アットウィキロゴ

白い悪魔2


1

 いまだ降り積もる清楚な雪、空は曇り、大きな雪を大地へと降り注いだ。
その空の下、二人の若者が走っているのが見える。一人は金髪で白いローブを羽織っている女性、一人は茶色い髪の毛で、黒いローブを羽織っている男性。
女性の片手には遠投用の槍が握られている、男性のほうには左手に杖を握り締め、そして少量の荷物を持って女性の少し後ろを走る。
夜は、更け始めていた。


 今から二時間前の事、あの惨殺があった詰め所での事。
完全に話が出来るまで回復した男は、ゆっくりと事件の事を話し始める。
「私も、一体何があったのかは分らない。覚えているのは盗賊団たちが突如襲撃してきた事だけは覚えている。」
「…盗賊団?」
「さよう、ここから東へ行くと”鉄の道”というのがある、そのすぐ手前に盗賊団の根城がある。俺たちはそこのことを”盗賊団アジト”と呼んでいる。」
男が地図を広げる、そして確かに鉄の道という場所は存在した、その手前のところに赤いペンでマークされた場所、つまりそこがアジトだと言う。
「奴らは何かを探していた、何を探していたのかまでは分らないが…考えられるとすればこの詰め所で預かっている旅人達の荷物ぐらいだろう。」
男が内ポケットから一つの鍵を取り出し、ソレを私の方へと放り投げてきた。銀色の鉄の鍵だった。
「12番倉庫の鍵だ、その中にはあんた達の役に立ちそうなものが入っているはずだ。他の倉庫は皆盗賊団にやられちまったがな…。」
男はゆっくりと立ち上がり、そしてダンボールの中から一枚の写真を探し出した。その写真をしばし見つめ…そして私たちのほうへと振り向かずに俯いたまま喋りだす。
「…頼む、俺はこんな仕事でも誇りをもって今まで仕事をしてきたんだ。もちろん…仲間達もその誇りを糧に今までこうして勤めてきた…だから…。」
男は両手の拳を握り締め、そして震えた声で…大声で泣き出した。
「だから!俺たちの”誇り”を奪ったあいつらを…どうか仲間の仇をとってきてくれ…。」



 多分、今外は氷点下を下回っているところだろう。白い雪が目の前の視界を遮り、三メートル先が全く見えない状況にまで陥っている。
その中で私たちは走る足を止めようとはしなかった。大の大人が、男がアレだけの悔しさと怒りをもつものだ、私たちに課せられた”使命”なるものは予想以上に重いものがある。そう私は感じた。
「鏡に映るソレは、形あらざる方面にて使徒となるべきそうろう…。」
「…ミル、何ですかそれ。」
「昔の人の言葉よ、”鏡に映ったソレは、本当にカタチあるべき心なのか、否か。”。」
走りながら私は語る、昔の古い言葉の中から適切なものを選び出し、現代の言葉に翻訳する。本来の意味はまた違ったもののようで、またあっているようなものだった。
「私利私欲の為に他人を犠牲にし、更なる犠牲を増やし強大なる力を得る、その心は人の心あらず…って事ですか。」
「そう捕らえても構わない、むしろそっちのほうが言葉的にはあたっているのかもね。…目印を通り過ぎた、アレン君、近いわよ。」
「了解です、ミル。」

