その暗喩に気付いてか気付かずか、店主は盃の酒に唇を湿らせ、そして言った。 「それでも、貴方はその想いを邪魔したわ。貴方と同じように、唯“逢いたい”と願った1人の生徒の想いをね」 店主の眼鏡の奥に1つの光景が映る。 もう逢えないと、さようならと別れた教師と生徒。 生徒は誓った。もう一度逢いに行くと、今度は私が貴女を救いに行くと。 その願いは叶うはずだった。それは歪んだ時の成就であろうとも、生徒の願いを叶えるはずだった。 だが、それは叶わなかった。雷の奥に観た勇者の虚像に怒り狂った、魔王の所業によって。 「勘違いしないでね? 恨み事を言いたい訳じゃないの。 貴方の想いもまたヒトの夢であり、また誰かの想いによって叶わぬユメと成り得るということよ」 店主はぐいと酒を飲み干し、新しく酒を注ぐ。そして、それを魔王へ向かって伸ばした。 魔王は何も言わずに、それを受け取りワインとは違う透明な酒を眺める。 「【[[アリーゼ]]=マルティーニ】。その想いを胸に抱いて進むと言うのなら、貴方が砕いた想いの欠片くらいは抱えておきなさい」 魔族の王は、店主の言葉に応ずるでもなく激昂するでもなく、唯酒を呑むことで応じた。 呑み慣れない酒を一気に煽ったその味わいは、魔王にしか分からない。 その呑みっぷりに満足したのか、店主は微かに笑んで誓約の儀式を発動する。 「名は命、性は星。忘れないで。オルステッド様がオルステッド様でない意味を、魔王が真名で呼ばれない意味を。 ―――――――“貴方が[[デスピサロ]]でなく、ピサロとして名簿に刻まれた意味を”」 テーブルの上に召喚された宝箱を開いて、魔王は唯それを掴んだ。 「さて、お次は貴方ね? 暗殺者さん?」 「戯言など無用だ。品だけ渡せ」 拒否は認めぬとばかりに鋭い眼光を発しながら[[ジャファル]]は店主に吐き捨てるが、 店主は何処吹く風と酒を飲みながらジャファルの身体をじろじろと眺める。 「その刺し傷、随分手酷くやられたのねえ。見てるこっちが痛くなっちゃう、にゃははは」 店主の何気ない笑いに、ジャファルは傷の痛みを錯覚した。 セッツァーのケアルラによって行動には支障ないレベルまで回復しているものの、 まだ一日と経っていない槍傷、この舞台で恐らく初めて喰らった直撃の記憶はジャファルにしっかりと刻まれていた。 「不思議なものね。どれだけ言葉を尽くしても届かないと思っても、たった一撃の槍が簡単に貴方の世界に証を遺す。 貴方がたった一人以外の全てを望まずとも、彼女以外の全てが貴方に干渉する」 「……何が言いたい?」 無意識に脇腹を擦ろうとする右手を堪え、暗殺者は店主に向けて殺意を放つ。 何も知らぬ者が彼女の名前を口にしようものなら、刎ねてもいいとさえ思いながら。 「世界は広いということよ。このお酒でさえ極めようと思ったら、私でさえ道の途中。況や人の心は、ってね」 極めると言うことは、口にするほど簡単なことではない。ましてや武術など一朝一夕でどうなるものでもない。 それでも、それでも彼女はその事実を受け入れても前に進もうとした。 片腕しか使えずとも、剣でなければ振るえぬ技を、前に突き進むために技を究めようとした。 そこに至る感情を知ることはできずとも眼の前の傷をみれば、確かに刻まれた想いはここにある。 「【秘剣・紫電絶華】。世界は『光』と『闇』だけって訳でもないわ。貴方に刻まれた『雷』の本当の名前を忘れないで」 そう言って店主が渡した盃を、ジャファルは黙って見続けた。 清酒の澄み切った光を見つづけ、やがてジャファルはそれを無言で店主に返した。 「ありゃ、つれない。まあ、それもまた1つの答えよ。だけど気をつけて進みなさいな“若人”。 お米と水でお酒は出来るけど、お酒から水を、お米を取り除くことはできない。 例え出来たとしても、それは水でもお米でもお酒でもないものになる。貴方が作ろうとしてるのはそういうものよ」 そう言いながら召喚された宝箱の中身を、やはりジャファルは無言で受け取った。 そして、ギャンブラーと占い師が対峙する。 「最初は適当にしてたから、油断しちゃったわ。