サーヴェリー姉妹-9
1
・・どれだけ目を凝らしてみても敵らしきものは捉えられない。
「俺に任せてくれ、敵を見つけ出してやる。」
タカさんはそういうと背中を丸め、その場にうずくまり、祈りを神
に捧げた。すると、その背中から服を突き破り白く、美しい羽が現
れた。
・・・天使?・・・
噂に聞いてはいた。昔天上界を追い出された【
追放天使】と呼ばれ
る片方の翼の先を失った者たちの子孫がまだ生き残り、ひっそりと
暮らしているということを。しかし、まさか翼を自由に出し入れで
きるとは思わなかった。どうりであまり知られていない訳だ。
タカさんは翼で自分の体を包み込み精神統一を行い気を高める。彼
の脳裏には、姿を隠している敵の姿がはっきりと映し出された。
「上だ!!」
叫び、一気に溜め込んでいた気を放った。その力によって上空で姿
を隠していた悪魔がその全貌を現した。黒いマントを羽織り、宙に
ふわふわと浮かんでいる。足らしきものは見受けられず、腕から胸
にかけては真黒い甲冑で守られ、背中には紫色の布(?)のような
ものが甲冑から伸びた骨に引っ掛けられていて、羽の形を成してい
る。体の大きさはおおよそ人間の三倍はあるだろう。この巨大な悪
魔は青い顔にぎらつく赤い目で私たちを見下ろし、醜悪な寒気が襲
ってきた。殺気だけでたじろぐ程威圧される。
「タカ・・。とんでもないのが出てきたな・・。」
「あぁ・・。死霊使いとはな。ネクロマンサーなどという化け物が
こんな街の近くにまで現れるのか・・。」
「バインダーにあれだけの力を持たせることが出来るような奴
だ。・・覚悟していかなきゃならないな。」
そういうとレニィは槍を地面に突き刺し、手を空けた。
「レニィ!?なにやってるの!」フプレはレニィが気でも狂ったの
かと思った。しかし、彼は正気だった。カラッポだったはずの左手
にはいつの間にか眩い程の耀きを放つ弓がしっかりと握られている。
「フプレ、これも魔法さ。」
そう言うと上空の怪物をしっかりと見据え、右手に持った、こちら
も光輝く矢を弓に番えて射放った。これが開戦の合図となり、ネク
ロマンサーは手に魔力を集め高速で飛んできた矢を左手で捕まえ、
残った右手から灼熱の炎を放つ。一直線にレニィ目掛けて炎が迫る
が間一髪、横転し難を逃れ、代わりにメラーの火炎を浴びせる。正
面から当たったものの、ネクロマンサーのマントすら焼けていない、
よく見ると体全体を薄い魔法の膜のようなものが覆っているようだ。
私の召喚獣たちは空を飛べる。ウィンディとスウェルファーを宙に
送り出すと、各々に格闘攻撃を命じた。
・・魔法が駄目なら直接やるしかない・・
しかし、ネクロマンサーの格闘技術は私の想像を遥かに超えていて、
まずスウェルファーが犠牲となってしまった。物凄いスピードで近
づいてきたかと思うと鋭い爪で一撃、顔を潰されスウェルファーは
消えてしまった。次にウィンディを狙いその腕を再び振るう。一撃
目が下腹部に突き刺さったかと思うと、二撃目がすぐに飛んできて
その胸を貫いた。・・ウィンディも消えてしまった。
「フラン、時間を作ってくれたこと、感謝するよ。」
見ると、先程レニィが地面に突き立てた槍がバチバチと音を立て、
青白く光っている。レニィが矢を放つのと同時に、その槍から太い
閃光が飛び出しネクロマンサーを襲った。
「グガァァァァ!!」
低い叫び声が辺りを駆け巡る。同時に射た矢もしっかりと左肩を捉
えた。
2
581 名前: FAT 投稿日: 2005/08/21(日) 00:34:26 [ MZGP9yjI ]
・・・チャンス・・・
ここでようやくタカさんが動いた。彼が翼を大きく広げると、空か
ら無数の巨大な十字架が降り注いだ。苦悶の表情を浮かべていたネ
クロマンサーがこの十字架に触れると、激しい熱が発生し、その体
を焦がした。相乗してレニィ、メラーも畳み掛ける。程なくして、
ネクロマンサーは墜落した。
やった!!