2

 何処からとも無く話し声が聞こえる、ソレもまだそう遠くない場所での声だった。声は二つ、すこし高い声と、普通より低い声。
雪のカーテンで周りが見えない状況でもその声の主ははっきりと分る。近くに誰かが居る。
「今日の獲物はずいぶんと儲けさせられたな、詰め所事態にあれほどの金があるとは思ってなかったぜ。」
「あぁ、全くだ。親分もこれからドンドンと詰め所を襲撃するって話しらしいからな。今後が楽しみでしょうがねぇや。」
「全くだ。」
下品な声が私の耳に届いた、そして声の主であろうと思われる二人の背中が見えた。声を潜め息を殺し…素早くその二人の背中に近づくと右手に持つ槍で一人の心臓を貫いた。声も発せぬまま一人がその場に崩れ、異変に気付いたもう一人が振り返る。男が振り返ると同時に私の左手に握られている短剣が彼の喉元を掻っ切り、そして背中を相手に向けて脇からすり抜けるように槍を通す。その槍は彼の心臓を意図も簡単に貫き、そして彼自身も息絶えた。
「…お見事です。」
「…全く嬉しくないわね、カタチはどうあれこれも立派な人殺し。相手が人である以上私は罪を犯したのと同然。」
「なるほど、時にその短剣は?」
アレンが私の左手に握られている逆手に持ち替えられた短剣を指差し疑問の顔で私を見つめた。私はその握り締めた短剣を顔の前まで持ってきた。そして短剣をクルクルと回しながら地面に突き立てた。
「そこで倒れている元人の持ち物よ、腰についてた短剣を私が背中から一突きにした直後に引き抜いて彼の喉を切っただけ。」
「そうですか…。」
私は足元に転がる肉体を詰めたい目で見下ろした後、目の前にある小屋の中へと入っていくために入り口へと足を進める。
(なんて人だ…これが本当に新人の力なのか?…どう考えても鮮鋭された立派な戦士の動きじゃないか…。)
地面に突き立てられた短剣をと、死体が付けている短剣の鞘を懐にしまいこみ。ミルの後を追った。
扉の前に来ると、再びミルはいかにも戦闘馴れしているような雰囲気を漂わせる。目線はドアノブの一転に集中しているものの、周囲の気配りもまるでプロのようだった。
いつでも踏み込める体制をとり、槍を右手に構えて大きく深呼吸をした後ドアを蹴り破る。
ドアが小屋の中で大きく飛ばされた、そのドアに巻き込まれる盗賊が二人、ドアを盾に私たちは小屋の中へと踏み込んだ。
中には盗賊団の人間が十数名、突然の事に不意をつかれ何も武器を所持していない。そこへ彼女の槍が襲い掛かる。
一人、又一人と床に元人だった生命の抜け殻が転がる、彼女はその死体に目もくれずに次の目標を定めては姿勢を低くして急接近する。アレンも負けじと少量ながらの殺傷能力がある”魔法”
を放つ、アレンの頭上に火炎弾が数個できたと思った刹那、その火炎弾は四方向へと拡散し盗賊団の人間を焼き払う。
他の人から見れば、これはただの惨殺に過ぎない光景だった。半分以上の盗賊は武器も持たずにその命の炎を消され、そして抜け殻となった肉体が床に無常にも倒れこむ。その繰り返しだった。
「このアマァ!」
一人の体格がいい男が大きな斧を振りかざしミルへと力いっぱいに振り下ろしてきた。ミルはそれに気がつく様子が全く無い。
「ミル!」

3

アレンが叫ぶ、だがミルはその振り下ろされた斧を軽々と交わし、そして男の横へと跳躍し低い姿勢で槍を構えた。そのミルの顔は…笑っていた。
すべるように大男の脇から槍は入り、進入角度を維持したまま心臓を捕らえた。大男は大声を上げた刹那、その命を絶った。
「………。」
ミルは槍を大男から引き抜き、こびり付いた血を払うように槍を横いっぱいに振った。その数滴の血液がミルの白いローブを少し汚した。
「剣は力となり、盾は守護となる。汝、いかなる誇りを捨て我の前にひざまずく。…おやすみなさい。」
彼女は再び昔の言葉を口にして、そして槍を背中の鞘に収めた。小屋に突入をかけてからものの数十秒、一分は経っていない。十数名居た盗賊団の一味は、半分以上が彼女の手によって掛けられた。
(…強い、この人は強すぎる。)
ミルは小屋の中に散らばった荷物の中から、数個の指輪を取り出した。
「…これね。」
それは、詰め所で言われていた指輪の数々だった。詰め所で働いている人間が身に付けているというブルンの紋章が刻まれた”警備兵”の証だった。
「…アレン君、もうここには用は無いわ。この指輪をもって詰め所へと戻りましょう。」
「…そう…ですね。」
ミルは髪の毛を掻き揚げ、ゆっくりと雪振る外へと足を運んだ。アレンはしばらく小屋の中を見渡す、そこには元人だった形をなすべきものたちが横たわっていた。
「”鏡に映るソレは、形あらざる方面にて使徒となるべきそうろう。”…か。」
ミルが最初に発した言葉を思い出し、横たわる人たちに向けてそう発した。懐にしまっていた短剣を鞘ごと床に置き、そしてアレンも外へと出る。雪は吹雪きだし、小屋の中にまで雪が入り込んで床に広がる血に重なり、溶けて消えた。


 白い悪魔-2
 END


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年06月03日 20:52