もしかして、カマをかけられちゃってた?」 「いや、最初は本気でアンテナが立ってなかったぜ。アンタが俺にとってどういう存在なのか、見極められなかったからな」 目を合わせずに酒をちびちびと啜る店主に、セッツァーは笑い返した。 「酔っ払いのフリにだまされた? 殺し合いに場違いな空気に乗せられた? この当たりの酒の匂いに狂わされた? ――――――違うね。その中に僅かに滲んだ“アンタの敵意”こそが、最後まで分からなかった」 そう、それがセッツァーの感覚を鈍らせていたもの。理由の思いつかない一方通行の憎悪である。 「なあ、俺は一体アンタにとってどれほどの仇なんだい?」 「……安心なさいな。私がオル様の『護衛獣』である以上、オル様の意に反することはできないの。 それに、私には貴方を糾弾する資格はないし、するつもりもないしねぇ?」 にゃは、にゃはは、と酒に焼けた笑いを吐く店主。だが、その飲酒のペースが僅かに速まっていることをセッツァーは見逃さなかった。 「なんでもいいさ。あんたには礼を言うぜ。ギャンブルの原点に立ち返られた。 あのルーキーがどんな目論見だろうが、[[ヘクトル]]達が何を思おうが関係ない。 その上で運命を越えてこそ、俺が夢を賭ける大勝負に相応しいってな」 「夢、夢ねえ。風を切って大空を駆ける――――――想像しただけで肴になるわ」 セッツァーの純粋な歓喜に、店主は愛想笑いを浮かべグイと盃の酒を飲み干す。そこには空の杯だけが残った。 「ありゃ、空っぽになっちゃった。これじゃお酒が呑めないじゃない」 空の杯を残念そうに見つめた後、店主は新しい酒瓶を取りだし並々と注いだ。 そこには表面張力限界まで満たされた杯が揺らめいている。 「空の杯には、またお酒を注げばいい。最初から満たされている杯なんてないのよ。 いいえ。空の器にこそ、どんなお酒を注ごうかという趣がある」 セッツァーはそれを黙って聞いていた。自分が砕いた、2本の空き瓶を思い出しながら。 「―――――【アティ】よ。私がいつか呑もうと楽しみに取っておいたお酒のラベル。呑めなくなっちゃった以上は、仕方ないけどね」 しばしの無言が続く。机の上に置かれた酒をセッツァーは手に取ることもなく、店主は呑むこともなく永遠に似た1秒が連鎖する。 「これからもう一勝負ある。悪いが、酒に酔ってる暇はねえ」 「そ、残念ね。はい、一等賞」 店主は胸に手を入れて、小物をとりだす。それはダイスだった。 ただし、中に細工の施された――――『イカサマのダイス』が。 「貴方達のお酒が最後にどんな味になるか……機会があったら呑ませて頂戴な」 「ああ。機会があったらな」 セッツァーがそれを掴むと、店主は全ての役目を終えたとばかりに手を振った。 もうこの店には用事はない。目指すべきは、ルカ=ブライトを斃せしアシュレーの一党だ。 そうして3人は、入った入口へと進んでいった。 ―――――・―――――・――――― 陽光が緩く照らす朝の森の中、セッツァーは思い出した過去を苦虫を噛み潰す様に堪えた。 そこに茂みを踏む音が鳴り、ピサロ共々立ち上がる。 「来たか、ジャファル。で、首尾は――――」 「既に交戦が始まっている」 戻るや否や、告げられたその一言は彼ら2人といえど震えを呼ぶものだった。ただし、驚愕と歓喜を綯交ぜにしたものとして。 簡潔明瞭なジャファルの斥候結果を具に聞きながら、彼ら3人は状況の大まかなるを把握した。 南の遺跡にいるはずの魔王と[[カエル]]が、攻め上がりに来たのだ。 魔王の大規模魔法で戦況が混交し過ぎて、流石のジャファルといえど遠間からではヘクトル達の全人数は把握し切れていなかった。 「奴らが団結して南に下りなくなったから、攻め上がりに来た? いくらなんでも早過ぎるだろう。監視能力でも持っているのか?」 「そんなことは然したる問題でもないだろう。これこそが貴様の望んだ好機とやらではないのか?」 考え込みかけたセッツァーをピサロの一言が引きもどす。重要なのは現状の答え合わせでなく、現状をどう生かすかだ。 セッツァーは持てる感性の全てを動員して、次の一手を弾き出した。 「当然、背後から攻める。