全員の顔が安堵の感を示す。しかしそれも束の間、上空から急降下
してきた鋭い爪がメラーの背中をえぐった。
「ダミーかよっ!!」
レニィが悔しそうに叫ぶ。地面に墜ちているはずのネクロマンサー
は跡形もなく消え去っていた。レニィ以外の全員はメラーの治療に
回った。・・・出血が酷い。タカさんが必死に魔法で治療するも、出
血が止まらない。
レニィは厳しい目で相手を見ると、槍を地面から抜き、矢の代わり
に弓にあてがった。弓は槍の大きさに合わせるように巨大化し、私
がすっぽりと納まれそうなサイズにまでなり、夥しい量の魔力がそ
の一点に集まり、ぶつかり合っては火花を散らしている。「消えな。」
そう一言いうと精一杯引いた弦を放した。魔力を持った槍は凄まじ
い轟音をあげながらネクロマンサーに突っ込んでいく。これを避け
ようともせず、ネクロマンサーは有りっ丈の魔力をその両手に集中
させ、槍を受けた。
激しく飛び散る電光。 魔力vs魔力。
一瞬爆発したかと思うと、レニィの足元に槍が戻ってきた。・・勝っ
たのだろうか?
徐々に爆発の際の煙が空気に紛れていく。・・・奴は居た。さすがに
無傷だとは言えないが勝ち誇った笑みを浮かべている。そして、そ
のままゆっくりと墓地を去ったのである。
・・・なぜ、奴が去っていったのかは分からない。ただ、この墓地
が平和に戻ったことは、確かな事実だった。
そして、バインダー・・・。彼もようやく成仏出来たようだ。その
遺体のそばには彼の霊魂が転がっていた。私はその記憶を紐解いて
みた。
そこには、彼が操り人形として過ごしてきた日々の記憶が綴じてあ
り、それは“すまない”という謝罪と、謝罪と、謝罪と、謝罪と、
謝罪と、謝罪と、謝罪と、謝罪と、謝罪と、謝罪と、謝罪と、
・・・最後にたった一言“ありがとう”というお礼の気持ちだった。
―わたしは、ひとり、泣きながらバインダーに黙祷を捧げた―
メラーの治療も無事終わったようで傷跡はもうほとんど見えなくな
っている。そう言えば、フプレの背に憑いていたあの霊たちの姿が
見えなくなっている。
・・・もしかしたら、ネクロマンサーを追い払ってくれとでも言っ
ていたのかも・・・。
まぁなんにせよ、いなくなってくれてほっとした。
地上に出ると、辺りはもう薄暗くなり始めていた。木枯らしが吹き
荒れ、墓地の木々がまるで手を振っているように震える。
あぁ、なんだか、すごくいいことを私たちはしたんだわ、という満
足感で胸がいっぱいになった。
3
582 名前: FAT 投稿日: 2005/08/21(日) 00:35:18 [ MZGP9yjI ]
「じゃあ、僕たちはこれで。」
「ありがとう。レニィ、楽しかったよ、また今度魔法教えてね。」
「あぁ、いつでもいいさ。家まで遊びにきなよ。」
と言って住所を紙に書き、私たちにくれた。
「あ、明日フローテックさん夫妻の葬式があるから参列してあげて
よ。僕らも行くからさ。」
「ええ、じゃあ、また明日ね、おやすみ、レニィ。」
フプレはそう言うと、手を振って彼らを見送った。
「やったわ、フラン。レニィがいつでも遊びに来いですって!」
やたらとはしゃぐ彼女。ふふ、レニィに惚れたのね。
「よかったじゃない、がんばりなさいよ!私も応援するからね!!」
「あぁ・・。これで私も魔法が使えるようになるのね。うふふふ・・。
どんなことに使おうかしら。」
へ?
・・・どうやらフプレに恋愛はまだ早いらしい・・・
翌朝、フローテックさんらの葬儀に参列し、そこで、フローテッ
クさんの棺桶にバインダーの霊魂をそっと入れておいてあげた。
彼らの遺体は、地下墓地の先祖と一緒の墓石の下に埋められた。
・・・地上に出ると、澄み渡った青い空が目に沁みる・・・
目を細めていると、ぼうっと、朧げな影が私の前に現れた。
ゆっくりと、大きく目を開けると、そこには今さっき弔ったばかり
のあの人たちがいた。
涙を浮かべ、口を動かし何か言っているが、・・・聴こえない。
少しずつ彼らの体が宙に浮いていく。
・・・秋空の彼方に吸い込まれるように、彼らは天に昇った。最後
に、手に持たれた霊魂が光を受け光ったかと思うと、いよいよその
姿を捉えることができなくなった・・・。
フローテックさん・・・
バインダー・・・
肉親を成仏させようと必死だったあの人・・・
その肉親に殺されてしまったあの人・・・
操られ、殺しを犯し続けたあの人・・・
肉親をも、手にかけてしまったあの人・・・
悲しい、二人だった。
・・でも、最後は・・・・幸せ・・だったよね・・
彼らが消えて行った蒼空を、熱くなっている胸を握りながら、いつ
までも、いつまでも・・・見詰め続けた――――。
最終更新:2008年07月07日 23:15