ただし、放送が終わってからだ」 「……何故だ」 追いすがるようなジャファルの眼を、その感情ごと理解したような眼でセッツァーは見返した。 「魔王共の攻めたタイミングにもよるが、あのガキが中にいた以上俺達のことは知られていると考えた方がいい。 恐らく、俺達が来ることも読まれてるだろう。 かといってこのタイミングを逸して魔王共がやられれば今度は10人近い連中と俺達が正面からぶつかることになる」 拙速に攻めればカウンターを仕掛けられる恐れがあり、巧遅に失すれば唯一の勝機を失う。 突くべきは最適な“今”―――――――即ち敵の人数を全て掌握した直後、オディオによって仕切り直された刹那である。 「僅かな間を持たせて、緩急を縫うか。王道ではないが是非もない――――して、何処から攻める?」 ギャンブラーの采配にとりあえずの及第点を与えた魔王が、いよいよ確信へと切り込む。 彼ら3人が集ったのは、1人では如何ともしがたい彼我の差を埋める為だ。 3人の力を拡散させるのであれば、この盟約は全くの意味を成さない。 一度混戦に入ってしまえば致し方ないが、初撃は戦力を集中するべきである―――――彼らが唯一恐れる、人数の差を潰すために。 「決まっている。ニノだ」 「ッ!!」 その名が告げられた瞬間、ジャファルの身体が猫のように跳ねあがりセッツァーの喉元に刃を向ける。 だが、セッツァーは皮一枚を血に濡らしながらも気にしていないように言葉を紡ぐ。 「言葉が足りなかったな。先ずニノを確保するって意味だ。 混戦のうちに死なれてるかもって思ったら、アンタも気が気じゃないだろう? だから、周囲を撃滅して気絶なりさせちまう。 どうせその近くにはヘクトルもいる。不意を付ける最後の機会だ、そろそろアイツが望む黒い俺として出てやろうじゃないか」 そう言ってセッツァーはぐぐもった笑いを浮かべ、その意思に淀みがないことを見取ったジャファルは刃を下げる。 「……感謝する」 「なァに。俺はあんたと共に戦うことに賭けた。それだけだ―――――よく耐えてくれた、もう少しだけ我慢してくれ」 セッツァーはそう言ってジャファルの肩を力強く掴んだ。 そう、魔王の魔法がニノを襲った時、ジャファルは飛び出して魔王に攻め入ろうとさえ思ったのだ。 ニノに牙を向けるのであれば例え相手が誰であれ、立場がどうであれ知ったことではない。 距離があろうが無かろうが、この手で瞬殺してしまいたい―――その衝動を、ジャファルは堪えたのだ。 (まだ、ニノの傍にはオスティア候がいる。まだだ、もう少しだけ、ニノを頼む) 求めるはニノにとっての安らぎ。その為には、ここで衝動に駆られて暴れる訳にはいかない。少なくとも、今は。 だからこそ、セッツァーの指針はジャファルにとって天啓以外の何ものでもなかった。それ以外の選択肢はなかったと言える。 その意を固め誼を確かめ合う2人を尻目に、ピサロは寒気すら覚えた。 セッツァーにもジャファルにも、一切の淀みはない。アレは互いにとって確かな誓いなのだ。 ―――――ってのが、ニノって娘の大方の姿だ。一目みればすぐ分かるとは思う。 もし、これからの戦いでそのニノって奴と戦闘に入ったら、旦那の判断で消してくれないか? だからこそ、ジャファルが斥候に出ていた時にセッツァーに持ちかけられた話が恐ろしい。 セッツァーは先のように寝転びながら、雲の数を数えるような気楽さでそうハッキリ言ったのだ。 ―――――俺はジャファルに賭けた。それは間違いじゃねえ。あいつの夢は純粋で、信じるに足る。 “だからこそ、ニノって奴が邪魔になる可能性が否定できねえ”。 彼ら3人は共に優勝を目指すと言う観点から利害を一致している。ただ、ジャファルだけはその指向性が僅かに彼らと違うのだ。 ニノはジャファルにとって刃を研ぐ石でもあり、刃を折る鉄でもあり、刃を誤らせる霧にもなるのだ。 ―――――ニノって奴が無力な娘ならこうも迷わないが、少し話しただけでも気骨の強さがハッキリと分かりやがる。 実力と意思が釣り合ってない奴は、えてして賭場を荒らすもんさ。 唯でさえ殺し合いに乗る参加者が少ない現状、ニノを守るためにジャファルが他の殺戮者と相喰むことになればそれこそ眼も当てられない。 ならば、いっそ“ジャファルもセッツァー達と同じ形に”なってもらった方がいいのではないか、と。 ―――――正直、ニノを殺すべきか生かすべきか読めない。どちらに賭けても、失うものも得られるものもある。 俺じゃ判断が鈍っちまう。だから“旦那に任せたい”。 だからセッツァーは委ねた。ジャファルとニノの関係に全く興味の無いピサロを公平なダイスと見立てて、その趨勢を賽に任せようとしたのだ。 (これが、ギャンブラーというものか。成程、人間に相応しい在り方だ) ピサロは思惑を億尾にも出さず鼻息を鳴らす。 セッツァーの要望があろうがなかろうが、[[ロザリー]]への道程を阻むものがいれば誰であれ屠るのみ。 それはニノという娘でも例外ではない。最も、その公平さこそをセッツァーは信じたのだろうが。 「アンタらも、まだあの店のアイテムを使わずに残してくれたようだしな。 あのガキが俺達の装備を見誤ってくれてたら、更にラッキーな話だ」 セッツァー達はそう言って森を分けて進む。南へ、南へ。放送は近い。 「全く、あの店主サマサマだったな、まったく」 「……だが、お前はそれでよかったのか? “イカサマのダイスを放棄して”」 「なァに、やっぱりブリキ大王のような戦闘の道具は好まねえ。俺はこれで十分だよ」 ジャファルの問いに、セッツァーはポンポンと枕にしていた本を叩く。 唇を歪めたセッツァーに、ピサロは興味な下げに尋ねた。 「どういう風の吹きまわしだ? あの店主に感謝するなどとは」 「俺だって感謝したい時くらいあるさ。尤も―――――――――」 エキゾチックな異国の店。その中で店主はちびちびと酒を煽っていた。 その向かいには3つの杯が、呑むべき相手を待つかのように置かれている。 だが、その酒が飲み干されることが永遠に無いことを店主は知っていた。 「よりにもよって、二重誓約を仕掛けられるなんてねえ……メイメイさんもしてやられちゃったわ、ホント」 今さら、其れについて猛ろうと思えるほど彼女は若くはなかった。 それが人の選択である以上、避けられぬ離別も逆らえぬ命運もある。彼女は幾度となくそれを見てきたのだ。 「哀れメイメイさん、籠の中の鳥……誓約の鎖に縛られたかわいそうなオ・ン・ナ」 今の彼女の仮主は人の自然に在る命運さえも捻じ曲げようとしている。それは運命の埒外、彼女としても承服は出来ない。 しかし、この牢獄に繋がれた以上、セッツァー達のように許可証でもない限り入ることも出来ない。 「にしても、あのギャンブラーさん。やっぱり目聡いわね。真逆、アレを持っていくなんて」 彼らが退出しようとしたあの瞬間を、店主は眼を閉じて想起した。 ――――――――――――――――悪いが、やっぱ要らねえわコレ。 それは、振った賽の目が全て役を成す悪魔のサイコロ。それをセッツァーはカラコロと地面に投げ捨てた。 ――――――――――――――――アンタ言ったな? 1等は俺にとって役に立つ物だって。 だったら……それは俺が選んでこそだと思わないか? そう言って店主を見つめるセッツァーの眼は、およそ運命と呼ばれるものを生業にする全ての職業を否定する光を放っていた。 その眼光を携えたまま、カツカツと店主の横を通り過ぎて本棚に立つ。 ――――――――――――――――俺は、これにする。この店で唯一、明らかにインテリアから浮いているこの本をな。 セッツァーが手に取ったものを見て、店主は驚愕した。その、錠前のついた本に。 「アレは私の店のものじゃない。アレがあることを私は知らなかった。 ということは、オル様がここに置いてたってことだから―――――出したら不味いんじゃないの?」 ここは鳥籠、扉が開かぬ限り入れぬ封印。ならばそこにある書物もまた、封印されてしかるべきものなのだだろう。 だが、しばし考えて店主はまあ、良いかと酒を飲み直すことにした。 「これでオル様の企みが崩れるならそれまでだしぃ? ひょっとしたら持ってかれること計算済みかもだしぃ? メイメイさん、悪くありませ―ん。無実無罪でーす。にゃははははは」 少なくとも今はまだ鳥籠の中で待つしかない。来ないかもしれない時を待つために。 それがあの闇の中で輝く者達の導としてか、憎悪の闇の尖兵としてかは分からないが。 だが、世の中は酔夢ほど緩やかではない。 店主の後ろの本棚にある本の一冊が光り輝く。 その光に気付き、店主は気だるそうに本を手に取って開く。そしてその眠たげな眼を全開にした。 「夜族、高貴なる血……賢帝の破片にクラウスヴァイン、感応石……これって、首輪の?」 猛烈な勢いで書き変わる文章、そこに書き込まれていくのは首輪のことやこの世界に関する推察であった。 「にゃ、にゃにぃぃ~~~!! 嘘、何でこんな場所に? よりにもよって? オル様の差し金? っていうか、不味い!」 店主は椅子を蹴飛ばしてセッツァー達が出て行った紋章へ手を伸ばす。 ここにコレがあった所で、あの島で戦う者達の役に立つことはない。何としても彼らの世界へ送り届けねばならない。 「何とか本だけでも送り届けないと…! 四界天輪、陰陽対極、龍命祈願、自在解門ッ!! 心の巡りよ……希いを望む者たちに、導きの書を送り届けたまえ! 魔成る王命に於いて、疾く、為したまえ!」 剣指を刻み、呪文を唱えて店主は紋章に向けて力を送る。 だが、紋章はうんともすんとも言わず、本はいつまでも店の中にあった。 「え、なんで。幾らなんでもそれくらいのことは―――――――あ」 店主がその正解に気付いた時、酒で紅いはずの顔が真っ青になった。 ―――――――ああ、機会が“あったら”な。 「ま、まさか……」 その脳裏に浮かんだのは、あのギャンブラーの最後の笑みだった。 「にゃ、にゃんとォォォォォォォォ―――――――――――ッ!!」 A-7の海岸。いち早く日の光を燦然と浴びて輝く海に、どこかの店主の慟哭が響いた気がした。 だが、それを聞くものなど誰もおらず。ただ“かつて船だった板”と既に薄い煙となった灰が残るだけ。 最早、座礁船と呼ばれたものは何処にもなかった。 「―――――――――尤も、もう逢うこともないだろうがな」 そう言って、座礁船を焼き海の藻屑へと還した張本人が獰猛な笑みを浮かべた。 彼らはあの店を出た後、即座に紋章の周囲を重点的に破壊し、更に酒蔵の残った酒を全て船に撒き、火術で焼き払ったのだ。 正確に言えば、火を付けた時点で彼らは対アシュレー戦に向けて行動を開始した。 燃え尽きるまで待っている理由も無かった。彼らの目的は、あの入口を完膚なきまでに破壊し尽くすことだったのだから。 「万が一、あのカード以外に入る術があって、俺達のようにアイテム渡されたら堪ったもんじゃねえしな」 入口をなくせばいい。 セッツァーが取った方法は至極明快だった。それに、この方法ならばあの店主を閉じ込める効果もあるだろう。 あの店主がオディオに忠誠を誓っているか、はたまた虎視眈々と裏切りの機会を待っているか。 どちらに転んでもセッツァーに利する要素は何もない。ならば、永遠に客の来ない店番をして貰うのが最良だ。 「そう言えば、何故お前はあの女を毛嫌いする? 特に拘るようにも見えぬが」 「そりゃぁ、決まってる」 横を歩くピサロの何気ない問いに、セッツァーはさも当然のように答えた。 「自分で歩く路を決める俺<ギャンブラー>と、ここを進めと言うだけ言って自分で歩かない占い屋――――――――――相入れる訳がないのさ」 そう言い終わったセッツァー達の眼の前から木々が無くなる。 そこに広がるのはだだっ広いクレーターだった。そしてその遥か遠くで、魔法の煌めく光が陽光を超えて目に刺さる。 肌を刺す光、雨上がりにぬかるんだ熱が今日も暑くなると告げている。 セッツァーの口が歪む。魔王達の思わぬ奇襲によって、ジョウイがセッツァー達に伝えた計画は破綻したとみていい。 ここからは、恐らく最後になるだろうこの乱戦をどれだけ活かせるかが勝敗を握ることになる。 趨勢を決する大勝負。だからこそ、最後の作法だけは弁えよう。 汗にぬかるんだ掌を握り締める。慌ててカードを落とすなんて莫迦だけはゴメンだ。 そう言い聞かせるように、セッツァーは枕にしていた本をしっかりと握りしめた。 それは日記のようなものだった。古臭くはなく、かといって新しいものではなく。長年使ってきた日記という印象を受ける。 だが、それよりも眼を引くのが、巨大な錠前だった。 ピサロの魔力でも、物理的な解錠でも開かぬ錠前がこの日記のような本の中身を守り続けている。 唯分かるのは、表紙に書かれた、恐らくこの本の執筆者であろう名前――――――『Irving Vold Valeria』。 「さあ、俺達もカードを伏せるぜ。降りる奴なんていやしねえ。最高の、最高の賭けになりそうだ」 永遠に開かれること無い日記を手に掲げながら、セッツァーは高らかに謳う。ギャンブラーとして、1人の男として。 ああ、これだ。胸の動悸を確かめ、セッツァーは漸く自分の興奮を自覚する。 ありとあらゆる準備を整え、考え得る可能性を絞り出し、それでも殺し尽くせぬ死神の不運。 それにこそ立ち向かい、凌駕してこそ―――――――――彼が挑むべき最高のギャンブルとなるのだ。 「さあ、宣言しなオディオ! 『No more Bet―――――――――――It's a showdown』ッ!!」 日の出と共に、王の宣言と共に――――――――――これより、最後のゲームが幕を開ける。 今日も暑く、長い日になるだろう。 【C-7クレーター北端 二日目 早朝】 【ジャファル@[[ファイアーエムブレム 烈火の剣]]】 [状態]:健康 [装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@[[アークザラッドⅡ]]、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドⅡ [道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6 マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、基本支給品一式×1 メイメイさんの支給品(仮名)×1 [思考] 基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。 1:ニノを生かす。 2:放送後にヘクトル達に奇襲を仕掛ける。ただしニノの生存が最優先。 3:セッツァー・ピサロと仲間として組む。ジョウイの提案を吟味する? 4:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。 5:知り合いに対して躊躇しない。 [備考] ※ニノ支援A時点から参戦 ※セッツァーと情報交換をしました ※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。 【メイメイさんの支給品(仮名)×1】 メイメイさんのルーレットダーツ2等賞。メイメイさんが見つくろった『ジャファルにとって役に立つ物』。 あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがジャファルが役に立つと思う物とは限らない。 【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】 [状態]:好調、魔力消費(中) [装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット(サイコロ破損)@幻想水滸伝2 [道具]:基本支給品一式×2 拡声器(現実) 回転のこぎり@FF6 フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ ゴゴの首輪 天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3 、小さな花の栞@RPGロワ 日記のようなもの@??? [思考] 基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る 1:放送後にヘクトル・ニノをメインに奇襲を仕掛ける。 2:ジャファル・ピサロと仲間として行動。ジョウイの提案を吟味する? 3:ゴゴに警戒。 4:手段を問わず、参加者を減らしたい ※参戦時期は魔大陸崩壊後~セリス達と合流する前です ※ヘクトル、[[トッシュ]]、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。 ※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。 【日記のようなもの@???】 メイメイさんのルーレットダーツ1等賞のイカサマのダイスを放棄してセッツァ―が手にした『俺にとって役に立つ物』。 メイメイさんの店にあった、場違いな書物。装丁から日記と思われる。 専用の『鍵』がないと開かないらしい。著者名は『Irving Vold Valeria』。 【ピサロ@ドラゴンクエストIV】 [状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、心を落ち着かせたため魔力微回復、ミナデインの光に激しい怒り ロザリーへの愛(人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感は消えたわけではありません) [装備]:ヨシユキ@[[LIVE A LIVE]]、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2 [道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実 点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、 バヨネット 天罰の杖@DQ4、小さな花の栞×数個@RPGロワ メイメイさんの支給品(仮名)×1 [思考] 基本:ロザリーを想う。優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる 1:放送後にゴゴ・ヘクトル達をメインに奇襲を仕掛ける。 2:セッツァー・ジャファルと一時的に協力する。 3:ニノという人間の排除は、状況により判断する [参戦時期]:5章最終決戦直後 [備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。 ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)。 ※バヨネット(パラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます) 【メイメイさんの支給品(仮名)×1】 メイメイさんのルーレットダーツ3等賞。メイメイさんが見つくろった『ピサロにとって役に立つ物』。 あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがピサロが役に立つと思う物とは限らない。 ※座礁船の秘密の扉の先に、メイメイさんの店@サモンナイト3がありました。 中にメイメイさんがいましたが、店共々どのような役目を持っているのかは不明。 メイメイさんの目的は不明ですが、魔王オディオの『護衛獣』であるらしくオディオに逆らうことはできないようです。 その中に、マリアベルの知識が書き込まれた1冊の本があります。 ※座礁船が燃え尽きました。紋章も燃える前に完全に破壊されており、そこからメイメイさんの店に出入りすることは不可能です。 *時系列順で読む BACK△134-1:[[龍の棲家に酒臭い日記(前編)]]Next▼135:[[第五回放送]] *投下順で読む BACK△134-1:[[龍の棲家に酒臭い日記(前編)]]Next▼135:[[第五回放送]] |134-1:[[龍の棲家に酒臭い日記(前編)]]|セッツァー|136-1:[[世界最期の陽(前編)]]| |~|ピサロ|~| |~|ジャファル|~| #right(){&link_up(▲)} ----